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第3章
109.関わりと心配
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ではなぜ、僕にそれがくっついていたのだろうか。
まさか、まさか本当は彼女についていたものなんじゃ。
そう考えた瞬間、サッと顔が青ざめていくのを感じた。
もしかして、彼女が最近おかしかったのも、熱がでたのも、全部その所為なんじゃ……。
それならば、もしかしたら放っておいたらもっとひどいことになっていたのかもしれない。
いや、これからまた障りを飛ばされたらもっとひどい目に遭うんじゃ。
そう考えたところで、彼女のことが心配で堪らなくなった。
黒龍が気付かなければ、障りなどというものがついていることに誰も気づかなかっただろう。
僕ですら気づかなかったほどだ。
この黒龍は、ほとんど王宮の外から出ることはないし、僕が頼んでもおそらく了承しないだろう。
ならば、今ここで知っている僕が何とかしなければ。
僕だけが彼女を守れるのだから。
「あの、障りに掛かっているのを知るにはどうすれば良いのでしょうか?」
そう問いかけると、彼にキッときつく睨みるけられた。
彼は心底嫌そうに顔を歪めながら、下から鋭い上目遣いで僕に告げた。
「それを、お前が知る必要がどこにある?」
恐ろしいほどの気迫を、肌でヒシヒシと感じた。
先ほどまでとはちがう、明らかに怒った様子だった。
「でも、僕は彼女を……」
それでも絞り出すかのように理由を述べようとする僕に、これ以上聞きたくないような様子でさらに顔を歪ませる。
「お前はもうあれに関わるな! 絶対にだ!」
怒鳴る声と重なって、大きな獣が吠えたような声が聞こえた。
おそらく彼の本当の姿での声なのだろう。
変化を保てないほど、彼が興奮しているのがわかった。
それ以上怒らせると何をされるのか、恐怖を感じた僕はこれ以上食い下がることはできなかった。
そのままクルリと体を反転させ、僕に背を向けるとスタスタと龍宮の方へ帰ってしまった。
僕はその背中を目を細めながら見つめていた。
「ああ、忌々しい。早くあんな奴との婚約なんか辞めてしまえばいい。そうすれば、障りなんて飛ばされなかったはずなのに」
去り際に小さく呟いた彼のその言葉は、相手に届くことはなかった。
しかしそれは彼にとって、とても切実な願いだった。
***
目を開けると、すでに辺りは薄暗かった。
オレンジ色の光に照らされた天井を見て、ランプの光だけで部屋が照らされているとすぐにわかった。
ということは、もう夜なのだろう。
意識を手放したのが、おそらく昼前だった気がする。
ということはそれからずいぶん寝てしまっていたみたいだ。
そういえば私、意識を手放す前にベッドに起き上がった記憶があるのだけど……。
あれ? ってことは私、あらぬ体制で寝ていたのかしら。
いやだわ、ちょっと恥ずかしい。
元からほんのり熱かった顔が更に熱くなるのを感じた。
気を逸らそうと視線を泳がせると、すぐ横にミリアが座っているのに気づいた。
ほんのりと優しい橙に照らされた彼女は、すごくきれいで見とれてしまう。
と、思ったところで私が起きたことに気づいていない様子の彼女が気になった。
じっと見つめてみると彼女が目を瞑っていることがわかる。
僅かにすーすーと寝息が耳に入ってきた。
もしかして、ずっと付きっきりで看病していたのかしら……。
いつもは反応が薄く、邪険に扱うことが多い彼女ではあるけれど、実は情に厚いことは今まで関わってきた人間ならばわかることだ。
きっとすごく心配していたに違いない。
そう思うと、じんわりと胸のところが温かくなった。
「ミリアっ……、ミリア」
掠れる声は思ったより小さく、ミリアの耳に届いているのか定かではないほどだった。
しかし、その声に反応するように彼女は眼を顰め、小さく唸るとゆっくり目を開ける。
私が起きているのをすぐに認識できたのか、目を大きく見開き驚いた。
いつもこれぐらい覚醒するのが早いと良いのだけれどね。
毎朝私を起こしに来るあなたの眠たそうな顔を見ると、こっちまで眠くなるのよ。
「お嬢様! お加減はどうですか? どこか苦しいところは?」
私を読んだ声があまりにも大きく、本人もそれに驚きつつ、私を気遣って小さな声で状態を確認した。
「大丈夫よ、朝よりずいぶんましになったわ」
「それは何よりです。昼間にヴァリタス殿下と一緒に様子を見に行ったら床に倒れていたんですから。それを見つけたときはどうなることかと思いましたよ」
ん?
