悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

167.前世について

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「陛下は、国王に成る以前、とあるお方に仕えていますよね」

なぜ、そんなことを聞くのか、意味が分からない。
そんなこと、この国の人間であれば誰でも知っている事実ではないか。

今更確かめて、一体何を聞き出そうとしているのだろうか。

「っ!」

まさか、そのことに関係あるのか?
あの男に、関係あることなのか?

一体今度は何をしでかしたんだ、あの男は。

心の奥底で、密かに憎悪の感情が湧き出てきたのを必死で隠そうとした。

そんな僕の心を知ってか知らずか、教皇は僕の様子などまるで視界に入っていないかのように、自分の聞きたいことだけを口にした。

「お聞きしたいのは、その方についてのことなのです」

鋭く灯った炎は、ついさっき灯ったもののはずなのに、既に業火の勢いだった。

まさか自分がここまであの男に憎悪を抱いているとは思わなかった。

いや、そんなの今更か。

「私が話せることなど、なにも無いと思いますが」

「まぁまぁ、雑談程度にでも」

そっけない僕の言葉にも、まるで気にしていないように明るい調子で答える。
しかし、ふと遠い瞳になるとポツリと呟くように問いかけた。

「貴方様が出会った時に、あの方はまだ魔法がお使いになられたのでしょうか?」

何を聞いてくるのかと思えば。

彼が魔法を使えたときなどありはしない。
あの黒龍と契約を交わしたのが奇跡だと言われているほどだ。

本当に、全く魔法と縁のない男だった。

「私が出会ったのは10の時でしたが、あの方が魔法を使えたところなど見たころありませんでしたよ。なんせ才能など全くなかった人でしたから」

今、ここにいない人間をあざ笑う行為など、なんて意味のないことなのだろう。
それでもあの男を侮辱するのはなぜか心地の良い行為だった。

「なるほど。ということは、貴方様はあの方がなぜ魔法が使えなかったのか、ご存じではなかったのですね」

「は?」

どういう意味だ?
あの男が魔法が使えなかったのは生まれつきではないのか?

いやいや、そのはずだ。
だって、僕に言っていたではないか。

魔法が使える僕が羨ましいと。
寂しそうに笑っていただろう。

なのに本当は魔法が使えた?

それが本当なら、一体どれほどの嘘を僕に吐き続けていたというんだ。

「しかしおかしいですね。あれが行われるのは、次期皇帝が15の時と決まっていたはず。それなのに、10歳の頃にはすでに魔法が使えなかったということは、まさか……」

あれ?
あれとはなんだ?

さっきからこの人は一体何の話をしている?

わからない。
どうしてわからないのだ。

あの人の事を一番に分かっているのは、俺のはずなのに。


――――いや、何を僕は。

首を振って、その可笑しな思考をストップさせる。

あの男に対して、僕が知らないことがあることにどうして驚く必要があるんだ。
あの男は本心を僕に話したことなど、一度だってなかったじゃないか。

それなのに、どうして。

どうして僕は、傷ついているんだ。

「もう、どうでもいいです。あいつの話なんて」

自分の異変に目を逸らしたくて、ついそう口走ってしまった。
教皇の優しい視線が、鋭いものに変わる。

「全く、おめでたい方ですね。自分があのお方に何をしたのかも知らないで」

その冷たい声色に、仄かに殺意が籠っていた。
何を言われたのか、どうして殺意を向けられているのか。

彼の言動に理解できず、見つめることしかできない。

喉の奥が乾いて仕方ない。

「まぁ、貴方様が知らないこともこの世には沢山ある、ということです」

すでに彼の中から殺気を感じることはなかった。

しかし、その笑顔の奥にまだ僕に向けられた負の感情は消えたわけではないのだろう。

もう、教皇と話をしたくない。

でも、それでも。

僕には1つだけ、彼に聞き出さなければならないことがある。

彼女について、聞かなければ。

「あの、私からも1つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

僕から何かを聞かれることがあるなど、思いもしなかったのだろう。
彼は少し驚いていたが、どこか嬉しそうな表情をしていた。

「良いでしょう。話を聞きましょうか」

簡単に受け入れられたことに、戸惑いを覚える。
しかし、彼に聞く以上に有力な成果を得られるとは思えなかった。

「……教皇様は、ミリエル様という聖女様をご存じでしょうか」

「いえ、歴代の聖女様の事はそれ相応に知ってはおりますが、ミリエル様ですか……。心当たりはありませんね」

「なら、彼女の、エスティの前世の事は、何かご存じではありませんか?」

「えっ? ベルフェリト様の前世、ですか?」



なんだ、この反応は。

まさか、エスティの前世はミリエル様ではないのか?

なら、一体誰が――――。

そう思考を巡らせようとした直後。

バンッ!!

という扉が思いきり開く音で、僕の思考は強制的にストップさせられた。
その音の大きさに驚き、そちらの方へ顔を向けると。

「ハロハロー!! どうもどうもなのですぅ!」

可笑しな言葉を発しながら誰かが室内へと一歩足を踏み入れた。
そこに立っていたのは、珍妙な恰好をした一人のシスターであった。
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