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第3章
119.不審な美青年
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っと、まずい。今はそんなことを考えている場合ではなかった。
流石に普通に歩いていては約束の時間に遅れてしまう。
思考を一旦停止し、時間を確認するともう猶予はほとんど残されていなかった。
仕方ない、ここはあの手段を使うしかなさそうだ。
周りを見て、誰もいないことを確認すると、スカートの裾を上げた。
はっ、はっ、はっ。
急ぎ足で王宮の廊下を駆けていく令嬢なんていたら、きっと国中の笑い者になるだろう。
しかもそれが第2王子の婚約者などと知られてはヴァリタスにまで迷惑を掛けてしまう。
誰にも会いませんように。
長い廊下を駆けながらそう願っていたら、その願いを裏切るように足音が近づいてくるのが僅かに聞こえた。
長い廊下の先に、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
げっ! 思わずそんな声が出そうになり、何とか堪えると裾から手を放し歩みを緩めた。
徐々に近づいていくと、その容姿の美しさに思わず見惚れてしまった。
深海を切り取ったような深い青色の髪に紺碧の瞳。
スラリと伸びた鼻筋に長いまつげが印象的な美青年だった。
この世の者とは思えないほど神秘的な雰囲気を纏っている。
着ている服から最初は騎士かとも思ったが、騎士の制服が白と黒を基調としたものに対し、彼の着ているものは白と青を基調としたもの。
形や色の入り方もどことなく騎士のそれとは違っているように見える。
では、彼は一体何者なのだろうか。
歩きながら相手に気づかれぬよう、ちらりらと彼を観察する。
しかし、美しいという感想以外、思い浮かぶものはなかった。
ん? というかこの人、本当に人間?
歩いている最中、どうしてだかそんな考えが頭を過った。
と、5m程近づいてきたときだった。
その彼が急に足を止めたのだ。
そして近づいてくる私に合わせるように、ズルズルと足を引きずるように後ずさりしていく。
それは何かに怯えているようにも見えた。
なんだかおかしな彼の行動が気になり、顔を見てみるとまるでゲテモノ料理でも出されたよな表情だった。
そしてそれ以上私に近づくのを避けるように、足早に元来た場所、つまり私が向かう方向へと猛ダッシュで駆けて行った。
突然の出来事に頭の中が真っ白になる。
え? 何今の。
なんかものすごく失礼なことされたような気がするんだけど。
私なにかした?
考えてもわからないけれど、都合がよかった。
このままでは本当に約束の時間に遅れてしまうところだった。
若干の不信感を抱きつつ、先ほどと同じようにまたしてもスカートの裾を持ち上げると、足早に目的地へと急いだ。
「あっ、エスティ様! ごきげんよう」
王宮の入口、約束していた場所に来るとすでに3人が揃って私を待っていた。
はじめに私を見つけたセイラは嬉しそうに手を振り挨拶してくれる。
彼らに急いで近づき、皆にお詫びした。
「ごめんなさい。早く着いたものだから散歩していたら時間を忘れてしまって」
あはは、と笑いながら謝罪する。
「とはいえ集合時間には間に合っていますし、ギリギリセーフってところではなくて?」
ナタリーが優しくフォローしてくれると、ヴァリタスも同意するように頷く。
相変わらず皆優しい。
全員が揃ったところで近くにいた騎士がヴァリタスに耳打ちすると彼はその言葉に頷いた。
「では図書館に案内しますね」
案内役らしき騎士を先頭に王宮内を進んでいく。
セイラはもちろん興奮して小さく歓声を上げながら、周りを楽しそうにきょろきょろ見渡している。
私も初めて通る廊下だったため思わず、チラチラと目線を泳がせていた。
そんな私たちとは違い、全く興味もなさそうに落ち着いた様子で歩みを進めるナタリー。
三者三葉の反応をしながらしばらく歩いていくと、突然大きな扉が現れた。
国王様の謁見室ほどではないにしろ、その圧倒的な大きさにさすがのナタリーも驚いている様子だ。
「こちらです」
扉を開けると、そこに見えたのは――。