今、不穏な名前が出てきたような。
「ヴァリタス様が来たって言った?」
「ええ、大層心配した様子でお見舞いに来てくださいましたよ」
「嘘でしょ!」
「起き上がらないでください!」
思わず飛び起きそうになった私の体をミリアに優しく押さえつけられ、ベッドに戻される。
嫌だわ、こんな姿を見られたなんて。
ってそうじゃない!
最近あんまり会話が無かったから一度休んだぐらいじゃもう来ないのではと思っていたけど、甘かったみたいだ。
しかし風邪を引いたくらいで毎回お見舞いに来られては、普通の神経した令嬢じゃそれだけで悪化しそうなものだと気づいてほしいものだよ。
まぁ、もしかしたら私が普通ではないからそうしているのかもしれないけど。
「お医者様に来ていただいて大丈夫だと診断してもらいましたが、まだ完全に回復したわけではないのですから。安静にしていて下さい」
どうやら、私が倒れた後医者を呼んだらしい。
それには少し罪悪感を覚え、渋々ベッドに体を深く沈ませた。
私ってどういう状態になっても迷惑を掛けているのだから世話ないわね。
ふう、とため息を吐くと、そこで忘れていたある事に気づく。
そうだったわ、私、魔法使い様にお手紙を書こうとして倒れたんだった。
はやる気持ちが抑えられず、熱があるのに起き上がろうとして、それで……。
思い出すと、急に焦燥感が胸いっぱいに広がる。
しかし、この状態では今は手紙を書くことはできないだろう。
それでも落ち着かない心を制御できず、知らぬ間に言葉に出してしまってた。
「ねぇミリア。私、至急お手紙を出さないといけない相手がいるの」
先ほどのこともあってか、控えめに言うと、彼女は眼を瞑ったまま否定する。
「お嬢様、それは熱が引いてからです。今は安静にしてください」
言葉ではやんわり諭しているが、顔がやたらと怖い。
反論は認めないという、彼女の意志を感じそれ以上我がままを口に出せなかった。
まさか、まさか本当は彼女についていたものなんじゃ。
そう考えた瞬間、サッと顔が青ざめていくのを感じた。
もしかして、彼女が最近おかしかったのも、熱がでたのも、全部その所為なんじゃ……。
それならば、もしかしたら放っておいたらもっとひどいことになっていたのかもしれない。
いや、これからまた障りを飛ばされたらもっとひどい目に遭うんじゃ。
そう考えたところで、彼女のことが心配で堪らなくなった。
黒龍が気付かなければ、障りなどというものがついていることに誰も気づかなかっただろう。
僕ですら気づかなかったほどだ。
この黒龍は、ほとんど王宮の外から出ることはないし、僕が頼んでもおそらく了承しないだろう。
ならば、今ここで知っている僕が何とかしなければ。
僕だけが彼女を守れるのだから。
「あの、障りに掛かっているのを知るにはどうすれば良いのでしょうか?」
そう問いかけると、彼にキッときつく睨みるけられた。
彼は心底嫌そうに顔を歪めながら、下から鋭い上目遣いで僕に告げた。
「それを、お前が知る必要がどこにある?」
恐ろしいほどの気迫を、肌でヒシヒシと感じた。
先ほどまでとはちがう、明らかに怒った様子だった。
「でも、僕は彼女を……」
それでも絞り出すかのように理由を述べようとする僕に、これ以上聞きたくないような様子でさらに顔を歪ませる。
「お前はもうあれに関わるな! 絶対にだ!」
怒鳴る声と重なって、大きな獣が吠えたような声が聞こえた。
おそらく彼の本当の姿での声なのだろう。
変化を保てないほど、彼が興奮しているのがわかった。
それ以上怒らせると何をされるのか、恐怖を感じた僕はこれ以上食い下がることはできなかった。
そのままクルリと体を反転させ、僕に背を向けるとスタスタと龍宮の方へ帰ってしまった。
僕はその背中を目を細めながら見つめていた。
「ああ、忌々しい。早くあんな奴との婚約なんか辞めてしまえばいい。そうすれば、障りなんて飛ばされなかったはずなのに」
去り際に小さく呟いた彼のその言葉は、相手に届くことはなかった。
