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第3章
58.”悪役令嬢”のお勉強
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しかし、私が”悪役令嬢”なるものを演じて本当にうまくいくのかしら。
そもそも”悪役令嬢”と言っても何をするのかもわからないし。
唸る私にまたもやナタリーは自慢げに鼻で笑う。
「悩んでいるわねエスティ。さて、あなたの目の前にあるのは一体何かしら」
「目の前にあるもの……?」
そういえばテーブルの上にはナタリーが先ほど熱弁しそうになっていた恋愛小説が鎮座している。
と、いうことは……。
「その小説を読んで”悪役令嬢”を勉強すれば良いわ!」
目の前の小説を指さし胸を張ってその小説を推奨する彼女には一種の男気さえも感じられるほど堂々としたものだった。
しかしこれは、アドバイスというより布教活動のような気が……。
いやいやしかし、彼女が私を思って言ってくれているのだし無下にはできない。
それに今の私には他の方法なんて思いつかないし。
ここは一丁試してみるしかない!
うまくいかなかったらまたそこで考えれば良いのだし、やらない後悔よりやる後悔だ。
「分かったわナタリー。私頑張ってみる」
両手をグーにして彼女に意気込みを示す。
「頑張るのよエスティ! その本貸してあげるから隅々まで読んできなさい、もちろん感想もちゃんと私に報告するのよ!」
私の決意に気持ちよく応援を返してくれるのは嬉しい、……が。
やっぱりこれって布教活動なんじゃないの?
嬉しそうな彼女の横で、やっぱり少しだけ疑いの目を向けてしまうのは仕方のないことだと思うのは私だけじゃないはず、と思いたい。
***
次の日、私は寝不足ぎみに目をこすりながら学院に登校した。
口から湧き上がってくるあくびを何とか口の中でせき止め、いつものように令嬢然とした姿勢を維持する。
教室に入ると既に来ていたナタリーに声を掛ける。
「ごきげんよう、ナタリー嬢」
「ごきげんよう、エスティ様。……ってどうしたのですか? 寝不足のようですけれど」
彼女が驚くのも無理はない。
いくら姿勢を正していても刻まれた隈が消えるわけもないのだから。
そもそも貴族の令嬢が隈を作って外に出るのなんてはしたないことだし、普通の令嬢はまずしないことだ。
特に私のような上位の貴族ではいつも完璧を求められるから尚更そこらへんは厳しい。
とはいえ今日は誰とも朝食を一緒にしないと知っていたためにできた暴挙ではあるのだけど。
驚いたのもの束の間、ナタリーは周りをキョロキョロと見渡した後私の手を引くと急いで教室の隅まで連れていかれる。
「もしかしてその寝不足の原因って私が貸した小説ではないの?」
「ええっと、それはその……。はい」
誤魔化しきれないと悟り正直に頷く。
途端にナタリーの表情は曇ってしまった。
「申し訳ないわ。私があんなにはりきって貴方に押し付けたから……」
「そ、そんなことないわ! 私が勝手に夜更かしして読み進めたのだもの。そんな気を落とさないで」
やはり気を落としてしまった彼女に精一杯のフォローを入れる。
それに私の言った言葉の通り、無理して読み進めたのは私の勝手であってナタリーが謝ることなど微塵もないのだ。
その言葉にある程度納得してくれたようで、彼女は少し元気を取り戻す。
すると今度は小説の感想が気になるのかキラキラと目に輝きを宿しながら私に詰め寄った。
「それで? どこまで読んだの?」
「貸してくれたものは全部読んだわよ」
「えっ!? ぜ、全部!」
驚きのあまり大声を出してしまったナタリーに、教室にいた生徒たちが何事かと一斉に私たちに目線を集中させた。
令嬢としてあるまじき行為をしてしまった事と、皆の注目を浴びたことに恥ずかしくなったのかほんのり頬を赤く染めるナタリー。
「ご、ごめんあそばせ~」と言いながら手をひらひらと振って誤魔化す彼女に、気になりながらも各々視線をもとに戻していく。
はぁとため息を吐きなんとか自分を落ち着かせた彼女は私に向き直ると、抑えながらも驚いた声で私に詰め寄る。
「全部って、5冊全部?」
「ええ、そうよ」
彼女の驚きも無理はない。
私だって1冊200頁以上ある小説を――いくら娯楽に特化した恋愛小説であれ――半日で5冊も読破するのは容易ではなかった。
おかげでこんな寝不足のまま登校しているのだし。
しかし、彼女のおすすめなだけあって面白い内容ではあった。
それに加え、何となくではあるが”悪役令嬢”の役割りというのも把握できたし、ナタリーが言っていた『燃え上がるための刺激剤』のような存在なのだということも理解できた。
こんな情報を恵んでくれた彼女に感謝しなくては。私一人であったならこんな方法思い付きもしなかったはず。
しかし”悪役令嬢”については私がその役を演じるにあたり少々確認したいことがいくつかある。
それを相談しようと時計を見ると、もう始まりのHRの時間まであと10分もないことに気が付いた。
これは今相談できるような内容ではないわね……。
「”悪役令嬢”について相談したいことがあるからこの話の続きはお昼休みにしましょう」
私の感想を聞きたいようでうずうずしているナタリーにそう告げると、席に戻ろうと促す。
朝は時間が無いため、話が盛り上がったとしても始業のチャイムで中断されてしまうからなんとももどかしい感じがしてしまう。
ナタリーも時間が無い事に気づいたようで大人しく2人してお互いの席に着席し、1時限目の授業の準備をはじめた。
そもそも”悪役令嬢”と言っても何をするのかもわからないし。
唸る私にまたもやナタリーは自慢げに鼻で笑う。
「悩んでいるわねエスティ。さて、あなたの目の前にあるのは一体何かしら」
「目の前にあるもの……?」
そういえばテーブルの上にはナタリーが先ほど熱弁しそうになっていた恋愛小説が鎮座している。
と、いうことは……。
「その小説を読んで”悪役令嬢”を勉強すれば良いわ!」
目の前の小説を指さし胸を張ってその小説を推奨する彼女には一種の男気さえも感じられるほど堂々としたものだった。
しかしこれは、アドバイスというより布教活動のような気が……。
いやいやしかし、彼女が私を思って言ってくれているのだし無下にはできない。
それに今の私には他の方法なんて思いつかないし。
ここは一丁試してみるしかない!
