悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

114.私とお嬢様の願いは…

またしてもこの空間に一人残されたことにげんなりしながら、彼を待つことにした。
すると、5分も待たぬうちに扉がノックされる。
馬鹿に早いと思ったが、顔を出したのは先ほど案内してくれたシスターだった。

「お茶をお持ちしました。……あの、魔法使い様は?」

きょろきょろと辺りを見渡しながら、彼がいないことに少し戸惑っているようだった。

「手紙の返事を書きに行きましたよ」

「左様でございますか。こちら紅茶とお菓子でございます」

私が答えると、彼女は笑顔で対応してくれ、丁寧に紅茶と大皿に乗ったクッキーや焼き菓子などのお茶請けを置いてくれた。
彼のいた場所にも同じように紅茶を置くとこちらに礼をして、部屋から出ていった。

目の前に置かれた紅茶やお菓子をどうするべきかと少しだけ考えて、退屈しのぎにはなるだろうと口に運んだ。
こういう、紅茶を飲むという習慣は私にはないもだ。
少し戸惑いつつも口に広がる味に意識を寄せた。
しかし、いつ飲んでも何がおいしいのかさっぱりわからない。

お嬢様は、わからないながらも「おいしい、おいしい」と飲んでいるけれど、私には美味しいとも思えない。
口直しにクッキーを口に頬張るが、こちらも甘い、という感想だけが浮かび美味しいなどとは思わなかった。
味覚は感じるが、心が動かされることはない。

どんなものを口に含んでも、私はそんなことしか思わなかった。

結局その行為にも早々に飽きてしまい、窓の外を見つめどうにか時間を潰す。
これならば、お嬢様と一緒にいた方がずっと楽しい時間を過ごせるのに。

ぼうっと窓の外を見つめたまま、どれほど経っただろうか。
またしてもドアを叩く音が聞こえそちらに目を向けると、今度こそプアドール氏が戻ってきた合図だった。

「お待たせしました」

そう言って詫びる様子もなく向かいのソファに腰掛けると、一枚の封筒を手渡された。

受け取ると、中身が紙とは思えないほど重い。
一体なにが入っているのか気になったが、確認する方法はないため気になりつつもバッグの中へと仕舞った。

彼は一口紅茶を飲むと、真っ直ぐ私の瞳を見据えた。

「それで? 貴方は一体どうしてこちらに来たのですか? わざわざこちらに出向くということは何かとても重要な用事があったのでしょう?」

私の過去を知っている彼ならば、そう思ってもおかしくない。
確かに彼の言う通り、私は彼にとても重要なお願いがあって来たのだ。

「実は先生にお願いがあって来たのです」

「私にお願いですか?」

叶えてくれるかどうかは分からない。
けれどそのヒントぐらいは貰っておきたい。
そう願いを込めて彼に問いかけた。

「お嬢様の、エスティ様の記憶をどうにか封印できませんか?」

「封印……とは?」

「前世の記憶を無くしてしまいたいのです」

私の口にした願いに、彼は鋭い視線を飛ばした。
睨みつける、とまではいかないものの、まるで愚かな願いを口にした私を叱責しているような瞳だった。
しかし、それも長くは続かずスッと表情を和らげると、いつものように柔らかな声色で言葉を発した。

「ですが良いのですか? あなたの主人はその願いとは正反対の願いを望んでおいでのようですが」

手紙をひらひらと見せながら彼がそう言う。
そこでやっとお嬢様が彼に何をお願いしたのかが分かった。

お嬢様とは正反対の願い事をしてしまった。
いくらそれがお嬢様を想っての事だったとしても、それは私の心を十分に揺さぶるものだった。

彼女の手紙の内容に戸惑い、逡巡している私に彼はまたしても明るい調子で応える。

「それに、残念ながらお2人の願いは叶えたくても叶えられないものなのです」

その声と表情には少しの申し訳なさが含まれていた。
それが彼の人の好さを十分に表していた。

「前世の記憶は複雑です。前世の記憶はその人の魂に刻まれたもの。今の魔法の技術で魂に触れればその人にどのような影響を与えるかわかったものではありません。下手したら、人格やその人の存在すらも捻じ曲げてしまうかもしれない。そんな危険なことはできません。ですので、どうすることもできないのです」

私たちのような魔法の原理を知らない者からすれば、記憶をいじる魔法があるぐらいだからできるだろうと踏んでいた。
しかし、どうやら前世の記憶は普通の者とは次元が違うらしい。

私の願いが届かないことへの落胆よりも、お嬢様の願いが叶わないとわかったことの方に対し、私は安堵していた。
だって、彼女が前世のことや記録の所為で苦しんでいるのを私は嫌というほど見てきているから。
ただでさえ、最近では頭が痛いとか、前世の事で物思いに更けている姿を散見しているのだ。
これ以上進行するのは避けておきたい。

いずれ、全てを思い出すことになっても、それは今でなくても良いのではないかと思ってしまう。

なんだか複雑な気持ちになりながらも、「そうですか……」と小さく呟き俯いた。
しかし結局自分の願いが叶わなかったことに、じわじわと悔しさが滲みはじめた。

そんな私を知ってか知らずか、彼はまたしても紅茶を啜りゆっくりと菓子を口に頬張っていた。
そうして数分2人の間に沈黙が流れたころ。

彼が思い出したように言葉を溢しはじめた。
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