悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

57.思わぬ提案

「まぁでも確かに。メドビン嬢は可愛らしいし、勉学も魔法もできるみたいだし。完璧な令嬢よね」

いまだ不服そうなナタリーだが、メドビン嬢への評価は私と同じく好意的だ。
あんな彼女の姿を見せられて、こう思わないほうがおかしい気もするが。

「わかったわ。不本意だけど協力してあげる」

「ありがとう! ナタリー」

思わず身を乗り出し、彼女の手を取り大きな声を上げてしまった。
すぐに我に帰ると、静かに椅子に座り直す。

いけない、いけない。
ベルフェリト公爵令嬢たるもの、いかなる時も優雅にしていなければ。

態勢を整え、彼女に向き直ると先ほどのシュンとした彼女とは打って変わってランランと瞳に光りが灯っている。
今の一瞬の間に、彼女の身に一体なにが起こったのだろう。

訝し気に見つめる私の視線に気づいたのか、いつものように人差し指を立て嬉しそうにしている。
これはなにか思い付いたのかも。

「二人の仲を取り持ちたいのなら、良い方法があるわ」

そういうと、いきなりドーンと机の上に数冊の本を勢いよく置いた。

何々……、『私の素敵な伯爵様』……。これは、彼女の大好物の恋愛小説じゃないか。
一体これがなんだというのだろう。

不思議そうに本を見つめる私にナタリーは興奮気味にこの本の内容を力説する。

「これはね、今流行りの身分差恋愛小説なの! メイドとして働きにきた主人公は次期当主である伯爵令息と恋に落ちる。それはもう波乱万丈の素敵な話でね!」

「ち、ちょっと待ってナタリー! ストップ!」

怒涛の勢いで話す彼女に一旦ブレーキをかけ、落ち着かせる。
こうなった彼女は早めに抑えておかないと永遠と話してしまう。

ナタリーも自分の行動に気づいたのか反省しているようだし、これならば話を続けても大丈夫だろう。

「それで? この小説と今の話となにか関係でもあるの?」

「あるわ、おおありよ」

興奮は収まったものの、相変わらず顔がにやけている。

「この物語の話の中でね、二人の恋を邪魔する”悪役令嬢”って言うのが登場するの」

「あくやくれいじょう?」

聞きなれない言葉に首を傾げる。
令嬢ということは、貴族の娘の事だろう。悪役……、悪い貴族の令嬢のことなのかしら。

いまいちピンとこない私の反応えお見て、ナタリーは丁寧に教えてくれる。

「”悪役令嬢”っていうのは物語の中で主役二人の恋仲を邪魔する令嬢のことよ。物語上での悪役、主人公にとっての敵の事を意味するの」

「あぁ、そういう意味なのね」

彼女の説明で”悪役令嬢”の意味を理解する。
そんな役が物語の中で登場するなんて初めて知った。

「それで、その”悪役令嬢”が何なの?」

「ふふん」と満足げに彼女は笑うと、待ってましたとでも言うように人差し指を立て自信満々に私にとんでもないことを提案した。

「エスティにはその”悪役令嬢”を演じてもらうのよ!」

「ええっ⁈」

驚くのも無理はないと思う。そもそも”悪役令嬢”なんて今知ったばかりなのだから。
それに先ほどの彼女の説明が正しいのなら”悪役令嬢”って……。

「でも、”悪役令嬢”って二人の仲を邪魔する存在なんでしょう? 私は仲を取り持ちたいのであって邪魔したいなんて微塵も思っていないのだけど」

そう、私はヴァリタスとメドビン嬢の仲を橋渡ししたいのだ。
それなのに邪魔をしてしまえば、本末転倒になってしまう。

そんな私の当然の問いに、はぁっとため息を吐くと「チッ、チッ、チッ」っと言って指を左右に振る。
彼女は時々この仕草をするけれど、いまいち何の意味があるのかよくわからない。前世の癖なのかしら。

「分かっていないわねエスティ。恋って言うのは邪魔されれば邪魔されるほど、燃え上がるものなのよ!」

「おこちゃまね」っと付け足す彼女にムッとするが反論できない。
確かに私は前世を合わせても恋愛経験ゼロの人間なのだから。


――――そういえば、バートンに婚約者がいたのだから私にも婚約者がいるはずなのに、私はそんな存在がいたことを全く覚えていない。
おかしい。
皇族ならばいて当然のはずなのに……。

記憶を探ってみると、またしてもズキリとあの時と同じような頭痛が私を襲う。

やっぱりなにかある、私の前世の記憶の中に。
私が知らない何かが……。

それが私にとって有益なことなのか、それとも不利益なことなのかはわからない。
でもきっと良い記憶じゃないような気がする。

以前感じなかったもやもやとした黒い靄を感じ、気分が悪くなりそうになる。

もしかしたら、リヴェリオにとって、今まで思い出してきた裏切りの記憶以上にもっと苦しい記憶がそこに眠っているのかもしれない。
だから思い出せないのかも……。

「エスティ! エスティってば! ねぇ、聞いてるの?」

ナタリーの呼びかけにふと我に返る。
前世の事を考えなくなった途端、頭痛も嫌な感じもピタッとなくなる。
やはりこの頭痛は思い出したくない記憶を思い出そうとすることで起きているのかもしれない。

それが愛しい日の記憶まで遮ってしまっていることが残念ではあるが、極力意識するのはやめておこう。
今はヴァリタスとメドビン嬢をくっつけるのが先決だ。前世のことは平穏な日常を手にしてからまた考えれば良い。
感想 7

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