うまくいかなかったらまたそこで考えれば良いのだし、やらない後悔よりやる後悔だ。
「分かったわナタリー。私頑張ってみる」
両手をグーにして彼女に意気込みを示す。
「頑張るのよエスティ! その本貸してあげるから隅々まで読んできなさい、もちろん感想もちゃんと私に報告するのよ!」
私の決意に気持ちよく応援を返してくれるのは嬉しい、……が。
やっぱりこれって布教活動なんじゃないの?
嬉しそうな彼女の横で、やっぱり少しだけ疑いの目を向けてしまうのは仕方のないことだと思うのは私だけじゃないはず、と思いたい。
***
次の日、私は寝不足ぎみに目をこすりながら学院に登校した。
口から湧き上がってくるあくびを何とか口の中でせき止め、いつものように令嬢然とした姿勢を維持する。
教室に入ると既に来ていたナタリーに声を掛ける。
「ごきげんよう、ナタリー嬢」
「ごきげんよう、エスティ様。……ってどうしたのですか? 寝不足のようですけれど」
彼女が驚くのも無理はない。
いくら姿勢を正していても刻まれた隈が消えるわけもないのだから。
そもそも貴族の令嬢が隈を作って外に出るのなんてはしたないことだし、普通の令嬢はまずしないことだ。
特に私のような上位の貴族ではいつも完璧を求められるから尚更そこらへんは厳しい。
とはいえ今日は誰とも朝食を一緒にしないと知っていたためにできた暴挙ではあるのだけど。
驚いたのもの束の間、ナタリーは周りをキョロキョロと見渡した後私の手を引くと急いで教室の隅まで連れていかれる。
「もしかしてその寝不足の原因って私が貸した小説ではないの?」
「ええっと、それはその……。はい」
誤魔化しきれないと悟り正直に頷く。
途端にナタリーの表情は曇ってしまった。
「申し訳ないわ。私があんなにはりきって貴方に押し付けたから……」
「そ、そんなことないわ! 私が勝手に夜更かしして読み進めたのだもの。そんな気を落とさないで」
やはり気を落としてしまった彼女に精一杯のフォローを入れる。
それに私の言った言葉の通り、無理して読み進めたのは私の勝手であってナタリーが謝ることなど微塵もないのだ。
その言葉にある程度納得してくれたようで、彼女は少し元気を取り戻す。
すると今度は小説の感想が気になるのかキラキラと目に輝きを宿しながら私に詰め寄った。
「それで? どこまで読んだの?」
「貸してくれたものは全部読んだわよ」
「えっ!? ぜ、全部!」
驚きのあまり大声を出してしまったナタリーに、教室にいた生徒たちが何事かと一斉に私たちに目線を集中させた。
令嬢としてあるまじき行為をしてしまった事と、皆の注目を浴びたことに恥ずかしくなったのかほんのり頬を赤く染めるナタリー。
「ご、ごめんあそばせ~」と言いながら手をひらひらと振って誤魔化す彼女に、気になりながらも各々視線をもとに戻していく。
はぁとため息を吐きなんとか自分を落ち着かせた彼女は私に向き直ると、抑えながらも驚いた声で私に詰め寄る。
「全部って、5冊全部?」
「ええ、そうよ」
彼女の驚きも無理はない。
私だって1冊200頁以上ある小説を――いくら娯楽に特化した恋愛小説であれ――半日で5冊も読破するのは容易ではなかった。
おかげでこんな寝不足のまま登校しているのだし。
しかし、彼女のおすすめなだけあって面白い内容ではあった。
それに加え、何となくではあるが”悪役令嬢”の役割りというのも把握できたし、ナタリーが言っていた『燃え上がるための刺激剤』のような存在なのだということも理解できた。
こんな情報を恵んでくれた彼女に感謝しなくては。私一人であったならこんな方法思い付きもしなかったはず。
しかし”悪役令嬢”については私がその役を演じるにあたり少々確認したいことがいくつかある。
それを相談しようと時計を見ると、もう始まりのHRの時間まであと10分もないことに気が付いた。
これは今相談できるような内容ではないわね……。
「”悪役令嬢”について相談したいことがあるからこの話の続きはお昼休みにしましょう」
私の感想を聞きたいようでうずうずしているナタリーにそう告げると、席に戻ろうと促す。
朝は時間が無いため、話が盛り上がったとしても始業のチャイムで中断されてしまうからなんとももどかしい感じがしてしまう。
ナタリーも時間が無い事に気づいたようで大人しく2人してお互いの席に着席し、1時限目の授業の準備をはじめた。
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