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第4章
186.憎悪と運命
「ヴ、ヴァリタス殿下。落ち着いてください。まだそうと決まったわけでは……」
やっとの思いで口にだしたものの、そんな言葉で抑えられるような感情ではないことは一目見てわかる。
どうして、こんなに苦しそうなのだろう。
そんなに彼女の前世が罪人かもしれないことがショックだったのだろうか。
しかし、今までの彼の行動を考えると彼女に対する執着とはそんな簡単に崩れてしまうものなのだとは思えない。
確定事項でもない、私の思い過ごしかもしれないことにそこまでショックを受けるような性格だとも思えない。
それに、今までのエスティが行ってきた工作でも揺るがなかった彼女への好意がここまで簡単に揺ぐものだろうか。
おかしい。
どうみても、彼の反応はおかしいのだ。
もしかして、彼と彼女になにかあったのだろうか。
この休みの間に。
今朝の彼女がおかしかったのも、もしかしてそれが原因?
「なぜ、そんなことを僕に話したのです。それでは、彼女があの男だとしても、説明がついてしまうではないですかっ……」
嗚咽の混じった声で私に問いかける。
下を向いている彼の顔は確認できないが、声色から相当強い怒りを押さえているのだということは分かる。
「あの男……?」
それでも、彼が溢したその小さな単語を聞き洩らすことはなかった。
あの男とは一体誰だろう。
もしかして、彼には彼女の前世について見当がついているのだろうか。
だとしたら、彼のこの怒りは彼女の前世に向けたもの?
とてつもなく気になるものの、それを聞き出せるような状況じゃないのは確かだった。
しばらく俯き、2人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、彼の方だった。
「……とにかく、今はその話はなかったことにしてください」
彼の言葉に思わず立ち上がる。
彼らの間に何があったのかは知らないが、そんな言葉を簡単に受け入れられるほど私は彼女を蔑ろにはできない。
「そんなっ! もしかしたら、今もエスティは苦しんでいるかもしれないんですよ!」
「だとしても!」
彼も私に応えるように立ち上がる。
やっと見えた彼の瞳は燃えるような赤色だった。
「もし、彼女の前世が僕の想像している通りの人物だとしたら」
「僕は彼女を殺さねばなりません」
その言葉があり得るはずもないもので、耳を疑った。
と、同時に口を少し開けたまま私は動けなくなってしまった。
一体彼らの間に何があったというのだろうか。
***
「一体、何を話しているのでしょうね」
遠くにある食堂をぼんやりと見つめながら、思わずそんな言葉が零れた。
ガラス張りの食堂は、ここからでも十分彼らの姿を観察することができる。
しかし、声が聞こえないのであればいくら彼らの姿が見えたとて意味がない。
今朝の事もあるし、変な事態にならなければ良いけど。
私の不安な気持ちは、彼らを見ないという結果に至らしめた。
視線を外し、セイラと談笑でもしていようと彼女の方を見るとなぜか俯きがちに暗い表情の彼女がそこにいた。
「セイラ様? 一体どうしたの?」
体の調子でも悪いのだろうか。
そんな呑気なことを考えていた私は、やはりまだまだ人間関係を構築するには不慣れなのかもしれない。
「私エスティ様の事、大好きです」
唐突に、彼女からそんな言葉が発せられた。
その突拍子もない言葉に声が出ない。
一体どうしたのだろう。
なんでそんなことをわざわざ私に……?
考えを巡らせても、一向に答えは出なかった。
「本当にどうしたの? 何かあった?」
思わず手を伸ばしたが、彼女の肩に触れる直前、私の手は動かなくなった。
彼女の瞳に、僅かな疑いの色を見つけてしまったから。
なに?
本当に一体何があったの?
しかし、私の言葉に彼女は答えない。
ただ決められた台本の通りに言葉を発しているように彼女は口を動かした。
「だから、お2人には幸せになってほしいです」
悲しそうに潤んだ瞳には、何かを諦め切れずにいる彼女の苦しさが垣間見えた。
それは、おそらく彼女の想いに蓋をするようなものなのだろう。
彼女は何か重要な決断をしたのだ。
そして今、それを実行しようとしている。
なら、私はどうすべきなのだろう。
彼女の気持ちを育てるためには。
完璧な悪役令嬢なら、一体どう答える?
「でも、もしヴァリタス殿下がセイラ様の事を好きだと言ったら、貴方はどうするの?」
口を嫌らしく曲げ、意地悪な質問を彼女に投げかけた。
これが私の答えだった。
そんな私の質問に、一瞬にして頬を真っ赤に染めた彼女の反応が全てを語っていた。
おそらく、そんなことを考えたこともなかったのだろう。
なんて純粋で、なんて清らかな子なのだろう。
「殿下にはエスティ様が居ます。エスティ様が大好きなんです。誰も入り込む余地なんてありませんっ!」
言い聞かせるように言ったように見えた。
儚い彼女の願いは、叶うことがない。
それを覚悟していて、私に伝えているのだ。
大丈夫だと。
私は、貴方の敵になどならないと。
友情を壊すことなどないと。
そう、告げているのだ。
「ありがとう、セイラ様。私たちの事、応援してくれる?」
彼女の想いに、答える気などさらさらない。
できれば、その気持ちに嘘など吐かずもっと大きなものにしてほしい。
そう思っていた。
「はい、もちろんです!」
しかし、帰ってきたのはいつも通り、元気な返事だった。
だが、その中にどこか寂しさを含ませているのに気づかない私ではなかった。
結ばれぬ、2人の想い。
なんて物語に相応しい題材なんだろう。
しかもそれを邪魔をするのが、彼の婚約者で悪人の生まれ変わりときた。
これが運命なのかもしれない。
やっとの思いで口にだしたものの、そんな言葉で抑えられるような感情ではないことは一目見てわかる。
どうして、こんなに苦しそうなのだろう。
そんなに彼女の前世が罪人かもしれないことがショックだったのだろうか。
しかし、今までの彼の行動を考えると彼女に対する執着とはそんな簡単に崩れてしまうものなのだとは思えない。
確定事項でもない、私の思い過ごしかもしれないことにそこまでショックを受けるような性格だとも思えない。
それに、今までのエスティが行ってきた工作でも揺るがなかった彼女への好意がここまで簡単に揺ぐものだろうか。
おかしい。
どうみても、彼の反応はおかしいのだ。
もしかして、彼と彼女になにかあったのだろうか。
この休みの間に。
今朝の彼女がおかしかったのも、もしかしてそれが原因?
