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第3章
59.”悪役令嬢”の動機
「それでどうだった?」
中庭のベンチに座るなり、彼女は前のめりになって詰め寄る。
おそらくこの時間が来るのを今か今かと待ち焦がれていたに違いない。
現に彼女の興奮は最高潮に達しようとしていた。
しかし私は別に感想を語り合いたいわけではない。確かに面白かったのは認めるが。
それにまだ彼女は全て読んでいないようだし。
と、隣に座っている私専属メイドへと視線を向けた。
「感想を語り合いたいのはやまやまだけど、今ミリアが読んでいるところだからもう少しだけ待って。ね、ミリア」
実は当たり前のように私たちの隣に座り、黙々と昼食のサンドイッチを食べ進めていたミリアは、私の言葉にその手を止めた。
前世が庶民のナタリーはこの変人メイドがこうして私たちと共に食事をするのを許してくれるため、いつの間にかこうして3人で並んで食べるのが日課になっている。
ミリアの話を出したのは言うまでもなく、ナタリーのこの熱気から私たちを救うためだ。
なぜならナタリーはネタバレを酷く嫌う人間であり、それを自分が行ってしまうということを絶対に良しとしない人だから。
目の前でまだ未読の人間がいれば絶対に内容を話すようなことはしない。
と先ほどからサンドイッチを見つめたまましばらく黙っていたミリアが、淡々とした口調で意外なことを告げた。
「相変わらず俗物的なお話でしたが……。面白いとは思います」
ミリアは私の屋敷へメイドとして家礼にスカウトされる前は、教会の孤児院にいたこともありこういう恋愛系の話に対し”低俗なもの”という見方が根底にある。
そのため暇つぶしに読むことはあれど、くだらないなどと言うという否定的なものではなく面白いなんて好意的な感想は初めて聞いた。
私が借りてきたものは殆どミリアも読んでおり、辛辣なコメントを返されてきたナタリーにとっては彼女のこの反応に興奮しない訳もなく。
「そうなのよ! あの手の身分差の恋物語って結構王道なんだけど、あの本はその中でもすごく人気がある作品なの!」
その勢いのままつらつらと小説の良いところをネタバレしないように配慮しながら早口で語っていく。
その間に聞いているふりをして食事を進めていく私たち。
すでに彼女は自分の世界に浸っているため、私たちがどんなことをしていようが眼中にないのだ。
「で? エスティやミリアさんのお気に入りのシーンってどこ?」
一通り語り終えたところで満足したのか、今度は私たちに話を振ってきた。
呆れ半分の私たちの様子に全く気付かないあたり、彼女のメンタルの強さが伺える。
「あのねナタリー、そのことで相談があるの」
「相談?」
どうやら私にこの本を貸した理由を忘れているらしい。
と、いうかあれはきっと建前で本音はただ単に仲間を増やしたかっただけなのは分かり切っていることなのだが。
「貴方が私にあの本を貸したのって、私に”悪役令嬢”が何なのかを教えてくれるためでしょう?」
「ああ、そういえばそうだったわね」
「いけないいけない」と軽く言うあたり、どうやら本音を隠そうともして思っていないらしい。
まぁ、相談にのってもらっている私が偉そうなことを言うわけにもいかないから、目を瞑るけれど。
「それで? 相談ってなにかしら?」
この軽い感じの彼女に相談して本当に大丈夫なのかという不安が頭をよぎるが無視して続ける。
「”悪役令嬢”についてのことは大体わかったのだけど、問題があるのよ」
「問題?」
「”悪役令嬢”って嫌がらせとかするじゃない? その方法とか……。彼女の結末とか引っかかることが幾つかあって……」
はっきり言って”悪役令嬢”のする全ての行動に物申したい気持ちを抑え相談しようと思っていたのだが、この言い方ではその本音を抑えられていないような気がする。
そしてそれは彼女にも伝わったようで、ナタリーは少し眉を寄せて考え始めた。
「まぁ確かに、エスティがしないようことばかりよね。そもそも”悪役令嬢”の行動原理である、『婚約者が好きすぎて嫉妬のあまり主人公を虐めちゃう』って言うのがないのだもの」
”悪役令嬢”は相手役が好きすぎるあまり主人公をいじめてしまい、その結果婚約破棄されているのだ。
対して私の目的は最初から婚約破棄である。そもそもこの場合の主人公の位置に当てはまるメドビン嬢のことを恨んでなどいないし、相手役に当てはまるヴァリタスの好意が少なからず私に向いているのだ。
現状、メドビン嬢をいじめる動機が私にはこれっぽっちもないのだ。
「じゃあ、違う動機を作ったらどう?」
「違う動機?」
「そう、いじめる動機なんて一通りしかないわけじゃないんだから」
確かに、言われてみればその通り。
いじめをする動機は大きく分けて2つ。
その対象が自分たちよりはるかに劣っているといじめる側が判断したときと、その対象に対し何らかの強いコンプレックス・嫉妬を覚えたときだ。
メドビン嬢の場合はあの容姿に加え、魔法も凄腕、しかし貴族としては一番低い男爵位の令嬢とあらばいじめをする動機を探すまでもなく標的になりそうな人物だ。
しかも私は彼女がヴァリタスの前世、バートンの婚約者とそっくりだという情報も握っている。
これは、もしかしたら動機なんてそんなに対した問題ではないかも。
しかしこう考えると、メドビン嬢っていままで結構苦労したりしたんじゃないかしら。
「うん、確かに。動機はさして問題ではないかも」
「そう、それは良かったわ」
