悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

165.初めて、貴方だけ

「ごめんね。でもどうしても感じたかったんだ」

私が悩みはじめたことに気づいたのだろう。
彼は静かに笑いながら、私に謝罪した。

しかし、その声と表情には、拭いきれない寂しさが媚りついていた。

「主様がここにちゃんといるんだって。目の前にちゃんと、存在しているんだって」

今にも泣いてしまいそうな彼の顔に目が離せない。

こんなにも私を求めてくれる人がこの世にいたことに、どうしようもない感情が溢れてきてしまっていた。
ただ、この感情が何なのか私にはわからない。

もしかして、これが誰かに思われることへの喜びというものなのだろうか。

しかし、それだけでは説明がつかない。
だってミリアにだってお兄様にだって、同じようなことをしてもらっている。

それなのに、こんなに胸が暖かくて締め付けられるような感情なんてなかった。

こんな苦しさなんて、私は知らない。

「本当はね、こうこの世に生まれてきてほしくなんかなかった。だって、きっと主様はまた苦しい思いをしてしまうってわかってたから。でも、それでも……」

今まで視線を逸らしていた彼が、ゆっくりとこちらに向き直る。
真っ直ぐ見つめられたその瞳に、目が離せなかった。

「それでもやっぱり、会いたかったんだ」

苦しそうで、辛そうで。
でも心の底から歓喜している。

彼の表情から、そんな感情が伝わった。

ああ、そうか。

どうしてこんなに苦しいのか。

どうしてこんなにうれしいのか。

やっとわかった。

はじめて、リヴェリオを大事だと。
リヴェリオの事を大切だと言ってくれたからだ。

それが、どうしようもなく嬉しくて、堪らないんだ。

目を細めるしか、私にはできない。
涙なんて流してしまったら、きっと彼は困ってしまうだろうから。

「ずっと貴方は、私の事を待っていてくれたの?」

それでも伝えたい。
彼がくれたこの気持ちを。

俯き、堪えても声の震えをごまかすことはできなかった。

「私、本当は貴方の事、疑ってた。神様とか教皇とか、そんな綺麗なものが私を守ってくれるなんておかしいって。貴方も、私が思い出すことを嫌がっていたから。だから、本当は、わたしのこと、誰も待っていないんじゃないかって。ずっと……」

ずっと。

きっとずっと、誰も信じられなかったんだ。

本当はこんなこと、言うつもりなんてなかった。

だって口に出してしまえば、本当になってしまうような気がしたから。

以前彼が言ってくれた言葉は優しかったけど。
分からないことが多すぎて、本当に信じて良いのかわからなかった。

だからきっと、彼をどこか疑いの目で見ていたのだろう。
その後ろめたさにさえ、私は目を逸らしていたのだと思う。

そんな自分が情けなくて仕方ない。

「主様……」

優しい声と同時に、柔らかいものに包まれる。

彼の腕が私の首にまわって。
小さな体が私を包んでくれていた。

「ごめん、ごめんね……。そんな風に思っていたなんて知らなかった。僕たちがもっとちゃんと主様を守っていられたら、そんな苦しみなんて主様は知らずに済んだのに」

「ごめんね」と繰り返す彼に、どうしていいのかわからない。

こんな優しさしらない。
こんな温もり、知らない。

だって今まで誰も、そんなものくれなかった。

本当の私を知っていてもなお、こんなに思ってくれる人なんて。

きっと誰1人いないんだろう。

どうして。

どうして、私はずっとこの温もりを手に入れられないのだろうか。
どうして、私だけ……。

瞬間、我に返る。

駄目だ。これは。

彼の体を無理やり引きはがし、距離を取る。

驚いた彼の顔を見て可哀そうだと感じたが、そんなことを思っている場合ではなかった。

これは駄目なんだ。

この感覚を覚えてしまってはいけない。

覚えてしまえば、引き返せなくなってしまう。
欲しくなってしまう。
心の底から。

それは駄目だ。
駄目なのだ。

そんな風になってしまえば、きっと引き返せない。
どうしようもなく寂しくて、泣いてしまう。
それが怖い。

そんな風に一生を終えるような気がして、怖い。

手に入るはずもないものをずっと求めて彷徨うなんて。
そんな人生耐えられない。

きっとそれが、黒龍で我慢できるものならよかった。
彼で満足できるものなら、どれほど。

でも、私が求めるのはきっと、人間だ。

愛を与えてもそれが苦にならない人。
そんな人を求めるのだろう。
現れるはずもない、その人を。

「嫌だったよね。本当にごめんね」

私が無理やり引きはがしたことに、きっと彼は傷ついている。
それなのに、尚も優しい言葉で、声で、私を気遣ってくれていた。

彼の事が見れない。

その言葉を否定しておくべきだったと思う。
しかし、どうしても返す余裕なんてなかった。

歩き出そうとした彼とは違い、苦しさに支配された私はそこから動くことができないでいた。

ふいに、彼は私の手を優しく握ってくれた。
そして連れ出すように引っ張ってくれていた。

強く握られているものの、そこから伝わる温もりはどうしようもなく優しくて。
なんてもったいないのだろうと思った。

「着いたよ主様」

その声にゆっくり顔を上げる。
そこは初めてみるはずなのに、とても懐かしくて。
そして、とても悲しい気持ちになった。

「ようこそ、貴方の、貴方だけのお城へ」
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