悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

93.市井見学会④

そうして黙っていた私を見て、何かを察したのだろう。
急に笑顔になると、明るい声色で言葉を発した。

「すみませんっ! 困らせるつもりなんてないんです。ただまだ私にはお2人ほど仲良くなれてないのかなぁ、なんて思ってしまって。でも、それって当然ですよね。まだこうしてお話するようになったのなんて、最近なんですからっ。今の話忘れてください!」

そこにはもう、いつもの可愛らしい彼女が戻ってきているように見えた。
しかし、その笑顔はどこか引きつっていて。

「私、ナタリー様に次の行き先聞いてきますねっ!」

「あっ」

急ぎ足でナタリーに追いつく彼女を引き留めようとして、言葉が出なかった。
伸ばされた手は何も掴めずにただ、空を切るだけ。

でも、今更なんて言って彼女を引き留める気だったの?

そうよ、これで良かったのよ。
いずれ離れていく関係なんて、意味ないもの。
それにナタリーとだって離れていく関係なのだし、それだったらこのまま2人がもっと仲良くなれば良い。
そうしていつか私が居なくなっても、大した事ないって、平気だって2人は思うはずだ。

だったら私とは、一定の距離を保っていた方が安全だ。
何より私が傷つかなくて済む。
もう、これ以上傷つかずに済む。

胸の痛みを必死になかったことにしながら、2人の後をとぼとぼと緩い足取りでついていった。


「そうだ。この際だから、ヴァリタス殿下へのプレゼントでも買ったら? 仲直りしたいのでしょう?」

アクセサリーショップに着くと、突然ナタリーにそんなことを言われた。
そういえば、仲直りをするという口実で呼び出して貰っているのにそういう気づかいをしていなかった。

確かに仲直りをしようというならば、何かお詫びの品でも持っていくのが無難だろう。
本当はただメドビン嬢と引き合わせる口実だとしても。

しかし、男の人にアクセサリーって何を送れば良いのかしら?
ていうか、そもそもアクセサリーなんて貰って喜ぶ男性っているの?

一先ず店内を周ってみながら考えたものの、何を送れば良いのか見当もつかず困惑してしまう。
ちょっとアドバイスでも貰おうかとナタリーを探すが店内が広い上に棚がいくつもある関係でどこにいるのかわからない。
セイラは近くにいるけど、さっきと今で話掛け辛いし……。
しょうがない、ここは自力でなんとか選ぶとしよう。

そういえば、入学祝にもらったリボンがあったわね。
ああいう普段から身に着けられるものの方が喜ぶかもしれない。
私だって少しだけ、ほんの少しだけ嬉しかったし。

そう考え、男性でも身に着けやすそうなシンプルなデザインのものの棚へと移動する。
そこにはほどんどが宝石や装飾が施されていないような、いわばシルバーアクセと言われるものが置かれていた。

ああ、これなら男性がつけていても違和感ないかも。
でもちょっと彼には似合わないわね。
どちらかというと強面の人が着けるような雰囲気だわ。

やっぱり宝石か何かがついているものがいいかも。
そう思い他の棚へと移動する。

あっ、あったあった。
シンプルながらも上品な印象を持つ棚を見つけ物色する。

と、そこで1つのネックレスが目に入った。

銀色のチャームに小さな宝石が飾られただけのシンプルなネックレスだった。

しかしそこに飾られた宝石はまるで空を切り取ったような、透き通る水色。
きっと彼によく似合う、そんな気がした。

よし、これにしよう!
こういうのはフィーリングが大事なのよ!

それにここで決めなかったらいつまでも悩みそうだし。

以前も城下町で買い物を買った経験があったからか、すんなりと買い物を済ませることができた。
ナタリーもそこは前世の経験からかなにか戸惑うこともなく買い物を終わらせている。
セイラはまぁ、言わなくてもわかるわよね。

こういう時、ほかの令嬢の場合はお金を出すのを忘れたり店員につけにしろと要求することもあるそうだ。
しかし、市井見学会の目的は庶民の感覚を学ぶこと。
そういうことを自分でできるよう体験するのがこの行事の趣旨なのだ。

とはいえ、私たち3人にはあまり意味のないことかもしれないけど。

しかしこのネックレス、買ってみると案外安くてびっくりした。
これでお詫びの品になるのかちょっと不安だ。

店の入り口近くで待っていると、ほくほくと満足そうにしたナタリーと同じく嬉しそうに買い物を終えたセイラが

うわっ、ナタリーなんかいっぱい買ってる。
ここはアクセサリーショップのはずなのに、なぜか小さな紙袋を持って出てきたナタリーに若干引いた。

「いやだわ私ったら、ちょっと買いすぎちゃったみたい。だってここ、すごく安いんですもの」

そういうと、袋の中身を見せてくれる。
およそ10個以上はあろうかと思われるアクセサリーが入った包装紙が見え、さらに引いてしまった。

「セイラ様もなにか買ったの?」

「はいっ! 私は指輪を」

後ろについてきたセイラが嬉しそうに返事をしながら買ったものを見せてくれた。
それは、金色のフレームにルビーのような赤い宝石がはめられた指輪だった。
なんだか可愛らしい彼女とは少しずれたチョイスに少し違和感を覚える。

真ん中に光るきれいな赤い宝石……。
それはまるで燃えるような赤色で、どこか彼の瞳に似ているような気がした。
どうしよう、なんだか胸がざわざわする。
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