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第4章
143.悲しさと彼
「うぐぅ」
痛い。苦しい。
胸と首が圧迫され、うまく息ができない。
藻掻いてみても、押さえつける力が強すぎるのかビクともしなかった。
藻掻く私が鬱陶しかったのかまたもや、徐々に力を入れられていく。
さらに苦しくなっていくと同時に、意識も徐々に薄れていく。
私、このまま死ぬのかな。
ああ、でも。
この感覚、昔もあった。
わたしの首を絞めて泣いていたあの時の顔がぼんやりと視界に映る。
悲しそうに泣く、あの子の涙が伝って流れた。
『お前なんかっ! お前なんか死んでしまえばっ!』
苦しそうな顔で私にそう訴えていたあの子をどうにかして助けてあげたかった。
でも、私には何もできなくて。
泣かないで。
そんな顔しないで。
やっぱり、わたしの所為だったんだね。
貴方が泣くのも、苦しむのも。
昔からそうだったって、言ってたもんね。
可哀そうに。
「ユ、ゥッ……。ユー……。泣か、ないで」
私が守ってあげるって約束したのに……。
また、貴方を泣かせてしまって。苦しめてしまって。
ごめん、ごめんね。
涙を拭いてあげたくて、腕に力を込める。
しかし、震える腕はうまく持ち上げられない。
やっと頬に触れそうになったとき、目の前のあの子が吹っ飛んだ。
その手が離れた瞬間口から空気が一気に流れ込みゴホゴホと咳き込む。
何が起きたのかわからず、咳をしながらも視線はあの子から離せなかった。
悲鳴を上げるその子には、体毛が抜け落ち大きな火傷を負っているのがわかった。
どうやら魔法を食らったみたいだ。
「――――!」
名前を呼ぼうとしたが、声が出なかった。
軋む体をどうにか起こしてその子がどうなっているのか確認しようとした。
その時。
「っ! エスティ!!」
声が聞こえ、咄嗟にそちらへ振り返る。
木々の間から人が駆け寄ってくるようなガサガサという音が聞こえ、声の主が現れた。
「!」
そこに立っていたのは、ヴァリタスだった。
いるはずのない彼の姿に目を見開き驚いてしまう。
どうして、彼がここに。
いいえ、でも。
前もこうして助けてくれた。
その姿に安堵したのか、それともその子の悲しみに影響されたのか。
原因はわからないが、涙が溢れて止まらなくなった。
彼は私に駆け寄ろうとしたが、なおも呻き声をあげるそれを警戒し、足を止めた。
それから、持っていた剣を魔物に抜き突き付ける。
十分な距離があるものの、相手は自分の何倍もある巨体。
それに真っ直ぐ立ち向かうのは、普通の貴族子息では持ち合わせていないほどの精神力だった。
彼のそれはおそらく前世の記憶があってこそのものなのだろう。
だけど、その時の私にはその魔物が大切なあの子に見えてしまっていた。
いまだ溢れ出る涙を拭うことも忘れ、彼に懇願する。
「やめて、お願い殺さないで。お願い、おねがい……」
だが、小さな私の声は彼に届くことはない。
それに、この状況でその声が届いていたとしても、攻撃をしなければ自分たちがやられてしまうのは目に見えていた。
再度魔物に攻撃しようと、彼が力を込める。
どこからか風が吹き、彼の髪を揺らした。
彼の足元にはいつの間にか魔法陣が現れ、青白い光を帯びながらくるくると回転している。
彼の持っている剣が、その魔法陣から発せられる光と同じものを纏っているのに気づいた。
どうやら剣に魔法を込めているらしい。
魔法陣と同じくらいの光を纏ったとき、彼は力を込め、容赦なくその剣を魔物へと振り降ろした。
5メートルほどある距離の魔物に、その剣が触れることはない。
しかし、振り下ろした直後、剣から発せられた閃光が空を切り、魔物へと直撃した。
「ギャウンッ!」
当たった瞬間、魔物が悲鳴をあげ、地面に倒れ込んだ。
どうやら先ほど食らった中腹と同じ場所にその魔法は当たったらしい。
だが今度は火傷をしてはいなかった。
魔物の体に当たった途端、カチカチと音を立てながら水もないのに氷がへばりついていく。
その異様な光景に圧倒されていた。
呆気に取られているのも束の間、彼がゆっくりと魔物に近づいていた。
それはまるで先ほどの私と魔物とを思わせるような構図だった。
だが、そんな状況にあっても、私はどうしても魔物を助けなければという感情に支配されていた。
傷ついていくその姿にあの子が重なり、先ほどよりも声を張り上げてヴァリタスに懇願する。
「待って……、お願い!」
それでも彼は私の声を無視し、歩みを進める。
魔物との距離はもうさほどないくらいにまで近づいていた。
彼は魔物の首を捉えると、そこに目掛けて剣を振りかざした。
いや、いやだ!
