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第2章
40.頬の痛みと優しさ
私が屋敷に戻ると、夕食の直前であったためすぐさま食堂へと向かった。
父が私を拒絶したあの日から、この間までは楽しい家族団欒の時間が今では気まずさと苦痛に耐えるだけの時間となってしまった。
料理の味などほとんど感じられず、ただただ口の中に物を運ぶだけの単純作業を繰り返す。
それに加え、今日はこの後父と母を呼んで、私の前世がベリエル殿下にばれたことを報告しなければならない。
さらなる憂鬱な気分の中で、できればこの時間が終わらなければいいと思っていた。
「ごめんなさい、お父様、お母さま。ベリエル殿下に私の前世を知られてしまいました」
夕食後、両親を呼び出し別室に移動した。
向かい合った2つのソファに両親と向かい合うように座る。
私の告白にすぐには反応が返ってこず、2人を見ることができず俯いてしまう。
すると、ツカツカと足音がして、父が私の傍まで近づいたことがわかった。
「お父様……」
逆光で表情はわからないがそれでも、父を見上げ名前を呼んだ瞬間―――
バシン
父からの頬を打たれ、その衝撃に体が硬直してしまう。
片手を頬に当てたまま、どうすることもできないでいた。
口の中に鉄の味が広がる。
おそらく口の中が切れたわけではなく、頬の痛みがそうさせたのだろう。
「もうよい。お前なぞ、勝手に生きていけばよい。ただしな」
そこで一呼吸おくと、強い口調で続けた。
「ただし、もしお前が何か問題を起こしても、ベルフェリト家とは一切関係ない。わかったか、この疫病神がっ!!」
腕を掴まれ、無理やり部屋から追い出される。
放りだされてすぐ、勢いよく扉が閉められ途端に中から母のすすり泣くような声が聞こえてきた。
僅かに聞こえる母を慰める父の声は、昔と変わらず優しい声だった。
ただ、私だけがこの家の中での異物なのだ。
父をあんな無慈悲な化け物にしてしまう狂気を孕んだ疫病神。
それが私なのだと暗に言われているような気がした。
いつの間に、部屋に戻ったのかわからない。
覚束ない足取りでよく部屋までこれたものだと自分に感心する。
部屋の明かりを点ける気分になれず、そのままベットへ向かおうとして部屋の中で何かが動いているのに気づいた。
シルエットからおそらく人だろう。
こんな暗がりの中、しかも公爵令嬢の部屋に入るなど、一体何者だ。
警戒しながら慎重に歩みを進める。
「お嬢様?」
その声には聞き覚えがあった。
「ミ、リア……?どうしてここに」
私たちに近づかない様にとお達しが出ているはずのミリアがそこにいた。
「以前お嬢様にお借りした本を返すのを忘れておりまして、お返しに来たのですが……」
そこで、ハッとして私に駆け寄る。
彼女のこんなに驚いた顔は初めて見た。
「お嬢様!どうされたのですか?ぶたれたのですか?」
「落ち着いてミリア」
「でも…。一体誰が?」
「それは……」
口を噤む私に何か察したのだろう。
それ以上何かを聞くことはなかった。
「とりあえず、手当しなければ。救急箱をお持ちしますね」
「えぇ、お願い」
彼女が立ち去った後の少しだけ開いた扉を見ながらため息をつく。
恐らくミリアが居なければ、ベッドにそのままなだれ込んで、ぶたれた頬など気にせずに放置するところだった。
そんなことになれば、しばらく外に出られないほどひどい顔になってしまうだろう。
まだ、こんな風に私を気遣ってくれる人がこの屋敷の中にいることに安心する。
大丈夫。彼女がいるなら、まだ私は大丈夫。
本当は私の目的を達成するのにミリアと関係を深めるのはあまりよろしくない選択だ。
しかし、今の私には誰かに頼らなければ立っているのもやっとの状態だった。
(今だけ、今だけだから)
いつかこの関係も何もかも全て清算して一人になるから。
だから、今だけは誰かに頼らせて。
