悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

142.魔の物との相対

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どうして、どうして魔物がこんなところに。
この国には魔物が生息していないはずなのに。

そこでハッとした。
そういえば、以前ベリアル殿下から聞いた話を思い出す。
最近最西部に魔物が出没するようになったのだと。

どうして忘れていたんだろう。
ここから近いところの話だったのに。

警戒しつつ、魔物の動向を確認する。
どうやら、相手はまだ私たちに気づいていないようで、目線をあちらこちらに泳がせていた。
しかしそれは、獲物が近くにいることを確信しているような視線の配らせ方だった。

しかし見れば見るほど、それは魔物で間違いなさそうだ。
確か昔読んだ文献の中に、特徴の似ていた魔物が載っていたような気がする。

赤く光る鋭い目に鋭い犬歯。
漆黒の体毛に覆われているが、首の下からお尻にかけて赤い毛が生えている。

それにぼんやりとだが、紫色のオーラのようなものも見受けられた。

いやもうこれ、魔物で間違いないよ。

いまだ、目を光らせている魔物から目を逸らさないようにしながら、ゆっくり静かにその場から離れようと足を動かした。

数歩下がったとき、カサリと何かを踏んだ。
どうやら足元に切れ枝でも落ちていたようだ。
その音をあの魔物が聞き洩らすわけがない。

勢いよくグルンとこちらを向くと、私たちに目掛けて大きな声で吠えた。
その咆哮が怖くて思わず目を瞑った。
だが、その恐ろしさに怯えている暇はなかった。

どうにか足を動かし、魔物からできるだけ離れようとした。
けれど、私の足はそこまで早くない。

このままじゃ追い付かれるのは必然だった。

せめて、この腕の中のこの子だけでもどうにかしないと。

「うさちゃん逃げて!」

そう言ってうさぎを解放した。
おそらく私が抱いているよりも自分で逃げたほうが生存率は高いはずだ。
怯えた様子のうさぎだったが、私をチラリと見やっただけですぐにどこかへ駆けていった。

ホッとしたのも束の間、私も全速力でその場から逃げる。
だが、やはり所詮人は人。

獣より早く走るなんて無理なのだ。
しかも相手は獣よりはるかに勝る魔獣。

すぐに、魔獣の息が首筋にかかるほどの距離まで接近されていた。

どうしよう、逃げられない。

それでも足を動かしていたけれど、どうやら先ほどの追いかけっこで結構疲れていたのかもしれない。
足が縺れ、その拍子に地面に叩きつけられた。

「きゃっ」

痛い。
膝も、そして倒れた拍子についた手も。

だが今は、その痛みにかまけている場合ではない。
急いで立ち上がろうとするが、手が滑ってまたもや地面に叩きつけられた。

その所為で頬を打ったようで顔からも痛みを感じた。
痛い、痛いよ。

泣きそうになるのを何とか我慢し、もう一度起き上がろうと腕に力を入れる。

と、瞬間後ろから魔物の物と思しき吐息と唸り声が聞こえた。

それは先ほどよりも、もっと近づいているような気がした。
まずい。
このまま捕まえられたら、きっと生きて帰れない。

絶対に逃げなくちゃ。
そう思い、魔物がどこまで接近しているのか確認したくて思わず後ろを振り返ってしまった。

それはすでに私を覆いかぶさるほどの距離まで近づいていた。

「ひっ――」

恐怖で声が出ない。
振り返らなければよかったと後悔してももう遅かった。

グルルルと唸る口からは大きな犬歯が綺麗に並んでいるのが見える。
その隙間からよだれがだらだらと垂れ流されていた。

仰向けになり上半身を起こすと、もがくように足を動かしどうにかして魔物から距離を取る。
だが、そんな状態で体を動かしても亀が歩くほどの速さにしかならない。
それでも必死に逃げているその様を嘲笑うかのように、魔物はゆっくりと静かに私の方へ足を動かしていた。
だが、魔物の歩幅が大きすぎるため、いくら必死に足を動かして離れようと藻掻いたところで魔物との距離が変わることはなかった。

しばらくその状態が続いたものの、とうとうその攻防にも飽きたのか、いまだもがきながら逃げようとする私に勢いよく前足を振り上げた。

「いっ――!」

降ろされたその前足だけで私の足全体を捕らえていた。

爪が足を掠め、大きな傷ができた。
そこからだらだらと大量の血が流れている。
それに加え、体重を乗せた前足が私の足を圧迫する。

これはもしかしたら、どこか折れているかもしれない。
しかしそんなことを考えている猶予など、どこにも無かった。

足を押さえつけられれば、もうどこにも逃げることはできない。

どうにかしてその腕から逃れられようともがいてみるが、びくともしなかった。

「うぅ……、いや。離してっ」

魔物の足を両手で掴み、どうにかして持ち上げようとする。
けれど私の力ではびくともしなかった。

「あぁっ、あああぁ!」

そんな私の行為を嘲笑うかのように押さえつけられた前足に徐々に力が入れられていく。
圧迫されていく足の痛みに耐えきれず、悲鳴を上げた。

痛みに耐えることしか考えられず、体を地面に倒してしまう。
それが狙いだったのか、倒れた私の上半身目掛けて、もう片方の前足を私の体へと振り上げた。
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