悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

146.安堵と裏側

はぁ、どうしよう。
このままここにいて助けが来るような感じは全くしないのに。

どうにかして、彼をこの場から去るようにしないと。
彼まで道連れになってしまったら遅いのに……。

徐々に私の中でも焦りが湧き始めたときだった。

ガサゴソと何かが近づいてくる音が聞こえた。
ハッとして、2人で体を強張らせた。

ヴァリタスは咄嗟に鞘に手を掛けて身構えた。
その正体が現れるまで、2人で音のする方を凝視していた。

その音は徐々に大きくなっていき、ぼんやりと輪郭が見え始めるとそれが人の形をしていることに気が付いた。

良かった、人だ。

少し安心した私とは異なり、ヴァリタスは警戒を解くことはなく身構えたままだった。
彼の変わらぬ姿勢を見た途端、何かあるのかと不安になる。

私たちがいることに気が付いていないのか、その人影は迷いなく真っ直ぐこちらへ近づいていた。

そして等々、草むらからその姿を現した。

「エスティ! と、ヴァリタス殿下?! どうして貴方がここに……」

「お、お兄様!」

そこには血相をかえたお兄様が立っていた。
驚いた顔ではあったが、顔色が酷い。
どうやら相当心配させてしまったようだ。

人影の正体がお兄様としってホッとしたのは私だけではなかったようだ。

先ほどまでの態度とは打って変わり、柔和な笑みを浮かべている。

「さきほど屋敷に軍の方が来て、ここの森に魔物が逃げ込んだと連絡があったんだ。お前にも知らせようとしたんだが、屋敷のどこにも姿が見えなくて。でも良かった。見つかって」

「お兄様……」

まくしたてるように話すお兄様はいつものお兄様らしくない。
それほどまでに心配をかけてしまったのだということだ。

これなら置手紙でもしてくればよかった。
まぁ、そんなことしても大して変わらなかったのだろうけど。

「お、お前! 足を怪我してるじゃないか!! それに体中泥だらけで……」

今更気づいたのか、先ほどよりもさらに驚いていた。
私の方へ駆け寄ると肩を掴まれた。
私を心配するように体をあちこちに視線を巡らせ、怪我がどれほどのものなのか確認しているようだった。

私の肩を掴んだ両手が、小刻みに震えているのが分かった。

「応急処置はしましたが、私もそんなに治癒魔法が得意なわけではありません。早く治療してあげないと」

「え、ええ。とりあえず屋敷に戻りましょう」

追い打ちをかけるようにヴァリタスがそう告げると、不安そうな顔をしながらも彼の言葉に頷いた。

やっと屋敷に帰れる。

屋敷を出て行ってからそんなに時間が経っているわけでもないはずなのに、すごく長い時間森にいたような感覚がした。

ヴァリタスに負ぶられ、お兄様についていく形で森を抜ける。

安心したからか、先ほどと同じように意識が徐々にぼんやりとしてきた。
瞼が重い。
寝てしまいそうだ。

と、その時。
何かの気配を感じ、そちらへ眼を向けた。

そこには、先ほど捕まえたうさぎを見つけた。

相も変わらず純白の羽毛に天色の瞳が美しい。

良かった、無事だったんだ。
その事に安堵した途端、私は意識を手放していた。


    ***


「全く、一体どういうつもりなのですかねぇ。この子は」

青い水晶に映し出された映像には、先ほどまで魔物と人との追いかけっこが映し出されていた。
本当に何かありそうになったのなら、あそこにいたこの子がどうにかしていたのだろうとは思うが、それにしたってあんな大怪我を負わせても何もしないなんて。
大きくため息を吐き、呆れたように呟く。

「本当に白龍なのですかねぇ。だとしても、あの状況で助けに行かないのなら、ただのポンコツだとしか思えませんが」

そんな彼女の声が届いたのか、それは耳を垂らし弱弱しく「キュウ」と短く鳴いた。

「なんですか? あの人に気づかれたくなかったから助けなかったのですか? それでも気づかれないようにするぐらいの努力ぐらいはできたでしょうに」

更に呆れる彼女に、それは言葉も出ない様子で落ち込んだ。

「せっかくあの方と会う機会を与えられたのに、ただ単に遊んだ挙句、魔物のところまで案内するなんて、もしかして貴方も本当はあの方の事……」

そう彼女が探りを入れた瞬間、それは怒ったように耳を立て水晶ごしに彼女を睨みつけると「キュウキュウ」とけたたましく鳴き始めた。
抗議のように勢いよく鳴き続けるそれに、彼女もうんざりしたように言葉を返す。

「はいはい、そんなに言わなくてもわかってますよぉ。黒龍の次に人嫌いの白龍、しかも成獣である貴方がそれでも会いたいと思うほどの相手のことを嫌っているはずないですもんね」

彼女から発せられた言葉にうなずくように「キュウ」と一言鳴いた。
心なしか呆れたような鳴き声だった。

「で、どうだったんです? あの方は貴方にとって守るに値する人でしたか?」

その問いをそっぽを向いて無視すると、それの体が眩い光を放った。
徐々に変化していく体は、先ほどの体の何十倍もありそうな大きさに変わっていた。

体が木々をなぎ倒し、形が定まると全身を包み込む光が四方に散らばり、その姿が露わになった。
それは美しい、純白の成獣だった。

開いた瞳は空を映したような天色。

白龍は真っ直ぐに彼女を見つめると、直接彼女に語りかけた。

〈あの方を守る理由など、はじめから決まっています。あの方はきっと、何度生まれ変わっても、変わらずこの世界を愛してくれることを私たちは知っていますから〉

それは美しい、大人の女性の声のように聞こえた。
小気味の良い、いつまでも聞いていたいような綺麗な声だった。

しかし、その言葉を聞いても彼女は顔を顰めるだけだった。

「愛、ねぇ」

呆れたような、少しイラついたように彼女は呟く。

その言葉に白龍は目を細めた。

〈分かっています。あの方に愛してもらえるほど、この世界の、この国の人々はあの方を愛してくれないことを。ですから、もし〉

〈もしまたこの世界の人々があの方を傷つけるのならば〉

〈必ずこの国を、滅ぼしてみせましょう〉

その声は美しく、綺麗で。

とても冷たく残酷な一言だった。

その言葉を聞いた彼女は、ニヤリと薄気味悪く口角を上げた。
それはとても楽しそうな笑みだった。

「それはそれは、とても楽しみですねぇ」
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