悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

111.悪夢のような過去

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お嬢様のお使いを遂行するため、私は出身である教会へと向かっていた。

苦い思い出しかないあの場所に行くのは少し気が引けるが、お嬢様のためならば仕方ない。
それに私もあの人に用があった。

教会の近くまで着くと、少し歩きたかった私はそこで馬車を降りた。
歩いていると憂鬱な気分が少しはマシになるから。
少しは覚悟ができたところで、丁度よく教会の門前に着いた。

美しい外観が私にとっては残酷に映る。
まるで見た目を綺麗なものだけをかき集めて作り上げた拷問器具みたい。
酷く残酷な印象なのはここを出ていったあのときから少しも変わっていない。

それほどまでに、ここでの暮らしは私に影を落とすものだった。
孤児院にいたときの私は何もない人間だった。

髪も瞳も真っ黒な私がシスターたちから陰で「悪魔」だと呼ばれていたことは早くから気づいていた。
それを感じ取ったのは私だけではなく、次第に同じ孤児院にいた子供たちまでも私を「悪魔」だと呼び始めた。

はじめは言葉だけだったいじめは次第にエスカレートしていった。
暴力を伴ったいじめは、私がシスターたちに訴えても聞き入れられないことを良いことに好き勝手させられた。
シスターたちはそれでも私が気に入らないのか、気まぐれに食事を抜かれることもあった。

そんな折、私に突出した魔法の才能があることが判明した。
シスターたちはそれを大いに喜んでいた。
「やっとあの罪深き悪魔を手放せる」
そう言って喜んでいたシスターたちの姿を今でもはっきり思い出せる。

それから数日後、私はとある貴族に売られた。
魔力のある平民の子どもは珍しく、私は魔力が人並み以上だったためにすぐに引き取り手が見つかったそうだ。
綺麗に着飾り、豪華な馬車に乗って貴族に引き取られたときは、これで私も幸せになれる。
そう思った。

だが引き取られた先にはもっとひどい、地獄のような生活が待っていた。
引き取った貴族様は、自分勝手で残酷な人だった。
孤児院から魔力を持った子供を買い、その子供から魔力を吸い取り自分の糧にするような人だった。
それだけに飽き足らず、私たちを「みなしごのくせに魔力があるなんて生意気だ」だの「貴族の糧にならないのならば用無しの存在」だのと罵った。
暴力なんて日常茶飯事だった。

私たちは徐々に彼の独裁政治に蝕まれ、疲弊し崩壊していった。
ここでは私たちは家畜同然の存在だった。

そんなある日、事業が失敗し多大な借金を背負ったらしく、彼は無一文となった。
当然、彼の財産は売りに出された。
私たちが閉じ込められている屋敷も、もちろん売りに出されるために業者の人たちが様子を見に来た。

そこで私たちの惨状が見つかった。
この国では、人身売買や虐待は法律で禁止されている。
その罪が明るみになったために彼は捕まり、私たちは突然、自由の身となった。

やっとあの地獄から抜け出せた。
その時、私はやっと安心できた気がした。

しかしやっと安息を取り戻せると思ったのも束の間、私はまた同じ場所に戻されただけだった。
だが、あの貴族の屋敷にいるときよりも立派に人間として生きていられた。
ただ、その時にはもう私の心はどこにも無かった。

そこで出会ったのが、アレス・プアドールだった。
彼は私の才能を見抜き、様々な魔法を教えてくれた。

髪や瞳の色を変える魔法だって彼から教わったものだ。
いつの間にか私は彼を「先生」と呼び、慕った。
あの時間は、私にとって特別な時間だった。
普通に笑い、遊び、喜べる。

私の幸せはあの時間にすべて詰まっているように思えた。

しかし、とあるきっかけで彼が貴族の出身だと知った。
まだあの貴族の屋敷から抜け出せて日が浅かった私は、彼を受け入れることが出来なかった。
震えた手で、それでも彼の手を払い拒絶したときの先生の顔は、とても寂しそうだった。

それから先生は、二度と私と会おうとはしなかった。

そして時は経ち、3年後の15歳になったある日。
とある上位貴族の家令が私をメイドとして雇いたいと申し出てきた。

骨と皮しかないような私は、その年になっても仕事が見つからず、捨てる寸前だったシスターはその申し出をとても喜んでいた。

私は私でずっと続いていたいじめに辟易しており、その申し出を受け入れた。
もう、死ぬ覚悟だった。
だが、引き取り先のベルフェリト家の人たちは私を人として扱ってくれた。

引き取ってくれた家令は優しく私に使用人としての極意を教えてくれた。
メイド長は厳しかったけど、しっかりと仕事を教えてくれた。
周りの人たちも、失敗しても優しく諭してくれた。

今までいた場所と同じ世界になるなんて思えないほどに、ここは暖かい場所だった。

しかしそれでも、私の心が感情を取り戻すことはなかった。
優しくされても、心が動かない。
感謝はしているのに、どうしてもうまくそれが伝えられなかった。

皆が笑って話しているところにうまく入り込める気がしない。
というより、話そうとも思えない。
他の人に対して興味が全く持てなかった。

周りの環境が豊かになっても、私の心は閉ざされたままだった。

そんな時だった。お嬢様を見かけたのは。

最初は遠巻きに見ても幸せそうなお嬢様。
私のような不幸から生まれたような人間とは住む世界の違う人間。
それになにより、彼女は貴族様。

憎らしいという感情さえわかない。
ただ関わりたくない。
そう、思っていた。
あの時、彼女と出逢うまで。
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