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第4章
177.皇帝の日記
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彼の指定したページを開き、目を通す。
そこにはきちんと、私の探していた記憶の答えが記されていた。
『
私は、バートンからいろんなものを奪った
家族との時間、大切な婚約者、そして彼が手に入れるはずだった多くの幸せな時間
私がその全てを奪ってしまったのだ
彼の家族を殺したのも、彼の婚約者を奪ったのも全て私なのだ
きっと彼は私を許さない
辛い運命が、私に積みあがっていく
夢で見たのと、同じように
でも一番辛いのはバートンだ
彼は昔から誰かを強く求めていた
やっと家族と和解できたときに、やっと大切な人と一緒になれるときが来たのに
その幸せを手に入れる直前、私が全て奪ってしまった
どうすれば、この運命から救い出せるのだろう
どうすれば、私の運命から彼を掬うことができるのだろう
この両手で
どうすれば……
』
日付は、私がバートン達に捕らえられる1カ月ほど前のもの。
彼は嘘を吐かない。
昔から、私はそれを知っていた。
それでも確かめたくて、それが本当かどうか知りたくてここに来てしまった。
黒龍が言ってくれた、嘘かもしれないという言葉。
それを信じられたら、きっと私はもっと簡単に生きられただろう。
でも、確かめずにはいられなかった。
黒龍の反対を押し切ってでも真実が知りたかった。
私の言葉から。
だから、私が傷つくなど筋違いなのに。
どうして、こんなに胸が苦しいのだろう。
しかし、これは私が飲み込んで、受け入れなければならない事実だ。
胸の前で手を握ると、ぎゅっと目を瞑った。
泣かないように唇を噛む。
彼が言ったことは本当だった。
私は罪人なのだ。
私に着せられた罪がどれほど積みあがっていて、その中にどれほどの濡れ衣があったとしても。
その中に1つでも真実があるのなら、彼らがした行いは間違いじゃない。
私が受ける、当然の報いだったのだ。
それが盗みだとか、軽い罪であったなら私も怒りを覚えただろう。
しかし、私は彼の家族を殺した。
人殺しは、立派な罪だ。
たとえそれが国の為でも、王がした行いだとしても。
人殺しに変わりはない。
ならば、彼が起こした反逆も受け入れるべきだろう。
家族を殺されたら、私だって仇に刃を向けただろうから。
受け入れなければ。
バートンは被害者だった。
彼は、私を裏切ったんじゃない。
私が彼を裏切ったんだ。
だから、私は……。
目を開いた私の心は、どこまでも凪いでいて静かだった。
まるで、壊れたみたいに。
「ねぁ、貴方はこれを読んだのでしょう?」
隣に佇む黒龍に話しかける。
私の声は、恐ろしいほど感情の籠っていない声だった。
「なら、それでも私を好きだと思うのはどうして?」
龍は神の使い。
神聖なその存在は、穢れた者を許さない。
黒龍は白龍に次いで、神聖な存在。
裏切りや、隣人を傷つけた者に彼らは冷たい。
それなら、彼が私を好きなのは一体どうしてなのだろう。
「主様、信じて。本当に貴方には罪なんて1つもないんだ」
「嘘よそんなのっ!」
私が突然大きな声を出したものだから、彼の体がビクリと跳ねた。
いつの間にか、彼の表情は恐ろしいものでも見るかのように歪んでいる。
何かに怯えたようなその顔を見ても、私の心は平静なままだった。
「ここに、私の罪が載っている。私が自分で書いたものなのだから、これは事実よ。私は彼に酷いことをした。彼も、ヴァリタス様も同じことを言っていたわ」
どこまでも静かに告げる私に、彼は動揺していた。
慌てたように彼は私の言葉を否定する。
「主様、それは間違いなんだ。主様は勘違いしているだけなんだよ」
「なら、その証拠を見せてよ」
私が睨みつけると彼はとても怯えたように私を見つめた。
これが八つ当たり以外になんだというのだろう。
彼は首を勢いよく左右に振ると、唇をぎゅっと噤んだまま俯いた。
