悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

131.主張なんてする意味ない

目を伏せ、物思いにふける私にそれでも思い付いた疑問を抑えることができなかったようで、お兄様はこもりごもり口を開いた。

「だが、もしその事実が証明できれば、後世の俺たちが学ぶことはいくつもあるのではないか。貴族の権威の強度や政治の改善点をあぶり出すとか」

何を言っているのだ、この兄は。

「そんなこと、もうしているでしょう?」

この国で一番頭の良い大学に通っており、その中でもトップの成績を誇るお兄様はこの若さですでに未来の宰相候補とまで噂されているほどの秀才だ。
リヴェリオ時代の国の政策の問題点など、今の政治に切り替わった時点でとっくに改善されている。
そんな歴史的にも政治的にも基本的なことをお兄様が知らないはずがない。

まさか、私の事を想ってそんなことまで忘れて思わず口に出した、とでもいうのだろうか。
いやいや、ないない。
あんな生真面目で我を忘れるなんてことにまるで縁のない人だ。

たかが妹を心配しただけでそんな風になるわけがない。

「私が主張して、歴史をかき乱すなんて意味のないことなのです。それならば、恐ろしい存在として子供たちの教育に活かしたほうがよっぽど役に立つと思いませんか?」

「そんな……。そんなのただの子供騙しの教訓にしかならないじゃないか。君の前世の人生はそんなことに使うだけで本当に良いのか?」

「あら、素敵なことじゃないですか。死んでも私の生きた証が利用されるんですから」

「どうしてお前は、そうやって……」

顔を伏せ、落ち込むお兄様はどこか疲れているようにも見えた。
一体どうしてここまでリヴェリオの無実を主張することにこだわるのだろうか。
意味が分からない。

「お兄様は、どうしてそこまでリヴェリオの事を気に掛けるのですか?」

私の問いかけに頭を重く下げたまま、深く息を吐いた。
それはものすごく呆れているような、そんなため息を吐いているようにも思えた。

「俺が気に掛けているのは、あの皇帝じゃない。お前だよ、エスティ」

頭を伏せたままでも、今お兄様がどんな顔をしているのかわかるような気がした。

ただ、目を見開き驚く。
そんな風にお兄様が思っていたなんて、思わなかった。
そこまでして私を心配してくれるなんて。

「俺はお前の兄なのだ。たとえ父上や母上がお前をどう扱っていようとも、俺はお前の味方になると決めた。だからお前には幸せになってくれないと、困るんだ」

はじめて、お兄様の本心が見えたような気がした。
そういえば昔、お父様に蔑ろにされたときもこうして私を心配してくれたっけ。

助かった。
お兄様が下を向いていてくれて。

だって泣き顔なんて、お兄様にだって見られるの、恥ずかしいもの。

頬を伝う一滴の涙を拭うことも忘れ、私はただお兄様の優しい言葉に嬉しさでいっぱいだった。

「大丈夫ですよ、お兄様。私はその言葉が聞けただけで、十分幸せですから」


      ***


機関車に3日間ほど乗り続け、そこから馬車に乗り換えて2日ほど経ったお昼時。
やっとお母様の生家であるベルヘルス家に辿り着いた。

道中私といえば、どこまでいっても変わり映えのしない景色にすら感動を覚えいまだ興奮冷めやらぬほど、疲れを感じていなかった。
それに引き換えお兄様と言えば、最初の1日目でこの移動するという行為に飽きた様子でほとんど本や参考書に目を通してばかりいた。
それでも退屈だったのか、はたまた疲れがたまったのか、相当疲れがたまった様子だった。

それにしても、私ってこんなに旅行が好きだったなんて知らなかった。
今まで王宮や学院以外の外出はお父様にきつく禁じられていたし、前世に至っては王宮以外から出たことがほとんどないような生活を送っていたのだ。
そもそもこんなに長距離の移動など、本当に私が幼いころにこのベルヘルス家へ訪れて以来だろう。

そう思うと、私は今までほとんど旅行などしてこなかったことに今更ながら気づいた。
もしかしたら前世から溜まっていた外に出たいという好奇心が、有り余っていたのかもしれない。

そうだ、それなら。
ふと私は突拍子もないことを思いついた。

たとえ に婚約破棄が成立したとしても、一度婚約破棄された傷物の令嬢など引き取ってくれる貴族などいない。
良くて教会に預けられるか、家庭教師か何かになるのが関の山だろう。

しかし、それは私の望んだ平穏無事な生活とやらには少し違うような気がしていた。
そこで今回の旅をして思ったのだ。

いろんなところをもっと見てみたい、と。
旅しながら生活するのもいいかもしれないと。
なんだかそう考えるととてもドキドキしている自分がいることに気づいた。

まぁ、温室育ちの貴族である私がどこまで旅の生活に耐えられるかはわからないけれど。
でも、きっと、そんな生活ができたら幸せだろうな。

「エスティ! 早く来い、おじい様とおばあ様に挨拶しに行くぞ」

遠くでお兄様の呼ぶ声が聞こえ、意識を現実に戻した。
何年かぶりの祖父母に会うことに嬉しさと不安を感じながら、ベルヘルス家の屋敷へと足を踏み入れた。
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