「うわぁ、すごいです!」
思わず出たセイラの一言に同意する。
そこは圧巻の一言だった。
学院の図書館と同じぐらいの広さにみっちりと本や書類が並べられている。
しかし、王宮の図書館というだけあり、外の光をいっぱいに取り入れているためひどく明るいが、厳粛な雰囲気が漂っている。
白い壁に白い本棚。
美しく並べられた書物たち。
まさに図書館と呼ぶに相応しい場所だった。
「確か、エスティは歴史書をお探しでしたよね。それならこちらですよ」
そう言って彼が案内してくれようと歩みを進めた。
これはまずい。
探し物がリヴェリオの本だと皆に知られるのは厄介だ。
「だ、大丈夫ですわ。図書館は初めてですけど、王宮には慣れていますもの。それよりお2人を案内して差し上げたほうが良いのではないですか?」
慣れていない王宮を歩き回るのは抵抗があるだろうと提案をし、彼に案内を頼む。
しかし、そういえば図書館に用があるのは私だけだと思っていたけど、2人してついてきたということは何か用でもあるのだろうか。
なければ応接室で待っているのが普通のはずだし。
その疑問をそのまま彼女たちに問いてみる。
「そういえば、お2人はなぜ図書館へ?」
そういうとナタリーは待ってましたとでもいうように、瞳を輝かせ嬉しそうに答えた。
「ふふふ。実は私ね、最近呪術の本にはまっているの」
興奮気味に話すナタリーであったが、言っている単語が怖すぎる。
場を弁えて小さな声で話すあたりはさすがだと思うけど。
だが、今までの趣味の傾向から全く異なる興味の矛先に彼女の探求心の底のなさを感じ恐怖すら覚えた。
あれ、でも待てよ。
セイラもナタリーと似たような趣味を持っていたはず。
と、いうことは。
まさか彼女も同じ目的なんてことないでしょうね。
こんなかわいい子がそんな恐ろしいことへ興味があるわけない! と頭では否定したいが事実を知るのが怖くなってきた。
恐る恐るセイラの方へ顔を向けた。
流石に普通に歩いていては約束の時間に遅れてしまう。
思考を一旦停止し、時間を確認するともう猶予はほとんど残されていなかった。
仕方ない、ここはあの手段を使うしかなさそうだ。
周りを見て、誰もいないことを確認すると、スカートの裾を上げた。
はっ、はっ、はっ。
急ぎ足で王宮の廊下を駆けていく令嬢なんていたら、きっと国中の笑い者になるだろう。
しかもそれが第2王子の婚約者などと知られてはヴァリタスにまで迷惑を掛けてしまう。
誰にも会いませんように。
長い廊下を駆けながらそう願っていたら、その願いを裏切るように足音が近づいてくるのが僅かに聞こえた。
長い廊下の先に、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
げっ! 思わずそんな声が出そうになり、何とか堪えると裾から手を放し歩みを緩めた。
徐々に近づいていくと、その容姿の美しさに思わず見惚れてしまった。
深海を切り取ったような深い青色の髪に紺碧の瞳。
スラリと伸びた鼻筋に長いまつげが印象的な美青年だった。
この世の者とは思えないほど神秘的な雰囲気を纏っている。
着ている服から最初は騎士かとも思ったが、騎士の制服が白と黒を基調としたものに対し、彼の着ているものは白と青を基調としたもの。
形や色の入り方もどことなく騎士のそれとは違っているように見える。
では、彼は一体何者なのだろうか。
歩きながら相手に気づかれぬよう、ちらりらと彼を観察する。
しかし、美しいという感想以外、思い浮かぶものはなかった。
ん? というかこの人、本当に人間?
歩いている最中、どうしてだかそんな考えが頭を過った。
と、5m程近づいてきたときだった。
その彼が急に足を止めたのだ。
そして近づいてくる私に合わせるように、ズルズルと足を引きずるように後ずさりしていく。
それは何かに怯えているようにも見えた。
なんだかおかしな彼の行動が気になり、顔を見てみるとまるでゲテモノ料理でも出されたよな表情だった。
そしてそれ以上私に近づくのを避けるように、足早に元来た場所、つまり私が向かう方向へと猛ダッシュで駆けて行った。
突然の出来事に頭の中が真っ白になる。
え? 何今の。
なんかものすごく失礼なことされたような気がするんだけど。
私なにかした?
