悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

76.不穏な心臓の音

「今度、市井見学会があるじゃない? その時メドビン様とヴァリタス様を二人きりにしてはどうかと思うのだけど」

「はぁ?」

朝一番にそう告げると、ナタリーが間の抜けた返事を返してきた。
そんなこと私以外の前でやったら、確実に変な令嬢だと思われちゃうぞ☆

市井見学会とは読んで字のごとく、城下町を見学するという貴族の学院としてはよくある行事の1つだ。
曰く、この国の独特な貴族の習慣的な行事であり、国民のことをより理解しておくための令嬢令息にとっての重要な行事なんだとか。

しかし、そんなことは学院や貴族の言う主張であり、私たち生徒にとってはただの娯楽行事に他ならない。
それを表すかのように、その日1日はクラス内で決めたグループ主体での行動という縛りはあれど、基本的に自由行動なのだ。

そして、それは『ヴァリタスとメドビン令嬢をくっつけちゃおう大作戦』を進める絶好の機会でもある。

だってあの2人、せっかく毎日昼食を共にしながら全然仲が進展しないんだもの。
毎回隣の席だっていうのに、まだまともに会話しているところさえ見たことないし。
このままじゃ仲良くなる前に私たちの婚約が正式に発表されてしまうわ。

それに……。

「あの2人の距離が縮まらないと、せっかく勉強した”悪役令嬢”の出番がいつまで経っても来ないのよ」

「それはわかっているけど……」

私の苦労を分かっているナタリーは渋々ながらも私の意見に同意してくれる。

あれから私はナタリーが進めてくれた恋愛小説を片っ端から読み込み、頭に叩きこんだ。
そうして、”悪役令嬢”がどういうもので、どういったいじめをしているのかを余すところなく網羅したのだ。

そう、作品名を言えばそこに登場する”悪役令嬢”がどうやって主人公を貶めようとしたのかを完璧に言えるようになるほどに。

私だってそこまでする必要なんてないのではないかと途中から気づいてはいたのよ。
でも、なぜだかそこで完璧主義な部分が出てきてしまってやめられなかったのよ。

と、そんな話は置いておいて。
ナタリーは私の意見を聞き少し考えた後、思い付いた疑問を私に投げかける。

「それにしたってどうやって二人きりにするの? ヴァリタス殿下は違うクラスなのよ?」

「大丈夫よ、そこらへんはちゃんと考えているわ」

そう告げると、自信満々にメモ帳を取り出しとあるページを開く。
そこに書かれた計画は以下の通り。


『まず、私がヴェリタス様を事前に誘い、当日私たちとこっそり合流する。
そこで私たち2人がどさくさに紛れてどこかへ消える。
2人っきりの完成!』


なんともシンプル、しかし確実に2人の仲を急接近させるにはもってこいの計画だ。
我ながら良い案を思い付いたものだ。

「う~ん。でもあの真面目なヴァリタス殿下がお願いしたくらいでホイホイ抜け出したりするかしら?」

計画を見たナタリーの疑問に自信たっぷりにうんうんと頷く。
その疑問も想定内、ちゃんと考えているわよ。

「それは大丈夫。私って滅多にヴァリタス様にお願いしたりしないし。きっと一生懸命お願いすればクラスを抜け出してくれると思うの」

どやっ! と効果音が聞こえてきそうな程胸を張って言い切る私にナタリーは冷たい視線を投げつけた。

「なんだか本格的にヴァリタス殿下が可哀そうに思えてきたわ……」

確かに好意を抱いている婚約者に懇願されて来たものの、途中ではぐれて言葉もろくに交わしたことのない令嬢と2人きりにされるなんてとんだ災難だろう。
我ながら酷い女だとは思う。
しかし、長い目でみればこれは彼のためでもあるのだ。

このまま婚約が正式に決まり、夫婦になってしまえば確実にいつか私の前世がリヴェリオだとバレるだろう。
その時に一番傷つくのは間違いなくヴァリタスだ。

そんな誰も幸せにならない結末を迎えないためにも婚約破棄をしてもらわなければならない。
そのためなら彼を多少傷つけることになっても致し方ない。

それに早く彼との縁を切らなければ。
私の心が変化してしまう前に。


と、いうわけで早速その日の放課後ヴァリタスを呼び出すと、二つ返事で承諾してくれた。
昼休みに告げたのにも関わらず、すぐさま返事をするあたり今日の放課後は予定が入っていなかったらしい。
クラスの友人とかと遊ぶ約束とかないのかしらね。クラスでも人気者なはずなのに。

しかし、彼と2人きりになる機会は最近ではめっきり減ったからなんだか落ち着かないわね。
そうだ。この際だから、ナタリーとベリエル殿下に散々言われた「私を好きな理由」も彼から聞き出すとするか。

そう思って待ち合わせ場所である裏庭で待っていると、ほどなくしてヴァリタスが手を振りながらやってきた。
相変わらず爽やかな笑顔でこちらに向かってくる。

こうしてみるとまるで子犬のようね、しっぽの幻覚が見えてきそうなほど人懐こい笑顔を向けているわ。

それにしても眩しい笑顔……。

ドキリッ――――。

ん? 何?
なんだか胸の当たりがざわざわする。
どうしよう、急に彼の笑顔がまともに見れなくなってきた。

ど、どうしちゃったの? 私。

「待ちましたか?」

近くまで来ると優しく声を掛ける彼の声に、またしても心臓が大きく跳ねる。
いよいよ自分の事がわからなくなり困惑している私の様子を、不思議そうにしながらも愛おしそうに目を細めて見つめている。
そんな視線を向けられていることなど露知らず、私はただ自分のおかしな変化に狼狽えるばかりだった。
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