悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第3章

126.本当はどこに

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なんだか焦った彼を見るのは新鮮なような気がした。
先ほどまでどこか達観したような表情を見せていた彼とは思えないような気がしてその違いが可愛かったからかもしれない。
これがナタリーが言うところのギャップ萌え、とかいうものなのかしら。

「でもよかった。涙、止まってくれたみたいで」

彼は急に笑顔になると嬉しそうに眼を細めた。
そういえば。
いつの間にかさっきのことなんてさっぱり忘れて、彼との会話に夢中になっていた。

彼と出会った時は苦しさと情けなさでどうにかなってしまいそうだったのに、いつの間にかそんな気持ちはどこかへ行ってしまっていた。
もしかして、そのためだけに私に話掛けてくれた、なんてことは。
さすがにないか。

しかし、そのことを思い出すとやはり気持ちは沈んでしまう。
戻りたくない、という気持ちが押し寄せてきてまたしても膝を抱えてしまう。

「ねぇ、もう少しだけ聞いても良い?」

「僕が答えられることなら、なんでも」

躊躇うように、恐る恐る聞いてみる。
そんな怯えるような私に、変わらない笑顔で優しく応えてくれる彼に促されるまま、前世の事を聞いてみた。

「私、前世のこと全く覚えていないから、ヴァリタス様に、バートンの生まれ変りの人に聞いたの。本当に昔の私はバートンに酷い事をしたのかって。
そしたら彼、それは本当だって。確かに私は彼の家族も婚約者も奪ったんだって、そう言ったの……」

言っている内に徐々に先ほどの暗い気持ちが蘇ってくる。
バートンの言ったような残酷な自分を認めたくないという気持ちと、それに向き合うべきだという気持ち。
そんな2つの矛盾する気持ちがごちゃまぜになっていく。

そう思うとどうしても落ち込んで、下を向いてしまう。

「貴方は、貴方を殺した人間の言うことを信じるの?」

冷たく言い放つ彼の鋭い言葉が私に突き刺さる。
それはまるで私の言った言葉を否定しているような言葉だった。
まるでヴァリタスの言った言葉が真実ではないような、そんな印象を受けた。

黒龍は私たちのような生まれ変わりなどではなく、ちゃんと200年前に生きていた龍だ。
それなら彼の言うことが一番事実に近いのだろう。

しかし、私は臆病だから。
その希望に縋ることが怖かった。
何より先ほどから私に対する彼の優しさが怖くて仕方なかった。

「で、でも、だって私は前世のこと、全然思い出せてない。それに、バートンは嘘を付くような人じゃないもの!」

「確かにあいつにとってはそれが真実なのかもしれない。けど貴方にとってそれが真実とは限らない」

「え?」

何それ? どういうこと?
彼の言った言葉が理解できず固まってしまう。
バートンにとっての真実と私にとっての真実が違うなんて。
一体どういうことなのだろう。

「貴方は大事な何かを守るためなら平気で自分を傷つけるし、嘘だって平気でついてしまう人だよ。だから守りたかったんだよ」

守りたかった?
誰を?

まさか彼を?

「貴方にとってあの騎士は多分家族と同じような存在だったんだと思う。あなたは家族だと思った人の事を大事にする人だから。特に近しい関係だったあれを大事にするのは貴方にとっては当たり前のことだったんじゃない? まぁ貴方にとっての家族ってあの国の国民全員って感じだったから、あれが特別大事だったなんて、これっぽっちもなかったと思うけどね」

急に不機嫌になりながらも、彼はそう言い切った。
彼の口ぶりからしてどうやら彼はバートンの事をあまり好きではなさそうだ。

だが確かに、彼の言うことに身に覚えがあった。

前世の子供のころの記憶は、だいぶ思い出せてきているように思う。
その中で私にとってのバートンは兄弟のような、家族のような存在だった。

朝から晩まで、勉強をするときも遊ぶときも彼はそばにいてくれた。
どんな事をするときも彼と一緒だった。
まるで運命共同体のように。

そんな彼を家族と思わない方がおかしいのかもしれない。

もし、黒龍が言うように私が家族に対して強い愛情を持つような人だったならば。
確かに自分を傷つけても彼を守ることを選ぶのかもしれない。
それがたとえ、彼を傷つけることになったとしても。

バートンが一番傷つかない方法だと信じて。

そこでハッとする。

彼が傷つく状況って一体どういうものなのだろう。
少なからず、バートンもリヴェリオと同じように彼の事を大切に思っていたはずだ。
それは私が思い出している数少ない記憶からでも容易に想像がつく。

それならば、リヴェリオに裏切られることはバートンにとってかなりショックな出来事なはず。
そしてそれはバートンにとって最も傷つく行為だと言っても過言ではないかもしれない。
だって、バートンにとってリヴェリオは初めて自分を認めてくれた人なはずだから。

それをリヴェリオは理解していたはずだ。
それなのに、彼はその方法を選んだ。

一体どうしてそんな方法を選んだのだろう。
もし彼の家族や婚約者を奪ったのがリヴェリオじゃないのなら、一体誰がバートンの大切な人たちを奪ったのだろう。
そしてどうしてリヴェリオはそんなウソをついたのだろう。

わからない。
わからないことだらけだ。
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