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第3章
86.その温もりに触れてはいけない
その日の放課後、メドビン嬢を呼び出すと現れた彼女に早速私は低姿勢で懇願した。
「お願い! ヴァリタス様を市井見学会の自由行動の時に一緒に周ってほしいって誘ってくれないかしら」
いきなり頭を下げ、両手を合わせながら頼み込む私の姿に、メドビン嬢は何事かと驚いた。
そして私が何をしているのか理解すると、おろおろとどう対処すれば良いかわからない様子で酷く困惑した。
物凄く焦っているのが下を向いている私にも伝わってくる。
「頭をお上げくださいベルフェリト様。そんな、私なんかに頭を下げるなんてっ」
声からして相当困っているのだろう。
可哀そうだが、彼女の言う事を聞くわけにはいかない。
彼女が承諾してくれるまでは、この姿勢を崩すわけにはいかないのだ。
「お願いよ、メドビン嬢! あなたにしか頼めないの!」
「わ、私にしか、ですか……?」
あれ? なんだか声の調子が変わったような。
お、これはもしや効いてる?
なんだかわからないけれど、これはもう少し粘ればいけるかも……!
「そうなの! これはナタリー様でもミリアでもなく、メドビン嬢にしか頼めないことなの」
「ナ、ナタリー様にも頼めないことを、私に……」
なんだか先ほどの困ったような声色とは打って変わって、少し嬉しそうな声になったような気がする。
恐る恐る顔を上げると、少し困ったような表情をしているものの、頬を赤らめた彼女がそこにいた。
これは……、どういう表情なんだろう?
もしかして、ちょっと喜んでたりする?
な、なんで?
「あ、で、でもどうして私にそんなことを?」
「最近私とヴァリタス様の仲が、ちょっと、その……。変わったことには気づいていたでしょう?」
「え、ええ。はい、確かに最近言葉数が少ないですよね」
本当は言葉数が少ないなんてものじゃなく、まったく会話なんてないのだが、流石は彼女だ。
気を使って言葉を選んでいる。
確かここ数年で男爵位を したと聞いたから、他の令嬢よりも教育は遅かったはずなのに。
そんな所作からも彼女の頭の良さと容量の良さが伺えた。
「それでね、仲直りをしたいのだけど、自分から誘うのには勇気がなくて……。メドビン嬢、最近ヴァリタス様と仲がいいじゃない? だからあなたから誘ってくれればなぁ~なんて」
「え⁈ 仲が良いなんてそんなっ! でも私が誘っても殿下が来て下さるかどうか……」
ああ、あなたもそう思うのね。
やっぱり私って人間関係について理解が足りないみたい。
「だ、大丈夫! 私が仲直りしたいって言えば、彼もきっと承諾してくれると思うから!」
「で、ですが……」
そんな自信があるのなら自分で誘えと言いたいだろうが、メドビン嬢はそんな素振りも見せずどうしようか迷っている様子だった。
いや~、やっぱりこの子良い子過ぎるよっ。
できれば本当にヴァリタスと結婚してくれれば良いのに……。
そうすれば彼も幸せになるだろうし、彼女だって幸せに……なるとは限らないかも。
だってこの国の次期国王陛下の弟の妻になるということだし、最近まで平民だった彼女には大変なことが多くて大変だろう……。
って、そんな現実になるかもわからない心配は置いといて。
「分かりました。ベルフェリト様がそこまでおっしゃるのでしたら、私、協力いたします!」
私がおかしな妄想を繰り広げている間に彼女は決意を固めてくれたらしい。
しっかりと私の瞳を見つめそう断言してくれた。
「ほ、本当! ありがとう! メドビン嬢!」
「っきゃ! ベルフェリト様、危ないです」
思わず飛びつく私に、少しバランスを崩したメドビン嬢がそう注意する。
しかしその声はなんだか嬉しそうだ。
本当に可愛らしい方だなぁ。
いやぁ、こんな可愛い令嬢に合法的に抱き着けるなんて役得役得。
なんて変態親父みたいなことを思っていたら、なぜだか彼女の手が私の背中に回されて……。
こ、これはどういう反応なの?
てっきり優しい彼女だから、このまま身を任せて私の気の済むまでこの姿勢のままになってくれるのだと思っていたけど。
まさか抱き返してくるなんて。
でもなんだろう、すごく落ち着く。
人の温もりに触れるのが久しぶりだから?
そういえば、この間もメドビン嬢に抱き着いたことがあったけど、あのときも同じような感覚に襲われたっけ。
でもこうやって人に抱きしめてもらうのなんていつぶりだろう。
最後にこの温もりに触れたのは。
そうだ、あの日、8歳の時、教会に連れてかれて前世が判明した日の夜。
前世が怖くて夜泣いていたら、お母さまがずっと抱きしめながら一緒に寝てくれたっけ。
そうか。あの時と同じだ。
彼女の温もりはお母さまのものに似てるんだ。
だからこんなに温かくてホッとして、切なくなるんだ。
思わずぎゅっと彼女へ回した腕に力が入り、顔を肩へ埋めた。
その瞬間、彼女の体が小さくビクリと跳ねる。
「ベルフェリト様?」
彼女の困惑した声が聞こえ、ハッとした。
いけない。
この温もりに浸り過ぎたら、私の願いが変わってしまう。
誰かと一緒にいたいなんて、思ってしまう。
そんなこと、絶対に駄目!