もう、これ以上はっ!
「バートン!!」
彼の名前を叫んだ瞬間、ヴァリタスの動きが止まった。
一瞬驚いたような表情になったが、瞬時に苦しそうに顔が歪んだ。
彼の姿を捉えたところで、またしても涙が零れて視界がぼやけていく。
思わず両手で顔を覆った。
ヴァリタスはこれ以上私を放置するわけにもいかないと判断したのか、こちらへ駆け寄ってきた。
「エスティっ! ――っ!」
私の足を見て言葉が出なくなったようだった。
しかしそれもほんの少しの間だけで、すぐに何かを思いつくと私の腕を強く引いた。
ふわりと宙に浮いたかと思うと、そのすぐ後にはもう、彼に横抱きにされ、両腕で抱えられた私がそこにいた。
「嫌かもしれませんが、しばらく我慢してください」
所謂お姫様だっこをされたまま、抵抗もせず大人しく彼に抱かれた。
振り返ると、唸り声を上げたまま起き上がることもできず小さく藻掻く魔物の姿が僅かに確認できた。
その姿に、またもや悲しみが押し寄せる。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
私はずっとそう呟きながら、手で顔を覆いおいおいと泣くばかりだった。
この悲しみが何なのか、自分にもわからないままで。
痛い。苦しい。
胸と首が圧迫され、うまく息ができない。
藻掻いてみても、押さえつける力が強すぎるのかビクともしなかった。
藻掻く私が鬱陶しかったのかまたもや、徐々に力を入れられていく。
さらに苦しくなっていくと同時に、意識も徐々に薄れていく。
私、このまま死ぬのかな。
ああ、でも。
この感覚、昔もあった。
わたしの首を絞めて泣いていたあの時の顔がぼんやりと視界に映る。
悲しそうに泣く、あの子の涙が伝って流れた。
『お前なんかっ! お前なんか死んでしまえばっ!』
苦しそうな顔で私にそう訴えていたあの子をどうにかして助けてあげたかった。
でも、私には何もできなくて。
泣かないで。
そんな顔しないで。
やっぱり、わたしの所為だったんだね。
貴方が泣くのも、苦しむのも。
昔からそうだったって、言ってたもんね。
可哀そうに。
「ユ、ゥッ……。ユー……。泣か、ないで」
私が守ってあげるって約束したのに……。
また、貴方を泣かせてしまって。苦しめてしまって。
ごめん、ごめんね。
涙を拭いてあげたくて、腕に力を込める。
しかし、震える腕はうまく持ち上げられない。
やっと頬に触れそうになったとき、目の前のあの子が吹っ飛んだ。
その手が離れた瞬間口から空気が一気に流れ込みゴホゴホと咳き込む。
何が起きたのかわからず、咳をしながらも視線はあの子から離せなかった。
悲鳴を上げるその子には、体毛が抜け落ち大きな火傷を負っているのがわかった。
どうやら魔法を食らったみたいだ。
「――――!」
名前を呼ぼうとしたが、声が出なかった。
軋む体をどうにか起こしてその子がどうなっているのか確認しようとした。
その時。
「っ! エスティ!!」
声が聞こえ、咄嗟にそちらへ振り返る。
木々の間から人が駆け寄ってくるようなガサガサという音が聞こえ、声の主が現れた。
「!」
そこに立っていたのは、ヴァリタスだった。
いるはずのない彼の姿に目を見開き驚いてしまう。
どうして、彼がここに。
いいえ、でも。
前もこうして助けてくれた。
その姿に安堵したのか、それともその子の悲しみに影響されたのか。
原因はわからないが、涙が溢れて止まらなくなった。
彼は私に駆け寄ろうとしたが、なおも呻き声をあげるそれを警戒し、足を止めた。
それから、持っていた剣を魔物に抜き突き付ける。
十分な距離があるものの、相手は自分の何倍もある巨体。