「なぜ、そんなことを僕に話したのです。それでは、彼女があの男だとしても、説明がついてしまうではないですかっ……」
嗚咽の混じった声で私に問いかける。
下を向いている彼の顔は確認できないが、声色から相当強い怒りを押さえているのだということは分かる。
「あの男……?」
それでも、彼が溢したその小さな単語を聞き洩らすことはなかった。
あの男とは一体誰だろう。
もしかして、彼には彼女の前世について見当がついているのだろうか。
だとしたら、彼のこの怒りは彼女の前世に向けたもの?
とてつもなく気になるものの、それを聞き出せるような状況じゃないのは確かだった。
しばらく俯き、2人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、彼の方だった。
「……とにかく、今はその話はなかったことにしてください」
彼の言葉に思わず立ち上がる。
彼らの間に何があったのかは知らないが、そんな言葉を簡単に受け入れられるほど私は彼女を蔑ろにはできない。
「そんなっ! もしかしたら、今もエスティは苦しんでいるかもしれないんですよ!」
「だとしても!」
彼も私に応えるように立ち上がる。
やっと見えた彼の瞳は燃えるような赤色だった。
「もし、彼女の前世が僕の想像している通りの人物だとしたら」
「僕は彼女を殺さねばなりません」
その言葉があり得るはずもないもので、耳を疑った。
と、同時に口を少し開けたまま私は動けなくなってしまった。
一体彼らの間に何があったというのだろうか。
***
「一体、何を話しているのでしょうね」
遠くにある食堂をぼんやりと見つめながら、思わずそんな言葉が零れた。
ガラス張りの食堂は、ここからでも十分彼らの姿を観察することができる。
しかし、声が聞こえないのであればいくら彼らの姿が見えたとて意味がない。
今朝の事もあるし、変な事態にならなければ良いけど。
私の不安な気持ちは、彼らを見ないという結果に至らしめた。
視線を外し、セイラと談笑でもしていようと彼女の方を見るとなぜか俯きがちに暗い表情の彼女がそこにいた。
「セイラ様? 一体どうしたの?」
体の調子でも悪いのだろうか。
そんな呑気なことを考えていた私は、やはりまだまだ人間関係を構築するには不慣れなのかもしれない。
「私エスティ様の事、大好きです」
唐突に、彼女からそんな言葉が発せられた。
その突拍子もない言葉に声が出ない。
一体どうしたのだろう。
なんでそんなことをわざわざ私に……?
考えを巡らせても、一向に答えは出なかった。
「本当にどうしたの? 何かあった?」
思わず手を伸ばしたが、彼女の肩に触れる直前、私の手は動かなくなった。
彼女の瞳に、僅かな疑いの色を見つけてしまったから。
なに?
本当に一体何があったの?
しかし、私の言葉に彼女は答えない。
ただ決められた台本の通りに言葉を発しているように彼女は口を動かした。
「だから、お2人には幸せになってほしいです」
悲しそうに潤んだ瞳には、何かを諦め切れずにいる彼女の苦しさが垣間見えた。
それは、おそらく彼女の想いに蓋をするようなものなのだろう。
彼女は何か重要な決断をしたのだ。
そして今、それを実行しようとしている。
なら、私はどうすべきなのだろう。
彼女の気持ちを育てるためには。
完璧な悪役令嬢なら、一体どう答える?
「でも、もしヴァリタス殿下がセイラ様の事を好きだと言ったら、貴方はどうするの?」
口を嫌らしく曲げ、意地悪な質問を彼女に投げかけた。
これが私の答えだった。
そんな私の質問に、一瞬にして頬を真っ赤に染めた彼女の反応が全てを語っていた。
おそらく、そんなことを考えたこともなかったのだろう。
なんて純粋で、なんて清らかな子なのだろう。
「殿下にはエスティ様が居ます。エスティ様が大好きなんです。誰も入り込む余地なんてありませんっ!」
言い聞かせるように言ったように見えた。
儚い彼女の願いは、叶うことがない。
それを覚悟していて、私に伝えているのだ。
大丈夫だと。
私は、貴方の敵になどならないと。
友情を壊すことなどないと。
そう、告げているのだ。
「ありがとう、セイラ様。私たちの事、応援してくれる?」
彼女の想いに、答える気などさらさらない。
できれば、その気持ちに嘘など吐かずもっと大きなものにしてほしい。
そう思っていた。
「はい、もちろんです!」
しかし、帰ってきたのはいつも通り、元気な返事だった。
だが、その中にどこか寂しさを含ませているのに気づかない私ではなかった。
結ばれぬ、2人の想い。
なんて物語に相応しい題材なんだろう。
しかもそれを邪魔をするのが、彼の婚約者で悪人の生まれ変わりときた。
これが運命なのかもしれない。
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お楽しみいただけると幸いです。