バッと彼女の体を無理やり引きはがすと、数歩後ろに後ずさった。
「お願い! ヴァリタス様を市井見学会の自由行動の時に一緒に周ってほしいって誘ってくれないかしら」
いきなり頭を下げ、両手を合わせながら頼み込む私の姿に、メドビン嬢は何事かと驚いた。
そして私が何をしているのか理解すると、おろおろとどう対処すれば良いかわからない様子で酷く困惑した。
物凄く焦っているのが下を向いている私にも伝わってくる。
「頭をお上げくださいベルフェリト様。そんな、私なんかに頭を下げるなんてっ」
声からして相当困っているのだろう。
可哀そうだが、彼女の言う事を聞くわけにはいかない。
彼女が承諾してくれるまでは、この姿勢を崩すわけにはいかないのだ。
「お願いよ、メドビン嬢! あなたにしか頼めないの!」
「わ、私にしか、ですか……?」
あれ? なんだか声の調子が変わったような。
お、これはもしや効いてる?
なんだかわからないけれど、これはもう少し粘ればいけるかも……!
「そうなの! これはナタリー様でもミリアでもなく、メドビン嬢にしか頼めないことなの」
「ナ、ナタリー様にも頼めないことを、私に……」
なんだか先ほどの困ったような声色とは打って変わって、少し嬉しそうな声になったような気がする。
恐る恐る顔を上げると、少し困ったような表情をしているものの、頬を赤らめた彼女がそこにいた。
これは……、どういう表情なんだろう?
もしかして、ちょっと喜んでたりする?
な、なんで?
「あ、で、でもどうして私にそんなことを?」
「最近私とヴァリタス様の仲が、ちょっと、その……。変わったことには気づいていたでしょう?」
「え、ええ。はい、確かに最近言葉数が少ないですよね」
本当は言葉数が少ないなんてものじゃなく、まったく会話なんてないのだが、流石は彼女だ。
気を使って言葉を選んでいる。
確かここ数年で男爵位を したと聞いたから、他の令嬢よりも教育は遅かったはずなのに。
そんな所作からも彼女の頭の良さと容量の良さが伺えた。
「それでね、仲直りをしたいのだけど、自分から誘うのには勇気がなくて……。メドビン嬢、最近ヴァリタス様と仲がいいじゃない? だからあなたから誘ってくれればなぁ~なんて」
「え⁈ 仲が良いなんてそんなっ! でも私が誘っても殿下が来て下さるかどうか……」
ああ、あなたもそう思うのね。
やっぱり私って人間関係について理解が足りないみたい。
「だ、大丈夫! 私が仲直りしたいって言えば、彼もきっと承諾してくれると思うから!」
「で、ですが……」
そんな自信があるのなら自分で誘えと言いたいだろうが、メドビン嬢はそんな素振りも見せずどうしようか迷っている様子だった。
いや~、やっぱりこの子良い子過ぎるよっ。
できれば本当にヴァリタスと結婚してくれれば良いのに……。
そうすれば彼も幸せになるだろうし、彼女だって幸せに……なるとは限らないかも。
だってこの国の次期国王陛下の弟の妻になるということだし、最近まで平民だった彼女には大変なことが多くて大変だろう……。
って、そんな現実になるかもわからない心配は置いといて。
「分かりました。ベルフェリト様がそこまでおっしゃるのでしたら、私、協力いたします!」
私がおかしな妄想を繰り広げている間に彼女は決意を固めてくれたらしい。
しっかりと私の瞳を見つめそう断言してくれた。
「ほ、本当! ありがとう! メドビン嬢!」
「っきゃ! ベルフェリト様、危ないです」
思わず飛びつく私に、少しバランスを崩したメドビン嬢がそう注意する。
しかしその声はなんだか嬉しそうだ。
本当に可愛らしい方だなぁ。
いやぁ、こんな可愛い令嬢に合法的に抱き着けるなんて役得役得。
なんて変態親父みたいなことを思っていたら、なぜだか彼女の手が私の背中に回されて……。
こ、これはどういう反応なの?
てっきり優しい彼女だから、このまま身を任せて私の気の済むまでこの姿勢のままになってくれるのだと思っていたけど。
まさか抱き返してくるなんて。
でもなんだろう、すごく落ち着く。
人の温もりに触れるのが久しぶりだから?
そういえば、この間もメドビン嬢に抱き着いたことがあったけど、あのときも同じような感覚に襲われたっけ。
でもこうやって人に抱きしめてもらうのなんていつぶりだろう。
最後にこの温もりに触れたのは。
そうだ、あの日、8歳の時、教会に連れてかれて前世が判明した日の夜。
前世が怖くて夜泣いていたら、お母さまがずっと抱きしめながら一緒に寝てくれたっけ。
そうか。あの時と同じだ。
彼女の温もりはお母さまのものに似てるんだ。
だからこんなに温かくてホッとして、切なくなるんだ。
思わずぎゅっと彼女へ回した腕に力が入り、顔を肩へ埋めた。
その瞬間、彼女の体が小さくビクリと跳ねる。
「ベルフェリト様?」
彼女の困惑した声が聞こえ、ハッとした。
いけない。
この温もりに浸り過ぎたら、私の願いが変わってしまう。
誰かと一緒にいたいなんて、思ってしまう。
そんなこと、絶対に駄目!
バッと彼女の体を無理やり引きはがすと、数歩後ろに後ずさった。
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お楽しみいただけると幸いです。