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第3章
127.私に掛けられた加護
黒龍と話していると、私の知らない私の事がどんどん溢れていく。
それと同時に自分に対する疑問がどんどん増えていく。
一体私はどこまで自分の記憶を思い出しているのだろう。
どれほど、忘れたままになっているのだろう。
黒龍はあまり私の記憶が思い出されるのに消極的な感じだったけど、やっぱり私は私の事を思い出したい。
彼と話していると、それが早まるのではないかと思った。
それを黒龍にありのまま伝える。
「あのね、私どうしても前世の事を思い出したい。こうして自分のことわからないままで、落ち込んだり悲しくなったりするのはもう嫌なの。さっきから話していて貴方が私の記憶が戻らないことを
望んでいるのは分かっているわ。でもやっぱり自分のしたことをちゃんと理解していたい。自分が本当はどんな人物だったのか、どんな罪を背負っているのか、ちゃんと知りたいの」
真っ直ぐ彼を見つめる。
私の意志に応えるように、彼も強い眼差しで私を見つめた。
「どうしても、知りたいの?」
彼の問いかけにコクリと頷く。
それだけで、彼は私の気持ちを受け入れてくれた。
「貴方の願いなら叶えてあげたい。貴方が生きている間に僕が叶えてあげられたことなんて、本当に少ししかなかったから。
でもね主様、覚えておいて。貴方の記憶が戻れば戻るほど、貴方は危険に晒される。それは、そういう呪いだから」
「……呪い? 私には呪いが掛かっているの?」
新たな情報に戸惑いながらも、どうにかして受け入れようと努力する。
しかし呪いとは一体……。
私の疑問にすんなり彼は答えてくれた。
「そうだよ。貴方が生まれる前から掛けられた、貴方をこの世界に縛るための呪い。そして、この世で最も残酷で邪悪なものが酷く醜い欲望を叶えるための呪い」
そう言って、黒龍は瞳を閉じた。
何かを思い出すように紡がれる彼の言葉と表情にはどこか何かを決意したような意志が感じられた。
「だから貴方を守るために、神様は貴方に加護を授けた。呪いが進行しないように。それは僕も、そしてエヒム教とかいう宗教の教皇も同じような魔法を貴方に掛けている。効力は神様の比にならないくらい微弱なものだけどね。だからね、本当は思い出さないまま幸せになってくれるのが一番なんだよ」
神様? 教皇?
なんだかいきなり規模が大きくなったものだから途端に実感が湧かなくなった。
いや、今までの話もそこまで実感が湧いていたわけでもないけど。
しかし、神様はよくわからないからあれだけど教皇まで関わっているなんて、改めて思うけど前世の私って一体どういう存在なんだろう。
そしてその二つの存在は私とどういう関係があるのだろうか。
「でも、貴方がそれを望むならきっと誰も責めたりしない。だって貴方の幸せをみんな願っているから」
「どうして? どうして神様も教皇様も私のことをそんなに……」
「貴方がこの世界にとって貴い人だから」
さも当然のように言い切られて、グッと言葉が出なくなった。
この国の人々にとって私の前世は忌み嫌われる存在である。
それなのに彼の言うことを聞いていると、まるで私が祝福された特別な存在のように思えてくる。
おそらく彼の主観、というか彼が私を好いてくれているからそんな印象を受けるのかもしれないが。
そういえば、彼の言葉と似たような事を前にも誰かに言われた記憶がある。
そう、あの市井見学会の時に出逢った不思議な老人にも同じことを言われた。
この2人を完全に信じることはまだできないけど、それでもこんなに違う人物から似たような言葉を言われるとなんだかそれが本当なのではないかと思えてくる。
「主様、残念だけど、もうそろそろ戻った方が良いかもしれないね。あいつが近くまできてるみたいだ。貴方を探して」
「あいつ?」
もしかしてヴァリタスの事かしら。
彼はその答えを告げずに私の正面に立つと、両手で私の右手を握った。
