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第3章
51.その記憶に焦がれてる
その後、急いでミリアが迎えに来てくれたため、そのまま今日は帰ることにした。
そもそもパーティー自体夕方ごろにはお開きになる予定だったし、丁度良かった。
ヴァリタスも馬車まで見送ると言ってくれたが、彼には確か最後の挨拶を任されていたはず。欠席してはいけないと食い下がる彼を説得し、その申し出を丁重に断った。
心配そうな顔をした彼と別れるのは少しだけ良心が痛んだ。
馬車に乗り込むと、深くため息をついて背もたれに思いきり体を預ける。
少し寝たからもう大丈夫だと思っていたが、馬車まで歩いただけで相当疲れてしまった。
やはりまだ気分は優れないみたい。
いつもは馬車に乗れば暇つぶしとして話し掛けてくるミリアも、今日ばかりは気を利かせて窓の外をぼんやりと見つめながら黙っていた。
私も彼女と同じように窓をぼんやりと見つめる。
そして自分の前世の記憶について思いを巡らせた。
そういえば、私は前世のことについて大雑把にしか思い出せていないような気がする。
今まで婚約破棄の事だったり家族のことだったりで頭が一杯で、前世の記憶まで気をまわせていなかった。
一体いつから私は記憶をあまり思い出さなくなっていたのだろう。
記憶が蘇ったときの事を思い出してみる。
う~んと、記憶を良く思い出していたのは8,9歳ごろだったような……。ということは。
おそらく10歳くらいの時だ。そのときからあまり思い出さなくなっていた気がする。
それまでは1カ月に1度くらいの頻度で前世のことを思い出していたような覚えがあるが、10歳を超えると年に2,3度程度と途端に思い出さなくなっていた。
こう思い返すと急激に思い出す頻度は減っている。
どうして気が付かなかったのだろう。
きっとそこまで支障が出てきているわけではないから気にしていなかったのだ。
記憶が思い出されたとして、何かの参考になるわけではないし、思い出さないからといって焦ることもないものだし。
しかし、別に彼の記憶がどうでも良いものだと思っていたわけではない。
だって前世の記憶には私が強く惹かれるものがあったから。
今の私には心温まるような楽しい思い出などほどんどない。
家族には冷たくされ、婚約者にも友人にも心を開けない。
確かにリヴェリオが王位についたあとは苦しいことしかなかった。
だがその前の王子だったころの記憶は、うまく思い出せないけどとても幸せで楽しい日々であったような気がする。
優しい母、強く憧れた厳しくも暖かな父、私を守ってくれる大事な友人。
まるで黄金色に輝く美しい園を見ているかのような輝く世界。
漠然としか思い出せないけれど、それでも大事なものがそこに詰まってあったような気がして、今の寂しい私にはそれが羨ましくて、欲しくて堪らなくなる。
もしかしたら少しだけ、私は彼のその優しい記憶に縋っていたいのかもしれない。
私にもそんな幸せを夢見ることができるような気がするから。
元に昔家族を過信しすぎて痛い目にあったのだって、その優しい記憶を頼りにしていたのが一因であるし。
だから、前世の記憶は私にとって蔑ろにしても良いものではないのだ。
いくら裏切られ、苦しい思いを経験していたとしても。
しかし、先ほどの突然の頭痛と不安感と恐怖心。
それがどうしても引っかかる。
まるで誰かに邪魔されているような、封印でもされている、みたいな。
思い出したいけど、またあの感覚に襲われるのは怖い。
でも、思い出したい。あの頃の温かさをもう一度味わってみたい。
正反対の感情が私の中でぶつかる。
どうして私の記憶のはずなのにうまく思い出せないのだろう。
結局気持ちの整理もなぜか思い出せない記憶への不安感も解消できないまま馬車は屋敷へと到着してしまい、そこで思考はストップされてしまった。
ミリアに支えられる形で馬車に降り、玄関の扉を開けると間の悪いことに両親が二人そろっていた。
私を見つけた途端二人の顔から笑顔が消える。
一瞬にして玄関ホールはピリついた空気へと変わってしまう。
私を無視して談笑を続ければいいのに。
どうしてそうしないのかしら。
睨め付ける両親を後目にすたすたと前を横切ると自室へ急ぐ。
結局私がその場を離れるまで両親から言葉が発せられることはなかった。