「……お願いだよ主様。僕は貴方にこれ以上不幸になってほしくないんだ。主様はバートンの事をまだあまり思い出していない。なら、その記憶を思い出させるわけにはいかないんだよ」
何よりも、主様を守るために。
そう続けた彼の言葉に嘘偽りのない事など、明白だった。
声が震えている。
彼は傷ついている。
誰でもない、私の言葉によって。
ああ、駄目だ。
この子は、私といるべきじゃない。
私は彼に持っていた日記を押し付けた。
すぐに彼に背を向けると、階段へ向かう。
階段を目の前にしたところで、足を止めた。
「やっぱり貴方はうそつきよ。だって、私はたった今貴方を傷つけた」
「それは十分罪になるでしょう?」
***
だから嫌だったんだ。
主様をここに連れてくるのは。
此処には主様の全てがある。
特に日記には。
読めばおそらく思い出してしまうだろう。
そうしたら、もうあの人を救うことはできない。
捕らえられ、絶望し、全てが終わる。
そうなってはいけないのだ。
そう思ってなるべく記憶を思い出さないようなところを選んで彼女に渡した。
しかし、それによって自分まで傷ついてしまえば世話はない。
それに、表には出していなかったけれど主様も相当傷ついていたように見えた。
ああ、だから。
あいつの事なんて気にしてほしくなかったのに。
「やっぱりあいつ、殺しておくべきだったかな」
そうすれば、もう二度と生まれ変わることはできなかっただろう。
神聖な黒龍に殺された存在は、それだけで魂に深い傷を負う。
そんな魂を、神は転生させることはない。
しかし、その事実を知ったのはバートンが死んだあとだった。
僕がもっとはやく気づいていれば。
もう少し、主様が生きやすい世界にできただろうに。
床に腰を落とすと、俯いた瞳から何かが零れた。
それに自分で驚いたが、それは止まらずに床を濡らしていく。
「主様、大好きだよ」
口から零れた声は、酷く震えていた。
でも、この言葉はきっといつまでも揺るがない。
貴方が何を言っても。
僕をどんなに傷つけても。
僕は貴方が大好きだよ。
永遠にそれは変わらない。
そこにはきちんと、私の探していた記憶の答えが記されていた。
『
私は、バートンからいろんなものを奪った
家族との時間、大切な婚約者、そして彼が手に入れるはずだった多くの幸せな時間
私がその全てを奪ってしまったのだ
彼の家族を殺したのも、彼の婚約者を奪ったのも全て私なのだ
きっと彼は私を許さない
辛い運命が、私に積みあがっていく
夢で見たのと、同じように
でも一番辛いのはバートンだ
彼は昔から誰かを強く求めていた
やっと家族と和解できたときに、やっと大切な人と一緒になれるときが来たのに
その幸せを手に入れる直前、私が全て奪ってしまった
どうすれば、この運命から救い出せるのだろう
どうすれば、私の運命から彼を掬うことができるのだろう
この両手で
どうすれば……
』
日付は、私がバートン達に捕らえられる1カ月ほど前のもの。
彼は嘘を吐かない。
昔から、私はそれを知っていた。
それでも確かめたくて、それが本当かどうか知りたくてここに来てしまった。
黒龍が言ってくれた、嘘かもしれないという言葉。
それを信じられたら、きっと私はもっと簡単に生きられただろう。
でも、確かめずにはいられなかった。
黒龍の反対を押し切ってでも真実が知りたかった。
私の言葉から。
だから、私が傷つくなど筋違いなのに。
どうして、こんなに胸が苦しいのだろう。
しかし、これは私が飲み込んで、受け入れなければならない事実だ。
胸の前で手を握ると、ぎゅっと目を瞑った。
泣かないように唇を噛む。
彼が言ったことは本当だった。
私は罪人なのだ。
私に着せられた罪がどれほど積みあがっていて、その中にどれほどの濡れ衣があったとしても。
その中に1つでも真実があるのなら、彼らがした行いは間違いじゃない。
私が受ける、当然の報いだったのだ。
それが盗みだとか、軽い罪であったなら私も怒りを覚えただろう。
しかし、私は彼の家族を殺した。