いきなりの行動に戸惑いつつも、彼の優しい手の感触に手を振りほどくことができなかった。
そして握られた手から小さな光がぽうっと灯ると、それはすぐに消えてしまった。
おそらく魔法の類なのだろうが、魔法が使えない私には彼が何をしたのか皆目見当もつかなかった。
手のひらには薄く模様が浮かび上がったものの、少しして消えてしまった。
「今貴方に魔法をかけたから、これで僕をいつでも呼び出せる。とはいえ僕は今、この城から出られないから、ここにいるときだけの頼りないものだけど」
「そんなことないわ! ありがとう、ええっと……」
そこでふと気が付く。
そういえば私は彼の名前を知らない。
どう呼べば良いのか困っていると彼は寂しそうに微笑んだ。
「なんでも好きに呼んで。黒龍でもなんでも、適当に」
そう言ったものの、彼はどこか悲しそうに見えた。
そんな彼を見てしまったら、適当に呼ぶことなんてとてもじゃないができない。
言葉に詰まっていると、彼は何かに気づいたようにスッと顔を逸らした。
「ああ、ほらあいつが呼んでる。僕と会っていたなんて知られたら、何を言われるか分かったものじゃない」
恨めしそうに言いながら、彼は私の後ろ手に周ると軽く背中を押した。
まるで別れを急くような彼の行動に少し違和感を覚えた。
「バイバイ、主様。またすぐに会えるよ。貴方が呼んでくれるなら」
そう言って無理やり私を中庭へと追いやる。
それでも言葉の端にどこか名残惜しさを感じていた。
しかし私もいつまでもここにいて、彼に心配をかけるわけにもいかない。
彼に促されるままに、その別れを受け入れた。
「ええ、またね」
そう言って林から抜け出し歩き出した。
少し歩いて振り返ると彼の姿はどこにも無かった。
最後に見た顔がとても寂しそうで、それが気になって仕方がなかった。
それと同時に自分に対する疑問がどんどん増えていく。
一体私はどこまで自分の記憶を思い出しているのだろう。
どれほど、忘れたままになっているのだろう。
黒龍はあまり私の記憶が思い出されるのに消極的な感じだったけど、やっぱり私は私の事を思い出したい。
彼と話していると、それが早まるのではないかと思った。
それを黒龍にありのまま伝える。
「あのね、私どうしても前世の事を思い出したい。こうして自分のことわからないままで、落ち込んだり悲しくなったりするのはもう嫌なの。さっきから話していて貴方が私の記憶が戻らないことを
望んでいるのは分かっているわ。でもやっぱり自分のしたことをちゃんと理解していたい。自分が本当はどんな人物だったのか、どんな罪を背負っているのか、ちゃんと知りたいの」
真っ直ぐ彼を見つめる。
私の意志に応えるように、彼も強い眼差しで私を見つめた。
「どうしても、知りたいの?」
彼の問いかけにコクリと頷く。
それだけで、彼は私の気持ちを受け入れてくれた。
「貴方の願いなら叶えてあげたい。貴方が生きている間に僕が叶えてあげられたことなんて、本当に少ししかなかったから。
でもね主様、覚えておいて。貴方の記憶が戻れば戻るほど、貴方は危険に晒される。それは、そういう呪いだから」
「……呪い? 私には呪いが掛かっているの?」
新たな情報に戸惑いながらも、どうにかして受け入れようと努力する。
しかし呪いとは一体……。
私の疑問にすんなり彼は答えてくれた。
「そうだよ。貴方が生まれる前から掛けられた、貴方をこの世界に縛るための呪い。そして、この世で最も残酷で邪悪なものが酷く醜い欲望を叶えるための呪い」
そう言って、黒龍は瞳を閉じた。
何かを思い出すように紡がれる彼の言葉と表情にはどこか何かを決意したような意志が感じられた。
「だから貴方を守るために、神様は貴方に加護を授けた。呪いが進行しないように。それは僕も、そしてエヒム教とかいう宗教の教皇も同じような魔法を貴方に掛けている。効力は神様の比にならないくらい微弱なものだけどね。だからね、本当は思い出さないまま幸せになってくれるのが一番なんだよ」
神様? 教皇?
