114 / 339
第3章
113.師との再会
教会のドアを叩くと、出てきたのは見知らぬシスターだった。
私がここに世話になっていたのはもう6年以上も前の話だし、知らない人がいても当然だ。
少しホッとして、要件を述べる。
「ベルフェリト公爵令嬢、エスティ様よりアレス・プアドール様宛のお手紙を預かっております。直接お渡ししたいのでプアドール様との面会を希望します」
私の要件に不審そうな顔をしていたシスターだったが、ベルフェリト家の蝋印が押された手紙を見るや否や、急に対応が丁寧になった。
私のような使用人に対して過剰なほど豪華な応接室に通されると、ここで待つように言い残すと逃げるように応接室から出ていった。
さすがは公爵、ベルフェリト家。
公爵様の使用人であれば孤児出身の私であってもこの対応をされるとは。
お嬢様に感謝しなければ。
どこを見ても絢爛豪華な部屋に、眩しい装飾が私の目を攻撃してくる。
さすがのベルフェリト家の屋敷でもこんなに過度な応接室はない。
際限がないように壁にも机にも座っているソファにも。
過剰な程の装飾に、反吐がでそうになる。
目がダメになる前に来てほしい私の願いが通じたのか案外早く、ドアがノックされた。
すぐに扉が開くと、プアドール氏がひょっこり顔を出した。
「おや、誰かと思えばあなたでしたか。お久しぶりですね、髪はもう良いのですか?」
「お久しぶりです、先生。その節はどうも」
あんな酷い別れ方をしたとは思えないほどあっさりとした再会だった。
相変わらず、愛想よくにこにこしている彼の印象は昔とちっとも変わらない。
彼が目の前のソファに座ると、すぐに手紙を取り出す。
「アレス・プアドール様、本日はこちらを渡しに参りました」
そう言って、手紙を両手で渡すと彼も両手で受け取った。
差出人を確認すると、彼の目が僅かに細められた。
おそらくベルフェリト家の手紙であることは先ほど呼びに行ったシスターから聞いているだろうが、お嬢様からの手紙とは知らないはずだ。
今までお嬢様に仕えてきて、彼に手紙を出したことは今回がはじめてのこと。
公爵家の令嬢から手紙を貰うなんてことは滅多にないだろうから、きっとその内容がどのようなものなのか考えあぐねているのかと思っていたのだが。
彼から発せられた言葉は、そんな事とは全く関係のないことだった。
「身なりからして使用人をしているようですが……。もしかして貴方は今、ベルフェリト家の屋敷で働いているのですか?」
「ええ、そうですが」
何か問題でもあるのか、彼はその言葉を聞き少し怪訝そうな顔になった。
しかし、ふっと何かを悟ったように顔を緩めると寂しそうな笑顔になった。
「それはまた……。不思議な縁ですね。それとも、そういう力でも働いているのでしょうか」
力……?
何のことかさっぱりわからず首を傾けるが、その答えを彼が口に出すことはなかった。
その代わり、なぜだかベルフェリト家について質問された。
「あのお屋敷の、特に公爵閣下と夫人に何かされたりしていませんか?」
「はい?」
なにか……、と言われても。
3年ほど前に解雇されそうになったことはあったが、それ以降は特になにかされた覚えはない。
お嬢様と一緒にいると、私まで彼らに遠巻きにされるものだからほとんど関わりがないのだ。
そのことを正直にそう言うと、今度は少しほっとしたように笑った。
「そうですか。なら良いのです」
一体今の質問は何だったのか、不思議そうに彼を見つめると私の視線に気づいたのか、今度は理由をちゃんと教えてくれた。
「以前エスティ・ベルフェリト嬢がこちらにいらした際に、彼女に対する公爵閣下の態度が気になりましてね。あなたも何かされているのではないかと少し心配になったのです」
お嬢様に対する、旦那様の態度……。
屋敷では周知の事実ではあるが、あの方がそんな世間体が悪くなるような態度を外でお取りになるなんて想像できない。
この国の貴族様は、平民相手でも外聞を気にするような人物ばかりだからだ。
確かにここ数年、外でお嬢様と共に行動することがほとんどないため、お嬢様に対しどのように接しているのか分からなかったけれど。
まさか、外にいるときまでお嬢様にきつくあたっていたなんて。
やっぱり嫌いだ、あのご両親は。
お嬢様はあんなに皆様の事を大事に思っているのに。
私が彼らの事を思い出し、腹を立てている間に彼はお嬢様からの手紙をペーパーナイフで開けると中身を確認していた。
お嬢様が書いている間、私は髪を結っていたためどのような内容が書かれているのかは分からない。
しかし、真剣な眼差しで手紙を読んでいるところをみると、思ったより重要な内容のようだ。
そこまで長い内容ではないことは遠目から見てもわかっていたため、すぐに手紙は読み終えていたはずだ。
だが彼はその後しばらく、手紙を手に取ったまま口に手を当てじっくりと何かを考えていた。
その後、思い付いたようにソファから立ち上がるとスッと部屋を出ていこうとした。
ドアの前で立ち止まり、私の方に向き直ると優しい声で呼びかけた。
「返事を書いてきますから、ここで少しだけお待ちください」
私がここに世話になっていたのはもう6年以上も前の話だし、知らない人がいても当然だ。
少しホッとして、要件を述べる。
「ベルフェリト公爵令嬢、エスティ様よりアレス・プアドール様宛のお手紙を預かっております。直接お渡ししたいのでプアドール様との面会を希望します」
私の要件に不審そうな顔をしていたシスターだったが、ベルフェリト家の蝋印が押された手紙を見るや否や、急に対応が丁寧になった。
私のような使用人に対して過剰なほど豪華な応接室に通されると、ここで待つように言い残すと逃げるように応接室から出ていった。
さすがは公爵、ベルフェリト家。
公爵様の使用人であれば孤児出身の私であってもこの対応をされるとは。
お嬢様に感謝しなければ。
どこを見ても絢爛豪華な部屋に、眩しい装飾が私の目を攻撃してくる。
さすがのベルフェリト家の屋敷でもこんなに過度な応接室はない。
際限がないように壁にも机にも座っているソファにも。
過剰な程の装飾に、反吐がでそうになる。
目がダメになる前に来てほしい私の願いが通じたのか案外早く、ドアがノックされた。
すぐに扉が開くと、プアドール氏がひょっこり顔を出した。
「おや、誰かと思えばあなたでしたか。お久しぶりですね、髪はもう良いのですか?」
「お久しぶりです、先生。その節はどうも」
あんな酷い別れ方をしたとは思えないほどあっさりとした再会だった。
相変わらず、愛想よくにこにこしている彼の印象は昔とちっとも変わらない。
彼が目の前のソファに座ると、すぐに手紙を取り出す。
「アレス・プアドール様、本日はこちらを渡しに参りました」
