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第4章
183.語り合い2
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「ヴァリタス様……?」
顔を覗き込み、恐る恐る彼に話しかける。
「ああ、すみません。あの、視察中にすごい出来事がありまして。それを思い出してしまって」
「すごい出来事、ですか?」
セイラが身を乗り出して食いつく。
興味津々なご様子だ。
「実は、エヒム教の教皇様にお会いする機会がありまして」
「まぁ! 教皇様と!」
教皇……?
なぜ、彼が教皇と話を?
彼が視察に行ったウエリアの森は教皇がいるエヒム教の本部と近いところにあるけれど、だからといってお会いする機会を持つなんてことあるかしら。
それも、彼の言い方からして視察の一環というよりも偶発的に起こったもののようだし。
でも、教皇って王様でもお会いするのは難しいと聞いているのに。
まさか彼がいるから会ったとか、そういう話?
どうしよう。
確か昔、プアドール様が前世の事は教会に報告する義務があるとか言っていたわよね。
ということは、教会は私の前世を知っているはず。
万が一、私の前世をバラされていたら。
不穏な考えが頭を過る。
いいえ、考え過ぎよ。
もしそうなら、彼であれば視察から帰ってきてすぐ行動に移すはず。
今頃それを理由に婚約破棄をする準備を始めるだろうし、私の耳にもすでにその情報が届いているはずだ。
その連絡が来ていないということは、前世については疑念程度に留まっている可能性が高い。
彼が私の前世に何か情報を掴んだとしても、あちらが動かなければこちらも何もせずにいるほうが良い。
こちらが変に反応すると逆に怪しまれるきっかけになってしまう。
ここは、しばらく様子見でとどめておかねば。
「それで?! 教皇様とどんなお話をしたのですか?」
ヴァリタスが教皇と会う機会を持った経緯をざっくりと話すと、セイラはますます興味を惹かれたようで食い気味に問いかける。
その反応を微笑で受け取り、続きを話すヴァリタス。
まるで自然な2人のやり取りに、違和感が全くない事に気が付いた。
2人の姿が徐々に遠のいていく。
ここに私が居なくても、きっと皆が幸せになる時間が来る。
そんな未来を手に入れなくては。
真っ暗で光も何もない漆黒に吸い込まれていくような感覚がする。
私だけが、ここからどんどん離れて行くような……。
それが、酷く怖くて堪らない。
どうして、こんなにも私は恐れているのだろう。
一体何に?
「ねぇ、エスティ様!」
「えっ?」
その声で我に返る。
先ほどまでヴァリタスに向けていた瞳を、今度は私に向けている。
この輝くような瞳は、きっとどんな人にも平等に向けるものなのだろう。
彼女は本当に、聖女みたいな人だ。
「エスティ様も、教皇様とお会いしたいと思いませんか?」
「え? ええ、そうね。どんな方なのか興味があるわ。きっと素敵な方なのでしょうね」
そう言ってヴァリタスに微笑み掛けると、彼は罰が悪そうに視線を外した。
結構無難な返しだったのに、どうして視線を逸らすのかしら。
やっぱり私に関して何か聞いているとか?
それとも、教皇との間で何か良くない出来事でもあったとか?
彼のその小さな反応だけでは、やはり何があったのか想像することさえも難しそうだ。
そこで、今まで目の前のやり取りを黙ってみていたナタリーがスクッと立ち上がった。
既に食べ終わっていたらしく、ただ会話を聞き流していただけの彼女がいきなり立ち上がったものだから、皆の視線か彼女に集中する。
ナタリーはヴァリタスへ顔を向けると淡々とした口調で彼に告げた。
「ヴァリタス様、お話がありますので別の場所で話しませんか?」
それは、あまりにも突拍子もない提案だった。
思わず口を開けて驚いたのは、私だけではなかったはず。
目の前に婚約者がいるにも関わらず2人きりで話したいと男性に提案するなど、令嬢としてあまりにも非常識な行動だ。
いや、それは目の前に婚約者がいなくても非常識なのには変わりないのだが。
しかし、彼女の瞳は真剣そのもの。
とてもそういう意味で呼び出しているのではないことは明白だった。
しかし、そうでなくてもやはりやってはいけないことに変わりはない。
ヴァリタスも目を泳がせた後、私に訴えるような視線を送っている。
やはり、まずったようだ。
今朝、彼女を睨みつけたあの行動に強い後悔が押し寄せる。
以前から彼女が抱いていた私への疑念に気づいていたのに、それを後押しした形になってしまったのだろう。
しかし、止める手立ては私にはない。
婚約者を目の前で呼び出すなど言語道断なのはわかっているし、私がそれを拒否すれば呆気なく却下される。
しかし、そんなことをしてしまえば益々ナタリーやヴァリタスに怪しまれてしまう。
そうなってしまえば、私の行動にも制限がついてしまう。
ただでさえ、今のままでも十分動きにくいというのに。
「行っていらしたら? ナタリー様も真剣なご様子ですし」
「そうですか、わかりました」
渋々といった様子で、ヴァリタスも立ち上がると2人して食堂の方へと向かった。
室内で人も多い場所にいけば、怪しまれないと踏んだのかもしれない。
やはりナタリーは相当頭が回る。
勉強は全然できないけど。
「良かったのですか? ヴァリタス様とナタリー様を2人きりにして……」
流石のセイラも彼女の行動には疑念を抱いたのか、私を心配そうに見つめていた。
「大丈夫ですよ。あの2人がどうこうなるような事は、決してありませんから」
「で、でも……」
尚も心配そうに2人の背中を見つめるセイラ。
私はといえば、胃がキリキリ痛んでそれどころではなかった。
ええ、そうよ。
本当は全然大丈夫じゃないのよ。
顔を覗き込み、恐る恐る彼に話しかける。
「ああ、すみません。あの、視察中にすごい出来事がありまして。それを思い出してしまって」
「すごい出来事、ですか?」
セイラが身を乗り出して食いつく。
興味津々なご様子だ。
「実は、エヒム教の教皇様にお会いする機会がありまして」
「まぁ! 教皇様と!」
教皇……?