じゃないと、私が壊れてしまうから。
父が私を拒絶したあの日から、この間までは楽しい家族団欒の時間が今では気まずさと苦痛に耐えるだけの時間となってしまった。
料理の味などほとんど感じられず、ただただ口の中に物を運ぶだけの単純作業を繰り返す。
それに加え、今日はこの後父と母を呼んで、私の前世がベリエル殿下にばれたことを報告しなければならない。
さらなる憂鬱な気分の中で、できればこの時間が終わらなければいいと思っていた。
「ごめんなさい、お父様、お母さま。ベリエル殿下に私の前世を知られてしまいました」
夕食後、両親を呼び出し別室に移動した。
向かい合った2つのソファに両親と向かい合うように座る。
私の告白にすぐには反応が返ってこず、2人を見ることができず俯いてしまう。
すると、ツカツカと足音がして、父が私の傍まで近づいたことがわかった。
「お父様……」
逆光で表情はわからないがそれでも、父を見上げ名前を呼んだ瞬間―――
バシン
父からの頬を打たれ、その衝撃に体が硬直してしまう。
片手を頬に当てたまま、どうすることもできないでいた。
口の中に鉄の味が広がる。
おそらく口の中が切れたわけではなく、頬の痛みがそうさせたのだろう。
「もうよい。お前なぞ、勝手に生きていけばよい。ただしな」
そこで一呼吸おくと、強い口調で続けた。
「ただし、もしお前が何か問題を起こしても、ベルフェリト家とは一切関係ない。わかったか、この疫病神がっ!!」
腕を掴まれ、無理やり部屋から追い出される。
放りだされてすぐ、勢いよく扉が閉められ途端に中から母のすすり泣くような声が聞こえてきた。
僅かに聞こえる母を慰める父の声は、昔と変わらず優しい声だった。
ただ、私だけがこの家の中での異物なのだ。
父をあんな無慈悲な化け物にしてしまう狂気を孕んだ疫病神。
それが私なのだと暗に言われているような気がした。
いつの間に、部屋に戻ったのかわからない。
覚束ない足取りでよく部屋までこれたものだと自分に感心する。
部屋の明かりを点ける気分になれず、そのままベットへ向かおうとして部屋の中で何かが動いているのに気づいた。
シルエットからおそらく人だろう。
こんな暗がりの中、しかも公爵令嬢の部屋に入るなど、一体何者だ。
警戒しながら慎重に歩みを進める。
「お嬢様?」
その声には聞き覚えがあった。
「ミ、リア……?どうしてここに」
私たちに近づかない様にとお達しが出ているはずのミリアがそこにいた。
「以前お嬢様にお借りした本を返すのを忘れておりまして、お返しに来たのですが……」
そこで、ハッとして私に駆け寄る。
彼女のこんなに驚いた顔は初めて見た。
「お嬢様!どうされたのですか?ぶたれたのですか?」
「落ち着いてミリア」
「でも…。一体誰が?」
「それは……」
口を噤む私に何か察したのだろう。
それ以上何かを聞くことはなかった。
「とりあえず、手当しなければ。救急箱をお持ちしますね」
「えぇ、お願い」
彼女が立ち去った後の少しだけ開いた扉を見ながらため息をつく。
恐らくミリアが居なければ、ベッドにそのままなだれ込んで、ぶたれた頬など気にせずに放置するところだった。
そんなことになれば、しばらく外に出られないほどひどい顔になってしまうだろう。
まだ、こんな風に私を気遣ってくれる人がこの屋敷の中にいることに安心する。
大丈夫。彼女がいるなら、まだ私は大丈夫。
本当は私の目的を達成するのにミリアと関係を深めるのはあまりよろしくない選択だ。
しかし、今の私には誰かに頼らなければ立っているのもやっとの状態だった。
(今だけ、今だけだから)
いつかこの関係も何もかも全て清算して一人になるから。
だから、今だけは誰かに頼らせて。
じゃないと、私が壊れてしまうから。
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