悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

50.不穏な頭痛

そういえば先ほどヴァリタスが言っていた名前、一体なんだったのだろう。
ふと彼を見ると、私と同じように去っていく彼女の背中を見つめていた。
どこか寂しそうな表情に引っかかりを覚える。

てっきり彼女と知り合いだと思っていたのだが、名前が違ったし。

しかしレイリー……。レイリー……。
どこか昔、聞いたことのあるような気が……。
引っかかりを覚えなんとか思い出そうと記憶を探っていたとき―――。

痛っ!

急にひどい頭痛に襲われる。
何? なんなの?

いままで感じたことのない痛みに咄嗟に頭を手で押さえると、その場で少し前かがみになる。
私の様子に気づいたのかヴァリタスが支えるように肩に手を添えた。

「どうしたのですか、エスティ。具合が悪いのですか? 」

なんだろう。
聞き覚えのある名前なはずなのに、頭に蓋をしたみたいにどうしてか思い出せない。
そしてこの漠然とした不安感。

何かわからないが恐ろしさが襲ってきて、二の腕をつかみ自身を抱きしめるようにして恐怖心を抑え込もうとする。
思いっきり掴んでいるはずなのに手が震えて力が入らない。

突如として顔色が悪くなった私に心配したナタリーまでも私を心配して声を掛けてくれた。
しかし、意識がはっきりせず彼女が何を言っているのか聞き取れない。

ヴァリタスに抱えられたところまでは覚えているのだが、そこで意識は途切れてしまった。


                   ***


目覚めたとき、真っ白な天井が目に入った。
どうやらベッドに寝かされていたみたい。

そうだ、確かヴァリタスが言っていた名前に引っかかりを覚えて、そのあと倒れたのだ。
酷い頭痛に襲われて。

そういえば、昔ヴァリタスが前世の生まれ故郷の街に行った時、ひどい熱を出したことがあったっけ。
その時は彼のことを少し軟弱だなと思っていたけれど。

私だって似たようなものだ。
しかし、どうして急に頭痛なんて……。

意識を失うほどの頭痛になど今まで襲われたことはない。
それにその頭痛を引き起こした原因はおそらく先ほど彼が溢した名前について考えたのが原因なのだろう。
やはりあの名前、妙に引っかかる。

「エスティ! 良かった目が覚めたのですね」

そこへ私の様子を確認しに来たであろうヴァリタスがやってきた。
私が意識を取り戻したのを見て、泣きそうになりながらもほっとしたように笑った。
そんな彼を見て少しばかり呆れてしまう。ホント、少し倒れたぐらいで大袈裟なんだから。

そうだ、もう一度あの痛みに襲われるのも避けたいし、先ほどのレイリーと言う女性(?)について彼に直接聞いてしまおう。
そのほうがきっと一人で悩むより手っ取り早い。そう判断し、いまだ私を心配そうに見つめる彼に問いかけた。

「ねぇ、ヴァリタス様。レイリーってどなたのことなのですか? 」

「えっ! あ、いや……」

明らかに動揺し、上擦った声に何かあるのだと直感する。
どこかバツの悪そうな顔をする彼にさらに詰め寄った。これは絶対になにかある。

「ヴァリタス様」

名前を呼び、じっと彼を見つめる。はじめこそ目を逸らしてやり過ごそうとしていたようだが、私がいつまでもヴァリタスを強く見つめたまま頑なに動かないのを見て観念したらしい。
急に脱力したように肩から力を抜いた。

「その……、実は。レイリーというのは私の前世の許嫁なのです」

「許嫁? 」

はて、バートンに許嫁などいただろうか。
う~ん。確かにいたような気もするけど、記憶がぼんやりとしていてうまく思い出せない。

もう一度確かめようとレイリーという女性の事を思い出そうとして、またもや頭痛に襲われる。
幸い先ほどの事もあって、少し痛みを感じた時点で思い出そうとするのをやめたためすぐに痛みは治まったが。
その違和感がどうしても晴れなくて怖くなった。

そこであることに気づく。私は前世の私と関わりの深い人物の事をあまり思い出せていない。
バートンとは幼い頃私の専属の騎士になって以来、私が彼に殺されるまで最も近くにいた人物だ。
それはもう彼とは長い付き合いであったし気の置けない親友だったはず。

それなのに、彼との思い出は指で数えるほどしか思い出せていないのだ。

家族の事も然り。
両親がいたことは当然ながら私には血を分けた兄弟がいたような気がする。
しかし、それが兄なのか姉なのか。はたまた弟なのか妹なのか。それさえ思い出せない。

おかしい。こんなのは絶対におかしい。

徐々にその異常性に気づき恐ろしくなってくる。
私、もしかしてとんでもなくまずい状況なのではなくて?

いくら辛い前世だったからといって、生きていた全てが嫌な事しかないなんてことはなかったはずだ。
それこそ次期国王として育てられていたのだから、それ相応の幸福を受け取っていたはず。

それに、両親からの深い愛情や親友との友情があったことも覚えている。
”覚えている”が、それは知識として覚えているだけで、そういった思い出を思い返せるかといえば、それができない。

なんで?
どうして?

原因不明の漠然とした恐怖が私を襲う。
なにか恐ろしい事の前兆な気がしてとても怖かった。
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