悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

文字の大きさ
110 / 339
第3章

109.関わりと心配

しおりを挟む
ではなぜ、僕にそれがくっついていたのだろうか。
まさか、まさか本当は彼女についていたものなんじゃ。

そう考えた瞬間、サッと顔が青ざめていくのを感じた。
もしかして、彼女が最近おかしかったのも、熱がでたのも、全部その所為なんじゃ……。

それならば、もしかしたら放っておいたらもっとひどいことになっていたのかもしれない。
いや、これからまた障りを飛ばされたらもっとひどい目に遭うんじゃ。

そう考えたところで、彼女のことが心配で堪らなくなった。
黒龍が気付かなければ、障りなどというものがついていることに誰も気づかなかっただろう。
僕ですら気づかなかったほどだ。

この黒龍は、ほとんど王宮の外から出ることはないし、僕が頼んでもおそらく了承しないだろう。

ならば、今ここで知っている僕が何とかしなければ。
僕だけが彼女を守れるのだから。

「あの、障りに掛かっているのを知るにはどうすれば良いのでしょうか?」

そう問いかけると、彼にキッときつく睨みるけられた。
彼は心底嫌そうに顔を歪めながら、下から鋭い上目遣いで僕に告げた。

「それを、お前が知る必要がどこにある?」

恐ろしいほどの気迫を、肌でヒシヒシと感じた。
先ほどまでとはちがう、明らかに怒った様子だった。

「でも、僕は彼女を……」

それでも絞り出すかのように理由を述べようとする僕に、これ以上聞きたくないような様子でさらに顔を歪ませる。

「お前はもうあれに関わるな! 絶対にだ!」

怒鳴る声と重なって、大きな獣が吠えたような声が聞こえた。
おそらく彼の本当の姿での声なのだろう。

変化を保てないほど、彼が興奮しているのがわかった。
それ以上怒らせると何をされるのか、恐怖を感じた僕はこれ以上食い下がることはできなかった。

そのままクルリと体を反転させ、僕に背を向けるとスタスタと龍宮の方へ帰ってしまった。
僕はその背中を目を細めながら見つめていた。
    
「ああ、忌々しい。早くあんな奴との婚約なんか辞めてしまえばいい。そうすれば、障りなんて飛ばされなかったはずなのに」

去り際に小さく呟いた彼のその言葉は、相手に届くことはなかった。
しかしそれは彼にとって、とても切実な願いだった。


     ***


目を開けると、すでに辺りは薄暗かった。
オレンジ色の光に照らされた天井を見て、ランプの光だけで部屋が照らされているとすぐにわかった。
ということは、もう夜なのだろう。

意識を手放したのが、おそらく昼前だった気がする。
ということはそれからずいぶん寝てしまっていたみたいだ。
そういえば私、意識を手放す前にベッドに起き上がった記憶があるのだけど……。

あれ? ってことは私、あらぬ体制で寝ていたのかしら。
いやだわ、ちょっと恥ずかしい。

元からほんのり熱かった顔が更に熱くなるのを感じた。

気を逸らそうと視線を泳がせると、すぐ横にミリアが座っているのに気づいた。
ほんのりと優しい橙に照らされた彼女は、すごくきれいで見とれてしまう。

と、思ったところで私が起きたことに気づいていない様子の彼女が気になった。
じっと見つめてみると彼女が目を瞑っていることがわかる。
僅かにすーすーと寝息が耳に入ってきた。

もしかして、ずっと付きっきりで看病していたのかしら……。
いつもは反応が薄く、邪険に扱うことが多い彼女ではあるけれど、実は情に厚いことは今まで関わってきた人間ならばわかることだ。

きっとすごく心配していたに違いない。
そう思うと、じんわりと胸のところが温かくなった。

「ミリアっ……、ミリア」

掠れる声は思ったより小さく、ミリアの耳に届いているのか定かではないほどだった。
しかし、その声に反応するように彼女は眼を顰め、小さく唸るとゆっくり目を開ける。

私が起きているのをすぐに認識できたのか、目を大きく見開き驚いた。
いつもこれぐらい覚醒するのが早いと良いのだけれどね。
毎朝私を起こしに来るあなたの眠たそうな顔を見ると、こっちまで眠くなるのよ。

「お嬢様! お加減はどうですか? どこか苦しいところは?」

私を読んだ声があまりにも大きく、本人もそれに驚きつつ、私を気遣って小さな声で状態を確認した。

「大丈夫よ、朝よりずいぶんましになったわ」

「それは何よりです。昼間にヴァリタス殿下と一緒に様子を見に行ったら床に倒れていたんですから。それを見つけたときはどうなることかと思いましたよ」

ん?
今、不穏な名前が出てきたような。

「ヴァリタス様が来たって言った?」

「ええ、大層心配した様子でお見舞いに来てくださいましたよ」

「嘘でしょ!」

「起き上がらないでください!」

思わず飛び起きそうになった私の体をミリアに優しく押さえつけられ、ベッドに戻される。
嫌だわ、こんな姿を見られたなんて。

ってそうじゃない!
最近あんまり会話が無かったから一度休んだぐらいじゃもう来ないのではと思っていたけど、甘かったみたいだ。
しかし風邪を引いたくらいで毎回お見舞いに来られては、普通の神経した令嬢じゃそれだけで悪化しそうなものだと気づいてほしいものだよ。

まぁ、もしかしたら私が普通ではないからそうしているのかもしれないけど。

「お医者様に来ていただいて大丈夫だと診断してもらいましたが、まだ完全に回復したわけではないのですから。安静にしていて下さい」

どうやら、私が倒れた後医者を呼んだらしい。
それには少し罪悪感を覚え、渋々ベッドに体を深く沈ませた。

私ってどういう状態になっても迷惑を掛けているのだから世話ないわね。
ふう、とため息を吐くと、そこで忘れていたある事に気づく。

そうだったわ、私、魔法使い様にお手紙を書こうとして倒れたんだった。
はやる気持ちが抑えられず、熱があるのに起き上がろうとして、それで……。

思い出すと、急に焦燥感が胸いっぱいに広がる。
しかし、この状態では今は手紙を書くことはできないだろう。

それでも落ち着かない心を制御できず、知らぬ間に言葉に出してしまってた。

「ねぇミリア。私、至急お手紙を出さないといけない相手がいるの」

先ほどのこともあってか、控えめに言うと、彼女は眼を瞑ったまま否定する。

「お嬢様、それは熱が引いてからです。今は安静にしてください」

言葉ではやんわり諭しているが、顔がやたらと怖い。
反論は認めないという、彼女の意志を感じそれ以上我がままを口に出せなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】 小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。 その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。 ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。 その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。 優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。 運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。 ※コミカライズ企画進行中 なろうさんにも同作品を投稿中です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...