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第4章
138.狂気の日記
「エスティ、こちらです」
おばあ様に呼ばれ、早足でそちらに向かう。
そうそう、私の目的は日記を読むことよ。
お兄様の小言を聞くためじゃないのよ。
「こちらが当時のベルヘルス家の当主の日記です」
その日記は他の書物とは違い、奥にある戸棚の中に入っていた。
どうやら経年劣化を抑えるために、引き出しの中に仕舞っていたらしい。
おばあ様はいつの間にか手に持っていた鍵で開けていたようだ。
おばあ様の持っている日記は如何にもそれといったような、革製の茶色い表紙に綺麗な装飾がなされたものだった。
どうやら、10年間分書き込める日記のようでとても分厚いものだった。
日記を受け取り、早速中身を見てみる。
流石は10年分のもので、1日に書き込める範囲はほんの少ししかなかった。
だがそれを無視するように、決められた範囲をはみ出して書かれているものや反対に書かれていない日も散見された。
どうやら気まぐれに使っていたみたいだ。
今もそうだが、特に貴族は日記を書くのを日課にしているため、こんなに適当に書かれているということは、これ書いていた人物はあまり日記を書くのが好きじゃなかったのかもしれない。
それか、面倒臭がりのどちらかだろう。
「彼女の事が最初に書き込まれたのは、確かこの辺りだったと思います」
そう言っておばあ様が教えてくれたのは、表紙から1/3ほど過ぎたあたりだった。
早速言われたページまで日記を捲る。
とりあえず、その中の一日を選んで読んでみた。
『
××年むの月とお日
やはり彼女は美しい。
その輝かしさはどんな状況にあっても、きっとくすむことなどないのだろう。
彼女には想い人の子がいると聞いたが関係ない。
彼女と私は結ばれる運命なのだ。
だって、ほら、彼女は私にとても熱い視線を向けているのだから。
』
パタン、と思わず日記を閉じてしまった。
な、なんだ今のは。
うすら寒さを感じながらも、先ほどの開いていたページへ恐る恐る戻した。
しかしどの日付の物を見ても彼女への熱い思いと、自分と彼女と結ばれるべき、などというよくわからない主張が綴られているばかりだった。
一体なんなのだこの日記は。
彼女に対する執着が凄まじい。
いくら綺麗な人だったからって、こんなに誰かを強く求めるものだろうか。
怖いわ、この人。
日を追うごとに強くなっていく彼女への思いに、ドン引きを通り越して吐き気までもよおしそうになる。
しかし、これは日記というよりどう見ても彼女に対しての恋文にしか見えない。
こんなの、どう見たってやばい人にしか思えない。
一体そんな人がどうやって彼女を射止めたのだろうか。
その過程が気になり、一週間、一カ月先の日記を見てみたが、いくら経っても彼女との関係が進展しているようには見えなかった。
ただ彼女の美しさを羅列しているだけだ。
夢の中の彼女を見るに、相当プライドの高そうな性格だったのにこんな辺鄙な貴族と結婚するなんて考えられない。
きっと何か理由があるはずだ。
だが、彼女との関係がどうなっているのか、この日記から読み解くことは不可能に近かった。
だって、本当に彼女の魅力が綴られているだけなんだもの。
それにしても1年経っても書いていることが彼女の美への賞賛だけとは。
これは、進展が無いということで間違いないな。
ええい、こうなったら。
埒が明かないと判断し、一気に3年ほど先のページを捲った。
おっ! これは。
そこにはすでに子供と彼女と結婚し、幸せな家庭を築いている彼の記録が記されていた。
どうやら彼女と結ばれて、多少正気を取り戻したらしくその日あったことが短く記載されていた。
流石に行き過ぎたと思い、時折短い日記を流し見ながらもう少し前の日記に遡ってみた。
それは彼女と出会って2年ほど経った時だった。
その日、彼女に呼び出された彼はその熱烈な愛に感動したことを彼女から伝えられた。
そして、その彼の気持ちに応えたいと彼女から伝えられた、と。
その日の彼の日記はやっと伝わったと、やはり自分たちの出会いは運命だと、興奮気味な文字で綴られていた。
何行も何行も綴られていた文字には、彼の喜びとほんの少しの狂気を感じた。
しかし、それからしばらく経っても彼らは結婚していなかった。
彼の日記を見るに、すでに一度結婚し、子供を授かった自分が他の人と結ばれるなどあってはならないのだと、そう主張しているらしい。
おばあ様が言った通りの事だったが、やはりその主張におかしいと感じた。
夢で思い出した彼女とは全く異なる人のように思えて仕方ない。
こんなに潮らしい人だったかしら。
あんなにいやらしく笑い、私を酷く嫌悪している様子だった彼女がそんな綺麗な心を持っているようにはどうしても思えなかった。
どう考えても、彼が脚色しているようにしか思えない。
それか、ベルヘルスの当主に対して猫を被っていたのか。
でも、なんでそんなこと。
自分の夫、しかも皇帝にだってあんなに邪険にしていた彼女が、そこら辺の貴族に対してそんな面倒なことをするとは思えない。
考えられる可能性があるとすれば、何か目的があったということぐらいだ。