そう言って、手紙を両手で渡すと彼も両手で受け取った。
差出人を確認すると、彼の目が僅かに細められた。
おそらくベルフェリト家の手紙であることは先ほど呼びに行ったシスターから聞いているだろうが、お嬢様からの手紙とは知らないはずだ。
今までお嬢様に仕えてきて、彼に手紙を出したことは今回がはじめてのこと。
公爵家の令嬢から手紙を貰うなんてことは滅多にないだろうから、きっとその内容がどのようなものなのか考えあぐねているのかと思っていたのだが。
彼から発せられた言葉は、そんな事とは全く関係のないことだった。
「身なりからして使用人をしているようですが……。もしかして貴方は今、ベルフェリト家の屋敷で働いているのですか?」
「ええ、そうですが」
何か問題でもあるのか、彼はその言葉を聞き少し怪訝そうな顔になった。
しかし、ふっと何かを悟ったように顔を緩めると寂しそうな笑顔になった。
「それはまた……。不思議な縁ですね。それとも、そういう力でも働いているのでしょうか」
力……?
何のことかさっぱりわからず首を傾けるが、その答えを彼が口に出すことはなかった。
その代わり、なぜだかベルフェリト家について質問された。
「あのお屋敷の、特に公爵閣下と夫人に何かされたりしていませんか?」
「はい?」
なにか……、と言われても。
3年ほど前に解雇されそうになったことはあったが、それ以降は特になにかされた覚えはない。
お嬢様と一緒にいると、私まで彼らに遠巻きにされるものだからほとんど関わりがないのだ。
そのことを正直にそう言うと、今度は少しほっとしたように笑った。
「そうですか。なら良いのです」
一体今の質問は何だったのか、不思議そうに彼を見つめると私の視線に気づいたのか、今度は理由をちゃんと教えてくれた。
「以前エスティ・ベルフェリト嬢がこちらにいらした際に、彼女に対する公爵閣下の態度が気になりましてね。あなたも何かされているのではないかと少し心配になったのです」
お嬢様に対する、旦那様の態度……。
屋敷では周知の事実ではあるが、あの方がそんな世間体が悪くなるような態度を外でお取りになるなんて想像できない。
この国の貴族様は、平民相手でも外聞を気にするような人物ばかりだからだ。
確かにここ数年、外でお嬢様と共に行動することがほとんどないため、お嬢様に対しどのように接しているのか分からなかったけれど。
まさか、外にいるときまでお嬢様にきつくあたっていたなんて。
やっぱり嫌いだ、あのご両親は。
お嬢様はあんなに皆様の事を大事に思っているのに。
私が彼らの事を思い出し、腹を立てている間に彼はお嬢様からの手紙をペーパーナイフで開けると中身を確認していた。
お嬢様が書いている間、私は髪を結っていたためどのような内容が書かれているのかは分からない。
しかし、真剣な眼差しで手紙を読んでいるところをみると、思ったより重要な内容のようだ。
そこまで長い内容ではないことは遠目から見てもわかっていたため、すぐに手紙は読み終えていたはずだ。
だが彼はその後しばらく、手紙を手に取ったまま口に手を当てじっくりと何かを考えていた。
その後、思い付いたようにソファから立ち上がるとスッと部屋を出ていこうとした。
ドアの前で立ち止まり、私の方に向き直ると優しい声で呼びかけた。
「返事を書いてきますから、ここで少しだけお待ちください」
あなたにおすすめの小説
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』
なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。
公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。
けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。
処刑まで残された時間は、三年。
もう誰も愛さない。
誰にも期待しない。
誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。
そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。
婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。
けれど、少しだけ優しくした。
少しだけ、相手の話を聞いた。
少しだけ、誤解を解く努力をした。
たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。
「……あなたは、こんな人だったのですか」
「もう少し、私を頼ってください」
「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」
「ずっと、怖かっただけなんでしょう」
悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。
これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
あなたがすき、だったから……。
友坂 悠
恋愛
あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。
もともと、3年だけの契約婚だった。
恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。
そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。
それなのに。
約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。
だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。
わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。
こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。
#############
なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、
シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。
初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。
お楽しみいただけると幸いです。