悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

118.異常なのか正常なのか

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やはり、ここはあの計画を早めるしかないかもしれない。
『ヴァリタスとセイラをくっつけちゃおう大作戦』

今の状況から言って次のステップは私が”悪役令嬢”となってセイラを虐めること。
だが、ナタリーからの情報では彼女はすでに誰かにいじめ行為を受けているらしい。

以前妹のシルビアのいじめ現場らしき場面を見たときから、その行為については少しだけ避けていた。
そしてナタリーまでもが今やその計画を実行しないでほしいというほどのもの。
確かに、少し見ただけでも嫌な気持ちになるような行為だ。

自分がそれをしてしまったら、どれほどの嫌悪感に見舞われるか想像もできない。

ならば、この夏季休暇の間に計画を練り直す必要があるのだろう。
しかし、どうやって?
ヴァリタスに虐めの事を告げ口する?
それをして彼女が彼への好意を強めたとしても、彼が彼女を好きになることはあるだろうか。

やはりなにか、なにかもっと有効な手を考えないと。
私よりもセイラを好きになる、有効な一手を……。

そこでふと気が付く。
あれ? 私、何を躊躇っているのかしら。

そうよ、私の願いははじめから一人で平穏無事に一生を過ごすこと。
そこに誰かがいてほしいなどとは望んでいない。
今まで過ごしてきた時間が心地よすぎて忘れてしまっていた。

いつかは彼女たちと、いいえ、誰からも離れていく存在。
そんな人間が彼女たちの好感度を気にしてどうするのよ。
そもそも離れていくのが嫌いな人間の方が、彼女たちにとっては幸せなことじゃない。

それで自分の事を嫌いになっても、だからなんだというの?

自分の願いを叶えるためならば、犠牲を払うのは当然の事。
リヴェリオだって自分の命を引き換えにして、この国の平穏という願いを叶えたのだから。

そうだ。そうだそれならば――。
それならば計画をあまり崩さずに、彼女へと好意を向けさせることができる。
それに、そうすれば私の事を誰もが嫌いになるかもしれない。

「おい。考えこむのは勝手だが、そろそろ行った方がいいんじゃないか?」

「へっ? あっ! もうこんな時間⁈」

彼の声で現実に引き戻される。

時計を見ると、約束の時間の10分前。
この時間だとギリギリになってしまう。
急いで応接室の扉へと向かった。

扉を少し開けたところで後ろから何かを思い出したように、彼の声が投げかけられた。

「そうだ、今度の夏季休暇の話だがな。俺たちは視察に引っ張りだこになりそうだ」

「視察、ですか」

それは例年の事だから別に良いのだが、引っ張りだことは一体。
その単語に引っかかりを覚え、思わず彼に振り返る。

「何かあったのですか? 隣国に怪しい動きでも?」

「いいや違う。魔物だよ、魔物が出たんだ。最西部のウエリアの森に」

「魔物⁈ どうして魔物なんかが、この国に……」

ウエリアの森とは国境に位置するこの国の最西部に位置する森だ。
しかし魔物が出たとは、一体どうして……。

この国では昔から、魔物が出たことが無かった。
理由は分からない。
けれどそれは他の国から見れば異常中の異常であることは確かだ。

なんせこの国では魔力が高い人間が多い。
軍で言えば大将クラスの魔法使いがこの国では少将ほどのクラスに位置していることだってある。
場合によっては大佐にだっているぐらい。

それほどまでに、他国と一線を画すほどの才能を持った人間が数多く存在している。
通常そんな国であるならば、人を襲う魔物もより強力な種族が存在していることが多い。
魔物は人間の魔力に引き寄せられてくるから。

そのため普通では、ここまで魔力の高い人間がわんさかいるような国では魔物もわんさかいるはずなのだ。
それなのに我が国では魔物の魔の字も見つからないほど、魔物と縁がない国だった。

おそらくそれはこの国の国教、エヒム教の加護のおかげだなのだろう。
教会がどうやって魔物からこの国を守っているのかは知らないが、聖女や教皇がその役割を担っている、ということだけは知っていた。
だがその異常性が今、壊れている。

他国からしたら普通であるけれど、この国ではそれは異常だ。
もしかして、教会になにかあったのだろうか。
だが、そんなことを考えても何か答えが出るはずもなく。

「……わかりました。では夏にお会いするのは本日が最後かもしれない、ということですね」

「まぁそうだな。私とは、だとは思うが」

「では、良い夏季休暇を過ごされるよう、願っていますわ」

「はっ、心にもない事を」

彼からの嘲笑を笑って返すと、今度こそ会釈をしてその部屋を後にした。

しかし、魔物。魔物かぁ。
前世でも縁の無かったものだ。
一度見てみたい気もするけど、おそらく私が出会ったが最後、この世からおさらばしなければならなくなるでしょうね。

しかし、王子を駆り出すということはそれほどまでに被害が大きいのだろうか。

王子が出向くのは大抵、騎士のどきを上げるため。
確かに我が国の王子2人は魔法使いになれるほどの魔法の使い手だが、実際に戦場に出るなんてことはないのだ。
それこそ、他国と戦争でもしない限り。
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