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第4章
128.夏休みの幕開け
「うわぁ! 見て見て、お兄様。すごい、一面お花畑!」
「こら、そんなに乗り出すと危ないぞ」
窓から顔を出し、外の景色を堪能する。
その興奮は凄まじく、体を乗り出してしまいそうな勢いだ。
バタバタと勢いよく髪が流れ、風に煽られている。
はじめて乗る機関車は私を子供にさせるのに十分な代物だった。
案の定、乗る前からこの乗り物に興味津々でいつまでも外観に夢中になっていたものだから乗車時間に間に合わないとさっそく兄を困らせたばかりである。
それにしても、こんな便利な乗り物が出来ていたなんて知らなかった。
おそらくできる前から話題になっていただろうに、全く私の耳に入ってこなかったのだから少し残念な気持ちになる。
こういう時、交友関係が希薄なのが厄介なところである。
しかしながら、この移動速度は異常だ。
次々に景色を移ろわせていく様は、まるで流舞台を見ているかのように私を楽しませてくれた。
「まだまだおじい様たちの家には距離があるのだから、そんなに夢中にならなくても良いんじゃないか?」
「何を言っているのですか! この景色は今だけしか見られないのですよ。ちゃんと堪能しないと!」
「何を言ってるかなんて、こっちの台詞だ馬鹿者。まさか目的地まで起きているなんて言い出すんじゃないだろうな」
呆れたように叱る兄にそっぽを向き、またもや景色に夢中になる。
一面お花畑は終わったものの、その移動速度にまたしても心を奪われていた。
一体どうやって動いているのだろう。
推測だが、どうやらこの機械は結構な人を乗せて走っているはず。
それなのに、どうしてこんなに早いスピードを出せるのか、私には理解できなかった。
それが私の興味を掻き立てる。
またしても我慢できず、おそらく操縦機関があるであろう前方を見ようと身を乗り出そうとした私の首根っこをお兄様は掴むと、力のまま座席へと私を押し込んだ。
テスト返却期間が終わり、夏休みに入ると早々に苦痛な日々が幕を開けた。
幸いシルビアが戻ってきたということもあって夕食以外に家族と顔を合わせる必要性が無くなったのは良かったのだが、如何せん外に出ることができないのが退屈で仕方がない。
夏休みの宿題を早急に終わらせてしまった私にとっては、それは退屈な日々の始まりだったのである。
読書で時間を潰そうにも、お茶で時間を潰そうにも時間が余って仕方ない。
良くも悪くも、ヴァリタスは視察で夏休み期間中はほとんど顔を見せることはない。
ナタリーやセイラも夏休みが始まってすぐに避暑地へ出掛けていて、戻ってくるのは夏休み後半から。
いつまでもこの家に縛られなければならない私にとって訪問者がいないのも大きな痛手だった。
今ならヴァリタスが来ても諸手を挙げて喜ぶかもしれない。
そこまで今の私は追い込まれていた。
そうして途方に暮れていたある日のこと。
私たちの夏休みがはじまって5日ほどたったころだった。
とうの昔に夏休みが始まっていたはずの大学からやっと帰省した兄が、私の元へ訪れてこんな提案をしてくれた。
「西部のウルセル、ベルヘルス家に遊びに行かないか?」
「ベルヘルス家って、おじい様のところへ?」
「ああ、気分転換にどうだ? 退屈で仕方ないのだろう?」
ベルヘルス家とは私たち兄弟の母である、メリアル・ベルフェリトの生家だ。
ヴァリタス達が視察に行った西部の森であるウエリアの森からさほど離れていない場所に位置する、のどかな場所である。
一応国境が近いということもあり、昔から独自の剣術を鍛えて実力をつけてきたと言われているベルヘルス家は、200年前からその場所を代々守る騎士伯爵家なのである。
宮殿から遠く離れた地であり国境が近い、ということもあり私たちの住んでいる場所からはかなりの距離がある。
そのため、祖父母の家でありながらあまり行く機会が今まで持てていなかった。
そこへ行くのは多くの時間を要する。
安易にいけない場所なのだが、今現在時間を持て余し過ぎている私にとってはなんとも有難い申し出だった。
兄の素晴らしい提案に、二つ返事で承諾すると早速支度を始めた。
そしてその提案から2日後に、私たちはウルセルという祖父母の待つ遠い街へと出発したのである。
「それにしても、良かったのですか? メリエルお姉さまを誘わなくて」
「ああ、彼女は今回帰省しないみたいだからな」
仕方なく座席に座り、大人しくしているしかなくなった私は少し気になっていたことをお兄様に尋ねた。
メリエルとはお兄様の婚約者、つまり私の未来の義理の姉に当たる人物である。
こんな堅物で生真面目な兄とは正反対の、常に頭から花を飛ばしているような、のほほんとした癒し系の女性である。
しかし、こんな兄とも仲良くなれるほど、彼女も勉学に優れた女性であった。
その探求心は私やお兄様とは比較にならないほどのもので、その欲求は誰にも止められるものではなかった。
そのため、今現在彼女の欲求を埋められる大学のある遠い異国の地へと留学している。
彼女が留学するまでの過程には色々あったらしいのだが、どうやら兄もそろって彼女の両親を説得していたのだとか。
その話を聞いていると、意外と彼女の事を想っているようで少し安心したものである。