考えてもわからないけれど、都合がよかった。
このままでは本当に約束の時間に遅れてしまうところだった。
若干の不信感を抱きつつ、先ほどと同じようにまたしてもスカートの裾を持ち上げると、足早に目的地へと急いだ。
「あっ、エスティ様! ごきげんよう」
王宮の入口、約束していた場所に来るとすでに3人が揃って私を待っていた。
はじめに私を見つけたセイラは嬉しそうに手を振り挨拶してくれる。
彼らに急いで近づき、皆にお詫びした。
「ごめんなさい。早く着いたものだから散歩していたら時間を忘れてしまって」
あはは、と笑いながら謝罪する。
「とはいえ集合時間には間に合っていますし、ギリギリセーフってところではなくて?」
ナタリーが優しくフォローしてくれると、ヴァリタスも同意するように頷く。
相変わらず皆優しい。
全員が揃ったところで近くにいた騎士がヴァリタスに耳打ちすると彼はその言葉に頷いた。
「では図書館に案内しますね」
案内役らしき騎士を先頭に王宮内を進んでいく。
セイラはもちろん興奮して小さく歓声を上げながら、周りを楽しそうにきょろきょろ見渡している。
私も初めて通る廊下だったため思わず、チラチラと目線を泳がせていた。
そんな私たちとは違い、全く興味もなさそうに落ち着いた様子で歩みを進めるナタリー。
三者三葉の反応をしながらしばらく歩いていくと、突然大きな扉が現れた。
国王様の謁見室ほどではないにしろ、その圧倒的な大きさにさすがのナタリーも驚いている様子だ。
「こちらです」
扉を開けると、そこに見えたのは――。
「うわぁ、すごいです!」
思わず出たセイラの一言に同意する。
そこは圧巻の一言だった。
学院の図書館と同じぐらいの広さにみっちりと本や書類が並べられている。
しかし、王宮の図書館というだけあり、外の光をいっぱいに取り入れているためひどく明るいが、厳粛な雰囲気が漂っている。
白い壁に白い本棚。
美しく並べられた書物たち。
まさに図書館と呼ぶに相応しい場所だった。
「確か、エスティは歴史書をお探しでしたよね。それならこちらですよ」
そう言って彼が案内してくれようと歩みを進めた。
これはまずい。
探し物がリヴェリオの本だと皆に知られるのは厄介だ。
「だ、大丈夫ですわ。図書館は初めてですけど、王宮には慣れていますもの。それよりお2人を案内して差し上げたほうが良いのではないですか?」
慣れていない王宮を歩き回るのは抵抗があるだろうと提案をし、彼に案内を頼む。
しかし、そういえば図書館に用があるのは私だけだと思っていたけど、2人してついてきたということは何か用でもあるのだろうか。
なければ応接室で待っているのが普通のはずだし。
その疑問をそのまま彼女たちに問いてみる。
「そういえば、お2人はなぜ図書館へ?」
そういうとナタリーは待ってましたとでもいうように、瞳を輝かせ嬉しそうに答えた。
「ふふふ。実は私ね、最近呪術の本にはまっているの」
興奮気味に話すナタリーであったが、言っている単語が怖すぎる。
場を弁えて小さな声で話すあたりはさすがだと思うけど。
だが、今までの趣味の傾向から全く異なる興味の矛先に彼女の探求心の底のなさを感じ恐怖すら覚えた。
あれ、でも待てよ。
セイラもナタリーと似たような趣味を持っていたはず。
と、いうことは。
まさか彼女も同じ目的なんてことないでしょうね。
こんなかわいい子がそんな恐ろしいことへ興味があるわけない! と頭では否定したいが事実を知るのが怖くなってきた。
恐る恐るセイラの方へ顔を向けた。
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