「はぁ、本当に参ってしまうわね」
色々あって今日は疲れた。
思いきり仰向けでベッドに飛び込むと自然とため息が出てしまう。
私の気苦労を察してかその行儀の悪さを黙って見過ごしてくれるミリアのなんと優しいことか。
やはり彼女は優秀なメイドだ。
「お疲れさまでした、お嬢様」
私の代わりに持って来てくれた荷物を片づけながらミリアがねぎらいの言葉を掛けてくれる。
その言葉を聞いただけで、少しだけ元気になるのだから私は結構単純な性格なのかもしれない。
だってこんな風に優しくしてくれる人なんて本当に少ないんだもの。
特にこの屋敷の中では。
「もうすぐ夕食のお時間ですが…。どういたしますか? 」
そういえばもう、そんな時間なのか。
本来ならばパーティーから帰ってくるのはもう少し遅い予定だったから食堂を一人で占領して食べるつもりだったけど。
今、食堂のある1階に降りたら確実に両親と食事をとらなければならなくなるし。
今日は自室で食べよう。
「いいわ、今日はお父様もいるし。この部屋に食事を運んできてくれない? 」
「承知いたしました。それではお時間になりましたらお運びいたしますね」
「ありがとう」
いつもなら父は夕食の時間より遅く帰ってきてしまうため、母と共に食べるのが日課となっている。
他の人がいるときなら別に私がいなくても気にしないのだが、私以外家族が外出しているときに席を外すとなぜか私の部屋にやってきてまで苦言を呈してくるから厄介だ。
しかも自分からそうするように望んでいるくせに、食事中私に対してグチグチと文句を言ってくるものだから食事が不味くて仕方ない。
どうしてこんな母になってしまったのか。
昔はきれいで優しい母だと思っていたのに。
あの3年前の夏の日から両親は私をもう家族だとは思っていないのは明らかだ。
あ、そういえば。
先ほど今日初めて会ったのに、入学おめでとうと言われなかったな。
それに、どうしてこんなに早く帰ってきたのかも問い詰められなかった。
もう、私のこと、本当に興味が無くなってしまったのね。
いまさら淋しさなんて、感じないけど。
でも、心のどこかがぽっかりと穴が開いたような感覚が、まだ私の中に残っていた。
そもそもパーティー自体夕方ごろにはお開きになる予定だったし、丁度良かった。
ヴァリタスも馬車まで見送ると言ってくれたが、彼には確か最後の挨拶を任されていたはず。欠席してはいけないと食い下がる彼を説得し、その申し出を丁重に断った。
心配そうな顔をした彼と別れるのは少しだけ良心が痛んだ。
馬車に乗り込むと、深くため息をついて背もたれに思いきり体を預ける。
少し寝たからもう大丈夫だと思っていたが、馬車まで歩いただけで相当疲れてしまった。
やはりまだ気分は優れないみたい。
いつもは馬車に乗れば暇つぶしとして話し掛けてくるミリアも、今日ばかりは気を利かせて窓の外をぼんやりと見つめながら黙っていた。
私も彼女と同じように窓をぼんやりと見つめる。
そして自分の前世の記憶について思いを巡らせた。
そういえば、私は前世のことについて大雑把にしか思い出せていないような気がする。
今まで婚約破棄の事だったり家族のことだったりで頭が一杯で、前世の記憶まで気をまわせていなかった。
一体いつから私は記憶をあまり思い出さなくなっていたのだろう。
記憶が蘇ったときの事を思い出してみる。
う~んと、記憶を良く思い出していたのは8,9歳ごろだったような……。ということは。
おそらく10歳くらいの時だ。そのときからあまり思い出さなくなっていた気がする。
それまでは1カ月に1度くらいの頻度で前世のことを思い出していたような覚えがあるが、10歳を超えると年に2,3度程度と途端に思い出さなくなっていた。
こう思い返すと急激に思い出す頻度は減っている。
どうして気が付かなかったのだろう。
きっとそこまで支障が出てきているわけではないから気にしていなかったのだ。
記憶が思い出されたとして、何かの参考になるわけではないし、思い出さないからといって焦ることもないものだし。
しかし、別に彼の記憶がどうでも良いものだと思っていたわけではない。
だって前世の記憶には私が強く惹かれるものがあったから。
今の私には心温まるような楽しい思い出などほどんどない。
家族には冷たくされ、婚約者にも友人にも心を開けない。
