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第3章
120.黒龍の思惑
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もじもじと、恥ずかしそうに言葉を濁す彼女に祈るような気持ちのまま言葉を待った。
「私は、その、魔法の研究について興味がありまして。王宮の図書館であれば、最新の研究についての本が置いてあると思ったので」
なぜ恥ずかしがるのか不思議なほど、真面目な返答が返ってきて安心した。
そうよね、セイラはそうでなくっちゃ。
それにしても魔法の研究に興味があるなんて、あんなに魔法が使えるのに勉強熱心というかなんというか。
まぁ、もしかしたら私も傍から見ればそう思われているのかもしれないけど。
しかし、2人とも私の目的のものとは全く違うジャンルに興味があるようでよかった。
これなら、本棚のエリアも近くはなさそうだし私の目的に気づかれずに済みそうだ。
「お2人とも魔法についての書籍をお探しなのですね。それでしたらこちらですよ」
そう言って、ヴァリタスは彼女たちを促すように手で行き先を示した。
歩き出したヴァリタスと付き添いの騎士に連れられるかたちで彼女たちはそちらの方へ歩き出した。
「では皆様、また後で」
そう言って皆を見送ると、さっそく私も歴史書がある方へと足を運んだ。
***
バタンッ。
玄関の開閉音が聞こえ、彼はふとそちらに顔を向けた。
そこにはいつもはへらへら笑っているはずの青い青年が青い顔をしながら、今しがた帰宅したところだった。
大きなため息を吐いているのを見るに何かあったようだ。
「はぁ~。……だだいまで~す」
「なんだ、鬱陶しいな。お前、自分の主のところに行ったんじゃなかったのか?」
契約主である国王に呼ばれ、いつも国王がいる職務室に行ったはずの彼が行って戻ってきた時間は10分も無かった。
思った以上に早すぎる帰宅に、普段自分から声を掛けない彼でも思わず訳を聞いてしまう。
「聞いてくださいよ、先輩! あの女、また王宮にいたんです! しかも今日はついうっかり遭遇しちゃって、もう用事どころではなかったんですよ!」
綺麗な見た目とは裏腹に、軽いノリで話す彼に対して黒龍は苦手意識を感じていた。
「あの女?」
彼の言ったある単語に引っかかりを覚える。
まさかまた来ているのか。彼女が。
「そうですあの女です! ほら、ヴァリタス坊ちゃんの許嫁の」
「……会ったのか、あれに」
案の定彼が会ったのは、彼女だったようだ。
確か名前はエスティ、だったか。
6年ほど前に会ったのが最後のため、彼女の容姿はあの時のままで止まっている。
それから頻繁に王宮へ出向いているようだが、黒龍が会ったのはそれきりだった。
今の彼女がどんな女性に成長しているのかは、想像もつかない。
「いやもう最悪ですよ~。魂にあんなにべったり呪詛塗りたくってる人間なんて初めて会いましたもん。近づくだけで呪われそう……。どうしたらあんなに憎悪向けられるんですかね? 大量殺戮でもしなきゃあんなに呪詛が付くような恨みをかったりしないですよ。しかもあんなに大量に」
「思い出しただけでも寒気がっ」とか言いながら青龍は自分で自分の肩を摩った。
青龍の嫌味に少しだけ気分を害しながらも、事実であるため否定はしなかった。
しかし、最近はあまり顔を見せていなかったのにまた来ているとは……。
また何か企んではいやしないかと勘繰ってしまう。
ただそれとは裏腹に、強い郷愁の念を抱かずにはいられなかった。
会いたい。
あの人にもう一度会いたい。
素直にそう思った。
「そうか、来てるのか……」
「あの、先輩? 俺の話聞いてます?」
しかし、それと同時に嫌な予感が頭を過った。
もう少し、もう少し待っていようかとも思っていたが、そろそろ限界かもしれない。
この青臭い青龍の口ぶりからして、どうやら彼女については前から感づいてしまっていたようだし。
早く、早く手を打たねば。
このままでは、また200年前と同じことになるかもしれない。
ただでさえ、因縁のある2人がなんの因果か婚約者になっているのだ。
いつ何かのはずみで2人の正体が露見するかわからない。
もしそうなってしまえば、おそらく彼女は……。
そう考えると、ざわざわと胸が騒いで仕方なかった。
あの2人が近くにい続けてしまえば、そのリスクは高くなる一方だ。
そんなのは危険すぎる。
また、失うことになるのはもう嫌だ。
あんな思いをするのは、もう……。
今度こそ、何があっても俺が守らないと。
「あのぉ~」
「出てくる」
「はえっ⁈ ど、どこに? もしかしてあの女に会いに行くつもりですか?! 止めたほうが良いですよ、本当に呪詛なんか移されたらたまったもんじゃないですよ!」
俺を案じているのか、はたまた自分にそれが降りかかるのが嫌なのか。
どちらにしろ、青龍の反応は俺をさらに苛立たせるものだった。
何とか感情を押さえつけ、彼の反対も無視し玄関へと足を運ぶ。
と、扉を開ける前に足を止めると、横目に青龍を睨みつけた。
「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」
俺の眼光に怯んだのか、青龍は体を少し跳ね背筋を伸ばした姿勢で固まった。