人殺しは、立派な罪だ。
たとえそれが国の為でも、王がした行いだとしても。
人殺しに変わりはない。
ならば、彼が起こした反逆も受け入れるべきだろう。
家族を殺されたら、私だって仇に刃を向けただろうから。
受け入れなければ。
バートンは被害者だった。
彼は、私を裏切ったんじゃない。
私が彼を裏切ったんだ。
だから、私は……。
目を開いた私の心は、どこまでも凪いでいて静かだった。
まるで、壊れたみたいに。
「ねぁ、貴方はこれを読んだのでしょう?」
隣に佇む黒龍に話しかける。
私の声は、恐ろしいほど感情の籠っていない声だった。
「なら、それでも私を好きだと思うのはどうして?」
龍は神の使い。
神聖なその存在は、穢れた者を許さない。
黒龍は白龍に次いで、神聖な存在。
裏切りや、隣人を傷つけた者に彼らは冷たい。
それなら、彼が私を好きなのは一体どうしてなのだろう。
「主様、信じて。本当に貴方には罪なんて1つもないんだ」
「嘘よそんなのっ!」
私が突然大きな声を出したものだから、彼の体がビクリと跳ねた。
いつの間にか、彼の表情は恐ろしいものでも見るかのように歪んでいる。
何かに怯えたようなその顔を見ても、私の心は平静なままだった。
「ここに、私の罪が載っている。私が自分で書いたものなのだから、これは事実よ。私は彼に酷いことをした。彼も、ヴァリタス様も同じことを言っていたわ」
どこまでも静かに告げる私に、彼は動揺していた。
慌てたように彼は私の言葉を否定する。
「主様、それは間違いなんだ。主様は勘違いしているだけなんだよ」
「なら、その証拠を見せてよ」
私が睨みつけると彼はとても怯えたように私を見つめた。
これが八つ当たり以外になんだというのだろう。
彼は首を勢いよく左右に振ると、唇をぎゅっと噤んだまま俯いた。
「……お願いだよ主様。僕は貴方にこれ以上不幸になってほしくないんだ。主様はバートンの事をまだあまり思い出していない。なら、その記憶を思い出させるわけにはいかないんだよ」
何よりも、主様を守るために。
そう続けた彼の言葉に嘘偽りのない事など、明白だった。
声が震えている。
彼は傷ついている。
誰でもない、私の言葉によって。
ああ、駄目だ。
この子は、私といるべきじゃない。
私は彼に持っていた日記を押し付けた。
すぐに彼に背を向けると、階段へ向かう。
階段を目の前にしたところで、足を止めた。
「やっぱり貴方はうそつきよ。だって、私はたった今貴方を傷つけた」
「それは十分罪になるでしょう?」
***
だから嫌だったんだ。
主様をここに連れてくるのは。
此処には主様の全てがある。
特に日記には。
読めばおそらく思い出してしまうだろう。
そうしたら、もうあの人を救うことはできない。
捕らえられ、絶望し、全てが終わる。
そうなってはいけないのだ。
そう思ってなるべく記憶を思い出さないようなところを選んで彼女に渡した。
しかし、それによって自分まで傷ついてしまえば世話はない。
それに、表には出していなかったけれど主様も相当傷ついていたように見えた。
ああ、だから。
あいつの事なんて気にしてほしくなかったのに。
「やっぱりあいつ、殺しておくべきだったかな」
そうすれば、もう二度と生まれ変わることはできなかっただろう。
神聖な黒龍に殺された存在は、それだけで魂に深い傷を負う。
そんな魂を、神は転生させることはない。
しかし、その事実を知ったのはバートンが死んだあとだった。
僕がもっとはやく気づいていれば。
もう少し、主様が生きやすい世界にできただろうに。
床に腰を落とすと、俯いた瞳から何かが零れた。
それに自分で驚いたが、それは止まらずに床を濡らしていく。
「主様、大好きだよ」
口から零れた声は、酷く震えていた。
でも、この言葉はきっといつまでも揺るがない。
貴方が何を言っても。
僕をどんなに傷つけても。
僕は貴方が大好きだよ。
永遠にそれは変わらない。
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