188 / 339
第4章
184.黒魔術
食堂へと足を運ぶと、昼時だというのに人がまばらだった。
それもそのはず。
今日は始業式のみで午後の授業などない。
終わり次第早々に帰宅する生徒がほとんどである。
空いている席の中でも、一目に付かなそうな席を選び彼が座った後、私も向かい合うように座った。
「それで? 話というのはどういったことでしょう?」
座るや否や早速本題に入り出す。
彼女以外の女性に興味がないのは知っているが、相変わらず仲の良い私には敵意を向けてくるから面倒だ。
おちおち世間話もしてられない。
仕方がないので、相手に合わせて話を進めることにした。
「エスティ様の事について、殿下にお聞きしたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
どうしてこうも回りくどく聞いてくるのだろう。
先ほどまでの直球さはどこへいったのか、まるで察しの悪いふりをしているのがますます気に食わない。
だから彼と話しをするのを避けていたのに。
しかし、このまま彼女への疑念を放っておくわけにもいかない。
もし、何か起きてからじゃ遅いのだ。
「実は、エスティ様について気になることがあるのです。特に、彼女の前世について」
驚くと思っていた。
前世の話を彼としたことはなかったから。
しかし、彼はどこかどうでも良さそうに窓の外の方を見ている。
おそらくエスティでも見ているのだろう。
やっぱり、彼女以外に興味はないのか。
私が彼女の事を言っているのに。
「エスティ様の前世については以前から疑っていました。しかし、彼女が話さない以上、言及するのもどうかと思い聞かずにいたのですが」
「それを放っておけない事態になった、と?」
「ええ」
なんだろう。
いつも、彼は私に全く興味なさげではあるけれどここまで無碍にはしない。
それに、私の話に興味がないというよりも、どこかぼうっとしていて、心ここにあらずといったような印象を受ける。
もしかして、何かあったとか?
エスティに関することよりも、重要なことが。
でも彼にとって彼女以外にそんな重要なことあるのかしら。
「……知っていたのですね。エスティが前世を偽っていたこと」
「はい」
やはり、彼も気づいていたのか。
まぁ、私よりも頭が良く長い付き合いの彼が気づかないわけないか。
「彼女の前世については、あまり話題にしないでください。
休みの間にエスティの兄上に会う機会がありまして。そこではっきりと、前世の事をあまり話さないようにと釘を刺されてしまいました」
は?
エスティの兄と会った?
しかも、話をしないようにと釘を刺されただって?
益々怪しい。
それは、まるで彼女の前世が疑わしいものだと言っているようなものじゃないか。
「殿下はそれで良いのですか? 彼女の本当の前世を知りたいとは思わないのですか?」
「確かに許嫁の事ですから、気にはなりします。しかし、それを彼女に聞き出すのも……」
この歯切れの悪さは、一体何を懸念してくるものなのだろう。
そんなに気になるなら、彼女に直接聞き出せばよい話のはずなのに。
彼の優柔不断な行動に、少しイライラしてしまう。
「一体、何を躊躇っているのですか?」
このままでは埒が明かないと、直球で聞き出す。
彼はどこか迷うように視線を泳がせたものの、観念したのか真意を口にした。
「彼女が傷つくと言われました。前世では相当辛い目にあっていて、生まれ変わった後でもそんな目に遭ってほしくはないのだと」
なるほど。
これなら、殿下でも容易に彼女から聞き出すことはできなくなる。
だって、彼は彼女を傷つけるのに、とても臆病なのだから。
でも、本当にそうなのだろうか。
エスティの兄から直接聞いたわけではないから、どういった意味でその言葉を口にしたのかはわからないが、前世の話を聞き出して傷つくような繊細な心をエスティは持ち合わせていただろうか。
本当は、彼女の前世を明かしたくない理由があるから、それを探られないために吐いた偽りなのではないだろうか。
彼女が前世を偽っていたのも、それ相応の理由からでは?
そう思えてならない。
「殿下、私思ったのですが。もしかして、それも全て嘘だという可能性はありませんか?」
「うそ? なぜ嘘だと思うのです? そんなもの吐く理由などなではないですか」
捲し立てる彼は、少し興奮している。
どこか切羽詰まっているような彼の様子をみると、さすがに心配になった。
「以前、私が拷問について調べているとお話ししたのを覚えていますか?」
「え、ええ。確かに」
「その延長で黒魔術についても調べたときがあったのですが、とある記述を見つけたのです。とても恐ろしいモノではあったのですが……」
そこで一呼吸おいて、彼の様子を伺う。
これは、今までの常識を覆してしまう途方もないもの。
それをいうかべきか、私もまだ迷っていた。
いや、それでも。
やはり、これは告げるべきだろう。
もしかしたら、この疑念が真実かもしれない。
その疑いの心が日々育ってしまっている。
今の私は、彼女の事を信じられる自信がないのだ。
だからこそ、誰かとこの疑念を打ち消したかった。
「どんな人間でも生き返ることができる方法があると、書かれていました」
それもそのはず。
今日は始業式のみで午後の授業などない。
終わり次第早々に帰宅する生徒がほとんどである。
空いている席の中でも、一目に付かなそうな席を選び彼が座った後、私も向かい合うように座った。
「それで? 話というのはどういったことでしょう?」
座るや否や早速本題に入り出す。
彼女以外の女性に興味がないのは知っているが、相変わらず仲の良い私には敵意を向けてくるから面倒だ。
おちおち世間話もしてられない。
仕方がないので、相手に合わせて話を進めることにした。
「エスティ様の事について、殿下にお聞きしたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
どうしてこうも回りくどく聞いてくるのだろう。
先ほどまでの直球さはどこへいったのか、まるで察しの悪いふりをしているのがますます気に食わない。
だから彼と話しをするのを避けていたのに。
しかし、このまま彼女への疑念を放っておくわけにもいかない。
もし、何か起きてからじゃ遅いのだ。
「実は、エスティ様について気になることがあるのです。特に、彼女の前世について」
驚くと思っていた。
前世の話を彼としたことはなかったから。
しかし、彼はどこかどうでも良さそうに窓の外の方を見ている。
おそらくエスティでも見ているのだろう。
やっぱり、彼女以外に興味はないのか。
私が彼女の事を言っているのに。
「エスティ様の前世については以前から疑っていました。しかし、彼女が話さない以上、言及するのもどうかと思い聞かずにいたのですが」
「それを放っておけない事態になった、と?」
「ええ」
なんだろう。
いつも、彼は私に全く興味なさげではあるけれどここまで無碍にはしない。
それに、私の話に興味がないというよりも、どこかぼうっとしていて、心ここにあらずといったような印象を受ける。
もしかして、何かあったとか?
