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第2章
37.彼との取引
「それで、私に何を要求するのですか?」
「僕は君の目的が知りたいんだ」
「目的?」
「そう、ヴァリタスと婚姻して一体なにをするつもりなんだ?」
この婚約を私が望んだものだと思っているのだろうか。
しかし本当のことを言ってこの方は信じてくれるだろうか。
先ほどからこのどす黒い本性を隠しもせず垂れ流しているこの方に。
「陛下や私の父がなぜこの婚約を結んだのかは、殿下も理解しておられるでしょう」
「ああ、知っているよ。あの人たちの考えていることなど」
まるで彼らを見下しているように、彼は明後日の方向をみながら答えた。
やはりこの方はヴァリタスよりも厄介だ。
まるで自分の興味のあるもの以外には容赦のないこの方とはできるだけ関わりあいたくない。
そうだ、いっそのこと本当の目的を話したほうが話が早いかもしれない。
どうやら彼はヴァリタスのことが心配で私を問い詰めた、と言っていた。
ということは少なからず彼の中でのヴァリタスは守るべき対象なのだ。
そして、私はそんな彼の大切なものを脅かす悪女。
となれば、私が居なくなることを望むはず。
できるだけ平静を装い、なるべく彼に隙を見せないようすっと彼の瞳を見据えた。
「私はこの婚約を破棄したいと考えております」
「破棄?なぜ?」
「私を殺した奴の子孫ですよ。どうしてそんな不吉な一族に嫁がなければならない?それに今は王族になったとはいえ元はただの騎士の家系。そんな者たちに嫁ぐなんて
いくら目的があったとしてもこっちから願い下げというもの」
吐き捨てるように、そう告げる。
格の高い貴族が平民を見下すように嫌悪感を丸出しにして。
しかし、思いの他感情の籠らない声が出てしまい、自分自身驚いた。
「君のプライドが許さない、と?」
「えぇ、まぁ。そんなところです」
どうやら私の演技は彼に十分に通用したようだ。
婚約破棄したい理由も欲望のままに傲慢に振舞い、プライドが高そうな”あの悪逆皇帝”のイメージであるならば納得できるはず。
しかし、彼はどこか引っかかっているのか、「ううむ…」と唸りながら顎に手を当て考えている。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
しかし、それも束の間何か吹っ切れたような顔になると私に向き直った。
「まぁ僕としても大事な弟に害虫が引っ付いているのは見過ごせない。それにもし君の邪魔をすれば、もかしたら将来君の手によって暗殺されるかもしれないしね、僕が。
君の前世はそういうこともしていたのだろう?」
そんな情報どこから手に入れたのやら。
いままで私が読んできた資料にはそんなことが書かれたものなど見たことがないのに。
「人をなんだと―――」
「ベリアル殿下、お茶をお持ちしました。」
立ち上がり抗議しようとした瞬間、部屋の扉が開き先ほどのメイドが殿下用に用意した紅茶を持ってきた。
公爵令嬢が王子に声を荒げていたなんてところを人に見られでもして、万が一それが宮殿や社交界に広がればこちらとしては堪ったものではない。
ストンと素早く椅子に座り直すと、少しでもこの機嫌の悪さを改めたくて紅茶を飲もうとして―――それが床に転がっているのに気づいた。
はぁ。ついていないわ。本当に。
「ごめんなさい、せっかくのカップを落としてしまったの。戻しておいてくれるかしら」
恐らく見えたであろう、私の憤慨した姿。
床に転がったティーカップと僅かに紅茶の掛かったドレス。
一介のメイドであれば多少取り乱し、その勢いのまま他のメイドに伝播しそうなものなのだが。
宮殿で働いているメイドのこの落ち着きっぷりは一体なんなのだろうか。
もしやこんな事が日常茶飯事でもあるまいに、さも何でもないかのようにカップをかたずけていく。
ただ問題はドレスだ。
それについては流石のメイドも少しだけ困惑していた。
まぁ座れば見えないし、別に彼も気にしないだろう。
「ごめんなさいね、大丈夫よ。このままでいいから」
「しかし……」
「ブッ。あははははは」
私たち2人のやり取りに何がおかしかったのか、突然ベリエル殿下がお腹を抱えながら大声で笑いだす。
その様子に驚き、メイドと共に勢いよく殿下の方に顔を向けた。
先ほどまでのあの邪悪な面影などどこにもないような彼に、しかしやはり警戒心は解けずただただ私は心の底から引いているだけだった。
とりあえず、彼女に替えの紅茶を頼み、もう一度彼と向き直る。
一息ため息をつく。
