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第4章
168.教皇
エヒム教は我が国の国教であるのだが、最近では信徒の規模が拡大しているらしく、もはや世界的に見ても大きな宗教となっている。
それもそのはず。
エヒム教は転生を司る唯一神を崇拝する宗教だ。
実際に起きている事象を崇めるのだから、信憑性があり信者を増やしやすい。
歴史も古く、前世の頃でもすでにエヒム教が誕生してから何百年も経っていたはず。
永く続いているものには、説得力があり信じやすいのだろう。
それに加え発祥地であり国教として指定している我がオルタリア王国では、他国とは比べ物にならないほど転生した人間の数が多いのだ。
魔物も全く出現しない国ということも信徒を増やす事態を後押ししているのだろう。
これほどの恩恵を与えてもらえる宗教ならば、信徒が増えるのも無理はない。
むしろ、今までオルタリア王国のみが国教と指定している事自体がおかしいのかもしれない。
そんなエヒム教の教皇だ。
信徒の数ははっきりとは把握していないけれど、この国の人口と他国の信徒を合わせてざっと見積もっても5000万人は下らないだろう。
その頂点に位置する人物なのだから、オルタリア王国の王子である僕たちであっても容易に顔を合わせる機会など持てるような人物ではない。
しかも視察の合間に会うなど。
本来ならば、事前に相応の準備を終えてから顔合わせをするべきなのだ。
クオフォリア帝国時代では辛うじて皇帝一族の方が立場が上であったが、現在ではその立場は逆転しそうな勢いである。
だからこそ、いつも平静な兄上までも驚きを隠せないでいるのである。
「いつまでそちらにいらっしゃらないで、こちらにお掛けください」
大理石で作られているような真っ白な長いテーブルの奥に、扉の正面に座っている彼が声を掛けた。
優しい声に導かれるように、自然と足が動いてしまう。
目の前にいる人物は、部屋の光の所為なのかはっきりと顔が認識できないでいた。
聞こえた声色からまだ若い、青年のような人物なのだと想像できる。
今まで付いてきていたシスターや傍付きの騎士は部屋の内部には入らず、扉の外で待機するようだ。
扉が閉められると、部屋には僕たち兄弟と教皇のみになった。
少々警戒している僕とは違い、兄上は教皇の声に導かれるように彼の横の椅子に座る。
「やっと、お顔を合わせてお話できますね」
そう言った途端、先ほどまでぼやけて見えていた彼の顔が一瞬ではっきりと認識できるようになった。
先ほどの声から想像した通り、優しそうな印象の実に綺麗な青年がそこにいた。
御髪は薄く青みがかった白髪で腰の長さまであるようだ。
前髪は真ん中で分けられているため、顔全体を認識できた。
金色の瞳は全てを見透かしているような感じがして落ち着かない。
そのはずなのに、目が離せないのは彼の性質がそうさせるのか。
あまりにも整った顔立ちは、エスティとはまた異なる種類の神秘的な美しさだった。
こんな見た目の人物を、どうして扉を開けた瞬間教皇だと認識できたのかわからないほど彼は若かった。
おそらく彼の着ている正装が、今まで歴史書で見ていた教皇と同じだっただからだろう。
いや、本当にそうなのだろうか。
彼の纏う空気は、どこか威厳に満ちていて気が抜けない。
それなのに、彼に従うのが自然なのだと思ってしまう自分もいる。
「お2人にどうしても直接お会いしてお話をしたかったので、無理にお呼び立てしてしまいました。申し訳ありません、お忙しかったでしょう?」
その声は優しいもののはずなのに、どこか含みを感じて落ち着かなかった。
「とんでもありません。貴方にお会いできるのであれば、どのような事態であっても喜んで」
兄上?
なんだろう、兄上の様子がおかしいような気がする。
「いつまで突っ立っているんだ? お前も早く座りなさい」
「は、はい」
兄上に促され、渋々彼の隣に座る。
正面に見える兄上はいつも通りのはずなのに、どこか興奮しているように見えた。
「先月辺りから、この国にも魔物が出現するようになりました。隣国であるエルティウス公国から流れてきたもののようですが、建国以来このような事は初めてです」
「ええ、確かに」
潮らしく言う教皇の言葉に兄上は深く頷く。
兄上の様子はまるで彼に心酔している信徒のように見えた。
やはり、兄上は普通ではないと今更ながら確信した。
「そのことについて、私共に心当たりがあるのです」
「えっ」
心当たり?
