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第4章
163.魔法仕掛け倉庫
無意識の内に自分の指が動いていたのに、私は気づかなかった。
地響きのようなゴゴゴゴゴゴゴという轟音と共に、目の前のレンガが何かの法則で動かされているかのように、規則正しく横にズレていく。
真っ黒な空間が私の前に広がったとき、はじめて何が起きたのかを理解した。
いや、厳密にいえば現実に引き戻された、という方が正しい。
それほどまでに、私は記録としてしか残していなかったような記憶に、心を奪われていたのだ。
狂おしく愛おしいものを思い出していた。そしてその感情に囚われていたから。
「えっ?」
てっきり扉でも現れるのだと思っていた私からしてみれば、いきなり現れた暗闇に驚くとともにその闇の深さに身じろぎしてしまう。
しかし、脇に控えていた彼は私とは違い、その現象にとても喜んでいた。
「やったね、主様! これでこの建物の中に入れるよ!」
彼から発せられた言葉は、非常に陳腐なものだった。
まるで子供が行う演劇の台詞の1つのような。
しかし、彼のその声色や私に見せる笑みから、心から喜んでいることがわかる。
前に彼は、できれば私の記憶が戻らなければ良いと、そう言っていた。
だから、この場所に連れてこられた時から、彼が私を騙しているのではないかという疑念をずっと抱いていた。
そんなこともあってか、彼の事を心の底から信用しているか、と問われればそれは否と答えるだろう。
だけど、彼から感じるリヴェリオに対する敬愛は本物だと思う。
それは出会った時、本能的に感じたものだ。
だから根拠なんて一切ない。
でも、信用するのに値するほどの存在なのだと信じるのに、理由はそれだけで良いのではないかと思った。
けれど今、彼を信じた結果、よくわからない状況に落とされている。
この後どうすればよいのだろう。
現れた暗闇に思考先を戻し、苦悩する。
思わず視線を落とした足元の先に、下に続く階段があることに気が付いた。
それは深く、暗闇へと続いている。
はっきり言って、行きたくない。
この先に何が待っているのか、見当もつかない私には目の前に広がるそれは恐怖の対象だ。
けれど、おそらく、リヴェリオに関する何かがこの先にはあるのだと思う。
きっとそれは、私の記憶を思い出す、大事な鍵となるのではないだろうか。
行こうか、行かまいか。
恐怖と渇望がない交ぜになって動けなくなってしまう。
そんな私の躊躇いに気付いていたのだろう。
入口の前で一人考えこんでいる私の脇を素通りすると、黒龍はその階段へと一歩踏み出していた。
深淵へと続くのではないかと思えるほどの暗闇へと歩みを進めた彼に、少しばかり顔を顰めてしまう。
怖くないのだろうか。
いや、怖くなんてないのだろう。
私とは違い、彼はこの先に何があるのか知っているのだから。
数段階段を降りるとふと立ち止まり、私へと振り返ると安心させるように微笑んだ。
「僕が灯りを持って先に行くから、主様は安心してついてきて」
いつの間にか、彼の右手にはランプが握られていた。
魔法か何かで出現させたのだろう。
彼の笑顔を見ると、疑っている自分がいることに申し訳なくなる。
もしかしたら、そんな私を知っていて彼は笑っているのかもしれない。
彼のその言葉に従うように、私も一歩、階段へと足を踏み入れた。
すると彼は一層笑顔になり、前へ向き直ると先に階段を降りていく。
コツコツと2人分の足音が響いた。
後ろでレンガが静かに閉まっていく音が聞こえたが、振り返りはしなかった。
彼がいるなら、もうそこに恐ろしさはなかった。
「それにしても本当に良かったよ。怒って帰る、なんて言われたらどうしようかと思ったから」
「なにそれ、どういうこと?」
降りていく先の見えない階段は、先に彼がいるとはいえ、怖いわけではない。
いつ着くのかも見当がつかないため、やはり進んでいくごとに恐怖が胸の内に湧いてくる。
そんな私を気遣ったのか、彼は唐突にそんなことを言いだした。
「この建物には仕掛けがあるんだ」
「そんなの、今さっき見たわ」
「違う違う、入口の事じゃなくて」
そういうと、彼は階段を降りながらこちらに振り返った。
その行動に危ないと思い口に出そうとしたが、振り返った彼が楽しそうにニヤリと笑っており、思わず口を噤んでしまう。
何かを企んでいるような、そんな笑みではあったが、無邪気で可愛らしいそれは一切の悪意がなかった。
「この場所は主様にとってすごく大事な場所なんだ。だからね、誰も近づかないように、普段は魔法で見えなくしてあるんだよ」
「へぇ~」
そんな仕掛けがしてあったなんて気づかなかった。
もしかしたら、昔ヴァリタスとお花畑に行ったときも、本当はこの建物を認識できるほど、近くにいたのかもしれない。
ただ、見えてなかっただけで。
そう思うと、私が見ている世界は、本当はそんなに多くないのかもしれない。
「それともう一つ」
ん?