では次の問題だが……。
中庭のベンチに座るなり、彼女は前のめりになって詰め寄る。
おそらくこの時間が来るのを今か今かと待ち焦がれていたに違いない。
現に彼女の興奮は最高潮に達しようとしていた。
しかし私は別に感想を語り合いたいわけではない。確かに面白かったのは認めるが。
それにまだ彼女は全て読んでいないようだし。
と、隣に座っている私専属メイドへと視線を向けた。
「感想を語り合いたいのはやまやまだけど、今ミリアが読んでいるところだからもう少しだけ待って。ね、ミリア」
実は当たり前のように私たちの隣に座り、黙々と昼食のサンドイッチを食べ進めていたミリアは、私の言葉にその手を止めた。
前世が庶民のナタリーはこの変人メイドがこうして私たちと共に食事をするのを許してくれるため、いつの間にかこうして3人で並んで食べるのが日課になっている。
ミリアの話を出したのは言うまでもなく、ナタリーのこの熱気から私たちを救うためだ。
なぜならナタリーはネタバレを酷く嫌う人間であり、それを自分が行ってしまうということを絶対に良しとしない人だから。
目の前でまだ未読の人間がいれば絶対に内容を話すようなことはしない。
と先ほどからサンドイッチを見つめたまましばらく黙っていたミリアが、淡々とした口調で意外なことを告げた。
「相変わらず俗物的なお話でしたが……。面白いとは思います」
ミリアは私の屋敷へメイドとして家礼にスカウトされる前は、教会の孤児院にいたこともありこういう恋愛系の話に対し”低俗なもの”という見方が根底にある。
そのため暇つぶしに読むことはあれど、くだらないなどと言うという否定的なものではなく面白いなんて好意的な感想は初めて聞いた。
私が借りてきたものは殆どミリアも読んでおり、辛辣なコメントを返されてきたナタリーにとっては彼女のこの反応に興奮しない訳もなく。
「そうなのよ! あの手の身分差の恋物語って結構王道なんだけど、あの本はその中でもすごく人気がある作品なの!」
その勢いのままつらつらと小説の良いところをネタバレしないように配慮しながら早口で語っていく。
その間に聞いているふりをして食事を進めていく私たち。
すでに彼女は自分の世界に浸っているため、私たちがどんなことをしていようが眼中にないのだ。
「で? エスティやミリアさんのお気に入りのシーンってどこ?」
一通り語り終えたところで満足したのか、今度は私たちに話を振ってきた。
呆れ半分の私たちの様子に全く気付かないあたり、彼女のメンタルの強さが伺える。
「あのねナタリー、そのことで相談があるの」
「相談?」
どうやら私にこの本を貸した理由を忘れているらしい。
と、いうかあれはきっと建前で本音はただ単に仲間を増やしたかっただけなのは分かり切っていることなのだが。
「貴方が私にあの本を貸したのって、私に”悪役令嬢”が何なのかを教えてくれるためでしょう?」
「ああ、そういえばそうだったわね」
「いけないいけない」と軽く言うあたり、どうやら本音を隠そうともして思っていないらしい。
まぁ、相談にのってもらっている私が偉そうなことを言うわけにもいかないから、目を瞑るけれど。
「それで? 相談ってなにかしら?」
この軽い感じの彼女に相談して本当に大丈夫なのかという不安が頭をよぎるが無視して続ける。
「”悪役令嬢”についてのことは大体わかったのだけど、問題があるのよ」
「問題?」
「”悪役令嬢”って嫌がらせとかするじゃない? その方法とか……。彼女の結末とか引っかかることが幾つかあって……」
はっきり言って”悪役令嬢”のする全ての行動に物申したい気持ちを抑え相談しようと思っていたのだが、この言い方ではその本音を抑えられていないような気がする。
そしてそれは彼女にも伝わったようで、ナタリーは少し眉を寄せて考え始めた。
「まぁ確かに、エスティがしないようことばかりよね。そもそも”悪役令嬢”の行動原理である、『婚約者が好きすぎて嫉妬のあまり主人公を虐めちゃう』って言うのがないのだもの」
”悪役令嬢”は相手役が好きすぎるあまり主人公をいじめてしまい、その結果婚約破棄されているのだ。
対して私の目的は最初から婚約破棄である。そもそもこの場合の主人公の位置に当てはまるメドビン嬢のことを恨んでなどいないし、相手役に当てはまるヴァリタスの好意が少なからず私に向いているのだ。
現状、メドビン嬢をいじめる動機が私にはこれっぽっちもないのだ。
「じゃあ、違う動機を作ったらどう?」
「違う動機?」
「そう、いじめる動機なんて一通りしかないわけじゃないんだから」
確かに、言われてみればその通り。
いじめをする動機は大きく分けて2つ。
その対象が自分たちよりはるかに劣っているといじめる側が判断したときと、その対象に対し何らかの強いコンプレックス・嫉妬を覚えたときだ。
メドビン嬢の場合はあの容姿に加え、魔法も凄腕、しかし貴族としては一番低い男爵位の令嬢とあらばいじめをする動機を探すまでもなく標的になりそうな人物だ。
しかも私は彼女がヴァリタスの前世、バートンの婚約者とそっくりだという情報も握っている。
これは、もしかしたら動機なんてそんなに対した問題ではないかも。
しかしこう考えると、メドビン嬢っていままで結構苦労したりしたんじゃないかしら。
「うん、確かに。動機はさして問題ではないかも」
「そう、それは良かったわ」
では次の問題だが……。
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