悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

159.驚きの登場方法

しかし、困ったわね。
せっかく着飾ってきたのに、無駄足になってしまった。

よく宮殿に出入りしている身とはえい、王族に会うのだから身なりはキチンと整えなければならない。

加えて私は女だから、身支度には相当の時間が掛かるわけで。
しかし、まさかまだ帰ってきていないとは思わなかったわ。
これでは私や支度を手伝ってくれた、メイドたちの労力が無駄になってしまったわね。

仕方ない。
今日はここで帰ろう。

……と、その前に。

外に誰もいないことを確認し、こっそり応接室を出た。
早足で廊下を過ぎていくと、とある場所へ向かう。

私の目的は言わずもがな、龍宮だ。
どうしても黒龍に会って話がしたいと思っていたし、今はヴァリタスもいないから動きやすい。
別に堂々と龍宮に向かえばよいのだが、もし黒龍と会っていたことがヴァリタスにバレたらそれはまた厄介なことになるような気がしてならないのだ。
ただでさえ、この間まずいことを口走ってしまったばかりなのに。

それにしても、この宮殿にいるとなんだか落ち着かない気持ちになるのはなぜかしら。
歩き回る傍ら、ちらちらと宮殿内を見渡しているとどこか嫌な感じを覚えた。

はじめは大昔に住んでいたから、その時の辛い気持ちが蘇ってしまって落ち着かないのかとも思っていたのだが、今の宮殿はその頃とは全く様相が異なっている。
まぁ、リヴェリオ当時から使っていた建物を使いまわしているとはいえよく考えればあれから200年も経っているのだし、当たり前といえば当たり前なのだが。

でも、なんだか空気、というか雰囲気が好きじゃないのよねぇ。
なぜかしら。

っと、そんなことを考えている場合じゃない。
もし宮殿の人たちに私が居なくなったことがバレたら大騒ぎになってしまう。

ああ、これならやはり応接室に散歩してくるって書置きでもしてくればよかった。

ええい、過ぎてしまったことは仕方ないわ。
早く彼を見つけて話をしなければ。

「……迷った」

なんでこの宮殿こんなに広いのよ!

昔ヴァリタスに教えてもらった龍宮の場所へと急いでいたのだが、如何せんあんまり詳しく聞いていなかったものだからざっくりした方向しかわかっていない。
それに加えて、広すぎる宮殿。

完全に迷ってしまった。

うう、どうしよう。
これじゃあ、龍宮に辿りつくのが目的じゃなくて、家に無事に帰ることが目的になってしまいそうだわ。

思い返してみれば、今まで宮殿に来たときは案内してくれる人がいつもそばにいたわね。
だから迷いもしなかったし、あとをついていけばいいだけだったから自分で道を覚えようなんて意識もしてこなかったわ。
ああ、そんなことが仇になるだなんて。

本当にどうしよう。
思わず俯いたとき、自分の右手が視界に入った。。

そこで、ある事を思い出した。

そういえば、黒龍が私になにか魔法を掛けていたわよね。
確か困ったときに、自分を強く思ってほしいとかなんとか言っていたような。

なんだかどういう魔法なのかは私にはよくわからないけれど、それをやってみようかしら。
でも本当に強く思っただけで、助けてくれるのかしら。

ええい、ままよ!

胸の前で右手を左手で包む込むように握ると、強く彼の姿を思い出す。

お願い、私の前に現れて。
私と貴方を出逢わせて!

ぎゅっと目を瞑り、祈るように彼を求める。

お願い、できるなら私の目の前に現れて!
そう思った瞬間――――。

『ち、ちょっと主様! そんな事でその魔法を発動させようとしないでよっ!』

突然聞こえたきた声に驚き、パッと目を開けると周囲を見渡す。
しかし、どこを見ても私の周りには誰もいなかった。
ただ、遠くまで伸びる廊下が続いているだけだ。

『少し待っていて主様、今迎えにいくからっ』

もう一度声が聞こえ、聞き間違えではないようだ。
しかし、やはりどこを見渡しても、誰もそばにはいなかった。

首を傾げ、とうとう自分がおかしくなってしまったのかと疑いたくなったその時。

突然どこからか風が吹き荒れた。

「な、なにっ⁈」

その強い風に、咄嗟に腕で顔を庇う。
廊下は完全に窓が締まっていて、風が入り込む余地などどこにもない。
それなのに、風がどこからか吹いているのだ。

いや、どこからかじゃない。
私のすぐ目の前で、渦を巻くように風が生まれている。

その光景にあんぐりと口を開け、間抜けに驚いていると。
一層強い風が吹き荒れ、思わず目を瞑った。

瞬間、パッと何事も無かったように風が止んだ。

恐る恐る顔を上げる。

すると先ほどまで風が渦を巻いていた場所に、彼、黒龍が立っていた。

相変わらず美しい黒髪に天色の瞳を携えた少年姿の彼は、まるで作りもののような神秘を纏っている。

「もう主様ったら。魔法が使えないのも考えものだね」

少し怒ったようにそういうと、私に近づいてきた。

「大丈夫? もう怪我はいいの?」

背伸びをして私の頬に手を添える。
心配そうに見つめる瞳は、どこか寂しげに揺れていた。

「えっ? なんで知って……」

思わず彼の綺麗な顔に惑わされて、今の言葉をスルーしてしまうところだった。
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