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第4章
169.教皇の目的
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「ヴァリタス殿下にどうしてもお願いがあるのです」
「私……、ですか」
どうやら、標的は僕だったようだ。
真っ直ぐ見つめられる瞳に取り込まれそうになり、思わず視線を逸らした。
この教皇は、思っているよりも相当危険人物かもしれない。
「殿下の前世について、どうしてもお聞きしたいことがありまして。前世の事はどれほど思い出されていますか?」
待て、待ってくれ。
どういう事だ。
なぜ彼が僕の前世を知っている?
「教皇様は、私の前世の事をご存じなのですか?」
「教皇と聖女は、この国の転生者の前世を全て把握するのも1つのお仕事ですので」
さも当たり前のように頷かれ、体が硬直してしまう。
まさか知られていたなんて。
いやしかし、考えてみればおかしいことではない。
前世を判明させ、その名を刻む儀式である”前明の儀”はエヒム教の魔法使いが行う儀式だ。
ならばその本部であり、頂点の存在である教皇の耳に前世の事が届いていてもなんら不思議ではない。
それに、僕の前世はこの国を造った人物なのだから。
「一体私の前世に、どのような御用がおありなのですか?」
警戒心を隠す余裕もなく、彼へと詰め寄る。
おそらく、僕の心の中など、彼にはお見通しなのだろう。
教皇はふっと鼻で笑うと柔和な笑みを浮かべたまま、僕を見つめていた。
冷や汗が頬を伝い、首筋へと落ちる。
この人と面と向かって話すべきではないと、頭の中で警告が鳴り響いていた。
生唾を飲み、一層警戒を強めた瞬間――――
ドンっ!
という大きな音が部屋中に響き渡った。
思わず、音のした方へ2人して視線を向ける。
手を思いきりテーブルに叩きつけ、勢いよく立ち上がった兄上は正面に座る僕をすごい剣幕で睨みつけていた。
「いい加減にしろヴァリタス! 教皇様に向かってその態度はなんだ! 無礼ではないかっ」
「あ、兄上っ……?」
兄上の豹変っぷりに、動揺が隠しきれなかった。
おかしい。
こんなに、怒りを露わにした兄上は初めてだ。
怒っていたとしても、こんな風に取り乱したりせず、静かに怒るような人なのに。
それに兄上は私に一度だって怒鳴ったことなどない。
その兄上の様相に、今度こそ我慢ならなかった。
「一体兄上に何をなさったのですか?」
睨みつけると、観念したように小さく息を吐いた。
数秒目を瞑り、もう一度開くとまたしても僕を真っ直ぐに見つめる。
しかしそこには、先ほど感じていた引き込まれるような感覚は全く感じなくなっていた。
「……どうやら貴方様には、全く効き目がないようですね」
やはり、何かを仕掛けていたようだ。
まさか教皇にそんなことをされるとは思わなかった。
しかし、目の前でそんな会話をしているのにも関わらず、依然として兄上が私を睨みつけるのをやめないということは……。
相当強い術なのだろう。
「話し合いをスムーズに行うために、少々魔法を使わせていただいただけでございます」
「魔法……?」
「ええ」
笑っているが、瞳の奥が黒くくすんでいる。
一体どんな魔法なのだろう。
兄上の様子がおかしいことを考えるに、相手の心をおかしくする魔法であることは確かだ。
そんな魔法、存在するのだろうか。
そんな、酷く恐ろしい魔法など。
僕が睨みを利かせている間も、教皇は余裕のある表情で僕を見つめていた。
彼が本気を出せば、僕を屈服できるほどの力を隠しているようにも感じるような仕草だった。
おそらくそれは間違いではない。
「あまり公にするべきものではないのですがね、私に対して心を開いてくれるよう、魔法を掛けさせていただいたのです。しかし……」
心を開いてくれる魔法、だと?
いや、違う。
そんな生易しい魔法ではないはずだ。
おそらく相手に心酔してしまう魔法なのではないだろうか。
酷く恐ろしい魔法なのではないだろうか。
「本当は貴方様に掛かっていただきたかったのですが、お兄様にしか効かなかったようで……。残念です」
落ち込むようにしょんぼりとしている仕草を見せる。
ふざけているようなそれは、やはり僕をそこまで警戒しているようではないのだろう。
なんて恐ろしい人なのだろうか。
彼はパチンと指を鳴らすと、兄上はゆっくりと瞳を閉じ俯いた。
「あ、兄上っ!」
椅子から転げ落ちることはなかったが、完全に意識を失っている。
「安心してください、眠ってしまっただけですから」
その笑顔を、もう信用することはないだろう。
「こんなことをして、一体僕から何を聞き出そうとしていたのですか?」
無駄な足掻きではあるのだろうが、それでも彼への警戒を解くことはできなかった。
そんな僕の様子を、子供のままごとでも見るかのように笑った。
ニヤリと笑った彼の顔が恐ろしく、寒気がした。
「先ほども申しましたが……。この国の加護を修復しなければなりません。そのためには、貴方様の前世の記憶が頼りなのです」
「一体、僕の前世に何があるというのですか」
彼の言う、この国に掛けられている加護について心当たりなど全くない。
前世の中でも、おそらくそんなものはないだろう。
それでも彼は僕の前世に問いかけている。
一体彼は僕に何を求めているのだろうか。
「貴方様の前世はバートン・クロネテス陛下で、間違いありませんよね?」
何を今更そんなことを。
頷く代わりに、彼を睨み付ける。
何がおかしいのか、彼は笑ったまま僕を見つめ続けていた。
「私……、ですか」
どうやら、標的は僕だったようだ。
真っ直ぐ見つめられる瞳に取り込まれそうになり、思わず視線を逸らした。
この教皇は、思っているよりも相当危険人物かもしれない。
「殿下の前世について、どうしてもお聞きしたいことがありまして。前世の事はどれほど思い出されていますか?」
待て、待ってくれ。
どういう事だ。
なぜ彼が僕の前世を知っている?