エスティに関することよりも、重要なことが。
でも彼にとって彼女以外にそんな重要なことあるのかしら。
「……知っていたのですね。エスティが前世を偽っていたこと」
「はい」
やはり、彼も気づいていたのか。
まぁ、私よりも頭が良く長い付き合いの彼が気づかないわけないか。
「彼女の前世については、あまり話題にしないでください。
休みの間にエスティの兄上に会う機会がありまして。そこではっきりと、前世の事をあまり話さないようにと釘を刺されてしまいました」
は?
エスティの兄と会った?
しかも、話をしないようにと釘を刺されただって?
益々怪しい。
それは、まるで彼女の前世が疑わしいものだと言っているようなものじゃないか。
「殿下はそれで良いのですか? 彼女の本当の前世を知りたいとは思わないのですか?」
「確かに許嫁の事ですから、気にはなりします。しかし、それを彼女に聞き出すのも……」
この歯切れの悪さは、一体何を懸念してくるものなのだろう。
そんなに気になるなら、彼女に直接聞き出せばよい話のはずなのに。
彼の優柔不断な行動に、少しイライラしてしまう。
「一体、何を躊躇っているのですか?」
このままでは埒が明かないと、直球で聞き出す。
彼はどこか迷うように視線を泳がせたものの、観念したのか真意を口にした。
「彼女が傷つくと言われました。前世では相当辛い目にあっていて、生まれ変わった後でもそんな目に遭ってほしくはないのだと」
なるほど。
これなら、殿下でも容易に彼女から聞き出すことはできなくなる。
だって、彼は彼女を傷つけるのに、とても臆病なのだから。
でも、本当にそうなのだろうか。
エスティの兄から直接聞いたわけではないから、どういった意味でその言葉を口にしたのかはわからないが、前世の話を聞き出して傷つくような繊細な心をエスティは持ち合わせていただろうか。
本当は、彼女の前世を明かしたくない理由があるから、それを探られないために吐いた偽りなのではないだろうか。
彼女が前世を偽っていたのも、それ相応の理由からでは?
そう思えてならない。
「殿下、私思ったのですが。もしかして、それも全て嘘だという可能性はありませんか?」
「うそ? なぜ嘘だと思うのです? そんなもの吐く理由などなではないですか」
捲し立てる彼は、少し興奮している。
どこか切羽詰まっているような彼の様子をみると、さすがに心配になった。
「以前、私が拷問について調べているとお話ししたのを覚えていますか?」
「え、ええ。確かに」
「その延長で黒魔術についても調べたときがあったのですが、とある記述を見つけたのです。とても恐ろしいモノではあったのですが……」
そこで一呼吸おいて、彼の様子を伺う。
これは、今までの常識を覆してしまう途方もないもの。
それをいうかべきか、私もまだ迷っていた。
いや、それでも。
やはり、これは告げるべきだろう。
もしかしたら、この疑念が真実かもしれない。
その疑いの心が日々育ってしまっている。
今の私は、彼女の事を信じられる自信がないのだ。
だからこそ、誰かとこの疑念を打ち消したかった。
「どんな人間でも生き返ることができる方法があると、書かれていました」
あなたにおすすめの小説
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』
なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。
公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。
けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。
処刑まで残された時間は、三年。
もう誰も愛さない。
誰にも期待しない。
誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。
そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。
婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。
けれど、少しだけ優しくした。
少しだけ、相手の話を聞いた。
少しだけ、誤解を解く努力をした。
たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。
「……あなたは、こんな人だったのですか」
「もう少し、私を頼ってください」
「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」
「ずっと、怖かっただけなんでしょう」
悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。
これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
あなたがすき、だったから……。
友坂 悠
恋愛
あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。
もともと、3年だけの契約婚だった。
恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。
そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。
それなのに。
約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。
だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。
わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。
こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。
#############
なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、
シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。
初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。
お楽しみいただけると幸いです。