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第4章
174.感情のカタコンベ
私が静かに驚いている間も、彼は優しく語り掛ける。
「本当はね、こんな部屋なんて作りたくなかった。こんな暗くて狭いところに主様の大事なものを閉じ込めておくなんて、あまりにも悲しくて。そんなことを、本当はしてほしくなかった」
彼の声は震えていた。
もしかしたら少しだけ泣いているのかもしれない。
後ろにいる彼の顔を見ることは私には不可能だった。
「でも、この部屋がどうしても必要だった。だって、ここが無ければとっくに主様は壊れてしまっていただろうから」
悲痛に苦しむような声に、彼の苦しみが伝わる。
先ほどまで、肩に触れるだけだった手は、いつの間にか強く握られていた。
ああ、本当に。
ここはカタコンベだったんだ。
私の、感情の。
「いつだって主様は虐げられて、この国の奴隷よりも、もっと酷いことをいくつもされてた。まぁ、精神的な部分の話だから、理解されにくいものだけどね。でも、だからそこ、僕は主様に早くこの国を捨てて欲しかった」
時折、鼻水を啜るような音が聞こえる。
しかし、彼の声はそれでも凛として美しかった。
「あんな形で、いなくなってしまうなんて思わなかったけれどね」
どうして、そんな明るく言えるのだろう。
それは黒龍にとって苦しい記憶ではないのか?
彼がどれほどリヴェリオを想っていたのかなんて、今までの行動から十分理解できる。
それなのに、そんな大事な人を失ったことを、そんな明るく言えるなんて。
「でも、もう良いんだ。もう、主様が苦しくないなら、なんだって」
振り返ってみた彼は、笑顔だった。
驚きのあまり、目を見開いて驚いてしまう。
どうして、そんな綺麗な笑顔で……。
「僕は主様にもう一度会えた。それだけでもう、すごく幸せだから」
彼は私を思いきり抱き締めた。
とても大事なものを、決して離さないように。
強く、腕をまわしていた。
背丈が同じくらいだからか、彼の吐息が耳に掛かってくすぐったい。
「今度は必ず僕が守ってみせる。どんなことからも、どんな苦しみや悲しみからも、必ず守ってみせるからね」
一層力を込める彼の体に、自然と腕をまわした。
彼はまるで、子供のような存在に見えて仕方なかった。
しかし、まわした腕とは裏腹に思考はずっと沈んでいた。
私は、彼にとってリヴェリオに見えているのか。
だから、彼は平気だというのだろうか。
でも、私は本当に彼にとっての主なのだろうか。
だって私と彼は、何もかも……。
「どうして、私がリヴェリオだって思うの? 私が言うのもなんだけど、彼と私は、性格もましてや性別だって全然違うものなのに」
抱きしめたまま、彼に問いかける。
私の肩に顔を埋めた彼は、少しだけ顔を上げて答えた。
「主様は主様だ。貴方は何も変わってなんかいない。ずっと寂しくて、強くて、とっても弱くて、世界で一番優しい人だ」
どうして。
どうしてそんなこと、知っているのだろう。
そんな事、誰も言ってくれなかったのに。
ずっと張りつめていた糸が、プツリと切れた。
ボロボロと、止めどなく涙が溢れた。
リヴェリオは、寂しかったのか。
彼は、強かったのか。
私は、弱い人だったのか。
そして誰よりも、私たちは、優しい人だったのか。
ああ、やっと。
やっと、私が彼を受け入れられない理由がわかった気がする。
ずっと彼の事が、私でさえも理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
だってあんなにも皆に否定された。
悪逆非道だと、無能だと、蔑まれ、嬲られ、虐げられた。
暴力はなかったけれど、誰も私を理解してくれなかった。
受け入れてくれなかった。
まるで、私がそこにいないように全ての私を否定した。
私にとってはそれが何よりの暴力だった。
それでも、皆を愛することを止めることはできなかった。
そんな私を、私は馬鹿だと貶した。
だってそうだ。
そんな滑稽な王様など、物語の中にだって存在しない。
だから否定した。
あんなにも愛を求めても、誰にも与えられないのなら。
この世に本当の愛など、どこにもない。
そんな虚しい事を、肯定するわけにはいかないじゃないか。
それは、彼の生き方を全て無意味にする行為じゃないか。
全ての生きる人の愛を、否定することじゃないか。
そんな残酷な事、私にはできない。
だから、彼の行動が間違いなのだと、もっと別の方法があったはずだと、私は思いたかったのだ。
でも、きっと違う。
彼の愛し方は間違っていなかった。
だってこんなにも、私を想ってくれる人がいた。
200年も私の言葉だけを信じて待ってくれた人が。
それならきっと、私の愛し方は間違いじゃなかったんだ。
やっと、
やっと私は、
――――救われた気がする。
「ああっ。ああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁっ!!」
その叫びを、止めることはできなかった。
どうしても言う事の利かない口は、意図せず叫びを発する。
これが、私の嘆きなのだ。
この部屋にいるときだけ、きっと私は本当の心を曝け出せるのだろう。
前世と同じように。
彼はその叫びを聞いてもなお、私の体を離すことはなかった。
反対にさらに強い力で私を抱き締めてくれる。
その優しさが、今の私には嬉しすぎて。
私はただ、泣き叫ぶことしかできなかった。
「本当はね、こんな部屋なんて作りたくなかった。こんな暗くて狭いところに主様の大事なものを閉じ込めておくなんて、あまりにも悲しくて。そんなことを、本当はしてほしくなかった」
彼の声は震えていた。
もしかしたら少しだけ泣いているのかもしれない。
後ろにいる彼の顔を見ることは私には不可能だった。
「でも、この部屋がどうしても必要だった。だって、ここが無ければとっくに主様は壊れてしまっていただろうから」
悲痛に苦しむような声に、彼の苦しみが伝わる。
先ほどまで、肩に触れるだけだった手は、いつの間にか強く握られていた。
ああ、本当に。
ここはカタコンベだったんだ。
私の、感情の。
「いつだって主様は虐げられて、この国の奴隷よりも、もっと酷いことをいくつもされてた。まぁ、精神的な部分の話だから、理解されにくいものだけどね。でも、だからそこ、僕は主様に早くこの国を捨てて欲しかった」
時折、鼻水を啜るような音が聞こえる。
しかし、彼の声はそれでも凛として美しかった。
「あんな形で、いなくなってしまうなんて思わなかったけれどね」
どうして、そんな明るく言えるのだろう。
それは黒龍にとって苦しい記憶ではないのか?
