悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

61.美しき学院図書館

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午後の授業は殆ど座学だったためか、あっという間に放課後となった。
用事のあるナタリーとは分かれミリアと共に図書館へと急ぐ。

「それにしても珍しいわね、ミリアがあの小説を面白いなんて言うの」

今日の意外なミリアの感想を思い出し、自然と笑みをこぼしながら言うと彼女は私とは目を合わせず、窓の外をぼうっと眺めながら呟いた。

「だって。だってお嬢様が、珍しく真剣に読んでいらっしゃるから。きっとなにか素敵なものがあると思ったんです。そして、読んでみてその通りだと思ったからそう言っただけです」

「え?」

今まで私が読んできた本をミリアも一緒になって読んでいたのって、ただ暇つぶしが欲しかっただけじゃなかったってこと?

「それにお嬢様と本の話をするのは楽しいのですし、お嬢様も笑って下さるから……。私はただ、お嬢様のお役に立ちたいのです。たとえそれが無意味なものだとしても」

真っ直ぐ見つめる彼女の瞳に映る意志があまりにも強すぎて、逸らしたいのに逸らせない。
彼女はただ、私に付き合って本を読んでいただけなのか。私に喜んでほしくて、ただそれだけの動機でつまらないと思っていた本を読み続けていたのか。

すべて、私のためだけに。

もう彼女と私の間に切れることのない縁が、絆が結ばれてしまっていることに怖くなった。
それがそろしくて堪らない。

いつか離れ離れにならなければならないのに、どうしてここまで彼女に心を許してしまったのだろうか。
きっとそれは、彼女がいままで傍にいた人たちとは全く違う人だから。
しかし、いつか裏切られるかもしれない恐怖は、まだ私の中に残っている。

だって、あのバートンもミリアと同じ、私に仕える存在だったから。
裏切るなんて考えられないような人だったから。

心の中で少しずつ彼女を警戒するようにという警告が灯りはじめていた。


「相も変わらず大きいわねこの学院の図書館は」

校舎を後にし、林を抜け5分ほど歩くと例の図書館へと辿り着いた。
外観が真っ白な上、横に広く所々ドーリス式の柱が装飾されており一見すると神殿のようにも見える。
4階はあろうかと思う高さからも、その存在感は重圧で目の前にしただけでも呆気に取られてしまうほどだ。

まぁ、中も相当すごいのだけど。

早速扉を開け、中に入ると外観とは一切違う雰囲気になった。
窓があってもなお暗く、灯りといえば橙に光るランプのみで薄暗い。
外観が光と言った雰囲気であるのに対し、内部は夜の世界のような感じがするが、どちらも幻想的な雰囲気を纏っている。

玄関から半径10メートルほどの範囲は、3階ほどの高さまで吹き抜けになっており、数多く置かれた本棚に敷き詰められた本は一体何冊納められているのか見当もつかなほど膨大だ。

ため息が出そうなほどの幻想的な雰囲気に、初めてくる人は誰しも感嘆する。

「さて、目的の本を探しましょうか」

ミリアと手分けして探すことにし、とりあえず同じ本が置いてあるだろうフロアへ移動する。

「ええっと、これって……。この『小説フロア』で探せばいいのかしら」

「恐らく……」

入口近くにある『図書館フロア地図』で確認する。
しかし、こうしてみると本当に広い図書館だ。

いつも利用するフロアは1階の『政治フロア』と『歴史フロア』ぐらいなため、それ以外のフロアは殆ど足を踏み入れたことはない。
そのため、改めて地図を見るのは中等科入学以来の、ほぼ3年ぶりだろうか。

とりあえず先ほど見つけた『小説フロア』へ行くことにし、目的のフロアがある3階へ向かう。
入口脇にある螺旋階段を登ると1階や2階がぼんやりと見渡せる。
上から見るとところどころ灯ったランプの光がまた美しく、少し見とれてしまった。

「お嬢様、こちらのようですよ。お嬢様?」

3階まで着いてもなお見とれている私に声を掛けるミリアの声でハッとし、やっと現実に戻る。
いけないいけない。私って結構この図書館の雰囲気好きだからつい雰囲気にのまれてしまっていた。

「ごめんねミリア。つい見とれてたわ」

「そうですか。本当にお嬢様はここが好きですね」

あれ? なんで私がここを好きなんてバレてるの? 言った事ないのに。
そんなにわかりやすかったかしら。

3階のフロア地図で確認し、『小説フロア』を探すとどうやら階段の近くだったようでフロア自体はすぐに見つかった。
ただ、1フロアに私の倍以上はある本棚が10段以上設置されているところをみると探すのは一苦労しそうだ。

後ろで小さくため息を吐くミリアの気配を感じ、少し焦る。
彼女が不機嫌になる前に早く見つけて帰ろう。不機嫌になると私のおやつ勝手に食べたり、馬車の中で寝てしまったりと怠慢になるから厄介なのだ。
いつもは口以外完璧だから文句も言えないし。

と、少し途方に暮れたが、どうやらジャンル別に本棚が別れているようだ。
やった! これはしかしたら思っていたよりずっと早く探し出せるかも。
どうやら本棚の数も3段ぐらいみたいだし。

「じゃあミリアはそっちをお願いね。私はこっちの方を探すから」

「畏まりました。お嬢様、くれぐれもお探しの本以外を手に取らないようお願いしますね」

やれやれと言った表情で告げて別れた彼女の背中は本当に呆れているように見えた。
そんな対応されると悲しくなるから。私だって鉄の心を持とうと頑張っているだけで、人並みに傷つくのよ。
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