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第2章
43.農家の娘の実情
しかし、どうしよう。
今世では下の名前で、しかも呼び捨てで呼んだこともないし、敬語なしに話すのなんて前世でもごく限られた人物にしかしてこなかった。
戸惑う私に少し揶揄うように笑うと、彼女は妥協案を出してくれた。
「では、手始めに私から話し掛ける方法でやりましょう。きっとその方が慣れやすいと思うから」
早速敬語なしで会話を進めようとする彼女に合わせる形で私も試してみる。
「そ、うね。が、頑張るわ」
既にぎこちない私に笑顔を向ける彼女のなんと優しいことか。
「前世のこと、ね。そうね、私の前世は今から100年ほど前の平民の娘だった。生まれはここ、オルタリア王国に違いはないわ」
それから彼女は前世の話を聞かせてくれた。
オルタリア王国に生まれたと言っても、首都から遠く外れたバズリーという村で生まれたこと。
16になるまで普通の農家の娘として育っていた。
しかし、彼女は珍しい魔力、”神聖力”というものを持っていたらしく教会の使徒(シスター)として働くようになったこと。
そこでその”神聖力”を使い多くの人々の傷や心の病を治した、ということ。
ざっくり言ってこんな感じだ。
流石は転生者。神の寵愛を授かるに値する立派な経歴と言えるだろう。
しかし、私が注目したのはそこではない。
「農家の娘って!じゃあ教会に行くまでの普段の生活ってどんなものだったの?」
「やっぱり。エスティはそこに食いつくと思ったわ」
前のめりになって聞き返す私に、楽しそうに言葉を返す。
とても生き生きとした彼女の様子に令嬢としての顔は全く見られない。
もしかしたら彼女にとって貴族の暮らしや関係性は、窮屈なものなのかもしれない。
「そうねぇ。それこそ、耕作の時期はほとんど畑の手伝いが主だったわ。でも、冬になるとなにもすることがないでしょう。そうなったら内職をするのよ」
「内職?」
「そう。日用品、例えば冬だから編み物でマフラーや手袋を作ったり、ハンカチに刺繍したり。手作業でできるものを作って、街に行って道端なんかで売りさばくの。結構収入になるのよ」
「へぇ~。そんなことしてたなんて知らなかった……」
思いもしない農家の娘の冬の過ごし方。
なんだか貴族の令嬢の趣味と似ている。
目的が収入のためという点については全く違うけど。
親近感の湧く暮らしの実態に、これなら私も趣味で裁縫や編み物なんかを齧っていたし、王子と前世の話をしたときに誤魔化せるかも、と思っていると。
今度は彼女の方から問いかけられた。
「エスティの前世はどのくらい前の人なの?」
「ええっと…。私の前世は、おそらく200年くらい前だと思う」
これだけは嘘偽りなく告げる。
別に平民の暮らしならば大して変わらないだろうと思ったから。
「200年前、ね。ということはもしかして、クオフォリア帝国時代に生きていたのかしら」
「え?!た、多分違うと思いますわ」
思わず敬語に戻ってしまう。
「そうなの?でも同じ国に生まれ変わりやすいと言うじゃない?」
「そうだとしても!生活に苦しさは無かったと思うから多分ちがうわ!」
「どうしたの?むきになって」
クスクスと笑っているのはおそらく私を揶揄っていたのだろう。
しかし私としてはそのことについて触れたくはないのだ。
だって自分が統治していた国のことだから。
下手にそのことを話してついボロを出してしまうのではないかと思うと、話す気にもなれない。
私の慌てっぷりを十分楽しんだ後、今度は全く別の話題へと話が移った。
彼女はどうやら物語、特に恋愛系やファンタジーなどを読むのが好きだという。
「ロマンスを感じるわぁ」といって喜々として語る彼女がおかしくてつい話に花が咲いてしまった。
すっかり打ち解けて仲良くなった私たちは、いつの間にか敬語も敬称も付けずに会話をすることができるようになっていた。
しかし、楽しい時間が流れるのは早いもの。
いつの間にか夕暮れになり、今回はお開きにすることになった。
「またね、エスティ嬢。また、学院で会いましょう」
「えぇ、楽しかったわナタリー嬢。また、学院で」
そう挨拶し、ビスティーユ侯爵の屋敷を後にする。
そういえば彼女の年齢やクラスを聞きそびれてしまった。
まぁいいか。夏季休暇が終わった後、クラスの方々に聞けば。
―――その必要が全く無かったというのを知ったのは、夏休みが明けクラスに足を踏み入れた直後だった。