彼がどれほどリヴェリオを想っていたのかなんて、今までの行動から十分理解できる。
それなのに、そんな大事な人を失ったことを、そんな明るく言えるなんて。
「でも、もう良いんだ。もう、主様が苦しくないなら、なんだって」
振り返ってみた彼は、笑顔だった。
驚きのあまり、目を見開いて驚いてしまう。
どうして、そんな綺麗な笑顔で……。
「僕は主様にもう一度会えた。それだけでもう、すごく幸せだから」
彼は私を思いきり抱き締めた。
とても大事なものを、決して離さないように。
強く、腕をまわしていた。
背丈が同じくらいだからか、彼の吐息が耳に掛かってくすぐったい。
「今度は必ず僕が守ってみせる。どんなことからも、どんな苦しみや悲しみからも、必ず守ってみせるからね」
一層力を込める彼の体に、自然と腕をまわした。
彼はまるで、子供のような存在に見えて仕方なかった。
しかし、まわした腕とは裏腹に思考はずっと沈んでいた。
私は、彼にとってリヴェリオに見えているのか。
だから、彼は平気だというのだろうか。
でも、私は本当に彼にとっての主なのだろうか。
だって私と彼は、何もかも……。
「どうして、私がリヴェリオだって思うの? 私が言うのもなんだけど、彼と私は、性格もましてや性別だって全然違うものなのに」
抱きしめたまま、彼に問いかける。
私の肩に顔を埋めた彼は、少しだけ顔を上げて答えた。
「主様は主様だ。貴方は何も変わってなんかいない。ずっと寂しくて、強くて、とっても弱くて、世界で一番優しい人だ」
どうして。
どうしてそんなこと、知っているのだろう。
そんな事、誰も言ってくれなかったのに。
ずっと張りつめていた糸が、プツリと切れた。
ボロボロと、止めどなく涙が溢れた。
リヴェリオは、寂しかったのか。
彼は、強かったのか。
私は、弱い人だったのか。
そして誰よりも、私たちは、優しい人だったのか。
ああ、やっと。
やっと、私が彼を受け入れられない理由がわかった気がする。
ずっと彼の事が、私でさえも理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
だってあんなにも皆に否定された。
悪逆非道だと、無能だと、蔑まれ、嬲られ、虐げられた。
暴力はなかったけれど、誰も私を理解してくれなかった。
受け入れてくれなかった。
まるで、私がそこにいないように全ての私を否定した。
私にとってはそれが何よりの暴力だった。
それでも、皆を愛することを止めることはできなかった。
そんな私を、私は馬鹿だと貶した。
だってそうだ。
そんな滑稽な王様など、物語の中にだって存在しない。
だから否定した。
あんなにも愛を求めても、誰にも与えられないのなら。
この世に本当の愛など、どこにもない。
そんな虚しい事を、肯定するわけにはいかないじゃないか。
それは、彼の生き方を全て無意味にする行為じゃないか。
全ての生きる人の愛を、否定することじゃないか。
そんな残酷な事、私にはできない。
だから、彼の行動が間違いなのだと、もっと別の方法があったはずだと、私は思いたかったのだ。
でも、きっと違う。
彼の愛し方は間違っていなかった。
だってこんなにも、私を想ってくれる人がいた。
200年も私の言葉だけを信じて待ってくれた人が。
それならきっと、私の愛し方は間違いじゃなかったんだ。
やっと、
やっと私は、
――――救われた気がする。
「ああっ。ああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁっ!!」
その叫びを、止めることはできなかった。
どうしても言う事の利かない口は、意図せず叫びを発する。
これが、私の嘆きなのだ。
この部屋にいるときだけ、きっと私は本当の心を曝け出せるのだろう。
前世と同じように。
彼はその叫びを聞いてもなお、私の体を離すことはなかった。
反対にさらに強い力で私を抱き締めてくれる。
その優しさが、今の私には嬉しすぎて。
私はただ、泣き叫ぶことしかできなかった。
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