それに真っ直ぐ立ち向かうのは、普通の貴族子息では持ち合わせていないほどの精神力だった。
彼のそれはおそらく前世の記憶があってこそのものなのだろう。
だけど、その時の私にはその魔物が大切なあの子に見えてしまっていた。
いまだ溢れ出る涙を拭うことも忘れ、彼に懇願する。
「やめて、お願い殺さないで。お願い、おねがい……」
だが、小さな私の声は彼に届くことはない。
それに、この状況でその声が届いていたとしても、攻撃をしなければ自分たちがやられてしまうのは目に見えていた。
再度魔物に攻撃しようと、彼が力を込める。
どこからか風が吹き、彼の髪を揺らした。
彼の足元にはいつの間にか魔法陣が現れ、青白い光を帯びながらくるくると回転している。
彼の持っている剣が、その魔法陣から発せられる光と同じものを纏っているのに気づいた。
どうやら剣に魔法を込めているらしい。
魔法陣と同じくらいの光を纏ったとき、彼は力を込め、容赦なくその剣を魔物へと振り降ろした。
5メートルほどある距離の魔物に、その剣が触れることはない。
しかし、振り下ろした直後、剣から発せられた閃光が空を切り、魔物へと直撃した。
「ギャウンッ!」
当たった瞬間、魔物が悲鳴をあげ、地面に倒れ込んだ。
どうやら先ほど食らった中腹と同じ場所にその魔法は当たったらしい。
だが今度は火傷をしてはいなかった。
魔物の体に当たった途端、カチカチと音を立てながら水もないのに氷がへばりついていく。
その異様な光景に圧倒されていた。
呆気に取られているのも束の間、彼がゆっくりと魔物に近づいていた。
それはまるで先ほどの私と魔物とを思わせるような構図だった。
だが、そんな状況にあっても、私はどうしても魔物を助けなければという感情に支配されていた。
傷ついていくその姿にあの子が重なり、先ほどよりも声を張り上げてヴァリタスに懇願する。
「待って……、お願い!」
それでも彼は私の声を無視し、歩みを進める。
魔物との距離はもうさほどないくらいにまで近づいていた。
彼は魔物の首を捉えると、そこに目掛けて剣を振りかざした。
いや、いやだ!
もう、これ以上はっ!
「バートン!!」
彼の名前を叫んだ瞬間、ヴァリタスの動きが止まった。
一瞬驚いたような表情になったが、瞬時に苦しそうに顔が歪んだ。
彼の姿を捉えたところで、またしても涙が零れて視界がぼやけていく。
思わず両手で顔を覆った。
ヴァリタスはこれ以上私を放置するわけにもいかないと判断したのか、こちらへ駆け寄ってきた。
「エスティっ! ――っ!」
私の足を見て言葉が出なくなったようだった。
しかしそれもほんの少しの間だけで、すぐに何かを思いつくと私の腕を強く引いた。
ふわりと宙に浮いたかと思うと、そのすぐ後にはもう、彼に横抱きにされ、両腕で抱えられた私がそこにいた。
「嫌かもしれませんが、しばらく我慢してください」
所謂お姫様だっこをされたまま、抵抗もせず大人しく彼に抱かれた。
振り返ると、唸り声を上げたまま起き上がることもできず小さく藻掻く魔物の姿が僅かに確認できた。
その姿に、またもや悲しみが押し寄せる。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
私はずっとそう呟きながら、手で顔を覆いおいおいと泣くばかりだった。
この悲しみが何なのか、自分にもわからないままで。
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’20.3.17 追記
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お楽しみいただけると幸いです。