悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

107.はやる欲望

しかし、エスティが彼女に伝言を頼んでくれたことに感謝している。
もちろん、メドビン嬢にも。

『私が二人きりになれるよう、誘導しますよ』

メドビン嬢はこっそりそう言ってくれたから。

その時の彼女はまるで悪戯でも考えついたように、どこか小悪的で嬉しそうだった。
その表情に懐かしさを覚えたのは事実だ。
しかし、その時思い出したのは前世の婚約者の顔ではなく、現在の婚約者の顔だった。

そうして、彼女が言ったように僕たちは2人きりになれた。

短い時間だったけれど、あの時間は僕にとても幸せな時間だった。

彼女と仲直りできた。
プレゼントまで貰えた。

それがどれほど嬉しいものか、きっと彼女にさえ理解できないだろう。

そこで僕はやっと気づいた。

おそらく、僕はきっと彼女以外好きになることはない、と。
全てを失った前世を持つ僕にとって、ただ一人に愛を注ぐのは博打のようなものだ。
だって、いつまた大切な人を失うかわからない。

しかし、それでも構わないと思った。
それがわかっていても、僕は彼女しか好きになれないのだろう。

だって彼女だけが、僕の光になれる人だから。
きっと彼女だけが、この汚い僕の執着をも受け入れられる人なのだと。

なぜだか、そう直感したのだ。

彼女がまた体調を崩したと聞き、授業が終わると食事も取らずに彼女の屋敷へと向かった。
なんだか酷く嫌な予感がしたのだ。
今日がテスト返却期間で本当に良かったと思った。

出迎えてくれたベルフェリト夫人は、彼女が休んでいることに気付いていないようだった。
相変わらず、彼女に対して冷たい人たちだと思ったものの、今はそんなことを気にする余裕はなかった。

最近の彼女はどこかおかしい。
おそらくそれは、ナタリー嬢もメドビン嬢も気づいていた。
だが、聞いているのかいないのか、いつもぼんやりしている状態の彼女に問いかけても気のない返事が返ってくるだけだった。

きっといつものように婚約破棄の考え事でもしているのだと、そう判断しそこまで気を留めていなかった。
おそらく、今回の風邪だって大したことないものであることは分かっている。

だが、なぜだか胸騒ぎがして仕方なかった。
彼女の中で、何か嫌なものが近づいているような。
そんな予感がしてならない。

案内してくれたミリア嬢に連れられ、エスティの部屋を訪ねる。
しかしいくらミリア嬢がノックしても、返事は返って来なかった。

できれば帰ってほしい。
そんなミリア嬢の視線を感じたが無視をしてどうにか顔だけでも見たいと懇願した。

一国の王子、しかも主人の婚約者にお願いされて、拒否できるような立場ではない。
ミリア嬢は心底嫌そうな顔を隠しもせずに表に出したまま、扉を開けた。

ベッドの上に彼女の姿はなかった。
一瞬視線が泳いだものの、すぐに彼女を見つけることができた。

「エスティ!」

彼女はベッドのすぐそばで床に倒れていた。
急いで駆け寄り、彼女を起き上がらせる。
熱にうなされているのか、苦しそうな表情をしていた。
抱きかかえた腕には寝間着越しにも熱が伝わってきた。

脂汗が酷く、眉を寄せ苦痛の表情を浮かべている。
唇は小刻みに揺れていた。

「もや、して……お願い、燃やして……。私を、もやして……」

途切れ途切れに発する彼女の言葉を理解することはできなかった。
徐々に顔が歪んでいくものの、彼女は尚、言葉を紡いでいた。

「お願い、おね、がい……。バー……ン」

彼女の声が聞き取れない。
しかし、何かを懇願していることだけはわかった。
どうにかその願いを聞こうと耳を口に近づけると、やっとはっきり聞き取れた。

「ユルシル……を、どうか……」

”ゆるして”

そう唇が動いた瞬間、彼女の体から完全に力が抜け、意識を手放したよだった。
苦しそうな寝息をたてながら、もう言葉を発することはなかった。

慌てたミリア嬢が部屋から出ていったのにも気づかず、僕は茫然と彼女を見つめた。

どうして。
どうして彼女がその名前を……。

告げられた名前には聞き覚えがあった。
いや、しかしそれが僕の知っているあの人とは限らない。

だが、もし彼女の嘘がそれに関係しているのだとしたら。
そう思うと不安でたまらなくなり、彼女の体をきつく抱きしめ、顔を彼女の体に埋めた。

どうか。
どうかそうではありませんように。

どうか僕の前世を知っている人では、ありませんように。
そう願うばかりだった。


結局それから、彼女の罹りつけの医者が来て診断が終わるまでそばで待たせてもらった。
しかし、医者が診断した結果はやはりただの風邪、だった。

それでも心配だったものの、日が暮れてきたこともあり渋々帰路についた。
彼女の父が帰ってきたら、また彼女がきつく当たられるのではないかと危惧してのことだった。

どうしてだか分からないが、ベルフェリト公は僕が彼女に近づくとすごく不機嫌になる。
だからこうして王宮以外で会うときは、できるだけベルフェリト公のいない時間に出向くことが多かった。
理由はわからない。
しかし、彼が帰ってきたら厄介だ。

僕が訪ねた原因がエスティの風邪だと聞いたら、きっとベルフェリト公はもっとエスティにきつく当たるかもしれない。
それはどうしても避けたかった。

帰りにベルフェリト夫人に僕が来たことは内緒にするように頼み込み、了承してもらうと馬車に乗り王宮へと戻った。

だが、馬車に乗っても王宮についても彼女を心配する気持ちは一向に引くことはなかった。

できれば彼女が意識を取り戻すまで傍にいたい。
手を握って、怖いものなどないのだと安心させてあげたかった。

だが、今の僕たちではまだそこまでの関係を築くことができない。
それがどうしてももどかしくて仕方なかった。

早く彼女と結婚したい。
そうすれば、いつも、いつでも彼女のそばに居られるのに。
自分がまだ子供なことが、悔しくて堪らなった。
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