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第3章
70.フルーツティー
なぜ、私エスティ・ベルフェリトと彼ベリエル・クロネテスが変装して城下町で落ち合っているのかというと……。
密会をし始めた時にはヴァリタスに会う際に王城で密会をしていたのだが、それが月に1回程度で話し合いたいときに会えない、回数も少なく計画を進めにくかった、という理由と、毎回ヴァリタスと会う前に密会をしていては、王城で働くメイドやヴァリタス本人、それにフィーネ嬢や国王陛下に不審に思われる可能性を回避するため、という理由でこのように城下町に繰り出し密会をしようということになったのであった。
それに名前を聞いてピンとくる人がいないとも限らないため、私はマレリア、ベリエル殿下はビルマ、なんて偽名まで付けて呼び合う、という徹底ぶりなのであった。
とはいえ、私とは違いベリエル殿下はどこか警戒心が薄く、変装もこの通り私よりもかなり手を抜いているものだからこっちが冷や冷やしてしまうのだが。
現にバレてはいないようだが、その容姿から注目が集まってしまっている。主に女性の。
王城で密会するよりもヴァリタスに気づかれないよう細心の注意を払う、という面倒なことに気を配らなくて済むのは良いのだが、おかげでこの自由気ままな王子の世話を焼かなくてはならないという面倒事を背負うことになってしまった。
どうのようなものにもメリット・デメリットはあるものよね。そう思って我慢しようじゃないの。
「お待たせいたしました、『日替わり紅茶』のフルーツティーでございます」
「ありがとう」
お店のメイドが目の前に真っ白のカップを静かに置いてくれる。
ほんのり薫る紅茶に混じってフルーツの甘い香りが鼻孔を擽る。なんだか不思議な香りに誘われるように、自然と口に運んでしまった。
「おいしい……」
香りほどフルーツの味がするわけではないが、僅かに感じる甘みは紅茶の味を邪魔しない程度に主張していて飲みやすい。思わずもう一口運んでしまった。
やっぱりこの紅茶美味しい。今気づいたけど、紅茶の中に細かく刻まれたフルーツが入っているのだわ。だからほんのりフルーツの味がするのね。
でもその割にはフルーツの香りが強すぎるような……。そういう魔法でも使っているのかしら? あるのか知らないけど。
まあ、どんな手法で作っているのかなんてどうでもいいわ。こんなおいしい紅茶があるなんて知らなかった。このお店、チェックしておいた方が良いかも。
早速気に入った紅茶を、自然と笑みをこぼしながら口に含む私に少し驚きつつ、またしても向かいに座る性悪王子はニヤニヤして頬杖を付きながら見つめていた。
「良かったな、味音痴の君にもわかりやすい味だったみたいで」
「なっ! 失礼な。わからないのは紅茶の味だけです!」
ぷいっとそっぽを向く私が面白いのか、またしても声を出して笑っている。
その顔は王城で見せる何かを企んだような、隠したような不自然なものではなくて、本当に面白くて笑っているような笑顔だった。
フィーネ嬢の前以外でこの笑顔を見せるのは、こうやって変装して城下町に密会に来るときぐらいだ。
そういえば、ヴァリタスも王城では作り笑顔が多かったように思う。
私と2人きりのときはそうでもなかったけれど、国王陛下や宰相などの王城で働く者たちに対しては愛想を含んだ笑みをよく向けていた。
もしかして、2人が幼い頃から愛想笑いを体得してしまうぐらい、それぐらいあの王城は窮屈なのだろうか。
それは、ちょっと、同情してしまう。
いやいや、待て、考えろ。この笑顔に騙されるな、私。
今ベリエル殿下は非常に失礼なことを私に言っていたではないか。
令嬢を、しかも公爵位の令嬢を揶揄って遊ぶとはいくら王子でも趣味が悪い。
それにヴァリタスだって、ああ見えて立ち回りがうまいし、きっと私が思うような悲しい理由なんてないはずだ。
私のように、苦しさと悲しさしかないような生活を送っているわけなんてないのだから。
昔も、そして今も、苦しいのは私だけ……。
待て待て、何を悲観的になっているのよ私。
こんな対したことないことで、また前世の事を思い出して悲劇のヒロインぶるなんて馬鹿みたいじゃない。
もう、そこまで子供じゃないのだから。
「まったく君は相変わらず百面相をするのが趣味なのか?」
フルフルと頭を振る私を見て、若干引き気味に性悪く笑うと、またしても失礼な言葉で私を攻撃する。
だから、令嬢をそんな風に揶揄うのは趣味が悪いからやめてほしいのだけど。
言わなきゃ伝わらないのかなぁ、この主張。
目で訴えても私の考えを理解するはずもなく……というか言ってもきっと理解しようともしないかも、この王子。
はぁ、とまたため息を吐きそうになって、慌てて止める。
本当に癖になっているみたい、ため息を吐くの。
令嬢がため息を吐くのが癖なんてとんでもない。直さなくちゃいけないわね。
私がため息の代わりに紅茶を口に運んでいると、先ほどまで面白可笑しく笑っていた王子は途端に真剣な顔になり私に向き直る。
おそらくここからが本題なのだろう。
私も紅茶を一口飲み込むと、静かにカップを置き彼を見つめた。