確かにリヴェリオが王位についたあとは苦しいことしかなかった。
だがその前の王子だったころの記憶は、うまく思い出せないけどとても幸せで楽しい日々であったような気がする。
優しい母、強く憧れた厳しくも暖かな父、私を守ってくれる大事な友人。
まるで黄金色に輝く美しい園を見ているかのような輝く世界。
漠然としか思い出せないけれど、それでも大事なものがそこに詰まってあったような気がして、今の寂しい私にはそれが羨ましくて、欲しくて堪らなくなる。
もしかしたら少しだけ、私は彼のその優しい記憶に縋っていたいのかもしれない。
私にもそんな幸せを夢見ることができるような気がするから。
元に昔家族を過信しすぎて痛い目にあったのだって、その優しい記憶を頼りにしていたのが一因であるし。
だから、前世の記憶は私にとって蔑ろにしても良いものではないのだ。
いくら裏切られ、苦しい思いを経験していたとしても。
しかし、先ほどの突然の頭痛と不安感と恐怖心。
それがどうしても引っかかる。
まるで誰かに邪魔されているような、封印でもされている、みたいな。
思い出したいけど、またあの感覚に襲われるのは怖い。
でも、思い出したい。あの頃の温かさをもう一度味わってみたい。
正反対の感情が私の中でぶつかる。
どうして私の記憶のはずなのにうまく思い出せないのだろう。
結局気持ちの整理もなぜか思い出せない記憶への不安感も解消できないまま馬車は屋敷へと到着してしまい、そこで思考はストップされてしまった。
ミリアに支えられる形で馬車に降り、玄関の扉を開けると間の悪いことに両親が二人そろっていた。
私を見つけた途端二人の顔から笑顔が消える。
一瞬にして玄関ホールはピリついた空気へと変わってしまう。
私を無視して談笑を続ければいいのに。
どうしてそうしないのかしら。
睨め付ける両親を後目にすたすたと前を横切ると自室へ急ぐ。
結局私がその場を離れるまで両親から言葉が発せられることはなかった。
「はぁ、本当に参ってしまうわね」
色々あって今日は疲れた。
思いきり仰向けでベッドに飛び込むと自然とため息が出てしまう。
私の気苦労を察してかその行儀の悪さを黙って見過ごしてくれるミリアのなんと優しいことか。
やはり彼女は優秀なメイドだ。
「お疲れさまでした、お嬢様」
私の代わりに持って来てくれた荷物を片づけながらミリアがねぎらいの言葉を掛けてくれる。
その言葉を聞いただけで、少しだけ元気になるのだから私は結構単純な性格なのかもしれない。
だってこんな風に優しくしてくれる人なんて本当に少ないんだもの。
特にこの屋敷の中では。
「もうすぐ夕食のお時間ですが…。どういたしますか? 」
そういえばもう、そんな時間なのか。
本来ならばパーティーから帰ってくるのはもう少し遅い予定だったから食堂を一人で占領して食べるつもりだったけど。
今、食堂のある1階に降りたら確実に両親と食事をとらなければならなくなるし。
今日は自室で食べよう。
「いいわ、今日はお父様もいるし。この部屋に食事を運んできてくれない? 」
「承知いたしました。それではお時間になりましたらお運びいたしますね」
「ありがとう」
いつもなら父は夕食の時間より遅く帰ってきてしまうため、母と共に食べるのが日課となっている。
他の人がいるときなら別に私がいなくても気にしないのだが、私以外家族が外出しているときに席を外すとなぜか私の部屋にやってきてまで苦言を呈してくるから厄介だ。
しかも自分からそうするように望んでいるくせに、食事中私に対してグチグチと文句を言ってくるものだから食事が不味くて仕方ない。
どうしてこんな母になってしまったのか。
昔はきれいで優しい母だと思っていたのに。
あの3年前の夏の日から両親は私をもう家族だとは思っていないのは明らかだ。
あ、そういえば。
先ほど今日初めて会ったのに、入学おめでとうと言われなかったな。
それに、どうしてこんなに早く帰ってきたのかも問い詰められなかった。
もう、私のこと、本当に興味が無くなってしまったのね。
いまさら淋しさなんて、感じないけど。
でも、心のどこかがぽっかりと穴が開いたような感覚が、まだ私の中に残っていた。
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