今世では下の名前で、しかも呼び捨てで呼んだこともないし、敬語なしに話すのなんて前世でもごく限られた人物にしかしてこなかった。
戸惑う私に少し揶揄うように笑うと、彼女は妥協案を出してくれた。
「では、手始めに私から話し掛ける方法でやりましょう。きっとその方が慣れやすいと思うから」
早速敬語なしで会話を進めようとする彼女に合わせる形で私も試してみる。
「そ、うね。が、頑張るわ」
既にぎこちない私に笑顔を向ける彼女のなんと優しいことか。
「前世のこと、ね。そうね、私の前世は今から100年ほど前の平民の娘だった。生まれはここ、オルタリア王国に違いはないわ」
それから彼女は前世の話を聞かせてくれた。
オルタリア王国に生まれたと言っても、首都から遠く外れたバズリーという村で生まれたこと。
16になるまで普通の農家の娘として育っていた。
しかし、彼女は珍しい魔力、”神聖力”というものを持っていたらしく教会の使徒(シスター)として働くようになったこと。
そこでその”神聖力”を使い多くの人々の傷や心の病を治した、ということ。
ざっくり言ってこんな感じだ。
流石は転生者。神の寵愛を授かるに値する立派な経歴と言えるだろう。
しかし、私が注目したのはそこではない。
「農家の娘って!じゃあ教会に行くまでの普段の生活ってどんなものだったの?」
「やっぱり。エスティはそこに食いつくと思ったわ」
前のめりになって聞き返す私に、楽しそうに言葉を返す。
とても生き生きとした彼女の様子に令嬢としての顔は全く見られない。
もしかしたら彼女にとって貴族の暮らしや関係性は、窮屈なものなのかもしれない。
「そうねぇ。それこそ、耕作の時期はほとんど畑の手伝いが主だったわ。でも、冬になるとなにもすることがないでしょう。そうなったら内職をするのよ」
「内職?」
「そう。日用品、例えば冬だから編み物でマフラーや手袋を作ったり、ハンカチに刺繍したり。手作業でできるものを作って、街に行って道端なんかで売りさばくの。結構収入になるのよ」
「へぇ~。そんなことしてたなんて知らなかった……」
思いもしない農家の娘の冬の過ごし方。
なんだか貴族の令嬢の趣味と似ている。
目的が収入のためという点については全く違うけど。
親近感の湧く暮らしの実態に、これなら私も趣味で裁縫や編み物なんかを齧っていたし、王子と前世の話をしたときに誤魔化せるかも、と思っていると。
今度は彼女の方から問いかけられた。
「エスティの前世はどのくらい前の人なの?」
「ええっと…。私の前世は、おそらく200年くらい前だと思う」
これだけは嘘偽りなく告げる。
別に平民の暮らしならば大して変わらないだろうと思ったから。
「200年前、ね。ということはもしかして、クオフォリア帝国時代に生きていたのかしら」
「え?!た、多分違うと思いますわ」
思わず敬語に戻ってしまう。
「そうなの?でも同じ国に生まれ変わりやすいと言うじゃない?」
「そうだとしても!生活に苦しさは無かったと思うから多分ちがうわ!」
「どうしたの?むきになって」
クスクスと笑っているのはおそらく私を揶揄っていたのだろう。
しかし私としてはそのことについて触れたくはないのだ。
だって自分が統治していた国のことだから。
下手にそのことを話してついボロを出してしまうのではないかと思うと、話す気にもなれない。
私の慌てっぷりを十分楽しんだ後、今度は全く別の話題へと話が移った。
彼女はどうやら物語、特に恋愛系やファンタジーなどを読むのが好きだという。
「ロマンスを感じるわぁ」といって喜々として語る彼女がおかしくてつい話に花が咲いてしまった。
すっかり打ち解けて仲良くなった私たちは、いつの間にか敬語も敬称も付けずに会話をすることができるようになっていた。
しかし、楽しい時間が流れるのは早いもの。
いつの間にか夕暮れになり、今回はお開きにすることになった。
「またね、エスティ嬢。また、学院で会いましょう」
「えぇ、楽しかったわナタリー嬢。また、学院で」
そう挨拶し、ビスティーユ侯爵の屋敷を後にする。
そういえば彼女の年齢やクラスを聞きそびれてしまった。
まぁいいか。夏季休暇が終わった後、クラスの方々に聞けば。
―――その必要が全く無かったというのを知ったのは、夏休みが明けクラスに足を踏み入れた直後だった。
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