なぜ、彼が教皇と話を?
彼が視察に行ったウエリアの森は教皇がいるエヒム教の本部と近いところにあるけれど、だからといってお会いする機会を持つなんてことあるかしら。
それも、彼の言い方からして視察の一環というよりも偶発的に起こったもののようだし。
でも、教皇って王様でもお会いするのは難しいと聞いているのに。
まさか彼がいるから会ったとか、そういう話?
どうしよう。
確か昔、プアドール様が前世の事は教会に報告する義務があるとか言っていたわよね。
ということは、教会は私の前世を知っているはず。
万が一、私の前世をバラされていたら。
不穏な考えが頭を過る。
いいえ、考え過ぎよ。
もしそうなら、彼であれば視察から帰ってきてすぐ行動に移すはず。
今頃それを理由に婚約破棄をする準備を始めるだろうし、私の耳にもすでにその情報が届いているはずだ。
その連絡が来ていないということは、前世については疑念程度に留まっている可能性が高い。
彼が私の前世に何か情報を掴んだとしても、あちらが動かなければこちらも何もせずにいるほうが良い。
こちらが変に反応すると逆に怪しまれるきっかけになってしまう。
ここは、しばらく様子見でとどめておかねば。
「それで?! 教皇様とどんなお話をしたのですか?」
ヴァリタスが教皇と会う機会を持った経緯をざっくりと話すと、セイラはますます興味を惹かれたようで食い気味に問いかける。
その反応を微笑で受け取り、続きを話すヴァリタス。
まるで自然な2人のやり取りに、違和感が全くない事に気が付いた。
2人の姿が徐々に遠のいていく。
ここに私が居なくても、きっと皆が幸せになる時間が来る。
そんな未来を手に入れなくては。
真っ暗で光も何もない漆黒に吸い込まれていくような感覚がする。
私だけが、ここからどんどん離れて行くような……。
それが、酷く怖くて堪らない。
どうして、こんなにも私は恐れているのだろう。
一体何に?
「ねぇ、エスティ様!」
「えっ?」
その声で我に返る。
先ほどまでヴァリタスに向けていた瞳を、今度は私に向けている。
この輝くような瞳は、きっとどんな人にも平等に向けるものなのだろう。
彼女は本当に、聖女みたいな人だ。
「エスティ様も、教皇様とお会いしたいと思いませんか?」
「え? ええ、そうね。どんな方なのか興味があるわ。きっと素敵な方なのでしょうね」
そう言ってヴァリタスに微笑み掛けると、彼は罰が悪そうに視線を外した。
結構無難な返しだったのに、どうして視線を逸らすのかしら。
やっぱり私に関して何か聞いているとか?
それとも、教皇との間で何か良くない出来事でもあったとか?
彼のその小さな反応だけでは、やはり何があったのか想像することさえも難しそうだ。
そこで、今まで目の前のやり取りを黙ってみていたナタリーがスクッと立ち上がった。
既に食べ終わっていたらしく、ただ会話を聞き流していただけの彼女がいきなり立ち上がったものだから、皆の視線か彼女に集中する。
ナタリーはヴァリタスへ顔を向けると淡々とした口調で彼に告げた。
「ヴァリタス様、お話がありますので別の場所で話しませんか?」
それは、あまりにも突拍子もない提案だった。
思わず口を開けて驚いたのは、私だけではなかったはず。
目の前に婚約者がいるにも関わらず2人きりで話したいと男性に提案するなど、令嬢としてあまりにも非常識な行動だ。
いや、それは目の前に婚約者がいなくても非常識なのには変わりないのだが。
しかし、彼女の瞳は真剣そのもの。
とてもそういう意味で呼び出しているのではないことは明白だった。
しかし、そうでなくてもやはりやってはいけないことに変わりはない。
ヴァリタスも目を泳がせた後、私に訴えるような視線を送っている。
やはり、まずったようだ。
今朝、彼女を睨みつけたあの行動に強い後悔が押し寄せる。
以前から彼女が抱いていた私への疑念に気づいていたのに、それを後押しした形になってしまったのだろう。
しかし、止める手立ては私にはない。
婚約者を目の前で呼び出すなど言語道断なのはわかっているし、私がそれを拒否すれば呆気なく却下される。
しかし、そんなことをしてしまえば益々ナタリーやヴァリタスに怪しまれてしまう。
そうなってしまえば、私の行動にも制限がついてしまう。
ただでさえ、今のままでも十分動きにくいというのに。
「行っていらしたら? ナタリー様も真剣なご様子ですし」
「そうですか、わかりました」
渋々といった様子で、ヴァリタスも立ち上がると2人して食堂の方へと向かった。
室内で人も多い場所にいけば、怪しまれないと踏んだのかもしれない。
やはりナタリーは相当頭が回る。
勉強は全然できないけど。
「良かったのですか? ヴァリタス様とナタリー様を2人きりにして……」
流石のセイラも彼女の行動には疑念を抱いたのか、私を心配そうに見つめていた。
「大丈夫ですよ。あの2人がどうこうなるような事は、決してありませんから」
「で、でも……」
尚も心配そうに2人の背中を見つめるセイラ。
私はといえば、胃がキリキリ痛んでそれどころではなかった。
ええ、そうよ。
本当は全然大丈夫じゃないのよ。
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