しかしそれは彼にとって、とても切実な願いだった。
***
目を開けると、すでに辺りは薄暗かった。
オレンジ色の光に照らされた天井を見て、ランプの光だけで部屋が照らされているとすぐにわかった。
ということは、もう夜なのだろう。
意識を手放したのが、おそらく昼前だった気がする。
ということはそれからずいぶん寝てしまっていたみたいだ。
そういえば私、意識を手放す前にベッドに起き上がった記憶があるのだけど……。
あれ? ってことは私、あらぬ体制で寝ていたのかしら。
いやだわ、ちょっと恥ずかしい。
元からほんのり熱かった顔が更に熱くなるのを感じた。
気を逸らそうと視線を泳がせると、すぐ横にミリアが座っているのに気づいた。
ほんのりと優しい橙に照らされた彼女は、すごくきれいで見とれてしまう。
と、思ったところで私が起きたことに気づいていない様子の彼女が気になった。
じっと見つめてみると彼女が目を瞑っていることがわかる。
僅かにすーすーと寝息が耳に入ってきた。
もしかして、ずっと付きっきりで看病していたのかしら……。
いつもは反応が薄く、邪険に扱うことが多い彼女ではあるけれど、実は情に厚いことは今まで関わってきた人間ならばわかることだ。
きっとすごく心配していたに違いない。
そう思うと、じんわりと胸のところが温かくなった。
「ミリアっ……、ミリア」
掠れる声は思ったより小さく、ミリアの耳に届いているのか定かではないほどだった。
しかし、その声に反応するように彼女は眼を顰め、小さく唸るとゆっくり目を開ける。
私が起きているのをすぐに認識できたのか、目を大きく見開き驚いた。
いつもこれぐらい覚醒するのが早いと良いのだけれどね。
毎朝私を起こしに来るあなたの眠たそうな顔を見ると、こっちまで眠くなるのよ。
「お嬢様! お加減はどうですか? どこか苦しいところは?」
私を読んだ声があまりにも大きく、本人もそれに驚きつつ、私を気遣って小さな声で状態を確認した。
「大丈夫よ、朝よりずいぶんましになったわ」
「それは何よりです。昼間にヴァリタス殿下と一緒に様子を見に行ったら床に倒れていたんですから。それを見つけたときはどうなることかと思いましたよ」
ん?
今、不穏な名前が出てきたような。
「ヴァリタス様が来たって言った?」
「ええ、大層心配した様子でお見舞いに来てくださいましたよ」
「嘘でしょ!」
「起き上がらないでください!」
思わず飛び起きそうになった私の体をミリアに優しく押さえつけられ、ベッドに戻される。
嫌だわ、こんな姿を見られたなんて。
ってそうじゃない!
最近あんまり会話が無かったから一度休んだぐらいじゃもう来ないのではと思っていたけど、甘かったみたいだ。
しかし風邪を引いたくらいで毎回お見舞いに来られては、普通の神経した令嬢じゃそれだけで悪化しそうなものだと気づいてほしいものだよ。
まぁ、もしかしたら私が普通ではないからそうしているのかもしれないけど。
「お医者様に来ていただいて大丈夫だと診断してもらいましたが、まだ完全に回復したわけではないのですから。安静にしていて下さい」
どうやら、私が倒れた後医者を呼んだらしい。
それには少し罪悪感を覚え、渋々ベッドに体を深く沈ませた。
私ってどういう状態になっても迷惑を掛けているのだから世話ないわね。
ふう、とため息を吐くと、そこで忘れていたある事に気づく。
そうだったわ、私、魔法使い様にお手紙を書こうとして倒れたんだった。
はやる気持ちが抑えられず、熱があるのに起き上がろうとして、それで……。
思い出すと、急に焦燥感が胸いっぱいに広がる。
しかし、この状態では今は手紙を書くことはできないだろう。
それでも落ち着かない心を制御できず、知らぬ間に言葉に出してしまってた。
「ねぇミリア。私、至急お手紙を出さないといけない相手がいるの」
先ほどのこともあってか、控えめに言うと、彼女は眼を瞑ったまま否定する。
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