「成獣の、しかも黒龍だぞ。そこらへんの人間が付けたような呪詛に、当てられるわけないだろう」
にやりと笑い、顔を向き直ると龍宮を後にした。
「私は、その、魔法の研究について興味がありまして。王宮の図書館であれば、最新の研究についての本が置いてあると思ったので」
なぜ恥ずかしがるのか不思議なほど、真面目な返答が返ってきて安心した。
そうよね、セイラはそうでなくっちゃ。
それにしても魔法の研究に興味があるなんて、あんなに魔法が使えるのに勉強熱心というかなんというか。
まぁ、もしかしたら私も傍から見ればそう思われているのかもしれないけど。
しかし、2人とも私の目的のものとは全く違うジャンルに興味があるようでよかった。
これなら、本棚のエリアも近くはなさそうだし私の目的に気づかれずに済みそうだ。
「お2人とも魔法についての書籍をお探しなのですね。それでしたらこちらですよ」
そう言って、ヴァリタスは彼女たちを促すように手で行き先を示した。
歩き出したヴァリタスと付き添いの騎士に連れられるかたちで彼女たちはそちらの方へ歩き出した。
「では皆様、また後で」
そう言って皆を見送ると、さっそく私も歴史書がある方へと足を運んだ。
***
バタンッ。
玄関の開閉音が聞こえ、彼はふとそちらに顔を向けた。
そこにはいつもはへらへら笑っているはずの青い青年が青い顔をしながら、今しがた帰宅したところだった。
大きなため息を吐いているのを見るに何かあったようだ。
「はぁ~。……だだいまで~す」
「なんだ、鬱陶しいな。お前、自分の主のところに行ったんじゃなかったのか?」
契約主である国王に呼ばれ、いつも国王がいる職務室に行ったはずの彼が行って戻ってきた時間は10分も無かった。
思った以上に早すぎる帰宅に、普段自分から声を掛けない彼でも思わず訳を聞いてしまう。
「聞いてくださいよ、先輩! あの女、また王宮にいたんです! しかも今日はついうっかり遭遇しちゃって、もう用事どころではなかったんですよ!」
綺麗な見た目とは裏腹に、軽いノリで話す彼に対して黒龍は苦手意識を感じていた。
「あの女?」
彼の言ったある単語に引っかかりを覚える。
まさかまた来ているのか。彼女が。
「そうですあの女です! ほら、ヴァリタス坊ちゃんの許嫁の」
「……会ったのか、あれに」
案の定彼が会ったのは、彼女だったようだ。
確か名前はエスティ、だったか。
6年ほど前に会ったのが最後のため、彼女の容姿はあの時のままで止まっている。
それから頻繁に王宮へ出向いているようだが、黒龍が会ったのはそれきりだった。
今の彼女がどんな女性に成長しているのかは、想像もつかない。
「いやもう最悪ですよ~。魂にあんなにべったり呪詛塗りたくってる人間なんて初めて会いましたもん。近づくだけで呪われそう……。どうしたらあんなに憎悪向けられるんですかね? 大量殺戮でもしなきゃあんなに呪詛が付くような恨みをかったりしないですよ。しかもあんなに大量に」
「思い出しただけでも寒気がっ」とか言いながら青龍は自分で自分の肩を摩った。
青龍の嫌味に少しだけ気分を害しながらも、事実であるため否定はしなかった。
しかし、最近はあまり顔を見せていなかったのにまた来ているとは……。
また何か企んではいやしないかと勘繰ってしまう。
ただそれとは裏腹に、強い郷愁の念を抱かずにはいられなかった。
会いたい。
あの人にもう一度会いたい。
素直にそう思った。
「そうか、来てるのか……」
「あの、先輩? 俺の話聞いてます?」
しかし、それと同時に嫌な予感が頭を過った。
もう少し、もう少し待っていようかとも思っていたが、そろそろ限界かもしれない。
この青臭い青龍の口ぶりからして、どうやら彼女については前から感づいてしまっていたようだし。
早く、早く手を打たねば。
このままでは、また200年前と同じことになるかもしれない。
ただでさえ、因縁のある2人がなんの因果か婚約者になっているのだ。
いつ何かのはずみで2人の正体が露見するかわからない。
もしそうなってしまえば、おそらく彼女は……。
そう考えると、ざわざわと胸が騒いで仕方なかった。
あの2人が近くにい続けてしまえば、そのリスクは高くなる一方だ。
そんなのは危険すぎる。
また、失うことになるのはもう嫌だ。
あんな思いをするのは、もう……。
今度こそ、何があっても俺が守らないと。
「あのぉ~」
「出てくる」
「はえっ⁈ ど、どこに? もしかしてあの女に会いに行くつもりですか?! 止めたほうが良いですよ、本当に呪詛なんか移されたらたまったもんじゃないですよ!」
俺を案じているのか、はたまた自分にそれが降りかかるのが嫌なのか。
どちらにしろ、青龍の反応は俺をさらに苛立たせるものだった。
何とか感情を押さえつけ、彼の反対も無視し玄関へと足を運ぶ。
と、扉を開ける前に足を止めると、横目に青龍を睨みつけた。
「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」
俺の眼光に怯んだのか、青龍は体を少し跳ね背筋を伸ばした姿勢で固まった。
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にやりと笑い、顔を向き直ると龍宮を後にした。
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