魔物が出現するのに、心当たりなどあるのだろうか。
しかもエヒム教の教皇であり、魔の存在に一番遠いはずの彼が。
ただの気候変動か何かの類だと思っていたのは、僕の楽観だったのだろうか。
「今まで魔物がこの国に出現しなかったのは、とある加護があったからなのです。しかし今、その加護が徐々に薄れてきています。その原因ははっきりしているのですが、その対処をするにあたって少々問題がありまして……」
「問題、ですか」
淡々と話す彼の言葉に、驚いた僕とは裏腹に兄上はとても冷静に頷いている。
しかし、それがおかしい。
そもそも加護とは一体何のことなのか。
誰がその加護を施していたのか。
そのすべてを今、僕たちははじめて聞いたのだ。
落ち着いて受け入れられるようなものではないはずなのに。
さも当たり前の事のように頷いている兄上は、もはや僕の知る兄上ではないように見えた。
分からないことだらけで気持ちが悪い。
だがそれよりも気持ちが悪いのは、この教皇が何かを企んでいるというのを隠そうともしないところだ。
嫌な予感がする。
僕にとって、とても嫌な予感が。
それもそのはず。
エヒム教は転生を司る唯一神を崇拝する宗教だ。
実際に起きている事象を崇めるのだから、信憑性があり信者を増やしやすい。
歴史も古く、前世の頃でもすでにエヒム教が誕生してから何百年も経っていたはず。
永く続いているものには、説得力があり信じやすいのだろう。
それに加え発祥地であり国教として指定している我がオルタリア王国では、他国とは比べ物にならないほど転生した人間の数が多いのだ。
魔物も全く出現しない国ということも信徒を増やす事態を後押ししているのだろう。
これほどの恩恵を与えてもらえる宗教ならば、信徒が増えるのも無理はない。
むしろ、今までオルタリア王国のみが国教と指定している事自体がおかしいのかもしれない。
そんなエヒム教の教皇だ。
信徒の数ははっきりとは把握していないけれど、この国の人口と他国の信徒を合わせてざっと見積もっても5000万人は下らないだろう。
その頂点に位置する人物なのだから、オルタリア王国の王子である僕たちであっても容易に顔を合わせる機会など持てるような人物ではない。
しかも視察の合間に会うなど。
本来ならば、事前に相応の準備を終えてから顔合わせをするべきなのだ。
クオフォリア帝国時代では辛うじて皇帝一族の方が立場が上であったが、現在ではその立場は逆転しそうな勢いである。
だからこそ、いつも平静な兄上までも驚きを隠せないでいるのである。
「いつまでそちらにいらっしゃらないで、こちらにお掛けください」
大理石で作られているような真っ白な長いテーブルの奥に、扉の正面に座っている彼が声を掛けた。
優しい声に導かれるように、自然と足が動いてしまう。
目の前にいる人物は、部屋の光の所為なのかはっきりと顔が認識できないでいた。
聞こえた声色からまだ若い、青年のような人物なのだと想像できる。
今まで付いてきていたシスターや傍付きの騎士は部屋の内部には入らず、扉の外で待機するようだ。
扉が閉められると、部屋には僕たち兄弟と教皇のみになった。
少々警戒している僕とは違い、兄上は教皇の声に導かれるように彼の横の椅子に座る。
「やっと、お顔を合わせてお話できますね」
そう言った途端、先ほどまでぼやけて見えていた彼の顔が一瞬ではっきりと認識できるようになった。
先ほどの声から想像した通り、優しそうな印象の実に綺麗な青年がそこにいた。
御髪は薄く青みがかった白髪で腰の長さまであるようだ。
前髪は真ん中で分けられているため、顔全体を認識できた。
金色の瞳は全てを見透かしているような感じがして落ち着かない。
そのはずなのに、目が離せないのは彼の性質がそうさせるのか。
あまりにも整った顔立ちは、エスティとはまた異なる種類の神秘的な美しさだった。
こんな見た目の人物を、どうして扉を開けた瞬間教皇だと認識できたのかわからないほど彼は若かった。
おそらく彼の着ている正装が、今まで歴史書で見ていた教皇と同じだっただからだろう。
いや、本当にそうなのだろうか。
彼の纏う空気は、どこか威厳に満ちていて気が抜けない。
それなのに、彼に従うのが自然なのだと思ってしまう自分もいる。
「お2人にどうしても直接お会いしてお話をしたかったので、無理にお呼び立てしてしまいました。申し訳ありません、お忙しかったでしょう?」
その声は優しいもののはずなのに、どこか含みを感じて落ち着かなかった。
「とんでもありません。貴方にお会いできるのであれば、どのような事態であっても喜んで」
兄上?
なんだろう、兄上の様子がおかしいような気がする。
「いつまで突っ立っているんだ? お前も早く座りなさい」
「は、はい」
兄上に促され、渋々彼の隣に座る。
正面に見える兄上はいつも通りのはずなのに、どこか興奮しているように見えた。
「先月辺りから、この国にも魔物が出現するようになりました。隣国であるエルティウス公国から流れてきたもののようですが、建国以来このような事は初めてです」
「ええ、確かに」
潮らしく言う教皇の言葉に兄上は深く頷く。
兄上の様子はまるで彼に心酔している信徒のように見えた。
やはり、兄上は普通ではないと今更ながら確信した。
「そのことについて、私共に心当たりがあるのです」
「えっ」
心当たり?
魔物が出現するのに、心当たりなどあるのだろうか。
しかもエヒム教の教皇であり、魔の存在に一番遠いはずの彼が。
ただの気候変動か何かの類だと思っていたのは、僕の楽観だったのだろうか。
「今まで魔物がこの国に出現しなかったのは、とある加護があったからなのです。しかし今、その加護が徐々に薄れてきています。その原因ははっきりしているのですが、その対処をするにあたって少々問題がありまして……」
「問題、ですか」
淡々と話す彼の言葉に、驚いた僕とは裏腹に兄上はとても冷静に頷いている。
しかし、それがおかしい。
そもそも加護とは一体何のことなのか。
誰がその加護を施していたのか。
そのすべてを今、僕たちははじめて聞いたのだ。
落ち着いて受け入れられるようなものではないはずなのに。
さも当たり前の事のように頷いている兄上は、もはや僕の知る兄上ではないように見えた。
分からないことだらけで気持ちが悪い。
だがそれよりも気持ちが悪いのは、この教皇が何かを企んでいるというのを隠そうともしないところだ。
嫌な予感がする。
僕にとって、とても嫌な予感が。
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