本音を言えばこれ以上殿下と話などしたくない。
しかし、彼の真意がわからなければ、いつどこで私の正体をばらされるかわからない。
なんとか説得して口封じをしなければ。
「それで?私の婚約破棄の理由を聞いて、一体なにをするおつもりですか?」
「さっきも言っただろう、取引をしよう。と」
「確かに聞きましたが具体的なことはなにもおっしゃっていないじゃないですか」
「何だ君、あのリヴェリオの生まれ変わりのくせにそんなこともわからないのか?」
カッチーン。
何だこの男。
いくら真意の読めないミステリアス男子を気取ったところで、言っていい事と悪い事の区別もつかないのかこいつは。
「僕は君とヴァリタスを近づけたくない。君はヴァリタスと婚約を破棄したい。その目的は一致している。
しかし、僕はどうしても君のことを信じることができない。そこで、だ」
彼はそこで言葉を一旦きり、私の様子を伺う。
真っ直ぐ彼を見つめる私にどこか満足した様子で彼は話を続けた。
「必ず君の正体を言わないと誓う。その代わり、君も必ずヴァリタスと婚約破棄すると誓う。
どうだろう?」
「どうだろうって…」
あまりにも私に有利すぎる。
今殿下は私に何でも要求できるほどの秘密を握っている。
それをばらされれば私だけでなくベルフェリト公爵は二度と貴族社会で表立って行動できないほどの秘密だ。
(これがなんでも持っている人の余裕なのかしら)
しかし、彼の要求は私にとっては蜜のようなもの。
飲まないほうがおかしい。
「わかりました。ですがお願いです。絶対に他の方々には教えないでください。
特にヴァリタス様には絶対に」
「もちろん。約束するよ」
満面の笑みで笑いかける彼とは反対に私の表情はまるでないに等しい。
しかし、このことを両親に話さないわけにはいかないだろうな。
もし殿下にばれたことを隠して、それが両親の耳に届けばもしかしたら勘当される可能性が高くなってしまう。
前世が皇帝、今世が貴族の私がいきなり世にほっぽりだされて生活できる程の能力など、持ち合わせているわけがない。
できればどこかの別荘に隔離されるか、修道女にされるかの2択がベスト。
だからこそ、両親にある程度失望されたくらいにしておかなければならないのだ。
だが、このことを知らせれば恐ろしいくらい怒られるのは目に見えている。
そう思うと次は別の憂鬱な問題が、私の中で浮上してきて今度はそのことで頭がいっぱいだった。
「僕は君の目的が知りたいんだ」
「目的?」
「そう、ヴァリタスと婚姻して一体なにをするつもりなんだ?」
この婚約を私が望んだものだと思っているのだろうか。
しかし本当のことを言ってこの方は信じてくれるだろうか。
先ほどからこのどす黒い本性を隠しもせず垂れ流しているこの方に。
「陛下や私の父がなぜこの婚約を結んだのかは、殿下も理解しておられるでしょう」
「ああ、知っているよ。あの人たちの考えていることなど」
まるで彼らを見下しているように、彼は明後日の方向をみながら答えた。
やはりこの方はヴァリタスよりも厄介だ。
まるで自分の興味のあるもの以外には容赦のないこの方とはできるだけ関わりあいたくない。
そうだ、いっそのこと本当の目的を話したほうが話が早いかもしれない。
どうやら彼はヴァリタスのことが心配で私を問い詰めた、と言っていた。
ということは少なからず彼の中でのヴァリタスは守るべき対象なのだ。
そして、私はそんな彼の大切なものを脅かす悪女。
となれば、私が居なくなることを望むはず。
できるだけ平静を装い、なるべく彼に隙を見せないようすっと彼の瞳を見据えた。
「私はこの婚約を破棄したいと考えております」
「破棄?なぜ?」
「私を殺した奴の子孫ですよ。どうしてそんな不吉な一族に嫁がなければならない?それに今は王族になったとはいえ元はただの騎士の家系。そんな者たちに嫁ぐなんて
いくら目的があったとしてもこっちから願い下げというもの」
吐き捨てるように、そう告げる。
格の高い貴族が平民を見下すように嫌悪感を丸出しにして。
しかし、思いの他感情の籠らない声が出てしまい、自分自身驚いた。
「君のプライドが許さない、と?」
「えぇ、まぁ。そんなところです」
どうやら私の演技は彼に十分に通用したようだ。
婚約破棄したい理由も欲望のままに傲慢に振舞い、プライドが高そうな”あの悪逆皇帝”のイメージであるならば納得できるはず。
しかし、彼はどこか引っかかっているのか、「ううむ…」と唸りながら顎に手を当て考えている。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
