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第4章
170.エヒム教の罪
目の奥が僅かに憎しみを抱いている。
彼女の鋭い視線が僕の心臓を射抜いたように感じた。
彼女の殺気の矛先に、まるで僕も含まれているような。
そんな感覚だった。
彼女はテーブルに両手をつけると、勢いよく立ち上がった。
クルリとこちらに背を向ける仕草は、洗練された動きのように滑らかで美しい。
風とともに舞う髪は、まるで絹糸のようだった。
彼女は背を向けたまま、こちらに顔だけ振り向かせると僕に柔らかい笑顔を見せた。
「折角ですから、その証拠を殿下にお見せいたしましょう」
先ほど教皇と顔合わせをした部屋と同じくらいの大きさだろうか。
薄暗い部屋には、多くの書類が置かれている。
おそらく教会関係の重要な文献が置かれているのだろう。
鍵は2重、しかも強力な魔法が掛けられていたほどだから間違いない。
ここの扉の前まで来たときは、まだ彼女の素行に多少問題がある程度の認識だった。
しかし、彼女はこの部屋まで案内すると、突然目の前でその二つを難なく開錠させるとスタスタと中へ入っていった。
鍵もなく、魔法もあの火花の発し方からして無理やりこじ開けたのだろう。
これでは術者も涙目というものだ。
聖女が本当にこれでいいのかと、本気で考えてしまった。
あの教皇が頭を抱えるのも納得がいくというもの。
しかし、そうやってこじ開けられた部屋に、好奇心から足を踏み入れてしまった僕もおそらく同罪なのだろう。
あとで怒られても素直に反省しよう。
「こちらですよー、殿下っ♪」
どこからか彼女の声が聞こえそちらへ向かう。
背丈をはるかに超えた書棚を横に、2つ3つ過ぎたあたりでその間に立つ彼女を見つけた。
手に持った書物を広げうっすらと笑う彼女へと近づく。
持っている書物が気になり覗き込むと、押し付けるようにそれを僕に渡した。
「これがその証拠です」
どうやら何かの名簿らしく、年月日、名前、役職が表になってずらりと並んでいる。
そしてその横には……。
罪状という名目でその人物が何をしたのか、どのような処分が下されたのかが、事細かに書かれていた。
「これはっ!」
200年前の名簿には、多くの名前が記録されていた。
いくら教徒が多いといっても、罪人の人数が多すぎる。
「ここですよ、ここ」
そういって、彼女が指さした当たりに目を通す。
年からいって彼女がさきほど話していたエルテシア様の拉致事件のすぐあとぐらいに、一斉に摘発されているようだ。
名前の横には、教会長や司祭という肩書がずらりと並んでいる。
なんてことだ。
これは汚職事件なんて生易しいもんじゃない。
これが公表されれば、エヒム教自体が解体されるほどの事件だ。
なぜ、こんな大ごとを秘密裏に処理できた?
そもそも、なぜ当時の僕がこのことを知らない?
国を揺るがしかねない大惨事。
騎士とはいえ、僕はあの男に直属に仕えていたはずなのに。
……まさか、僕の企みをすでに気付いていたとでもいうのか。
あの、何も考えずに国を統治していたあの男が?
1年も前から?
「なぜ彼らの悪事が公にならなかったのか、わかりますか?」
ふいに投げかけられた問いに、思考がストップする。
「なぜって」
それはおそらく、揉み消したから……?
でも一体誰が。
こんな大量に処罰したら、絶対に国にバレる。
それなのに、公表すらされなかったということは。
「国側も関与していたということですか?」
「合ってはいますが、その国というのを、貴方は具体的に誰だと思って言ったのですか?」
「それは……」
昔から、エヒム教と当時の皇帝一族には強い繋がりがあった。
なんせ国教と定めるほどだ。
建国からその結びつきは強かったらしく、今でこそ繋がりは薄くなっているが当時は何度となく交流と称してのパーティーや食事会が開かれていた。
だから、おそらくそれはあの男の……。
「貴方の罪は、まだまだ重そうですね。可哀そうに」
「えっ?」
「なんでもありません。ただの独り言です」
彼女は書物に視線を落として続けた。
「当時のエヒム教は、以前からこのように上部の人間が欲を優先して横領していることがよくありました。そしてその金を増やすために、隣国と取引していたのです」
「取引、ですか?」
「ええ、隣国エルティウス公国は鉱山と美女の国で有名でした。今でも有名ではありますがね。反対に当時のエヒム教は他の宗教よりも戒律が重く、厳しかったのです。
世のため人のために生きることで転生できると謳っていましたからね。そんな国が隣にあれば、彼らには夢のような国に映ったかもしれません。まぁ、彼らはそうでなくても裏では散々好きなように
振舞っていたのでしょうが」
そんなことはどうでもいいとばかりに、彼女は感情の無い声で淡々と話した。
凛と澄んだ深い青い瞳が、とても美しく瞬いていた。
「ねぇ殿下。どうして隣国と戦争などしたのでしょうね?」
「……」
脈絡の無いその問いは、おそらく僕の答えを望んではいない。
きっと彼女は、その答えをすでに持ち合わせているのだろう。
ただ、僕がどのような反応を示すのかを見たかっただけなのだと思った。
