悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

167.聖ウィリシアス教会

以前彼女が風邪で倒れたとき、意識が朦朧とした中であの方の名前を呟いた瞬間を今でも覚えている。
あの方の名前を呼んだ時、おそらく彼女は僕と同じ時間を生きていた人なのだと確信した。

それがどうしようもなく恐ろしかった。

けれど、彼女の前世が誰なのか僕にはわからなかった。

あの方の名前を敬称なしで呼ぶくらいだから、王族に連なる方だとは予想していたが、それでもしっくりくる人がいなかった。
悪逆皇帝の父である先王か、それとも母君の方か。
そう考えたが、どちらとも違うような気がした。

ならば騎士か貴族の中の誰かなのか。

しかし答えは出てこない。

前世の婚約者であるレイリーなのではとも疑った。
だが彼女はあの方を敬称なしで呼ぶような礼儀のない人ではない。

ならば聖女候補にもなったメイリアス殿下か。
彼女ならば生まれ変わってもおかしくはないのだろう。

だが、彼女が自身の夫に対して行っていたあの言動を思うと、生まれ変わることのできる器ではないだろう。

ならば。
そう考えて首を振る。

彼が生まれ変わることなど、ありえないことだ。

神に愛されるようなことを、彼はしていない。
悪魔に愛されるようなことは、していたと思うが。

確かに、彼は優しかった。

おそらく今この国の長になれば、多くの人々に愛される王となっただろう。
しかし、あの時代で彼の優しさは愚王になる道のみを示していた。

その結果が、貧困と革命だった。

多くの民に忌み嫌われた人物が転生などできるはずもない。

思いついていた候補は、僕の中で潰えた。

はずだった――――。

彼女に名前を呼ばれた瞬間、ある人物の姿が頭の中で蘇った。

正確には、思い出されたという言葉の方が正しいか。

今まで一瞬たりとも思い出すことのなかったその姿に、なぜ彼女の存在が頭から抜けていたのか理解できなかった。

それほどまでに彼女は生まれ変わるのに相応しく、彼女の前世として最も可能性の高い人物だったというのに。

おそらく、エスティの前世は。
美しく、僕らを癒してくれていた、彼女なのだと思う。
それは憶測の域をでないものではあるが、確信できる人物であった。

それならば、僕と婚約を破棄したいと願っているのにも納得できる。

それに、彼女の魔力が全くないことにも。

窓の外をぼんやりと見つめながら考えていたのだが、ふとその景色が見覚えのないものに変わっているのに気が付いた。
てっきり当初の予定通りの視察先である、ウエリアの森へと再び赴くのだと思っていたのだが。

「兄上、今私たちはどちらに向かっているのですか? ウエリアの森に行くのだと思っていたのですが」

「なんだ、お前、今どこに向かっているの知らずに乗っていたのか?」

どうやら兄上は知っていたらしい。
そういえば馬車に乗り込む前にそばにいた騎士が何か言っていたが、エスティの事を考えていたために聞き逃していた。

「今私たちが向かっているのはな、聖ウィリシアス教会。エヒム教の本部だよ」

「えっ?」

兄上は心底つまらなさそうに窓の外を見つめながら答えた。

なぜ、どうしてエヒム教の本部なんかに僕たちが……。

しかしその答えは、兄上も知らないようだった。



相変わらず、無駄に大きな神殿である。
大きな支柱が何本も建てられたその外観は、その純白さと相まって威厳と神秘さを兼ね備えた芸術品のようだった。

教会と向い合せに立てられたそれを横目に、僕らの目的地である聖ウィリシアス教会へと足を踏み入れた。

神と対話するための場所として建てられた神殿が、

とはいえ、神殿に引けを取るとはいっても教会自体もなかなかの煌びやかさだった。

まるでどこかの金持ちの王城と言われれば信じてしまえるほどの外観の美しさ。
真ん中の塔を中心に対照的に並べられた塔が2本、合わせて5本の塔を合わせたような作りで、真ん中より少し上の位置にはステンドグラスらしき窓が見受けられる。
真っ白ではないが、薄茶色に染められた外観は、どこか歴史を感じさせる威厳を漂わせていた。

正に神聖なる神が宿り、最高位聖職者である教皇のいるべき城といったところか。
そういえば神殿には聖女もいるのだと聞いたとこがあったような。

いや、そんなことはどうでもいい。

問題は僕たちがなぜこんなところに連れて来られたのかということだ。

シスターらしき女性に中を案内される。
途中の廊下であっても所せましと装飾された内部は視線を漂わせるのも疲れそうで、先を歩く兄上の背中ばかりを追っていた。

5分程歩かされただろうか。

そこは純白の扉の前だった。
扉は所々光の加減できらきらと光っており、おそらく宝石か何かを装飾として埋め込んでいるのが見て取れた。

ここまでくると、我が宮殿より金を使って建てたのではないかと邪推してしまう。

シスターが扉を開け、中へと通された。

薄暗い中を歩いていたためか、扉を開けた瞬間に差し込んだ光に思わず目を顰めた。

扉と同じ、純白の内部。
数秒で目が慣れ、部屋の中を確認すると誰かが椅子に腰かけているのがわかった。
そこに座っている人物も部屋と同じように真っ白な衣装を身に着けている。

「あ、貴方はっ!」

前にいた兄上が思わず声をあげた。
兄上が驚くのも無理はない。

そこにいたのはなんと。

エヒム教最高責任者である、バーチェス教皇であった。
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