悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

106.その、黒い執着

まさか、下に見ていた彼女から自分を解放してくれるような言葉を貰えるなど思ってもみなかった。
自分の驕りに情けなさを感じると同時に、彼女がまるで光のように見えた。
この苦痛だらけの前世から僕を解放してくれる、たった一つの光に。

それから、彼女は僕の中で特別な人になった。
彼女がすることならなんだって許せた。
どんなに彼女が僕を嫌いでも、それでも彼女が好きだった。

とはいえ、頭の良いはずの彼女が行う嫌がらせは、僕にとっては幼稚にしか思えず微笑ましいものばかりだったけれど。
彼女と過ごしたこの6年間で、僕は彼女を簡単には手放せないほど好きになっていた。

しかし、あの日言われた言葉に僕もは雷を打たれたような衝撃を受けた。
僕がただ、彼女に執着しているだけだと。
あの日の言葉は時間が解決してくれるもので、彼女の言葉に意味など無かったのだと。

そう言われて、自分が今まで抱いてきた感情の正体が何なのか気づいた。

確かにそれは、好意という綺麗なものではなく、執着という言葉の方が似合っているかもしれない。
それは並みの人が向けるようなものではなく、もっと強く歪んだもの。

きっと前世の時に経験したことが原因なのだろう。
家族と恋人を失った記憶は、僕にとっては思い出すだけでも苦しいものだった。

だからこそ、彼女を手放す気などない。

たとえ彼女が僕を嫌いでも。

必ず手に入れる。

そんなんだから、呆れられたのだろうか。

セイラ・メドビン嬢と僕の前世の関係を知ったとき、彼女は驚きながらも何か希望を見出したような表情をしていた。

ああ、今度は彼女を利用して婚約破棄させるように仕向けるのだろう。
そう思った。

確かに、普通に考えて前世の婚約者にそっくりな人物が現れればそちらに気が行ってしまうのではと考える。
しかし、おそらく僕は前世の婚約者が目の前に現れたとしても迷わずエスティを選ぶだろう。
結局、ただ決められただけの前世の婚約者に対してだって、僕はそれほど強い思いを抱いてはいなかったのだ。

それは家族に対しても同じだったのだろう。

それならばどうして僕はそれらを失ったとき、ひどく苦しかったのか。
答えは簡単だ。
裏切った相手がどうしても許せなかったから。

そう。
彼にだけは裏切られたくなかった。
あの人は僕にとっての”たった1人”だったから。

きっと前世の僕が執着していたのは……。

そこで頭を横に振った。

馬鹿な。
たとえそれが真実だとしても、僕を裏切ったものなど、もう信じられるはずがない。
執着するはずがないのだ。

彼は僕のすべてを否定したのだ。
僕が縋ってきたものも、大切にしてきたものも、すべて。

あの人に否定されてしまえば、僕はそこに存在すらできない。
それをあの人は知っていた。
知っていて罵ったのだ。
否定したのだ。

許せるはずがない。

そしてその憎悪は彼を殺すのに十分なものだった。
幸い彼の評判は最悪と言っても過言ではなかった。
僕は彼のしてきたことがほとんど冤罪だと分かった上で、そのことを隠したまま同志たちを集めた。

そして自分の手で復讐を果たしたのだ。

しかし、その後に残ったものは、ただの無だった。
僕には何も残されなかった。

当たり前だ。
僕が生きていたのはすべて彼の笑顔を守るためだけだった。
騎士が存在できるのは、仕えるべき君主がいるときだけだ。

無になったまま死んだ僕が生まれ変わるとき、おそらく僕はもう一度願ったのかもしれない。
今度は僕を決して裏切らない、”たった独り”が欲しいと。

そうして出逢ったのが彼女だった。
僕に光をくれた人。
そして家族に見捨てられ、人に気を許せない人。

彼女は僕にとって最高の条件を備えた人だった。
だってそんな人なら、僕から離れることなどないと思っていたから。
彼女なら僕を裏切らない。

そんなドス黒い執着を持っていることを、誰が知っていただろうか。
僕だって彼女に指摘されるまで知らなかった。

それを無意識に判断し、求めていたのだ。
僕の”たった独り”として。

恐ろしい執着は、彼女の思いを否定されても燃え尽きることはなかった。
反対に、その感情はさらに強くなっていくばかりだった。

だが、そんな感情とは裏腹に彼女への怒りも募らせていた。
好きな人に他の女性を勧められるようなことをされては、僕だって傷つく。
そしてそれは次第に苛立ちへと変わっていった。

ナタリー嬢もミリア嬢も、本当は彼女に近づいてほしくない。
だって、彼女たちと一緒にいるエスティは僕といるときとは違う笑顔を見せるから。
その距離を感じて、焦燥感を抱くのは無理のない話だと思う。

それに加えて、違う女性と仲良くしろだなんて。
そんな態度をとられて、どうして我慢できるだろうか。

おそらく彼女と言い合いをしてから会話を避けたのも、どこか意地があったからだ。
しかし結局1週間も持たず僕の心は荒れに荒れてしまった。

あの兄でさえ、僕に癇癪を向けられないよう避けたぐらいだ。

だから、彼女から仲直りしたいと伝言が来たときには両手を挙げて喜んでしまいそうなほど嬉しかった。

それがメドビン嬢から伝言されたものでなければ。
感想 7

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