「教皇様は、私の前世の事をご存じなのですか?」
「教皇と聖女は、この国の転生者の前世を全て把握するのも1つのお仕事ですので」
さも当たり前のように頷かれ、体が硬直してしまう。
まさか知られていたなんて。
いやしかし、考えてみればおかしいことではない。
前世を判明させ、その名を刻む儀式である”前明の儀”はエヒム教の魔法使いが行う儀式だ。
ならばその本部であり、頂点の存在である教皇の耳に前世の事が届いていてもなんら不思議ではない。
それに、僕の前世はこの国を造った人物なのだから。
「一体私の前世に、どのような御用がおありなのですか?」
警戒心を隠す余裕もなく、彼へと詰め寄る。
おそらく、僕の心の中など、彼にはお見通しなのだろう。
教皇はふっと鼻で笑うと柔和な笑みを浮かべたまま、僕を見つめていた。
冷や汗が頬を伝い、首筋へと落ちる。
この人と面と向かって話すべきではないと、頭の中で警告が鳴り響いていた。
生唾を飲み、一層警戒を強めた瞬間――――
ドンっ!
という大きな音が部屋中に響き渡った。
思わず、音のした方へ2人して視線を向ける。
手を思いきりテーブルに叩きつけ、勢いよく立ち上がった兄上は正面に座る僕をすごい剣幕で睨みつけていた。
「いい加減にしろヴァリタス! 教皇様に向かってその態度はなんだ! 無礼ではないかっ」
「あ、兄上っ……?」
兄上の豹変っぷりに、動揺が隠しきれなかった。
おかしい。
こんなに、怒りを露わにした兄上は初めてだ。
怒っていたとしても、こんな風に取り乱したりせず、静かに怒るような人なのに。
それに兄上は私に一度だって怒鳴ったことなどない。
その兄上の様相に、今度こそ我慢ならなかった。
「一体兄上に何をなさったのですか?」
睨みつけると、観念したように小さく息を吐いた。
数秒目を瞑り、もう一度開くとまたしても僕を真っ直ぐに見つめる。
しかしそこには、先ほど感じていた引き込まれるような感覚は全く感じなくなっていた。
「……どうやら貴方様には、全く効き目がないようですね」
やはり、何かを仕掛けていたようだ。
まさか教皇にそんなことをされるとは思わなかった。
しかし、目の前でそんな会話をしているのにも関わらず、依然として兄上が私を睨みつけるのをやめないということは……。
相当強い術なのだろう。
「話し合いをスムーズに行うために、少々魔法を使わせていただいただけでございます」
「魔法……?」
「ええ」
笑っているが、瞳の奥が黒くくすんでいる。
一体どんな魔法なのだろう。
兄上の様子がおかしいことを考えるに、相手の心をおかしくする魔法であることは確かだ。
そんな魔法、存在するのだろうか。
そんな、酷く恐ろしい魔法など。
僕が睨みを利かせている間も、教皇は余裕のある表情で僕を見つめていた。
彼が本気を出せば、僕を屈服できるほどの力を隠しているようにも感じるような仕草だった。
おそらくそれは間違いではない。
「あまり公にするべきものではないのですがね、私に対して心を開いてくれるよう、魔法を掛けさせていただいたのです。しかし……」
心を開いてくれる魔法、だと?
いや、違う。
そんな生易しい魔法ではないはずだ。
おそらく相手に心酔してしまう魔法なのではないだろうか。
酷く恐ろしい魔法なのではないだろうか。
「本当は貴方様に掛かっていただきたかったのですが、お兄様にしか効かなかったようで……。残念です」
落ち込むようにしょんぼりとしている仕草を見せる。
ふざけているようなそれは、やはり僕をそこまで警戒しているようではないのだろう。
なんて恐ろしい人なのだろうか。
彼はパチンと指を鳴らすと、兄上はゆっくりと瞳を閉じ俯いた。
「あ、兄上っ!」
椅子から転げ落ちることはなかったが、完全に意識を失っている。
「安心してください、眠ってしまっただけですから」
その笑顔を、もう信用することはないだろう。
「こんなことをして、一体僕から何を聞き出そうとしていたのですか?」
無駄な足掻きではあるのだろうが、それでも彼への警戒を解くことはできなかった。
そんな僕の様子を、子供のままごとでも見るかのように笑った。
ニヤリと笑った彼の顔が恐ろしく、寒気がした。
「先ほども申しましたが……。この国の加護を修復しなければなりません。そのためには、貴方様の前世の記憶が頼りなのです」
「一体、僕の前世に何があるというのですか」
彼の言う、この国に掛けられている加護について心当たりなど全くない。
前世の中でも、おそらくそんなものはないだろう。
それでも彼は僕の前世に問いかけている。
一体彼は僕に何を求めているのだろうか。
「貴方様の前世はバートン・クロネテス陛下で、間違いありませんよね?」
何を今更そんなことを。
頷く代わりに、彼を睨み付ける。
何がおかしいのか、彼は笑ったまま僕を見つめ続けていた。
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