悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

77.楽園のような喫茶店

「では行きましょうか」

「へ? ど、どちらに?」

今だ自分の気持ちに困惑している私を他所にそう提案する。
その言葉にまたもや戸惑ってしまう。

この口ぶりから察するにどこか別の場所へ移動しようということなのだろう。
しかしどこへ……?

「お気に入りの喫茶店が近くにあるのでそちらに行きましょう」

私の疑問に答えるようにそう言うとニッコリとほほ笑んだ。
お気に入りの喫茶店? そんなものいつの間に……。

「もしかして街に出るのですか?」

「はい、せっかくですから。この後予定がありましたか?」

「いえ、別にないですけど……」

どうしようミリアには少し遅くなるけど待っていてと伝えてしまったし。
このまま彼と街に出てしまえば彼女と馬車を置いてきてしまう。

どうしようかと迷っている私の様子に気づき、ヴァリタスはふっと微笑んだ。

「大丈夫ですよ。ミリア嬢には言ってありますから」

「え?」

なんて用意周到な男なんだろうか。

内心、今の誘いをミリアを待たせているからと断って早く済ませてしまおうと思い付いていた私の心を読んでいたかのようだ。
完全に逃げ道を塞がれてしまい、断る理由を失くしてしまった。

「では予定もないようですし、行きましょか」

そう言って腕を伸ばすと私の手を取る。
昔からの習慣なのだろうが、彼はこうしてことあるごとに私の手を握りたがる。
なんだかこういうところはまだまだ子供なのだと、少しだけ安心した。

そんな自分の変化に嫌な予感を感じながらも、その手を振りほどくことができなかった。

いつも彼が乗ってきている王族御用達の馬車に乗り込むと、扉を閉められる。
こんな風に彼と2人きりで馬車に乗るのは久しぶりだ。

そういえば昔はよくこうして2人で馬車に乗り込んで近くの林に出かけたりしたっけ……。
交流を深めるためのものだったのだろうが、あまり屋敷の外に出ることができなくなってきた時期でもあって、近場でのピクニックでもすごく楽しかった思い出がある。

それに前世の私は本当に体が弱かったから、あんな風にどこかに出かけることもままならなかった。
城下町に出る途中で体調が悪くなるほどの病弱さだったし。

だからだろうか。
屋敷ではないどこかに出かけるのは、少しわくわくしてしまう。

外の景色はいつもの帰り道となんら変わらないはずなのにどこか心が弾んでいることが、少しだけおかしく思えた。

そんな私様子に気づき、嬉しそうに満面の笑みを浮かべるヴァリタス。
そんな彼の様子に気づくこともなく、窓の外を見つめ微かに笑みを浮かべた。


「ここです」

そう言われ馬車を降りると、そこは植物と木々に囲まれた白い綺麗なコテージのような建物だった。
周りを囲むように植物が生い茂っているため、まるで森の中にちょこんと建っているように見える。
三角屋根も可愛らしい。

蔦かなにかの植物で作られたアーチをくぐると、その先に木で造られたドアを見つける。
ドアには上の方に小さな窓が付いており、装飾が施された漆黒の取っ手と相まってこれまたおしゃれだ。
その横の壁には大きな看板が立てかけており、ゴシック体で「ル・フィール」と書かれている。

「素敵……」

ため息を吐くように呟くとヴァリタスは嬉しそうに微笑む。

「よかった。気に入っていただけると思ったんです」

ヴァリタスが先導してドアを開けると、カランカランと小気味よいベルの音が響く。
エスコートされるまま、開けたドアをくぐり店内に入るとこちらも外観と同様、全面真っ白な世界が続いていた。

外の光をいっぱいに取り入れるため、あちらこちらに大きな窓が開いている。
その窓から見える景色からも生い茂る植物が見えていて、まるで本当に森の中に迷い込んだように錯覚してしまいそうだ。

「こちらはテラス席がおすすめなんです」

あまりの雰囲気の素敵さにきょろきょろと辺りを興味深そうに見渡す私とは裏腹に、もう何度も来ているヴァリタスは慣れているのか店内を見渡すこともなくそう告げる。
彼に促されるまま店内を横切り吹き抜けの窓の方へ移動する。

「うわぁ……」

今度はもう言葉にできなかった。
外へ出ると、床にはレンガがはめ込まれておりそれがテーブル席まで続いている。
そこから先には青々と茂る芝生になっている。
そしてテーブル席から5メートルほど離れたところに中央に鎮座するように置かれた立派な噴水が、空から降る光に照らされ水と共にキラキラと輝いている。
その周りを囲むように色とりどりのバラが美しく咲き乱れていおり、まるで森の奥深くに眠る楽園に迷い込んだみたいだった。

「エスティ! こっちです」

そんな美しい中庭に見とれているたが、ヴァリタスの呼び声で我に返る。
急いで彼の元へ駆け寄ると案内された席に着いた。

いけない、いけない。
公爵令嬢たるもの、殿方を煩わせるような真似をするなんて。

とはいえ、ヴァリタスは先ほどのようなことで気分を害するような人間ではない。
と思いながらも、念のためヴァリタスの方をちらりと見やると……。

なぜだか物凄い笑顔でこちらを見つめる我が婚約者の姿が目に入った。
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