悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第4章

190.綺麗な綺麗な私の……

お姉さまはいつだって綺麗だった。

凛とした横顔は見惚れるほどに美しく、繊細なお人形のよう。

でも、笑うととても暖かい香りがした。

まるで女神様がこの世に降りてきたような、そんな人。

お母さまよりずっと、お姉さまは綺麗な人だった。

そんなお姉さまが私は大好きだった。

いつからだっただろう。お姉さまを見る両親の瞳が濁り始めたのは。

それは私が物心つく前からそうだったのかもしれない。
でも、それでも私はお姉さまが大好きだった。

誰にでも優しくて、柔らかい人。
ずっと私はお姉さまが大好きだと信じていられたのは、そんなに長くはなかった。

私が変わったのは、3年前の夏の日。

どうしてもお姉さまに振り向いてほしかった。
私だけを見て欲しかった。

ただそれだけだったのだと思う。

でもきっとその方法が間違っていた。

お姉さまは私を理解してくれなかった。

それが酷いわがままなのだと、私は気づかなかった。

私は流されるまま、両親の話にだけ耳を傾けた。

恐ろしい前世の話を聞いたら、お姉さまが酷く醜い存在に見えた。

あの笑顔で私を騙しているのだと思うと腹が立って仕方がなかった。

だから嫌いになった。
貶した。

それでもお姉さまが私を嫌いになるなんて思わなかった。

だってお姉さまは綺麗で優しいから。
どんな事をしたって許してくれるって思っていた。
そんなの幻想なんだって、私は知らなかった。

『私だって本当は早く出ていきたい。こんな家なんて捨てて自由に生きてみたい』

お姉さまは静かな声でそう言った。

そこには何の感情も込められていないように思えた。
でも、その時私はお姉さまが泣いているように見えた。
押し殺すように、誰にも気づかれないように。

お姉さまはこの家に生まれて幸せではなかったのだと。

この家が幸せで満たされたものだと信じていたのは、私だけだったのだと。

今、やっと気づいた。


「ねぇ、お姉さま。お姉さまは私が嫌い? お父様とお母さまが嫌い?」

抱き締めたまま、問いかける。
お姉さまの背中に顔を埋めたまま問いかけたのは、お姉さまの顔や仕草を見たくなかったからだと思う。


「嫌いじゃないわ」


てっきり嫌いだとはっきり言われると思っていた。
自分で問いかけたくせに、その答えにひどく安堵した自分がいた。

向き直ったお姉さまが私の肩を抱く。

やっとお姉さまと昔みたいに戻れるかもしれない。
そんな希望を夢みるほど、私はまだ都合の良い事ばかり考える子供だった。

私の肩を掴んだお姉さまの手に強い力が込められると体を強引に引きはがされる。
それは私を拒絶しているお姉さまの心の表れだった。


「嫌いにもなれないのよ、私は」


えっ?

茫然と立ち尽くす私は、声を出すこともできない。

どういう意味なの?
今された行為を受け止めきれない私は、どうして良いかもわからず、ただお姉さまを見つめていた。

「私の感情は私だけのものではないの。どんなに引きはがそうとしたって、前世から持ち越された感情が消えることはないわ。私が貴方たちを嫌いになれないのは、前世の私が誰も嫌いになりたくないから。ただそれだけなのよ」

まるで決められたルールを強制的に守らされているような、そんな言葉。

それじゃあまるで、私たちを嫌いになりたいと言っているように聞こえる。

そんなっ。
そんなこと。

「じゃあお姉さまは、本当は私を嫌いになりたいの?」

「さぁ、分からないわ。だって貴方は妹だもの。下の兄弟を嫌いになるなんて、私には考えられない」

まるで答えになっていない。
そんなこと、馬鹿な私でもわかる。

お姉さまは私を拒絶した。
でも、私を嫌いにはなれないという。

それが前世の感情の所為とは、一体どういうことなの?

だってお姉さまの前世は酷いことをたくさんした最悪の王なのでしょう?

「お姉さまの言っていること、私にはわからないわ」

「別に理解なんてしなくて良いのよ。ただ、貴方の問いかけに答えただけだもの」

優しさの欠片もない。
先ほどのお姉さまが言っていたことを思うと、もしかしたらこれはお姉さま自身の考えなのかもしれない。

あの皇帝のものではなく、お姉さまの。

涙が出そうになって、グッと堪えた。

きっとこんな風にしたのは私たちなんだ。

お姉さまをこんな非情な人にしたのは。

でも……。

「お姉さまが悪いのよ。いつだって誰にでも優しくて。使用人にまで私と同じ優しさを見せて……。私はお姉さまの妹なのに」

誰にでも優しいお姉さまが大好きだった。
でも、誰にでも優しいお姉さまが憎くて仕方なかった。

だってそれは私だけのものでしょう?
私たち家族だけに向けられるもののはずでしょう?

それなのに、どうしてそんなに簡単に他人にまであげてしまうの?

それじゃあまるで私たちまで……。

「確かに私は貴方たちを嫌いになれないと言ったわ。でもね、それは恨みや妬みを持たないって意味じゃないのよ」

思わずパッとお姉さまの顔を見てしまった。

見て、後悔した。

お姉さまの顔には何も現れていない。

そう、何もないのだ。

私を映すその瞳には、何の感情もなかった。
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