「さて、ではここ1カ月の成果を聞かせてもらおうじゃないか」
密会をし始めた時にはヴァリタスに会う際に王城で密会をしていたのだが、それが月に1回程度で話し合いたいときに会えない、回数も少なく計画を進めにくかった、という理由と、毎回ヴァリタスと会う前に密会をしていては、王城で働くメイドやヴァリタス本人、それにフィーネ嬢や国王陛下に不審に思われる可能性を回避するため、という理由でこのように城下町に繰り出し密会をしようということになったのであった。
それに名前を聞いてピンとくる人がいないとも限らないため、私はマレリア、ベリエル殿下はビルマ、なんて偽名まで付けて呼び合う、という徹底ぶりなのであった。
とはいえ、私とは違いベリエル殿下はどこか警戒心が薄く、変装もこの通り私よりもかなり手を抜いているものだからこっちが冷や冷やしてしまうのだが。
現にバレてはいないようだが、その容姿から注目が集まってしまっている。主に女性の。
王城で密会するよりもヴァリタスに気づかれないよう細心の注意を払う、という面倒なことに気を配らなくて済むのは良いのだが、おかげでこの自由気ままな王子の世話を焼かなくてはならないという面倒事を背負うことになってしまった。
どうのようなものにもメリット・デメリットはあるものよね。そう思って我慢しようじゃないの。
「お待たせいたしました、『日替わり紅茶』のフルーツティーでございます」
「ありがとう」
お店のメイドが目の前に真っ白のカップを静かに置いてくれる。
ほんのり薫る紅茶に混じってフルーツの甘い香りが鼻孔を擽る。なんだか不思議な香りに誘われるように、自然と口に運んでしまった。
「おいしい……」
香りほどフルーツの味がするわけではないが、僅かに感じる甘みは紅茶の味を邪魔しない程度に主張していて飲みやすい。思わずもう一口運んでしまった。
やっぱりこの紅茶美味しい。今気づいたけど、紅茶の中に細かく刻まれたフルーツが入っているのだわ。だからほんのりフルーツの味がするのね。
でもその割にはフルーツの香りが強すぎるような……。そういう魔法でも使っているのかしら? あるのか知らないけど。
まあ、どんな手法で作っているのかなんてどうでもいいわ。こんなおいしい紅茶があるなんて知らなかった。このお店、チェックしておいた方が良いかも。
早速気に入った紅茶を、自然と笑みをこぼしながら口に含む私に少し驚きつつ、またしても向かいに座る性悪王子はニヤニヤして頬杖を付きながら見つめていた。
「良かったな、味音痴の君にもわかりやすい味だったみたいで」
「なっ! 失礼な。わからないのは紅茶の味だけです!」
ぷいっとそっぽを向く私が面白いのか、またしても声を出して笑っている。
その顔は王城で見せる何かを企んだような、隠したような不自然なものではなくて、本当に面白くて笑っているような笑顔だった。
フィーネ嬢の前以外でこの笑顔を見せるのは、こうやって変装して城下町に密会に来るときぐらいだ。
そういえば、ヴァリタスも王城では作り笑顔が多かったように思う。
私と2人きりのときはそうでもなかったけれど、国王陛下や宰相などの王城で働く者たちに対しては愛想を含んだ笑みをよく向けていた。
もしかして、2人が幼い頃から愛想笑いを体得してしまうぐらい、それぐらいあの王城は窮屈なのだろうか。
それは、ちょっと、同情してしまう。
いやいや、待て、考えろ。この笑顔に騙されるな、私。
今ベリエル殿下は非常に失礼なことを私に言っていたではないか。
令嬢を、しかも公爵位の令嬢を揶揄って遊ぶとはいくら王子でも趣味が悪い。
それにヴァリタスだって、ああ見えて立ち回りがうまいし、きっと私が思うような悲しい理由なんてないはずだ。
私のように、苦しさと悲しさしかないような生活を送っているわけなんてないのだから。
昔も、そして今も、苦しいのは私だけ……。
待て待て、何を悲観的になっているのよ私。
こんな対したことないことで、また前世の事を思い出して悲劇のヒロインぶるなんて馬鹿みたいじゃない。
もう、そこまで子供じゃないのだから。
「まったく君は相変わらず百面相をするのが趣味なのか?」
フルフルと頭を振る私を見て、若干引き気味に性悪く笑うと、またしても失礼な言葉で私を攻撃する。
だから、令嬢をそんな風に揶揄うのは趣味が悪いからやめてほしいのだけど。
言わなきゃ伝わらないのかなぁ、この主張。
目で訴えても私の考えを理解するはずもなく……というか言ってもきっと理解しようともしないかも、この王子。
はぁ、とまたため息を吐きそうになって、慌てて止める。
本当に癖になっているみたい、ため息を吐くの。
令嬢がため息を吐くのが癖なんてとんでもない。直さなくちゃいけないわね。
私がため息の代わりに紅茶を口に運んでいると、先ほどまで面白可笑しく笑っていた王子は途端に真剣な顔になり私に向き直る。
おそらくここからが本題なのだろう。
私も紅茶を一口飲み込むと、静かにカップを置き彼を見つめた。
「さて、ではここ1カ月の成果を聞かせてもらおうじゃないか」
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