彼女の鋭い視線が僕の心臓を射抜いたように感じた。
彼女の殺気の矛先に、まるで僕も含まれているような。
そんな感覚だった。
彼女はテーブルに両手をつけると、勢いよく立ち上がった。
クルリとこちらに背を向ける仕草は、洗練された動きのように滑らかで美しい。
風とともに舞う髪は、まるで絹糸のようだった。
彼女は背を向けたまま、こちらに顔だけ振り向かせると僕に柔らかい笑顔を見せた。
「折角ですから、その証拠を殿下にお見せいたしましょう」
先ほど教皇と顔合わせをした部屋と同じくらいの大きさだろうか。
薄暗い部屋には、多くの書類が置かれている。
おそらく教会関係の重要な文献が置かれているのだろう。
鍵は2重、しかも強力な魔法が掛けられていたほどだから間違いない。
ここの扉の前まで来たときは、まだ彼女の素行に多少問題がある程度の認識だった。
しかし、彼女はこの部屋まで案内すると、突然目の前でその二つを難なく開錠させるとスタスタと中へ入っていった。
鍵もなく、魔法もあの火花の発し方からして無理やりこじ開けたのだろう。
これでは術者も涙目というものだ。
聖女が本当にこれでいいのかと、本気で考えてしまった。
あの教皇が頭を抱えるのも納得がいくというもの。
しかし、そうやってこじ開けられた部屋に、好奇心から足を踏み入れてしまった僕もおそらく同罪なのだろう。
あとで怒られても素直に反省しよう。
「こちらですよー、殿下っ♪」
どこからか彼女の声が聞こえそちらへ向かう。
背丈をはるかに超えた書棚を横に、2つ3つ過ぎたあたりでその間に立つ彼女を見つけた。
手に持った書物を広げうっすらと笑う彼女へと近づく。
持っている書物が気になり覗き込むと、押し付けるようにそれを僕に渡した。
「これがその証拠です」
どうやら何かの名簿らしく、年月日、名前、役職が表になってずらりと並んでいる。
そしてその横には……。
罪状という名目でその人物が何をしたのか、どのような処分が下されたのかが、事細かに書かれていた。
「これはっ!」
200年前の名簿には、多くの名前が記録されていた。
いくら教徒が多いといっても、罪人の人数が多すぎる。
「ここですよ、ここ」
そういって、彼女が指さした当たりに目を通す。
年からいって彼女がさきほど話していたエルテシア様の拉致事件のすぐあとぐらいに、一斉に摘発されているようだ。
名前の横には、教会長や司祭という肩書がずらりと並んでいる。
なんてことだ。
これは汚職事件なんて生易しいもんじゃない。
これが公表されれば、エヒム教自体が解体されるほどの事件だ。
なぜ、こんな大ごとを秘密裏に処理できた?
そもそも、なぜ当時の僕がこのことを知らない?
国を揺るがしかねない大惨事。
騎士とはいえ、僕はあの男に直属に仕えていたはずなのに。
……まさか、僕の企みをすでに気付いていたとでもいうのか。
あの、何も考えずに国を統治していたあの男が?
1年も前から?
「なぜ彼らの悪事が公にならなかったのか、わかりますか?」
ふいに投げかけられた問いに、思考がストップする。
「なぜって」
それはおそらく、揉み消したから……?
でも一体誰が。
こんな大量に処罰したら、絶対に国にバレる。
それなのに、公表すらされなかったということは。
「国側も関与していたということですか?」
「合ってはいますが、その国というのを、貴方は具体的に誰だと思って言ったのですか?」
「それは……」
昔から、エヒム教と当時の皇帝一族には強い繋がりがあった。
なんせ国教と定めるほどだ。
建国からその結びつきは強かったらしく、今でこそ繋がりは薄くなっているが当時は何度となく交流と称してのパーティーや食事会が開かれていた。
だから、おそらくそれはあの男の……。
「貴方の罪は、まだまだ重そうですね。可哀そうに」
「えっ?」
「なんでもありません。ただの独り言です」
彼女は書物に視線を落として続けた。
「当時のエヒム教は、以前からこのように上部の人間が欲を優先して横領していることがよくありました。そしてその金を増やすために、隣国と取引していたのです」
「取引、ですか?」
「ええ、隣国エルティウス公国は鉱山と美女の国で有名でした。今でも有名ではありますがね。反対に当時のエヒム教は他の宗教よりも戒律が重く、厳しかったのです。
世のため人のために生きることで転生できると謳っていましたからね。そんな国が隣にあれば、彼らには夢のような国に映ったかもしれません。まぁ、彼らはそうでなくても裏では散々好きなように
振舞っていたのでしょうが」
そんなことはどうでもいいとばかりに、彼女は感情の無い声で淡々と話した。
凛と澄んだ深い青い瞳が、とても美しく瞬いていた。
「ねぇ殿下。どうして隣国と戦争などしたのでしょうね?」
「……」
脈絡の無いその問いは、おそらく僕の答えを望んではいない。
きっと彼女は、その答えをすでに持ち合わせているのだろう。
ただ、僕がどのような反応を示すのかを見たかっただけなのだと思った。
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