悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

73.もう一つの目的

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「しかし、良いのですか? 相手は令嬢と言えど男爵位。彼とは釣り合わないのでは?」

ふと今まで素通りしていた疑問が頭をよぎり、口に出してみる。
いくら国民の支持率を大事にしていると言っても、王族が男爵の娘とくっついてしまうのには抵抗があるのではないかだろうか。
しかし、ベリエル殿下は私の問いかけに「ふっ」と鼻で笑った。

「君が相手よりかは遥かにマシだろ?」

さいですか。
もうここまで来たら怒る気にもならない。

「それにしても皮肉なものだな。前世の君が壊した婚約話を今度は今世の君が取り持とうなんて」

なにがおかしいのかカッ、カッと笑う彼に不本意ながら同意する。

この国の初代国王バートン・クロネテスが、主人である皇帝リヴェリオを自ら処刑するまでに恨む理由は大きく2つある。
1つは彼の両親と妹を戦争に巻き込み、無残にも死なせたこと。
そしてもう1つは彼の婚約者を奪ったこと。

しかし、それはどちらも史実にしか記されていないもので私の記憶にはないものだった。
だから、今まで私はそれを後世の人々が作った捏造だろうと考えていた。

だが、最近の前世の記憶に対してのことを考えると、もしかしたら事実かもしれないと思ってしまう。

現に彼はレイリーのことをはっきりと「婚約者」だと言っていた。
と、いうことは、婚約が破談になったのは事実なのだろう。
それがどうしてなのかは分からないままだけれど、婚約が破談になったのは事実であり史実通りのことだ。

それならば記録に残っていることの全てではないにしろ、いままで捏造だと思っていたものの中に事実が紛れ込んでいる可能性は高い。

まさか、今になって自分の前世が本当に極悪人だったかもしれない、なんて疑う日が来ようとは。
しかし、確かなことはある。
それはリヴェリオが裏切りと失意のうちに死んだということ。

そしてあの、強烈な悲しみと苦しみ。
それが事実ならば、やはり私の目的である『平穏無事な生活を手に入れる』という願いが変わることはない。
ならば何を躊躇うことがあるのか。

私はもうあんなに辛いことは御免だ。
たとえ極悪人と言われようとも、私は私の幸せを手に入れてみせる。



ベリエル殿下との話し合いも一通り済み、デザートも紅茶も堪能したしそろそろ帰ろうかと思っていた矢先。
急に物凄い笑顔で私を見つめてきた。
これは……なんだか嫌な予感が。

「君、この後予定ないよね?」

有無を言わせない言い方にその予想は的中する。
なんだ? 今度は私は一体何に付き合わされるんだ?

城下町にお忍びで来るのは王族にとってはとても珍しいことだ。
そのためベリエル殿下はこうして城下町で密会するたびに、ここでしかできないようなことや庶民にしか許されていないようなことをして楽しんでる。
当然それに私も付き合わされるわけで……。
だから早く帰りたかったのに!

しかし、この言葉が出てしまえば私が断ることなどできるはずもない。
仕方なくささやかな抵抗として無言でその言葉を承諾する。

「今回は一体何をされるのですか?」

彼に効かないであろうが、こちらの気を少しでも晴らすため皮肉を込めて問いかけるとそんな私の感情を丸ごと無視してベリアル殿下は答える。

「実は今度フィーネの誕生日があってだな」

「え? ええ、確かに存じておりますが……」

あと半月もない予定を聞かれ困惑する。
フィーネ嬢の誕生日は5月17日。
本日はすでに5月を4日前に迎えている。

しかし私にそんな事を聞くなんて一体どういうことなのだろうか。

「だがな、まだプレゼントをその……。用意していないというか……」

「え⁉ まだ用意していないのですか?」

ベリエル殿下は周囲が認める程のフィーネ嬢命の人だ。
そんな人が誕生日を2週間前に控えているにも関わらず、用意していないなんてありえない。
私だってもう用意しているぐらいだ。

しかし、この歯切れの悪さを見るに私を揶揄って遊ぼうとしているのではなく、恐らく本当にまだ用意できていないのだろう。
表情も明らかに暗いし。

しかし、今までは1カ月以上前から準備していたはず。
この焦り具合から見て、彼女と不仲になったわけでもないだろうし。
一体どうしたのだろうか。

「実はな、フィーネが珍しいものが良いと言い出してだな……」

「え? 珍しいもの、ですか?」

「ああ……」

なんともざっくりとした要求。
しかし、彼女らしいといえば彼女らしい要求だった。

だが、なんで急にそんなことを言い出したのだろうか。

「おそらく俺が時折城下町に繰り出しているのを聞いて、そう言ってきたのだろう」

「え! まさか話したのですか⁈」

どういうつもりなんだこの男!
密会という言葉の意味を理解しているのかしら?
しかし、私の驚きなど彼にとってはどうでもいいものらしく。

「当たり前だろう。フィーネと僕の間に隠し事なんてない!」

いや、言いきられても。
開き直りともちがう、本当に本心から悪びれていない様子に眉を顰めることしかできない。

「安心しろ、君と会っていることは内緒にしているから」

いや、全然安心できないし。
もう、なんなのよこの人。
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