しかし、それも束の間何か吹っ切れたような顔になると私に向き直った。
「まぁ僕としても大事な弟に害虫が引っ付いているのは見過ごせない。それにもし君の邪魔をすれば、もかしたら将来君の手によって暗殺されるかもしれないしね、僕が。
君の前世はそういうこともしていたのだろう?」
そんな情報どこから手に入れたのやら。
いままで私が読んできた資料にはそんなことが書かれたものなど見たことがないのに。
「人をなんだと―――」
「ベリアル殿下、お茶をお持ちしました。」
立ち上がり抗議しようとした瞬間、部屋の扉が開き先ほどのメイドが殿下用に用意した紅茶を持ってきた。
公爵令嬢が王子に声を荒げていたなんてところを人に見られでもして、万が一それが宮殿や社交界に広がればこちらとしては堪ったものではない。
ストンと素早く椅子に座り直すと、少しでもこの機嫌の悪さを改めたくて紅茶を飲もうとして―――それが床に転がっているのに気づいた。
はぁ。ついていないわ。本当に。
「ごめんなさい、せっかくのカップを落としてしまったの。戻しておいてくれるかしら」
恐らく見えたであろう、私の憤慨した姿。
床に転がったティーカップと僅かに紅茶の掛かったドレス。
一介のメイドであれば多少取り乱し、その勢いのまま他のメイドに伝播しそうなものなのだが。
宮殿で働いているメイドのこの落ち着きっぷりは一体なんなのだろうか。
もしやこんな事が日常茶飯事でもあるまいに、さも何でもないかのようにカップをかたずけていく。
ただ問題はドレスだ。
それについては流石のメイドも少しだけ困惑していた。
まぁ座れば見えないし、別に彼も気にしないだろう。
「ごめんなさいね、大丈夫よ。このままでいいから」
「しかし……」
「ブッ。あははははは」
私たち2人のやり取りに何がおかしかったのか、突然ベリエル殿下がお腹を抱えながら大声で笑いだす。
その様子に驚き、メイドと共に勢いよく殿下の方に顔を向けた。
先ほどまでのあの邪悪な面影などどこにもないような彼に、しかしやはり警戒心は解けずただただ私は心の底から引いているだけだった。
とりあえず、彼女に替えの紅茶を頼み、もう一度彼と向き直る。
一息ため息をつく。
本音を言えばこれ以上殿下と話などしたくない。
しかし、彼の真意がわからなければ、いつどこで私の正体をばらされるかわからない。
なんとか説得して口封じをしなければ。
「それで?私の婚約破棄の理由を聞いて、一体なにをするおつもりですか?」
「さっきも言っただろう、取引をしよう。と」
「確かに聞きましたが具体的なことはなにもおっしゃっていないじゃないですか」
「何だ君、あのリヴェリオの生まれ変わりのくせにそんなこともわからないのか?」
カッチーン。
何だこの男。
いくら真意の読めないミステリアス男子を気取ったところで、言っていい事と悪い事の区別もつかないのかこいつは。
「僕は君とヴァリタスを近づけたくない。君はヴァリタスと婚約を破棄したい。その目的は一致している。
しかし、僕はどうしても君のことを信じることができない。そこで、だ」
彼はそこで言葉を一旦きり、私の様子を伺う。
真っ直ぐ彼を見つめる私にどこか満足した様子で彼は話を続けた。
「必ず君の正体を言わないと誓う。その代わり、君も必ずヴァリタスと婚約破棄すると誓う。
どうだろう?」
「どうだろうって…」
あまりにも私に有利すぎる。
今殿下は私に何でも要求できるほどの秘密を握っている。
それをばらされれば私だけでなくベルフェリト公爵は二度と貴族社会で表立って行動できないほどの秘密だ。
(これがなんでも持っている人の余裕なのかしら)
しかし、彼の要求は私にとっては蜜のようなもの。
飲まないほうがおかしい。
「わかりました。ですがお願いです。絶対に他の方々には教えないでください。
特にヴァリタス様には絶対に」
「もちろん。約束するよ」
満面の笑みで笑いかける彼とは反対に私の表情はまるでないに等しい。
しかし、このことを両親に話さないわけにはいかないだろうな。
もし殿下にばれたことを隠して、それが両親の耳に届けばもしかしたら勘当される可能性が高くなってしまう。
前世が皇帝、今世が貴族の私がいきなり世にほっぽりだされて生活できる程の能力など、持ち合わせているわけがない。
できればどこかの別荘に隔離されるか、修道女にされるかの2択がベスト。
だからこそ、両親にある程度失望されたくらいにしておかなければならないのだ。
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