悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

69.変装

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結局その日は照れたヴァリタスを晒すだけに終わってしまった。
しかし、それからというものその5人と昼食をともにするのが日課となっていった。
これでヴァリタスとメドビン嬢の仲を取り持つきっかけがつくれる! と初めのうちは張り切っていたものの、1週間経った今も彼らが仲良くなるどころかまともな会話もほとんどしていない。
毎度毎度隣同士に座って食事をしているのに1週間経った結果がこれでは、いつまで経っても関係が進展することなど見込めるはずもなく。

これは本格的に私がなにかきっかけをつくる必要がありそうね。
しかし、どうやって間を取り持とうかしら。

”悪役令嬢”を実行するまで2人の関係が進んでいるわけではないし……。
う~んと考え始めたタイミングで、金曜日の放課後となってしまった。
これは土日の間に何か案を見つけ出す必要があるわね。

家に着くと数人のメイドが出迎えてくれる中で、ある1人のメイドが私の前に立ち何かを差し出してきた。

「お嬢様、お手紙を預かっております」
彼女が差し出したのは手紙だった。
それを手に取り、差し出し人を見てみると。

おや、これは……。

すぐに封を開け、中身を確認する。

『明日、13時にエルゾン・カフェにて』

手紙には紙きれ1枚にそれだけ書かれていた。

明日って、また急な……。
彼の急な誘いは今にはじまったことではないけれど、私に明日予定が入っていたらどうする気なのかしらね。
まぁ断ることなんてできないし、だからこそこのタイミングで出してきているのでしょうけれど。

小さな紙きれを見つめながら、真剣な眼差しを向ける私が気になったのかミリアが覗き込んできた。
もう! こら! 主人の手紙を覗き見るなんて、下手したらクビになるわよ!
ホントにもうっ。彼女を教育したのは誰なのかしら。
一回メイド教育に口出す必要がありそうね。

「ミリア、やめなさい。それ、私以外にしたらクビになるわよ」

「お嬢様以外の方にこんな無礼なことしません」

こいつぅ、まさかわざだったとは。そんなに私を舐めていると痛い目見るわよ。
彼女をじとーっとした目で見つめる私の視線を完全に無視するミリアの無神経さにほとほと呆れる。

「そんなことより、明日はお出かけになるのですか?」

そんなこと⁈ 今そんなことって言った⁈
今のは聞き捨てならないわよミリア!
今度みっちり再教育させてあげるから覚悟なさいよね!
まぁ、実行できた試しないけど。

「ええ、そうね。明日は早めに起きるから、支度を手伝って頂戴」

彼女が話を進めるのなら仕方がないと諦め、彼女の問いに素直に答える私。
これではどちらが主人かわからないわよ。

「畏まりました」

深々と頭を下げる彼女に恨みを込めた視線を向けたが、相も変わらず無視されてしまった。


             ***


「やあ、マレリア」

「ごきげんよう、ビルマ。元気そうでなによりです」

待ち合わせの喫茶店で彼と落ち合う。
時間通りに来たはずなのに、彼の前にはすでに半分ほど減ったケーキが置かれていた。

「久しぶりに城下町に来たものだから、はしゃいでしまったよ」

カッ、カッ、カッと嬉しそうに言う彼の顔はおそらく普通の女性が見たら卒倒しそうなほど魅力的に映るに違いない。
しかし彼の腹黒さを知っている私からしたら、何の感情も湧かないわけで。

まったく、将来この国を背負う御方がこんな下町の喫茶店で何をのんきにしているのだか。

それにしても……。
相変わらず変装とは名ばかりで、顔の美しさの半分も隠しきれていないじゃない。
服だって王族が着るような服ではないが、一端の貴族が着るには十分なものだし。

それに当てつけのように、髪を黒く染めているくせして瞳はルビー色のままだから余計に彼を思い出して胃が痛くなるわよ。

当の私も知り合いに見られても気づかれないよう、この国では一般的な容姿である茶髪にブラウンの瞳に変えられており、更に鼻のあたりにはそばかすまで施してある。
全てミリアが魔法でしてくれたのだが、流石は長年髪や瞳の色を偽っていただけあって見事に全くの別人と化している。
これでは私の屋敷の使用人ですらわからないのではないだろうか。それほどまでに私の変装は完璧だった。
目の前にいる御方には是非とも参考にしてほしいものである。

しかし、先ほどからここで働いているであろう給仕係の女性や女性客たちがちらちら熱い視線で見つめてきている。
恐らく彼の容姿に見とれているに違いない。
しかも変装しているとはいえこんなもっさい女が待ち合わせの相手と知って恨めしそうな目線を送る人までいるみたいだし。

痛い、視線が痛いわ。
もう、この兄弟と一緒にいると女性に突き刺すような視線を送られるばっかりじゃない。
これだけでも十分一緒にいたくない理由になるわよ。

しかし、今更この喫茶店を後にするわけにもいかず、仕方なく彼の向かいに座ると喫茶店の給仕係を呼び紅茶を頼む。
もちろん紅茶のメニューなんて見ても味の違いなんて分からないから、『日替わりおすすめ紅茶』なる便利なものを頼んだ。

「ケーキかなんか頼んでやろう。ここは僕の驕りだから遠慮するな」

と、私になんの相談もなく勝手にケーキを頼んでしまう。
いや、私さっき昼食食べてきたからいらないんだけど……。

そんな私の冷めた視線に全く気付くこともなく、彼はニヤニヤと何か企むように笑った。
何よその顔。まさか気遣い上手でも演じているわけではないでしょうね。
気持ち悪いからやめて欲しいよ、ていうかなにか企んでそうで怖いわよ。
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