悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

74.彼の赤色

フィーネ嬢のプレゼント選びは、男の癖に迷いに迷っているベリエル殿下のせいでいくつもの店を回る羽目になった。
そして3店舗目は宝石店。

彼に付き合いきれず、辺りを見渡してみると店の右奥にどこかに繋がる入口を発見する。
近寄って中を見てみると、今いる店の華やかな雰囲気とは対照的に照明を落とし、若干暗めなその場所には雑多に吊るされたアクセサリーたちが目に入った。

惹かれるように足を踏み入れる。
どうやら庶民がターゲット層なのであろう。異なる様相の店舗が併設されているようで、ベリエル殿下が現在見ているショーケースに整然と並んだアクセサリーたちとは違い、値段もびっくりするぐらいお手頃だ。
おそらくこの値段が庶民が手を伸ばせる価格帯なのだろう。

種類も豊富で色とりどりのアクセサリーを見て回る。
買う気はさらさらないけど、見てる分には十分楽しい。
先ほどまでベリエル殿下の優柔不断さにもいい加減うんざりしていたところだし、ここで気分転換がてら楽しんでも文句は言われないだろう。

少しわくわくしながら店内を歩き回っていると、とあるネックレスが目についた。

あ、これ……。

手に取って見つめる。

赤い宝石の周りに金色の金具が縁どられたシンプルなネックレス。
しかし、そこにはめられたルビーのように美しく光る赤が印象的で不思議と目を惹く代物だった。
この値段ということは、おそらく魔法で作られた人工宝石なのだろう。
でも似ている。彼の優しい瞳に。

彼とのことを思い出すと辛い思い出と同時に、彼が優しかったころのことを思い出す。
正確に言えば、彼は私を裏切る直前までずっと私を信じてくれたし幼少期からずっと優しい人だった。
恐らく私を最後まで信じてくれた人は彼だったと思う。

それ程までに彼は私に忠誠を尽くしてくれた人だった。
優しい彼の面影が思い出される。
しかし、その記憶さえもぼんやりしていて思わず苦笑してしまった。

思えば、優しい記憶はいつもそうだ。ぼんやりとしていてうまく思い出せない。

私はこんなにも前世の事を思い出していなかったのか。
裏切られた記憶が鮮明すぎて、まったく気づかなかった。

だから、彼の優しさもこうしてこんな城下町の小さなアクセサリーショップで面影を見つけるまで、忘れてしまっていたのだろう。
もしかして、そんなんだから貴方に裏切られてしまったのか……。

貴方の優しさに気づかなかったから。

「バートン……」

ぽつりと呟く声は自恐ろしいほど縋りつくような悲しみで満ちていて我ながら哀れに思えた。
それでももしかしたら、彼ほどに哀れではないのかもしれない。


「お買い上げありがとうございました!」

定員の笑顔に見送られながら、商品を受け取る。
目の前の店員の笑顔とは反対に、私の顔は恐ろしいほど真っ青だったに違いない。

……買ってしまった、あのネックレス。
あまりの行動の意味不明さにふるふると体が自然と震えてしまう。
なんで嫌いな人間を連想させるものを私は買ってしまったんだろう。

いやいや、馬鹿? 馬鹿なの⁈
分からない、自分がわからなくて怖い!

自分のちぐはぐな行動に困惑しつつベリエル殿下の方へ戻ろうと踵を返した瞬間。

「君の買い物も終わったみたいだな」

そこにはいつの間にかベリエル殿下がすぐ近くに立っていた。
少し驚きつつも、脇に紙袋を持っていることに気づく。

「プレゼント見つかったのですか?」

「ああ、やっとフィーネに合うようないいものが見つかった」

途端に満面の笑みを返される。
うわっ、眩しっ!
しかし、この表情を見るにどうやら満足のいくプレゼントを買えたようだ。

一件落着。
良かった、良かった。

このまま見つからなかったら、どこまでも付き合わされることになるんじゃないかと心配していたし、安心したわ。

もうすでに夕方近くになっていたこともあり、そのままお開きとなった。
2人とも軽く挨拶を済ませると、そそくさと馬車を拾い帰路に着いた。


     ***


適当に馬車を拾い、一息つくと今日の彼女の言動を思い出す。
悪逆皇帝リヴェリオを前世に持つ令嬢、エスティ・ベルフェリト。

それを初めて知ったときは、大切な弟に危機が迫っているのではないかと焦ったものだ。
しかし、3年間彼女と交流するうちに気づいたことがある。

それは彼女が、正しくはリヴェリオが、恐らく世間が思っているような悪人ではないということだ。

現に、今日聞いた話の中でも彼女の気配りや優しさを垣間みえて困惑しているほどに、実際の彼女と世間の印象は大きくズレている。
昔、ヴァリタスを心配して告げた助言やくっつけようとしている令嬢――確かメドビン男爵令嬢だったか――を気に掛けるような言葉。

それに先ほど最後に立ち寄ったアクセサリーショップで見た彼女を思い出す。

『バートン……』

そう呟いた彼女の顔は憂いを帯びていて、どこか哀れに見えた。
フィーネがしょっちゅう彼女のことを心配しているのは、おそらくあの表情が原因なのだろう。

しかし、自分を殺した相手をあんな、縋るように呼ぶだろうか。
まるで、大切な人を呼ぶみたいな声で。

今日の彼女の言動だけを取ってみても、どうも違和感しかない。
彼女の行動の中には少なからず優しさが含まれている。
それと時々、なにか全てを諦めたように寂しそうな顔をするときがある。

悪逆皇帝と評され恐れられた人間が取る行動とは思えない。

一体本当の彼女は、そして本当のリヴェリオがどんな人物なのだろうか。
もしかして、僕らが思っている人間ではないのだろうか。
それとも、そうやって油断させるのが彼女の作戦なのだろうか?
もしそうなら、目的は一体?

わからない。
彼女のことがわからなくて困惑する。
しかし、それと同時になぜだか楽しんでいる自分がいた。

今までここまで自分の予想が及ばない人間など出会ったことがなかった。
こんなに翻弄してくれる人間など、今まで誰一人として。

面白がるのはいけないことだと分かっている。
弟の将来が懸っているのだから。
しかし、それでも彼女への、そして悪逆皇帝リヴェリオへの興味が膨らんでいくのを抑えることはできなかった。
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