悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

117.律儀な人

彼はそれを聞いて満足したように頷くと、パッと顔を明るくさせていつもの彼に戻った。

『それと、この金属板を持っていれば私にいつでも繋がることができます。私の都合が悪いときもありますが、お呼びいただければ極力ご対応させていただきますので、いつでもご利用くださいね』

なるほど。
これ、使い捨てのものではないのね。

おそらくこれを渡し、使い方を伝授するためにこの方法で返事をしたというわけか。
やっと納得できたものの、次は異なる疑問が生まれてくる。

どうしてこの人は私にこんなに協力的なんだろう。
彼は私の前世を知ったとき、酷く狼狽していた。
3年前に会った時はもう怯えるなんてことはなかったけれど、それでも私に好意的に接する理由なんて彼にはないはずだ。

私は彼に何かをした覚えなんて1度もない。

もしかして、ベルフェリト家の令嬢だから?
しかし、ベルフェリト家に媚を売って彼に何か利益があるとは思えない。

やっぱり理由が見当たらない。

「あの、どうして私にそんなに優しくしてくれるんですか?」

『……そうですね。お詫び、とでも思っていて下さい』

「お詫び?」

思い切って聞いてみると、意味不明な言葉が返ってきた。
お詫び……とは?
何か彼にされたことあったっけ?

『はい。はじめて会った時、不快な思いをさせてしまったでしょう? だからそのお詫びです』

え?
そんな前のこと気にしてたの?
律儀な人だなぁ。
でもそれはなんだか申し訳ない。

「それなら別に、私気にしてませんからっ」

『お願いします。本当は私が貴方に何かしたいだけなので』

そうやんわり押し通されてはこれ以上拒むこともできない。
結局断ることもできず、流されるままに彼の好意を受け取ることにした。

『では、また御用がありましたらお呼びください』

そういうと、シュッと彼の姿が一瞬で消えた。

うわっ、どういうこと?
やっぱりどういう風になってるのか訳わからないわ。
仕掛けがどうなっているのか気になるじゃない。

でもきっと説明されても魔法が使えない私にはまったく理解できないのだろう。
ああ、こういう時魔法が使えないのって不便だわ。


    ***


「本当に良いんですか! 私なんかが王宮にお邪魔しても!」

「はい。皆さん大事な友人ですから」

きらきらと輝く瞳でヴァリタスに詰め寄るセイラに全く物怖じせずに彼は答えた。
そんな感激している彼女とは裏腹に、私の心は後悔でいっぱいだった。

昨日、プアドール様の助言からヴァリタスに王宮の図書館へ行きたいと持ち掛けた。
それは良かったのだが、あろうことか私は彼と2人きりになりたくないばっかりにセイラやナタリーがいる前でその話をしてしまったのである。

案の定興味をもったセイラに、ヴァリタスが彼女を誘った、というわけである。
もちろん、セイラだけでなくナタリーも誘っているため彼女のみを特別視しているわけではないのだろうが。
それにしても困った展開になった。

普通であれば彼女を誘ったヴァリタスを応援しているところである。
しかし今回はリヴェリオの調査のための図書館捜索。
もしもリヴェリオの事を調べていることを彼女たちに感ずかれでもしたら……。
変な詮索をされて、疑われでもしたら厄介なことになる。

ただでさえ、ヴァリタスの目を盗むのだって難しいところなのに。
それかセイラやナタリーへ意識を写してもらう、とか?
そんな器用なこと、私にできるだろうか。

ヴァリタスからの疑いを危惧して行動範囲が狭まってしまうのは、私としても避けたいところだったのに。
ああ、やっぱり横着した私が馬鹿だったわ。
これなら嫌でも彼を呼び出して2人きりで相談しとくんだった。

後悔しても後の祭り。
仕方なく、私はその結果を黙って見守っていた。


結局、次の日の休日にナタリーとセイラを含めた3人でお邪魔することになった。
私はいつものようにベリエル殿下に会うために、早めに王宮へと出向いた。

とはいえ、今日はいつもと違い事前に告げていない訪問だから会ってくれるかはわからないけれど。
王宮の使用人にベリエル殿下と会えるか聞いてみると、思った以上にあっさりと彼の待つ応接間に通された。

いつもと変わらずニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた彼の顔を見ると、会わなければよかったと心の底から思ってしまう。

「やぁ。元気そうじゃないか、未来の我が義妹よ。私を呼び出すなんて、君はいつからそんなに偉くなったんだ?」

「突然の訪問、失礼いたします。殿下」

顔を引きつらせながら謝ると、それで満足したのか楽しそうに笑ってみせた。
本当に性格悪すぎるわよ、この人。

「それで? 何か進展でもあったか?」

「はい、その話なのですが」

私はそこで市井見学会前後であったヴァリタスとセイラの事を話した。
ついでに私以外の女性には全く興味を示さなかったヴァリタスがここまで気に入る女性も滅多にいないだろうとセイラをプッシュしておいた。

だが彼はその話を聞いても、あまり嬉しそうではなかった。

「ふむ、状況は分かった。しかし、最近のヴィータを見ても君への好意が薄まっているとは思えないのだが?」

ヴィータとは現国王一家がヴァリタスを呼ぶときに使う愛称だ。
私の前世であるリヴェリオが両親やバートンにリーヴェと呼ばれていたのと同じようなもの。

まぁ確かに、今現在私への彼の好意が薄まっているとは思っていない。
しかし彼らの関係が確実に進展しているのは事実だ。

「しかし、本日王宮へ彼女も招待しているのですよ! これは喜ばしき事態ではないですか?」

どうにか焦る気持ちを押し込め、彼にこの成果を伝える。
だがやはり、彼は納得していないように見えた。

「確かにそれは良い事だと思う。しかしな、もう時間もあまり残されていないのも事実だ。何か決定的な一手を打っておかないと、本当に婚約が受理されてしまうぞ」

「うぐっ」

そう、これが1年も前の話ならばまだ時間を有効活用してじわじわと彼らの関係を築き上げることもできたかもしれない。
しかしそんな猶予は今ないのだ。
来年の4月には婚約が正式に受理されるということは、もう半年とちょっとしか残されていないのだ。

時間がない。
焦って失敗したくはないが、どうにかして婚約破棄という目的を達成させなければならない。
もしかしたら、最悪あの最終手段を使わなければならないかもしれない。

きっとそうしたら、私はもう普通の生活を送ることはできなくなるだろう。

良くてこの国を追放。
悪くて処刑。

そのどちらかの選択を強いられてしまう可能性だってあるのだ。
できればその状況に自分を追い込みたくなかった。
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