悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

152.お願いだから、手放して

「貴方もきっと私の前世を知ったら私から離れていくっ。私の事嫌いになって、殺したいほど憎むでしょう。なのにどうして言うの? 私、もう誰にも嫌われたくない。もう誰にも拒絶されたくないの!」

涙を瞳の端に浮かべながら、それでも堪えた自分をほめてあげたい。
こんなに彼に感情をぶつけたのは初めてだった。

本当はこんなことを言ってしまえば、さらに彼に勘繰られてしまう危険性があることなどわかっている。
分かっていても、止められなかった。

それは彼に自分の前世に気づいてほしくないという気持ち以上に、私はきっと、彼に嫌われたくないという気持ちの方が大きかったのだと思う。

本当は、誰かに必要とされたい。
誰かに好きだと思われたい。
その気持ちに甘えてみたい。

でもそんなことをして、また絶望したくない。

自分の事を知られれば知られるほど、あの痛く寂しい前世が足枷になっていく。
いつか、私を想ってくれる人に知られてしまうのではないか。
そしてまた、見捨てられてしまうのではないか。

そんな不安が胸を締め付けて、信じたいのに、好きになりたいのに。
必要だと言いたいのに、言われてみたいのに。

そんな風に思う事さえも、怖くなってしまう。

そんな矛盾した気持ちが織り交ざって、ぐちゃぐちゃになって。
自分でもどうしていいのかわからなくなる。

「……エスティこそ、本当は自分の前世を嫌いなのではないですか? だから、僕にそんなにきつく――――」

「貴方と一緒にしないでください。私は自分しかいません。ですから、私を嫌いになんてなりません」

彼の言葉を遮るように発せられた言葉は、感情の一切籠らない、冷たい声だった。
そんな声が自分から出てきたことに私自身驚いた。

しかしそれは、無意識に出てきた予防線のようなものだった。

誰かを求めていても、誰も求められない私には、こうして突き放す事が精一杯なのだ。
こうやって強がって、誰も近づけられないようにすれば、もう何かに期待することもない。

そんなの、分かっているのに。
どうして、私は誰かを期待してしまうのだろう。

彼の事を見るのが怖くて、暗闇の方へと視線を向ける。

私の拒絶を現した声に圧倒されたのか、彼はその沈黙を破ることはなかった。

私は更に彼に念を押すように続けて口を開く。

「だから誰も好きにならない。もう、自分以外の人の感情で振り回されたくないの。私はただ、私のためだけに生きていきたいの」

「……さっきと言っていることが違うような気がするのですが」

流石に、私の矛盾点に気づいたのか、彼はその言葉に反論する。
しかし、そんな言葉では私の思惑を止めることなどできない。

「何も違ってなどおりません。だって誰かと関わらなければ、そんなことを感じることなどありはしないでしょう?」

ガタン。
言い終えた途端、何かが倒れる音がした。
その音に驚きそちらの方へと目を向けると、座っていたはずのヴァリタスがそこで立っていた。

どうやら勢いよく立った衝撃で、椅子が倒れたらしい。
俯いた彼の顔からでは表情が確認できないが、怒っているのはなんとなくわかった。

「そんな、そんな寂しい人生など、生きていて何になるのですか? 僕はそんな人生を貴方に送ってほしくなどありません!」

彼から発せられた言葉に、耳を疑い、思わず目を見開いた。

怒鳴ったときの彼の顔は悲痛に歪んでいる。
まるで痛みに苦しんでいるようなその表情に、彼の優しさを感じた。

その時になってようやく、その言葉がスッと胸の中へと落ちてきた。

途端に、目じりに涙が滲んでいくのがわかる。

ああ、この人は。
どこまでも優しい人なのね。

だって私、さっきから痛いほど貴方を拒絶しているのよ。

それなのに、まだ私にそんなに優しくできるなんて。

だから嫌なのよ。

貴方のそばにいるのは。
いつか知られて、嫌われた時、とてつもない絶望に胸を焼かれてしまうのではないかって。

不安で不安で仕方ないの。
だから、もうこれ以上私が貴方を求めるようなことを言わないでほしい。

これ以上、期待させないでほしい。

「エスティ、お願いですから、もう少し自分に優しくなってください」

柔らかく、包み込むような優しい声色だった。

その声と同じように、回された手が私の肩を優しく包んだ。

ずっと我慢していた涙が、ぽつりぽつりと落ちていく。
頬を伝って落ちた雫が布団を濡らしていく。

一層強く布団の裾を握り、顔を見られないよう俯くことしか私にはできなかった。

「ねぇお願い。お願いだから、私の事嫌いにならないで。私の事なんてどうでもよくなって、私から離れて行ってよ。そして私もう、私に何も期待させないでよ……」

懇願するように発せられた言葉がうまく彼に届いているのかわからない。
それでも、その願いが彼に届いて、叶えてほしくて、どうにかして声を絞りだした。

「お願いだから、1人で生きさせてよ……」

その言葉に彼が応えることはなかった。

肩を抱いてくれていた手の温もりはもうそこにはなく。
いつの間にか彼の手は私から離れてしまっていた。

まるで、私の思いに応えられないとでも言っているように。
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