なんだかいきなり規模が大きくなったものだから途端に実感が湧かなくなった。
いや、今までの話もそこまで実感が湧いていたわけでもないけど。
しかし、神様はよくわからないからあれだけど教皇まで関わっているなんて、改めて思うけど前世の私って一体どういう存在なんだろう。
そしてその二つの存在は私とどういう関係があるのだろうか。
「でも、貴方がそれを望むならきっと誰も責めたりしない。だって貴方の幸せをみんな願っているから」
「どうして? どうして神様も教皇様も私のことをそんなに……」
「貴方がこの世界にとって貴い人だから」
さも当然のように言い切られて、グッと言葉が出なくなった。
この国の人々にとって私の前世は忌み嫌われる存在である。
それなのに彼の言うことを聞いていると、まるで私が祝福された特別な存在のように思えてくる。
おそらく彼の主観、というか彼が私を好いてくれているからそんな印象を受けるのかもしれないが。
そういえば、彼の言葉と似たような事を前にも誰かに言われた記憶がある。
そう、あの市井見学会の時に出逢った不思議な老人にも同じことを言われた。
この2人を完全に信じることはまだできないけど、それでもこんなに違う人物から似たような言葉を言われるとなんだかそれが本当なのではないかと思えてくる。
「主様、残念だけど、もうそろそろ戻った方が良いかもしれないね。あいつが近くまできてるみたいだ。貴方を探して」
「あいつ?」
もしかしてヴァリタスの事かしら。
彼はその答えを告げずに私の正面に立つと、両手で私の右手を握った。
いきなりの行動に戸惑いつつも、彼の優しい手の感触に手を振りほどくことができなかった。
そして握られた手から小さな光がぽうっと灯ると、それはすぐに消えてしまった。
おそらく魔法の類なのだろうが、魔法が使えない私には彼が何をしたのか皆目見当もつかなかった。
手のひらには薄く模様が浮かび上がったものの、少しして消えてしまった。
「今貴方に魔法をかけたから、これで僕をいつでも呼び出せる。とはいえ僕は今、この城から出られないから、ここにいるときだけの頼りないものだけど」
「そんなことないわ! ありがとう、ええっと……」
そこでふと気が付く。
そういえば私は彼の名前を知らない。
どう呼べば良いのか困っていると彼は寂しそうに微笑んだ。
「なんでも好きに呼んで。黒龍でもなんでも、適当に」
そう言ったものの、彼はどこか悲しそうに見えた。
そんな彼を見てしまったら、適当に呼ぶことなんてとてもじゃないができない。
言葉に詰まっていると、彼は何かに気づいたようにスッと顔を逸らした。
「ああ、ほらあいつが呼んでる。僕と会っていたなんて知られたら、何を言われるか分かったものじゃない」
恨めしそうに言いながら、彼は私の後ろ手に周ると軽く背中を押した。
まるで別れを急くような彼の行動に少し違和感を覚えた。
「バイバイ、主様。またすぐに会えるよ。貴方が呼んでくれるなら」
そう言って無理やり私を中庭へと追いやる。
それでも言葉の端にどこか名残惜しさを感じていた。
しかし私もいつまでもここにいて、彼に心配をかけるわけにもいかない。
彼に促されるままに、その別れを受け入れた。
「ええ、またね」
そう言って林から抜け出し歩き出した。
少し歩いて振り返ると彼の姿はどこにも無かった。
最後に見た顔がとても寂しそうで、それが気になって仕方がなかった。
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お楽しみいただけると幸いです。