「こら、そんなに乗り出すと危ないぞ」
窓から顔を出し、外の景色を堪能する。
その興奮は凄まじく、体を乗り出してしまいそうな勢いだ。
バタバタと勢いよく髪が流れ、風に煽られている。
はじめて乗る機関車は私を子供にさせるのに十分な代物だった。
案の定、乗る前からこの乗り物に興味津々でいつまでも外観に夢中になっていたものだから乗車時間に間に合わないとさっそく兄を困らせたばかりである。
それにしても、こんな便利な乗り物が出来ていたなんて知らなかった。
おそらくできる前から話題になっていただろうに、全く私の耳に入ってこなかったのだから少し残念な気持ちになる。
こういう時、交友関係が希薄なのが厄介なところである。
しかしながら、この移動速度は異常だ。
次々に景色を移ろわせていく様は、まるで流舞台を見ているかのように私を楽しませてくれた。
「まだまだおじい様たちの家には距離があるのだから、そんなに夢中にならなくても良いんじゃないか?」
「何を言っているのですか! この景色は今だけしか見られないのですよ。ちゃんと堪能しないと!」
「何を言ってるかなんて、こっちの台詞だ馬鹿者。まさか目的地まで起きているなんて言い出すんじゃないだろうな」
呆れたように叱る兄にそっぽを向き、またもや景色に夢中になる。
一面お花畑は終わったものの、その移動速度にまたしても心を奪われていた。
一体どうやって動いているのだろう。
推測だが、どうやらこの機械は結構な人を乗せて走っているはず。
それなのに、どうしてこんなに早いスピードを出せるのか、私には理解できなかった。
それが私の興味を掻き立てる。
またしても我慢できず、おそらく操縦機関があるであろう前方を見ようと身を乗り出そうとした私の首根っこをお兄様は掴むと、力のまま座席へと私を押し込んだ。
テスト返却期間が終わり、夏休みに入ると早々に苦痛な日々が幕を開けた。
幸いシルビアが戻ってきたということもあって夕食以外に家族と顔を合わせる必要性が無くなったのは良かったのだが、如何せん外に出ることができないのが退屈で仕方がない。
夏休みの宿題を早急に終わらせてしまった私にとっては、それは退屈な日々の始まりだったのである。
読書で時間を潰そうにも、お茶で時間を潰そうにも時間が余って仕方ない。
良くも悪くも、ヴァリタスは視察で夏休み期間中はほとんど顔を見せることはない。
ナタリーやセイラも夏休みが始まってすぐに避暑地へ出掛けていて、戻ってくるのは夏休み後半から。
いつまでもこの家に縛られなければならない私にとって訪問者がいないのも大きな痛手だった。
今ならヴァリタスが来ても諸手を挙げて喜ぶかもしれない。
そこまで今の私は追い込まれていた。
そうして途方に暮れていたある日のこと。
私たちの夏休みがはじまって5日ほどたったころだった。
とうの昔に夏休みが始まっていたはずの大学からやっと帰省した兄が、私の元へ訪れてこんな提案をしてくれた。
「西部のウルセル、ベルヘルス家に遊びに行かないか?」
「ベルヘルス家って、おじい様のところへ?」
「ああ、気分転換にどうだ? 退屈で仕方ないのだろう?」
ベルヘルス家とは私たち兄弟の母である、メリアル・ベルフェリトの生家だ。
ヴァリタス達が視察に行った西部の森であるウエリアの森からさほど離れていない場所に位置する、のどかな場所である。
一応国境が近いということもあり、昔から独自の剣術を鍛えて実力をつけてきたと言われているベルヘルス家は、200年前からその場所を代々守る騎士伯爵家なのである。
宮殿から遠く離れた地であり国境が近い、ということもあり私たちの住んでいる場所からはかなりの距離がある。
そのため、祖父母の家でありながらあまり行く機会が今まで持てていなかった。
そこへ行くのは多くの時間を要する。
安易にいけない場所なのだが、今現在時間を持て余し過ぎている私にとってはなんとも有難い申し出だった。
兄の素晴らしい提案に、二つ返事で承諾すると早速支度を始めた。
そしてその提案から2日後に、私たちはウルセルという祖父母の待つ遠い街へと出発したのである。
「それにしても、良かったのですか? メリエルお姉さまを誘わなくて」
「ああ、彼女は今回帰省しないみたいだからな」
仕方なく座席に座り、大人しくしているしかなくなった私は少し気になっていたことをお兄様に尋ねた。
メリエルとはお兄様の婚約者、つまり私の未来の義理の姉に当たる人物である。
こんな堅物で生真面目な兄とは正反対の、常に頭から花を飛ばしているような、のほほんとした癒し系の女性である。
しかし、こんな兄とも仲良くなれるほど、彼女も勉学に優れた女性であった。
その探求心は私やお兄様とは比較にならないほどのもので、その欲求は誰にも止められるものではなかった。
そのため、今現在彼女の欲求を埋められる大学のある遠い異国の地へと留学している。
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その話を聞いていると、意外と彼女の事を想っているようで少し安心したものである。
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お楽しみいただけると幸いです。