他にもなにかあるの?
もはや仕掛けすぎてこの建物は魔法の屋敷みたいになっているのではないだろうか。
地響きのようなゴゴゴゴゴゴゴという轟音と共に、目の前のレンガが何かの法則で動かされているかのように、規則正しく横にズレていく。
真っ黒な空間が私の前に広がったとき、はじめて何が起きたのかを理解した。
いや、厳密にいえば現実に引き戻された、という方が正しい。
それほどまでに、私は記録としてしか残していなかったような記憶に、心を奪われていたのだ。
狂おしく愛おしいものを思い出していた。そしてその感情に囚われていたから。
「えっ?」
てっきり扉でも現れるのだと思っていた私からしてみれば、いきなり現れた暗闇に驚くとともにその闇の深さに身じろぎしてしまう。
しかし、脇に控えていた彼は私とは違い、その現象にとても喜んでいた。
「やったね、主様! これでこの建物の中に入れるよ!」
彼から発せられた言葉は、非常に陳腐なものだった。
まるで子供が行う演劇の台詞の1つのような。
しかし、彼のその声色や私に見せる笑みから、心から喜んでいることがわかる。
前に彼は、できれば私の記憶が戻らなければ良いと、そう言っていた。
だから、この場所に連れてこられた時から、彼が私を騙しているのではないかという疑念をずっと抱いていた。
そんなこともあってか、彼の事を心の底から信用しているか、と問われればそれは否と答えるだろう。
だけど、彼から感じるリヴェリオに対する敬愛は本物だと思う。
それは出会った時、本能的に感じたものだ。
だから根拠なんて一切ない。
でも、信用するのに値するほどの存在なのだと信じるのに、理由はそれだけで良いのではないかと思った。
けれど今、彼を信じた結果、よくわからない状況に落とされている。
この後どうすればよいのだろう。
現れた暗闇に思考先を戻し、苦悩する。
思わず視線を落とした足元の先に、下に続く階段があることに気が付いた。
それは深く、暗闇へと続いている。
はっきり言って、行きたくない。
この先に何が待っているのか、見当もつかない私には目の前に広がるそれは恐怖の対象だ。
けれど、おそらく、リヴェリオに関する何かがこの先にはあるのだと思う。
きっとそれは、私の記憶を思い出す、大事な鍵となるのではないだろうか。
行こうか、行かまいか。
恐怖と渇望がない交ぜになって動けなくなってしまう。
そんな私の躊躇いに気付いていたのだろう。
入口の前で一人考えこんでいる私の脇を素通りすると、黒龍はその階段へと一歩踏み出していた。
深淵へと続くのではないかと思えるほどの暗闇へと歩みを進めた彼に、少しばかり顔を顰めてしまう。
怖くないのだろうか。
いや、怖くなんてないのだろう。
私とは違い、彼はこの先に何があるのか知っているのだから。
数段階段を降りるとふと立ち止まり、私へと振り返ると安心させるように微笑んだ。
「僕が灯りを持って先に行くから、主様は安心してついてきて」
いつの間にか、彼の右手にはランプが握られていた。
魔法か何かで出現させたのだろう。
彼の笑顔を見ると、疑っている自分がいることに申し訳なくなる。
もしかしたら、そんな私を知っていて彼は笑っているのかもしれない。
彼のその言葉に従うように、私も一歩、階段へと足を踏み入れた。
すると彼は一層笑顔になり、前へ向き直ると先に階段を降りていく。
コツコツと2人分の足音が響いた。
後ろでレンガが静かに閉まっていく音が聞こえたが、振り返りはしなかった。
彼がいるなら、もうそこに恐ろしさはなかった。
「それにしても本当に良かったよ。怒って帰る、なんて言われたらどうしようかと思ったから」
「なにそれ、どういうこと?」
降りていく先の見えない階段は、先に彼がいるとはいえ、怖いわけではない。
いつ着くのかも見当がつかないため、やはり進んでいくごとに恐怖が胸の内に湧いてくる。
そんな私を気遣ったのか、彼は唐突にそんなことを言いだした。
「この建物には仕掛けがあるんだ」
「そんなの、今さっき見たわ」
「違う違う、入口の事じゃなくて」
そういうと、彼は階段を降りながらこちらに振り返った。
その行動に危ないと思い口に出そうとしたが、振り返った彼が楽しそうにニヤリと笑っており、思わず口を噤んでしまう。
何かを企んでいるような、そんな笑みではあったが、無邪気で可愛らしいそれは一切の悪意がなかった。
「この場所は主様にとってすごく大事な場所なんだ。だからね、誰も近づかないように、普段は魔法で見えなくしてあるんだよ」
「へぇ~」
そんな仕掛けがしてあったなんて気づかなかった。
もしかしたら、昔ヴァリタスとお花畑に行ったときも、本当はこの建物を認識できるほど、近くにいたのかもしれない。
ただ、見えてなかっただけで。
そう思うと、私が見ている世界は、本当はそんなに多くないのかもしれない。
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ん?
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