悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

文字の大きさ
52 / 339
第3章

51.その記憶に焦がれてる

その後、急いでミリアが迎えに来てくれたため、そのまま今日は帰ることにした。
そもそもパーティー自体夕方ごろにはお開きになる予定だったし、丁度良かった。

ヴァリタスも馬車まで見送ると言ってくれたが、彼には確か最後の挨拶を任されていたはず。欠席してはいけないと食い下がる彼を説得し、その申し出を丁重に断った。
心配そうな顔をした彼と別れるのは少しだけ良心が痛んだ。

馬車に乗り込むと、深くため息をついて背もたれに思いきり体を預ける。
少し寝たからもう大丈夫だと思っていたが、馬車まで歩いただけで相当疲れてしまった。
やはりまだ気分は優れないみたい。

いつもは馬車に乗れば暇つぶしとして話し掛けてくるミリアも、今日ばかりは気を利かせて窓の外をぼんやりと見つめながら黙っていた。
私も彼女と同じように窓をぼんやりと見つめる。

そして自分の前世の記憶について思いを巡らせた。

そういえば、私は前世のことについて大雑把にしか思い出せていないような気がする。
今まで婚約破棄の事だったり家族のことだったりで頭が一杯で、前世の記憶まで気をまわせていなかった。

一体いつから私は記憶をあまり思い出さなくなっていたのだろう。
記憶が蘇ったときの事を思い出してみる。

う~んと、記憶を良く思い出していたのは8,9歳ごろだったような……。ということは。

おそらく10歳くらいの時だ。そのときからあまり思い出さなくなっていた気がする。
それまでは1カ月に1度くらいの頻度で前世のことを思い出していたような覚えがあるが、10歳を超えると年に2,3度程度と途端に思い出さなくなっていた。

こう思い返すと急激に思い出す頻度は減っている。
どうして気が付かなかったのだろう。

きっとそこまで支障が出てきているわけではないから気にしていなかったのだ。
記憶が思い出されたとして、何かの参考になるわけではないし、思い出さないからといって焦ることもないものだし。

しかし、別に彼の記憶がどうでも良いものだと思っていたわけではない。
だって前世の記憶には私が強く惹かれるものがあったから。

今の私には心温まるような楽しい思い出などほどんどない。
家族には冷たくされ、婚約者にも友人にも心を開けない。

確かにリヴェリオが王位についたあとは苦しいことしかなかった。
だがその前の王子だったころの記憶は、うまく思い出せないけどとても幸せで楽しい日々であったような気がする。

優しい母、強く憧れた厳しくも暖かな父、私を守ってくれる大事な友人。
まるで黄金色に輝く美しい園を見ているかのような輝く世界。

漠然としか思い出せないけれど、それでも大事なものがそこに詰まってあったような気がして、今の寂しい私にはそれが羨ましくて、欲しくて堪らなくなる。
もしかしたら少しだけ、私は彼のその優しい記憶に縋っていたいのかもしれない。
私にもそんな幸せを夢見ることができるような気がするから。

元に昔家族を過信しすぎて痛い目にあったのだって、その優しい記憶を頼りにしていたのが一因であるし。
だから、前世の記憶は私にとって蔑ろにしても良いものではないのだ。

いくら裏切られ、苦しい思いを経験していたとしても。

しかし、先ほどの突然の頭痛と不安感と恐怖心。
それがどうしても引っかかる。

まるで誰かに邪魔されているような、封印でもされている、みたいな。
思い出したいけど、またあの感覚に襲われるのは怖い。
でも、思い出したい。あの頃の温かさをもう一度味わってみたい。

正反対の感情が私の中でぶつかる。
どうして私の記憶のはずなのにうまく思い出せないのだろう。
結局気持ちの整理もなぜか思い出せない記憶への不安感も解消できないまま馬車は屋敷へと到着してしまい、そこで思考はストップされてしまった。

ミリアに支えられる形で馬車に降り、玄関の扉を開けると間の悪いことに両親が二人そろっていた。
私を見つけた途端二人の顔から笑顔が消える。

一瞬にして玄関ホールはピリついた空気へと変わってしまう。
私を無視して談笑を続ければいいのに。
どうしてそうしないのかしら。

睨め付ける両親を後目にすたすたと前を横切ると自室へ急ぐ。

結局私がその場を離れるまで両親から言葉が発せられることはなかった。

「はぁ、本当に参ってしまうわね」

色々あって今日は疲れた。
思いきり仰向けでベッドに飛び込むと自然とため息が出てしまう。
私の気苦労を察してかその行儀の悪さを黙って見過ごしてくれるミリアのなんと優しいことか。

やはり彼女は優秀なメイドだ。

「お疲れさまでした、お嬢様」

私の代わりに持って来てくれた荷物を片づけながらミリアがねぎらいの言葉を掛けてくれる。
その言葉を聞いただけで、少しだけ元気になるのだから私は結構単純な性格なのかもしれない。
だってこんな風に優しくしてくれる人なんて本当に少ないんだもの。
特にこの屋敷の中では。

「もうすぐ夕食のお時間ですが…。どういたしますか? 」

そういえばもう、そんな時間なのか。
本来ならばパーティーから帰ってくるのはもう少し遅い予定だったから食堂を一人で占領して食べるつもりだったけど。
今、食堂のある1階に降りたら確実に両親と食事をとらなければならなくなるし。
今日は自室で食べよう。

「いいわ、今日はお父様もいるし。この部屋に食事を運んできてくれない? 」

「承知いたしました。それではお時間になりましたらお運びいたしますね」

「ありがとう」

いつもなら父は夕食の時間より遅く帰ってきてしまうため、母と共に食べるのが日課となっている。
他の人がいるときなら別に私がいなくても気にしないのだが、私以外家族が外出しているときに席を外すとなぜか私の部屋にやってきてまで苦言を呈してくるから厄介だ。
しかも自分からそうするように望んでいるくせに、食事中私に対してグチグチと文句を言ってくるものだから食事が不味くて仕方ない。

どうしてこんな母になってしまったのか。
昔はきれいで優しい母だと思っていたのに。

あの3年前の夏の日から両親は私をもう家族だとは思っていないのは明らかだ。

あ、そういえば。
先ほど今日初めて会ったのに、入学おめでとうと言われなかったな。
それに、どうしてこんなに早く帰ってきたのかも問い詰められなかった。

もう、私のこと、本当に興味が無くなってしまったのね。
いまさら淋しさなんて、感じないけど。
でも、心のどこかがぽっかりと穴が開いたような感覚が、まだ私の中に残っていた。
感想 7

あなたにおすすめの小説

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』

なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。 公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。 けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。 処刑まで残された時間は、三年。 もう誰も愛さない。 誰にも期待しない。 誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。 そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。 婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。 けれど、少しだけ優しくした。 少しだけ、相手の話を聞いた。 少しだけ、誤解を解く努力をした。 たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。 「……あなたは、こんな人だったのですか」 「もう少し、私を頼ってください」 「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」 「ずっと、怖かっただけなんでしょう」 悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。 これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

あなたがすき、だったから……。

友坂 悠
恋愛
 あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。  もともと、3年だけの契約婚だった。  恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。  そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。  それなのに。  約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。  だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。  わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。  こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。    ############# なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、 シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。 初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。 お楽しみいただけると幸いです。