おばあ様に呼ばれ、早足でそちらに向かう。
そうそう、私の目的は日記を読むことよ。
お兄様の小言を聞くためじゃないのよ。
「こちらが当時のベルヘルス家の当主の日記です」
その日記は他の書物とは違い、奥にある戸棚の中に入っていた。
どうやら経年劣化を抑えるために、引き出しの中に仕舞っていたらしい。
おばあ様はいつの間にか手に持っていた鍵で開けていたようだ。
おばあ様の持っている日記は如何にもそれといったような、革製の茶色い表紙に綺麗な装飾がなされたものだった。
どうやら、10年間分書き込める日記のようでとても分厚いものだった。
日記を受け取り、早速中身を見てみる。
流石は10年分のもので、1日に書き込める範囲はほんの少ししかなかった。
だがそれを無視するように、決められた範囲をはみ出して書かれているものや反対に書かれていない日も散見された。
どうやら気まぐれに使っていたみたいだ。
今もそうだが、特に貴族は日記を書くのを日課にしているため、こんなに適当に書かれているということは、これ書いていた人物はあまり日記を書くのが好きじゃなかったのかもしれない。
それか、面倒臭がりのどちらかだろう。
「彼女の事が最初に書き込まれたのは、確かこの辺りだったと思います」
そう言っておばあ様が教えてくれたのは、表紙から1/3ほど過ぎたあたりだった。
早速言われたページまで日記を捲る。
とりあえず、その中の一日を選んで読んでみた。
『
××年むの月とお日
やはり彼女は美しい。
その輝かしさはどんな状況にあっても、きっとくすむことなどないのだろう。
彼女には想い人の子がいると聞いたが関係ない。
彼女と私は結ばれる運命なのだ。
だって、ほら、彼女は私にとても熱い視線を向けているのだから。
』
パタン、と思わず日記を閉じてしまった。
な、なんだ今のは。
うすら寒さを感じながらも、先ほどの開いていたページへ恐る恐る戻した。
しかしどの日付の物を見ても彼女への熱い思いと、自分と彼女と結ばれるべき、などというよくわからない主張が綴られているばかりだった。
一体なんなのだこの日記は。
彼女に対する執着が凄まじい。
いくら綺麗な人だったからって、こんなに誰かを強く求めるものだろうか。
怖いわ、この人。
日を追うごとに強くなっていく彼女への思いに、ドン引きを通り越して吐き気までもよおしそうになる。
しかし、これは日記というよりどう見ても彼女に対しての恋文にしか見えない。
こんなの、どう見たってやばい人にしか思えない。
一体そんな人がどうやって彼女を射止めたのだろうか。
その過程が気になり、一週間、一カ月先の日記を見てみたが、いくら経っても彼女との関係が進展しているようには見えなかった。
ただ彼女の美しさを羅列しているだけだ。
夢の中の彼女を見るに、相当プライドの高そうな性格だったのにこんな辺鄙な貴族と結婚するなんて考えられない。
きっと何か理由があるはずだ。
だが、彼女との関係がどうなっているのか、この日記から読み解くことは不可能に近かった。
だって、本当に彼女の魅力が綴られているだけなんだもの。
それにしても1年経っても書いていることが彼女の美への賞賛だけとは。
これは、進展が無いということで間違いないな。
ええい、こうなったら。
埒が明かないと判断し、一気に3年ほど先のページを捲った。
おっ! これは。
そこにはすでに子供と彼女と結婚し、幸せな家庭を築いている彼の記録が記されていた。
どうやら彼女と結ばれて、多少正気を取り戻したらしくその日あったことが短く記載されていた。
流石に行き過ぎたと思い、時折短い日記を流し見ながらもう少し前の日記に遡ってみた。
それは彼女と出会って2年ほど経った時だった。
その日、彼女に呼び出された彼はその熱烈な愛に感動したことを彼女から伝えられた。
そして、その彼の気持ちに応えたいと彼女から伝えられた、と。
その日の彼の日記はやっと伝わったと、やはり自分たちの出会いは運命だと、興奮気味な文字で綴られていた。
何行も何行も綴られていた文字には、彼の喜びとほんの少しの狂気を感じた。
しかし、それからしばらく経っても彼らは結婚していなかった。
彼の日記を見るに、すでに一度結婚し、子供を授かった自分が他の人と結ばれるなどあってはならないのだと、そう主張しているらしい。
おばあ様が言った通りの事だったが、やはりその主張におかしいと感じた。
夢で思い出した彼女とは全く異なる人のように思えて仕方ない。
こんなに潮らしい人だったかしら。
あんなにいやらしく笑い、私を酷く嫌悪している様子だった彼女がそんな綺麗な心を持っているようにはどうしても思えなかった。
どう考えても、彼が脚色しているようにしか思えない。
それか、ベルヘルスの当主に対して猫を被っていたのか。
でも、なんでそんなこと。
自分の夫、しかも皇帝にだってあんなに邪険にしていた彼女が、そこら辺の貴族に対してそんな面倒なことをするとは思えない。
考えられる可能性があるとすれば、何か目的があったということぐらいだ。
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お楽しみいただけると幸いです。